タイトル:赤と青の狼の群れマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/19 04:50

●オープニング本文


「どうなってんだ、こりゃ‥‥」
 広大な牧草地だったその土地は、目に染み入るほどの赤に染まっていた。
 男は呆然とその場に立ち尽くす。なんとか現状を把握しようと試みたが、あまりのショックに頭のヒューズが飛んでしまったらしい。うまく現実を受け入れる事が出来ない。
 だが、男がそれほど愕然とするのも無理はなかった。昨日の夜十時頃に村の人間が見回りに来た時には、この牧場で百匹近くの羊が何の異常も無く放牧されていたのだ。
「全滅、なのか‥‥」
 徐々に我に返り始めた男だったが、牧場を見回しながら未だ信じられない思いであった。
 この羊達が村の生活の礎である以上、外敵から守る為の努力は怠った事が無かった。頑丈な柵を造り、村の人間全員で定期的な見回りも行っていた。それに、牧場内には『ボダ』の愛称で呼ばれる牧羊犬も一緒に居たのだ。機敏で力も強く、羊の外敵である野犬や狼などは何度も撃退している犬である。
 しかしいくら村の苦労や用心を語ろうと、現実は男の目の前に一つしか無かった。
 もう全てが手遅れと知りながらも、男は羊の死体で溢れる牧場内を歩き回る。生々しい血の匂いがする草地。一歩踏み出すごとに、血で足が滑る。
 ――その内、ふいに不審な点に気付いた。
 羊の死体の状況が、『あまりに』ヒド過ぎる事。
 しかも獣が侵入してきたと思われる所では、丸太ほどもある杭が木っ端微塵に破壊されているのだ。
「まさか――」
 男の頭の中で、ある一つの疑念が渦巻いていく。
 だが何はともあれ、この現状を村に帰って報告しなくてはいけない。
 男は牧場を出て急ぎ足で帰途に着く。そして今さらながら、もう一つの牧場はどうなっただろう、と思い至った。
 もしそちらも全滅であれば、村は重大な危機に陥る。こんなご時世では、一度坂から転がり出せば行き先は谷底より深い地獄だ。
 そんな時突然、「オジサン!」という声が呼び止めた。
 そちらを振り向くと、そこにあるのは見知った顔。
「おぉ、ジョージかっ。今、大変な事が起きた。ワシはすぐに村へ戻らないと‥‥」
「知ってる! 知ってるよ、オジサン! 実は僕、‥‥見たんだ。今朝早く、羊達が狼の群れに襲われているのを!」
「‥‥な、何だと?」
 見ると少年は、蒼白な表情をしてガタガタと全身を震わせていた。
「‥‥おい、大丈夫かジョージ。具合が悪そうだぞ」
「うん、ちょっと怖かっただけだよ。大丈夫だから聞いて」
 張り詰めたように真剣な口調で語る少年。
 その様子を見て、男は思わず黙りこんだ。
「今朝、突然ボダの鳴き声が聞こえたような気がして、牧場に行って見たんだ」
 少年はポツリと語りだす。
「僕が牧場に着いた時、二グループの狼の群れが柵を壊して中へ入っていく所だった」
「二グループ?」
「‥うん。丁度五体ずつ、二つのグループに分かれてた。そのグループのボス狼同士があんまり仲良く無いみたい。ボスの一匹は毛の赤っぽい狼で、もう一匹が青っぽい狼だったよ。二匹とも普通の狼より二周りは大きくて、‥‥凶悪だった」
 その時の光景を思い出したらしく、少年は目を伏せる。
「オジサン、その狼達ね、何だか普通じゃなかったんだよ。凄く力が強くて、凶暴で。二つのグループは競い合うみたいに、僕らの羊を狩り始めたんだ。赤い狼は長い爪で羊を引き裂いたし、青い狼は凄い速さで羊を追い詰めてた」
 ボロボロと涙を零しながら、それでも少年は語る。
「ボダがね、その二匹のボス狼に向かっていったんだ。でも体当たりする寸前赤い光に弾かれて、ボダはそのまま――――っ」
 少年はそこまで言うと、歯を食いしばって下を向いた。その目からは透明な涙が零れる。しゃくり上げる悲しげな声で、男は我を取り戻した。
「そうか、辛かったなジョージ。残酷なモノを見てしまったな‥‥」
 男はその少年を抱き締めながら、ポンポンと頭を撫でてやる。
「‥‥ジョージ、もう一つの牧場は無事か?」
「‥‥うん」
「そうか‥‥、分かった。村長に話して、すぐに狼を退治してもらおうな」
「うん、お願い、ボダの仇‥‥ボダの‥‥! うぇぇぇん! オジサァンっ! ボダが、ボダが死んじゃったよぉーーーー!!!」
 少年の泣き声が、残酷なほど晴れた空に響き渡った。

●参加者一覧

蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
ルシオン・L・F(ga4347
19歳・♂・ER
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
天城(ga8808
22歳・♀・ST
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
東 冬弥(gb1501
15歳・♂・DF
赤城・拓也(gb1866
17歳・♂・DG
フロリア・クロラ(gb2796
16歳・♀・SN

●リプレイ本文

 その日の夜、能力者達は村に入った。
「キメラが現われたのは夜明け時、東と南東の牧場は150mぐらいの距離があるわけだな」
 中年男の話を、蓮沼千影(ga4090)が頷きながら簡単に纏める。
「はい。この辺は自然が豊富で、よく獣がやってくるんですが、‥‥柵を壊されたのは初めてで。羊達が襲われているのを見たのがそっちのジョージで、話からキメラに間違いないと依頼したのです」
 能力者達が振り向くと、悲しそうな顔で俯いている少年の姿があった。
 そんな様子を気の毒に思ったのか、オズオズと天城(ga8808)が進み出て少年の頭を軽くなでる。
「それじゃお姉ちゃん達、退治に行って来るから‥‥待ってて‥‥」
 少年は天城に、真っ直ぐな瞳を向けて頷き返した。
(「こりゃ失敗はできない‥が、頑張らなきゃ‥」)
 その後ろでは、トリストラム(gb0815)がジーザリオのキーを取り出してサヴィーネ=シュルツ(ga7445)の方へ振り向いていた。
「車のキーです。なるべく壊さないでやって下さい」
 サヴィーネは少し眉をひそめて頷く。
「心配するな。こう見えて運転は慣れている」
「はい、お願いします。それと車にSMGを積んでおきました。自分の恨みがこもっていますから、必ず狼退治に役立ちますよ」
「了解だ‥‥感謝する。――行こうか」
 サヴィーネの言葉に、能力者達は頷いて動き出した。
 そうして全員が家の外へと出て行く中で、一人だけジッと壁に目を向けたまま動かないルアム フロンティア(ga4347)。
 その視線の先にはコルクボードに貼り付けられた――ボダの写真があった。

 能力者達は東の牧場で迎撃する事に決めた。
 更に状況を分析、八人を三班に分ける。
 ●赤狼班
 赤城・拓也(gb1866)サヴィーネ、東 冬弥(gb1501
 ○青狼班
 千影、フロリア・クロラ(gb2796)、天城
 ◎防衛班
 トリストラム、ルアム
 移動はリンドヴルムで二人、ジーザリオで四人、二人は徒歩で現地へ向かう。
 そうして一番先に到着したのは、バイクで向かっていた拓也と冬弥だった。
「ふーん、結構広いんだね」
 ヘッドライトに映る牧場の柵を目にして、拓也が呟く。
「‥‥ひどいな。柵の中と外じゃ地面の色が違うぜ」
 冬弥が顔をしかめてバイクを降りる。
 それに少し遅れて、ジーザリオが到着。二つのヘッドライトに照らされると、牧場の中の様子がさらにハッキリと分かった。
「‥‥酷いな、これは」
 サヴィーネが車を下りながら呟く。
 牧場の中にはいまだに羊の死体が放置されていた。目を背けたくなるような光景が広がっている。
「あの子‥‥、怖かったろうな。悔しかったろうな。‥哀しみは引きずると毒になってしまう。――私達で終わらせなけりゃ」
 フロリアは胸に手を当てて決意を固めた。
「ん、狼はまだ来てないらしいな。ここは柵が邪魔だ、もうちょっと東に行こうぜ」
 千影は車の中から用意してきた罠を取り出す。
 それからチラリと横目に柵の中を見ると、
「‥‥ああ、こりゃ仇は取ってやらないとな」
 と、小さく付け足した。
 しばらくして防衛班二人が到着した時、先行班は迎撃予想地点に様々な工夫を凝らしていた。
 狼をおびき寄せる生肉、鼻を利かなくさせる為に酢、スブロフ、香水の散布。
 その中へルアムは無言でみんなに混じった。持参してきた粘着テープの上に画鋲を撒いて置いたり、草を編んで足を引っ掛ける罠を作る。
 サヴィーネも、自身の破壊工作の技術を応用して同じような罠を作成した。
 と、ほぼ全員が戦闘の事前準備に専念していたその時――。
「‥‥あ、来た! 来たぞ!」
 双眼鏡で森を監視していたフロリアが声を上げた。
 その声に全員が顔を上げる――と、暗闇に動く狼の群れを遠くに見つける。
「わ、わ、本当だ‥‥こっち来る‥‥えっと、私は青狼班だから、左の群れだ‥‥」
 天城がオロオロしながら弾頭矢を用意する。
「よし、それじゃみんな、班に分かれて配置に付こう」
 拓也が声を掛ける。全員が頷いて行動を開始した。
「トリストラム、ルアム。俺も頑張る。そっちは頼んだぜ」
 千影が二人に向かって声を掛ける。
「ええ、任せてください」
「‥‥‥‥」
 南東への牧場の最終防衛ラインとなる二人は神妙に頷く。
 ‥‥夜空の下、こちらの様子を窺うようにゆっくりと近づいてくる、赤と青の狼の群れ。五十メートル、四十メートル――。
 狼キメラが三十メートル地点にまで近づいた所で、おもむろにフロリアが覚醒する。
「皆‥‥目を閉じろ!」
 叫ぶと同時に――青く発光する両手に握られた照明銃を、強弾撃を使用して発砲した。
「ガウ‥‥ッ!」
 目潰しを目的に放たれたソレだったが、元々の用途が違う為に一時的に視力を奪うほどの光量は無い。しかし、闇の中で突然勢いよく飛んできた眩い光球に、青狼の群れは一瞬怯んだ。
 ――と同時に、天城が白銀の洋弓『アルファル』で、弾頭矢を使った鋭角射撃。左端の狼キメラに命中し、――激しく炸裂した。
「やった、当たった!」
「‥‥ん、仕留める」
 その大ダメージを負った狼へ向け、更にフロリアの強力な大型拳銃がニ連続で火を噴く。その弾丸はFFを貫通し――狼を地へ沈める。
「ナイス! 天城、フロリア!」
 淡く輝く蛍火を抜刀しながら、千影が青狼の群れへ躍り掛かった。
「紅蓮衝撃!」
 ゴォッ! と突如千影の全身が炎のような赤いオーラに包まれた。 その状態から二回連続で狼キメラを斬り付ける。
 その激しい攻撃に耐え切れるはずも無く、キメラは地面に叩きつけられるように絶命した――。

「キメラども‥‥。『私』に出会った不幸を呪うがいい」
 覚醒状態で発露する拓也の第二人格『赤い狼』が宣言し、銀色の小銃を構える。
 その隣では、全身に青い文様を浮かべたサヴィーネがSMGの銃口を赤狼の群れへと向けた。
「今日、貴様等は傭兵という名の犬の群れに噛み砕かれるのだ‥‥‥‥せいぜい、天に祈るがいい」
 ――二人が同時に引き金を引く。
 SMGと、「S−01」の弾丸の嵐が狼キメラの群れを襲った。
 拓也は次々に照準を切り替えながら、サヴィーネは一体を集中的に発砲。その内の幾つかが回避されつつも、狼達にダメージを与える。
「‥‥チッ、少し装備が重いか」
 サヴィーネは体の重さを感じて、行動が少し鈍るのを認識した。
 その横で冬弥が、辺りの地形を見て眉をしかめる。
(「草丈が長い‥‥。スブロフに引火させたら一帯が大火事になるかもな‥‥」)
 冬弥は諦めて正面から突撃。一気に狼の群れとの間合いを詰め、射撃で弱っていた狼へ流し斬り、トドメを刺した。
 しかしその仲間の恨みを晴らさんと――、狼達が一斉に冬弥に狙いを定める。
「って、え!? マジでっ!?」
 絶体絶命の状況に焦りの声を上げる冬弥。
 だが皮肉にもその声を合図に、四匹は同時に地面を蹴った――!
 ‥‥が、なぜかその内の二体が、キメラならものともしないはずの草を編んだ罠に引っ掛かって、冬弥の横をゴロゴロと転がって行く。
 ちょっと唖然とする冬弥。
 しかし依然、リーダーの赤狼と通常の狼キメラは冬弥に襲い掛かっている――!
 通常の狼キメラはともかく、赤狼の爪と体当たりの攻撃は、剣で防ぐ上から冬弥に鈍い衝撃を与えた。
 それと同じくして、青狼率いる群れも反撃に転じている。
 既に味方を二匹も失っていたが、狼キメラ二匹が千影へ体当たり。
 千影は一匹を回避――だが、もう一匹の攻撃には当たってしまう。
「ふん、大して効かねぇなっ!」
 しかしその千影の横をすり抜けて――――青狼がフロリアに接近。
「くっ、速い‥‥!」
 フロリアは回避行動が間に合わず、――体当たりの直撃を受けた。
「‥‥‥‥ッ!」
 すぐさま、防衛班のルアムが覚醒。フロリアに練成治療を行う。
 ‥‥そして同じく防衛班のトリストラムが狼の動向を見て、一つの結論に達していた。
「動きが鈍っている。嗅覚を潰す罠は効果あり、ですか。それに狼はこの戦いに集中している‥‥。どうやら私達の事は、羊よりも気に入ってくれたようですね」
 トリストラムの全身を、冷たい蒼のオーラが纏う。

 青狼に近付かれて戦線を抜けられると思ったフロリアが、後退しながらリロード、強弾撃で青狼へ発砲する。が――
「ッ、避けた!?」
 青狼は銃弾を避け、無傷で立っていた。
 それと同タイミングで、千影が鬼神の如く奮闘していた。
 二匹の狼の内、一匹死亡、一匹瀕死。
 さらに天城の放った矢が、瀕死の狼を仕留める。
 だが手下を全て失った青狼は、――それでも諦めない。
「くっ‥‥!」
「あ、わ!」
 フロリアと天城を狙い、猛スピードから繰り出す体当たり。天城は辛くも避けたが、フロリアは苦戦。――避けきれずにダメージを受けた。
 一方で赤狼班では、拓也がAU−KVを駆り敵へ射撃。
 更にサヴィーネはSMGで群れを掃射。敵の怯んだ所へ冬弥が切り込み、トドメを刺す。
 その連携攻撃が見事に決まり、狼二体があっという間に地に沈んだ。
 だが代わりに、前衛の冬弥が集中的に狙われる。
「‥‥‥‥」
 ふいに、ポイッとルアムの手からボールが投げられる。
 『生物兵器キメラ』として、普通ならそんなもの気にならないはずだが、戦闘中という事もあり反射的に反応してしまった狼。
 ボールに気を取られて、体当たり攻撃はあらぬ方向へ。
 また唖然とする冬弥。
 しかし、ボスである赤狼の攻撃は依然として迫っているのだ――!
「‥‥っくそ!」
 今度は武器で受ける事もままならず、鋭い爪と体当たりに傷を負った。
 ルアムはこの状況に迷ったが、練成治療はフロリアに行う。
 その隣から、トリストラムの拳銃が連続で火を噴いた。赤狼の群れで最後の一匹となった通常の狼キメラが死亡する。

 ――残るは赤狼、青狼のみ。
 千影が青狼に接敵、激しい斬撃。
 青狼はダメージを蓄積する。
「いっけぇ!」
 そこへ天城が全スキル使用の会心の一撃を放ち――急所を見事に貫く。
「散々苦戦させてくれたなっ!」
 最後にフロリアの強弾撃と鋭角狙撃を組み合わせた――必殺の銃撃。
 それはFFを破り――――青狼を完璧に仕留めた――。
「よォ、大将。お仲間はいなくなっちまったなァ? ‥次はお前の番だッ!」
 そう叫ぶなり、冬弥は赤狼へ向けて貫通弾を使用した副兵装の大型拳銃を発砲。冬弥は更に大剣で攻撃スキルを全て叩き込んだ。
「貴様も赤い狼か‥‥面白い!」
 拓也が竜の爪を使用、ライフルを二度放つ。一発は回避されたものの、もう一発は胴体に直撃。
 そこへ反撃に転じる赤狼。
 鋭い爪を怒り狂ったように冬弥へ振り回す。
「つっ!」
 二回は剣でダメージを和らげたが、最後はガードし切れずに直撃を食らう。
 ――その狼の攻撃を、連続した銃声が押し留めた。
「年貢の納め時だな。さあ‥‥狩りの時間(ヤクト・ツァイト)だ」
 サヴィーネのSMGの銃口が、射撃後の煙を上げていた。
 更にトリストラムが全スキル使用の強力な一撃。赤狼の身体に風穴を開ける。すぐさまリロード、貫通弾を取り出す。
 そして――赤狼の前に立った。
「これで‥‥終わりです」
 トリストラムの腕に白光が走る。
 貫通弾はFFの赤い光を突破して――赤狼の頭部を貫いた。

 能力者達は村で一泊する運びとなった。
 冬弥はかなり傷を負っていたが、天城の救急セットとルアムの練成治療で、ある程度まで回復。
 また、ルアムは罠の回収をし、死んだ狼キメラをマジマジと見ていたかと思うと、成仏を願うように軽く手を合わせた。
 そうして翌日の朝。
「皆さん、本当にありがとうございました。これで村の平和と‥‥、死んだ羊達とボダの死が報われます」
 苦い笑顔で言う村長。
 その隣には、仇討ちを果たしたにも関わらず、暗い表情のジョージが居た。
「あ、いいか? ‥ボダの墓を作ってやりたいんだ。良かったら手を貸してくれないか?」
 ふいにフロリアが前へ進み出して、少年へ声を掛ける。
 ビックリしたように顔を上げるジョージ。
「ジョージ、ボダと羊たちのお墓作ろうぜ?」
 千影も声を掛けた。
 仇討ちの報告と、村の回復を願って。
 ――そうして、能力者達とジョージにより、ボダと羊達の簡素な墓が東の牧場近くに作られた。
「‥‥よし、これでボダもゆっくり休めるだろ。‥お前もよく頑張ったな。本当に‥立派で強い子だったぞ」
 フロリアが少年に言うと、少年は墓の前でジッと佇んだまま泣きそうな顔をする。
「‥‥ジョージ、これがボダの仇だ」
 サヴィーネがポケットから二本の牙を取り出す。
 それをサヴィーネは頭上に放り投げると、落ちてくるより早くライフルで狙撃する。
 遠く響く二発の銃声と共に、粉々に砕け散る二本の牙。
「君はいいご主人様だな‥‥ボダはきっと、君を守れて幸せだっただろう。これからは、君が頑張る番だ。ボダが天国から見ていても、何も心配する必要がないような‥‥そんな男になれ」
 サヴィーネはニッコリと微笑んでジョージに言う。
 ジョージは頷いた。
「そうだよね‥‥。頑張らなきゃ‥‥。でも狼達を倒した実感が無くて‥‥。まだ僕やっぱり、悲しくて、悲しくて‥‥っ」
「うん‥大丈夫。狼は倒してきたよ‥だから元気だして? いつも笑顔でいれば、いいことも起こるからさ」
 歯を食いしばってボロボロと涙を流すジョージの頭を、天城がわしゃわしゃ撫でながら言った。
「かけがえのない命をいつまでも大切に思う事は素晴らしい、でも‥復讐しても誰も帰ってこない事だけは忘れないでね」
 赤城がジョージの言葉を聞きながら、優しい笑顔で言う。
「‥‥‥‥」
 ふいにルアムが村の方から何かを持って歩いて来た。
 ジョージの前に屈むと、自分の手に持ったそれを渡す。
 『英雄:ボダ』と台座に彫られた、犬の飴細工。
「‥‥村長の家に‥‥写真があったから‥‥」
 だから作ってみた、という事らしい。
 その飴細工を見て、ジョージの顔に驚きと――嬉しそうな表情が浮かぶ。
 それを見て、冬弥が笑顔でジョージの頭をわしゃわしゃと撫でた。
 さらにジョージの脇をくすぐる冬弥。
「‥‥ちょ、ちょっと止めてよ、お兄ちゃん! あは、あははは!」
 と、くすぐられ、思わず楽しそうにジョージは笑った。
 その様子に他の各々も悪ノリしてジョージをくすぐり、逆にくすぐり返され、なぜか最後には全員でくすぐり合戦が始まり――。
 ――十分後。
「ぜぇぜぇ‥‥ま、まったく、あなた達は‥‥いい加減にして下さい」
「はぁ、へぇ、そ、そういうトリストラムが一番ムキになってたぞ?」
 全員が笑い疲れて草原に転がった頃――、もうジョージの表情に悲しみの色は無かった。
「‥‥ありがとう、お兄ちゃん達、お姉ちゃん達。僕、頑張るよ。いつまでも泣いていられないから‥‥ボダの為にも、頑張る! 胸を張って、大丈夫だって言えるように!」
 その少年の笑顔は、――――眩しいぐらいに輝いていた。