●リプレイ本文
「さぁて、随分と分かりやすい依頼ですね。ま、良い事です」
悠々と自機に乗り込んでいく鋼 蒼志(
ga0165)。陣営一角に並ぶ十機のKVは第三機甲部隊に協力する傭兵達のモノだった。
「岩龍乗りの高坂聖です、支援ぐらいしかできませんがよろしくお願いします」
言った後で他のKVを見渡して、(「まぁこれなら大丈夫だろうなぁ」)と高坂聖(
ga4517)は感想を抱く。
「こちらこそよろしくね!」
「よろしく‥‥。私は前に出ておくわ」
笑顔で答えて自機に乗り込むヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)と、雷電を前衛に動かすアズメリア・カンス(
ga8233)。
直後、一本の光条が空を貫く。
タートルワーム(TW)の大口径プロトン砲撃。反射的に飛び出そうとするUPC部隊へ指揮官から制止の声が掛かる。
「来やがったか‥‥へー、結構な数だな。
だが――俺達相手にはそれでも戦力不足だって教えてやるぜ!」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)が闘志を滾らせて機体を低くする。
「こいつらを撃退しても大局にすぐ影響が出る訳じゃない。だが‥‥、放っておけばここから戦線が破綻するかもしれん。手抜きはできんぜ」
風羽・シン(
ga8190)は初弾で遠距離武装を使うため、戦闘機形態で離陸する。
「大規模戦以外でKVを使用するのは初めてですね‥‥。まあ、気負わず行きます」
九条・陸(
ga8254)はディアブロのコックピットから戦闘開始の合図を待った。
少しずつ敵の照準は正確になっていく。片膝を付いた機体のすぐ横を砲撃が通り過ぎる。前方の地面が爆ぜて大量の土が舞い上がる。
しかし、UPC指揮官機はそれでもまだ手を振り下ろさなかった。
まだ敵を引き付ける。虎視眈々と狙う絶好のタイミング。兵士達の戦意は昂り、今にも爆発しそうになっていた。
「‥‥さて。ミミズの警戒は本隊に任せて、露払いと参りましょうか」
ラウラ・ブレイク(
gb1395)は獲物を狙う豹のように敵を見据える。
「はぁ‥‥さっさと終わらそうぜ」
気だるげに呟く桜崎・正人(
ga0100)。
「行くか、甕星(ミカボシ)」
交戦距離に入った。傭兵の勘でそれを読み取って、御山・アキラ(
ga0532)が自機に呼びかける。
直後――、
「‥‥突撃イイイィィッ!!!」
UPC陣営から一斉射撃が巻き起こった。大地を揺らす衝撃と共に、M−1戦車、軍属KVから火線が走る。
同時、傭兵KV十機も武器を構えて立ち上がった。
「遠距離戦じゃ分が悪いですからね。煙幕、展開します――!」
聖が宣言して前方に煙幕弾を撃ち放つ。途端にKVを包み込む濃い煙。
しかし、それすら貫いて六発のプロトン砲撃が迸る。蒼志機、ヴァレス機、ラウラ機が回避したものの、聖機、シン機、アズメリア機は被弾、装甲に激しい損傷を受ける。
「このォッ!」
黒に赤ラインが引かれたシュテルンの反撃。ヴァレスの遠距離攻撃がTW二体を貫く。
「行くぞ! 俺が盾になるッ!」
「OK、アメフトの要領よ。TWまでタッチダウンよろしく!」
ブレイズとラウラがマイクに声を乗せる。同時にアキラ機、アズメリア機も合わせた四機がブーストを点火、弾丸のように飛び出した。
それを援護する陸機、正人機、空中のシン機がゴーレム群へ牽制射撃。
しかし、怯みながらもすぐさまゴーレム隊は反撃に転じる。スナイパーライフル、フェザー砲を発光させ、急接近するKV四機を中心に火線を撒き散らした。
「ゴーレムは落ちずとも‥‥キメラは一掃できるか?」
蒼志機は前線へと走りながら、ブースト班が接敵する前に両端のゴーレムへグレネードを撃ち放つ。強烈な爆炎がゴーレムと周辺のキメラを焼き尽くした。
そしてブーストで急接近する四機が目の前に敵を捉え――。
「ッ――! ブースト班四機! モグラ六体接近、避けて下さい!」
地殻変化計測器を設置し終わり、レーダーを注視していた聖が叫んだ。
それと同時に突然地中から六体のモグラが姿を現した。ブーストで迫る目前の四機にドリルを回転させながら突進する。
「甘いな!」
アキラ機シュテルンはドリル攻撃を縫うように回避。
しかし、その横では高音を響かせてモグラ群がKV三機と激突する。
「‥‥効かないわね」
半月刀でドリルを受け止めるアズメリア。ラウラ機、ブレイズ機も無傷で凌ぐと、そのままモグラを無視してゴーレムへ接近。
中央左のゴーレムをブレイズ機、中央右ゴーレムにラウラ機が張り付く。
「邪魔よ、――木偶の坊!」
白いアンジェリカがエンハンサ起動、鬼のようにカスタムされた練剣「雪村」をゴーレムへ振り落とす。白燐の巨光が二度放たれると、ゴーレムは中枢部分を破損して早々に崩れ落ちた。
「後は任せて行って!」
「ナイスだsamiel! よし、こっちは俺が引き付けるッ!」
電光石火で一機を落としたラウラに声を掛けながら、ブレイズ機も左のゴーレムにディフェンダーを振るう。
その二機が切り開いた道を通り抜ける――アキラ機とアズメリア機。
アズメリア機から高分子レーザーが迸り、さらに接近すると試作剣「雪村」の大斬撃を右方TWに放った。
左方TW。アキラ機は正面に躍り出るなり、大火力兵器M−12を構えて――狙い撃つ。
強烈な光線がプロトン砲に直撃、衝撃で跳ね上がった。間髪おかずにその下の頭部にもう一撃を撃ち放つ――。
オイルのような血を噴き、被弾箇所から火花を散らすTW二体。
しかしそれでもKVへと反撃に転ずる。目の前のKV二機へ体当たり。続けざま二体はプロトン砲の照準を――アキラ機へ。
直後、二発の大光条が一点に集中。アキラ機直撃――
否、アキラ機回避。
間一髪、砲撃の隙間に機体を滑り込ませる。操縦はもちろん、アキラの豪運が味方した。
その後方、ブーストをかけて急接近したヴァレス機が左方TWに飛び乗る。
「どんな装甲だろうと、撃ち貫く!!」
背中のプロトン砲へ、黒赤のシュテルンがPRM強化を施したパイルバンカーで乱打する。
そこへアキラが連携攻撃、左方TWのプロトン砲は大きくひしゃげて大破した。
「このBicornの螺旋の鋼角で‥‥穿ち貫く!」
右方TWを相手にする蒼志機が強固な装甲にツイストドリルを突き立てる。さらにアズメリア機も連携した激しい猛攻。TWはその攻勢に耐え切れず、小爆発を起こして沈黙した。
『傭兵部隊、TW一機G一機を撃破! 左翼敵勢力減少中!』
『はえぇぇッ、まだ十数秒しか経ってねぇぞ!』
『いける、俺達だってできるはずだ! この、モグラ野郎――ッ!』
傭兵達の戦果を聞いてUPC軍の士気が高揚する。一斉に猛攻に転じ、敵バグア群へ砲火を浴びせかけた。
第三機甲部隊の戦闘はやや押され気味。しかし、傭兵の戦果報告に盛り返し始めた――。
「食らって下さい!」
赤いディアブロ、陸機がゴーレム二体へミサイルポッドCを連射。そのままゴーレム一体に接近、大鎌を振り下ろした。
その攻撃に二体のゴーレムは反撃を試みる。‥‥が、その矢先に横からバルカン砲を被弾。
敵の注意を引く為に放たれたブレイズ機の掃射。二方向からの攻撃に二体は一瞬戸惑ったようだったが、突然その生体部分がドーピングを施したように大きく隆起する。
ゴーレムは運動能力を高めて二手に分かれた。
一体がブレイズ機へ走りフェザー砲連射からアクスの連撃。
もう一体は陸機にフェザー砲を撃ち放った後、そのまま陸機へアクスを振りかぶった――。
と、その腕に眩い巨光が流れる。
「余計なお世話だったかしら?」
ラウラ機が雪村でゴーレムの腕を吹き飛ばしていた。
腕を失ったゴーレムは咄嗟に振り向いて肩のフェザー砲を撃ち放つ。ラウラは被弾しながらレーザーで応戦、ビームアクスでトドメを差す。
しかしその背中を――三体目のゴーレムが照準に捉えていた。
「危ないッ!」
後方から聖が叫ぶ。
しかし遅い。ラウラが振り向く前に銃声が響き――
ゴーレムの装甲が大きく爆ぜて、体勢を崩す。
「やれやれ、他の注意を怠るようじゃスナイパーは失格だ」
スナイパーライフルをリロードしながら嘲う正人。
砲撃を外したゴーレムはそのウーフーに二度撃ち返すと、アクスを抜き放ってアンジェリカに斬りかかる。機盾「レグルス」で攻撃を受け止めるラウラ機。
しかし、その戦闘の最中に――斜め上から数発のレーザーが降り落ちた。
「‥‥これくらいの機動ができずに‥‥『超絶技巧修得者』なんて称号を掲げてらんねぇんだよっ!」
超低空を飛来してきたのは戦闘機形態のシン機。その主翼部が鋭く煌めいた瞬間、ゴーレムは咄嗟に飛び退った。
「チッ、外したかっ!」
通り過ぎた後でシュテルンは変形すると、四連バーニアをフル稼働して垂直着陸する。
地上の激しい戦闘を縫うようにしてモグラが地下を駆け回った。
管制の聖の指示によって前線は被害を免れていたが、その聖機自身にも二体のモグラが接近していた。
「正人さん、地下二時の方向からモグラです! 注意を!」
「了解、視認した‥!」
直後、地中から二機のKVにドリル攻撃が放たれる。正人はシールドで何とか受けたが、聖は受けきれずに直撃。
火花を散らして大きく削れる機体装甲。岩龍の機体から不吉な黒煙が上がった。
「くっ、すいません無理が出てきました! 誰か援護願います!」
「了解、僕が向かいます!」
すぐさま陸機が身を翻して走り出す。高分子レーザーをリロード、後方のモグラの一匹に撃ち放った。
「しぶとい奴だ‥‥!」
「撃ち抜け、アハト!」
一方最前線では、アキラ機とヴァレス機が高分子レーザーとレーザーライフルをTWに浴びせかける。溶解した装甲破片が地にしぶいた。
「これがお前に終わりを告げる双雷だ――!」
近接した蒼志機のツイストドリルがTWの装甲を粉々に砕く。そして――、
「この雷は――そう簡単に消せないわよ?」
同じ箇所にアズメリア機の半月刀が振り下ろされた。叩き切るように乱暴に、巨体に刻まれる渾身の三撃。四機の連携からなる激しい猛攻はTWの機体耐久力を超えた。巨体は小爆発を起こし、黒煙と共に崩れ落ちる。
「よしっ!」
「TW撃破――!」
TWが壊滅した事で、前線で戦闘していたモグラ二体が逃げるように後方へ走り出す。
「ッ――! ウインドフェザー11時方向から! 陸さんは12時、4時、8時の三方からモグラ接近!」
TWの所から逆流してきたモグラはゴーレム班と合流し、一人後退していた陸に殺到する。
「くっ、陸ッ――!」
攻撃を受けながらシンが叫ぶ。
直後、赤いディアブロは三体のドリルを受けて盛大な火花を散らす。さらに猛烈な追撃を受けて各所がスパークを起こし、トドメとばかりに三体目のドリルが肉薄する――。
「まったく‥‥行儀の悪い奴ね!」
ラウラ機がゴーレムに背を向けてレーザーを撃ち放った。間一髪――モグラを光線が貫き、爆発。
そのラウラ機へゴーレムのフェザー砲とアクスの連撃がとぶ。それを押し留めようと射撃したシンへもフェザー砲が乱れ飛んだ。被弾し、黒煙を上げるシン機。
ブレイズ機はゴーレムの一体と激しい格闘戦を繰り広げる。
聖機、シン機、陸機が機体損傷度約90%、ラウラ機も60%を超えていた。
――そんな中、最後方のモグラ二体は正人機が一手に引き付けていた。
「‥お前らの相手は俺だ。他の奴んとこには向かわせねーよ!」
機爪をモグラに振るう正人機。その隙にもう一体のモグラが地中に潜ろうとした所を正人機のガトリングが降り注いだ。
「‥‥俺を無視しようなんざ、いい度胸してるじゃねーかっ!!」
二体のモグラを相手に奮闘する正人機。
横からはボロボロの聖機もレーザー砲を構えて援護した。それらの攻撃にモグラ二体はその場に釘付けになる。
しかし、傭兵部隊の劣勢もそう長く続かなかった。
TWの掃討を終えた四機がゴーレム班と合流、猛反撃を開始する。
「遅くなったわね」
アズメリア機の激しい攻撃がゴーレムの一機を撃破した。
「掃除はさせてもらう」
次にヴァレスは最後のゴーレムを中心に、後方に流れていくキメラ達にも掃射を加える。一弾毎に肉片と化す怪物達。
「最後の一撃よ――!」
ゴーレムへ、ラウラ機が燃料をほぼ使い切ってのエンハンサ雪村を放った。
「続こうか」
連携するアキラ機。PRM全エネルギーを攻撃力に回した強烈なガトリングがゴーレムを蜂の巣にして撃破した。
その二機へとモグラ二体がドリルを繰り出して迫る。
が、返り討ちだった。
盾で受けられた後にビームアクスで叩き割られ、あるいはヒートディフェンダーで貫かれて地面に固定、激しいガトリングを受けて二体は大きく爆発する。
「はっ、お前なんぞにドリルは勿体無いという事を教えてやろう!」
別の場所では蒼志機とモグラが激突する。激しい火花を散らしてぶつかるドリルとドリル。
しかし、最後に敵を削り切ったのは――蒼志機だった。
さらに後方では黒煙を上げて立ち尽くす一機。
陸機ディアブロ。
そのKVを狙うサメのように一体のモグラが迫っていた。目前まで迫り、――陸機に地中からの一撃を放つ。
「今です!」
――陸機は囮。
高く跳んだ陸機の下に姿を見せるモグラ。そこへ正人機、シン機、聖機の集中砲火が完膚なきまでに注がれた。
残るモグラは二体。しかしあまりの劣勢を感じ取ったのか、モグラは戸惑うように地中を旋回する。
そんな時、ブレイズ機が超巨大ハンマーを担いで進み出た。
「さ〜て、特大モグラ叩きと行くか! ‥‥と言っても、普通みたいに頭出すのを待つ気は毛頭無いけどなッ!」
――まさに外道。
ブレイズ機はアクチュエーターを起動すると、尾を引く地面へ巨大な鉄槌を振り下ろした。
インパクト。
衝撃と同時に地面は大きく陥没すると――、レーダーから一つ光点が消えた。
「ッ‥‥! 一体撃破ッ!」
「オラ、もういっちょお!!」
二度目の大衝撃。隕石が落ちたように沈む地面。
その下に潜むモグラに――圧壊を免れる術など無い。
「光点消失! 左翼敵勢力撃破です!」
「はっはっは! 見たかこの威力!」
『な、何だあの武器は!? あんなモノが実用化されていたのか!?』
『クール! ハンマークール!』
『良くやった、傭兵諸君! 今日一番の戦功を挙げたのは君達だ!』
左翼敵勢力撃破の報せに沸き立つUPC軍。
士気は最高潮に上がり、更にまだ余裕のある傭兵KVの増援もあり、戦局は一気にUPC側へと傾いた――。
同日 一四○三時
第三機甲部隊は敵一個部隊を殲滅、基地へ帰還した。
その中でも右翼を担当した傭兵KV部隊の戦いぶりは凄まじく、UPC正規軍の士気を大いに向上させる結果となる。
実質的に勝利へ導くカギとなったのはこの傭兵KV部隊に間違いない。
よってここに彼ら十人へ、最大級の賛辞を送る――。
二○○九年一月二十九日『対ワーム北部戦線』報告書