タイトル:超巨大ドラゴンマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/22 18:21

●オープニング本文


 北アメリカ大陸の北西を、4800kmに渡って縦に貫くロッキー山脈。世界的にも有名なこの山脈だが、その南側三分の一ほどはバグアと支配権を争う競合地域となっていた。
 つい数ヶ月ほど前、そのロッキー山脈の南部で大型キメラ『ドラゴン』が突如出現。対応に手を焼いたUPC北中央軍は、傭兵を主戦力としたドラゴン討伐部隊を結成すると、見事十匹のドラゴン群を殲滅する。
 それで事態は解決し、絵本の中から飛び出したようなドラゴンの姿は、空から消え去った――――と、誰しもが思っていた。

「緊急連絡! ロッキー山脈南部に現われた大型キメラが町部に接近中! 種別は飛行型、――以前現われた『ドラゴン』に酷似しているそうです!」
 突然、司令室にオペレーターの緊迫した声が発せられる。
「ドラゴンだと‥‥? ちっ、バグアめ! またつまらんモノを! 第三飛空部隊をスクランブル発進させろ! 敵戦力の詳細な情報は!?」
 降って沸いたような突然の事態だったが、司令官は迅速に対応した。受けたオペレーターは第三飛空部隊に出撃命令を出し、さらに敵戦力の詳細な情報が送られてくるのに目を通していく。
「敵キメラ『ドラゴン』は総数四体! その内の三体は五メートル程度、前回現われたのと同型の接近戦主体ドラゴン! もう一体は‥‥」
 そこまで言ってオペレーターは突然に口をつぐむ。
 急を争う事態での空白に司令官は焦れたように叫んだ。
「どうした、もう一体の情報は!?」
「‥‥いえ、これは‥‥。間違いで無ければ、ですが‥‥。――もう一体のドラゴンは、体長約四十メートル」
 オペレーターの言葉と共に、騒然としていた司令室が途端にシンッ――となった。
「‥‥四十メートル、だと? 読み違えて無いだろうな?」
 司令官の声が静かな司令室に響く。
「‥‥いえ、間違い無いようです。体長は四十メートルのようです。四体のドラゴン群はロッキー山脈南部上空を飛行し、最寄の町へ向かっています。到着は約二十五分後‥‥!」
「――第三飛空部隊、出撃しました!」
 別のオペレーターの言葉に、しかし司令官は声を荒げて怒鳴りつける。
「ダメだ、すぐに撤退させろ! たかだか数機の戦闘機で何が出来る!? KVだ! 空いているKV部隊は!?」
「第一、第ニKV部隊、他地域へ出撃中!」
「第三KV部隊は定期メンテナンス中、今から戦闘準備を整えると半日掛かります!」
 オペレーターから飛んでくる返答に司令官は歯噛みする。この基地に配属されているKV部隊は三つだけ。しかも、いつもなら一つは待機しているはずの部隊が、今日は三つとも塞がってしまっている。
「どうなってる! どうしてこんな時に出撃可能な部隊が無いんだ!」
 司令官が吼える。
 ふとその言葉に、一人のオペレーターが振り返った。
「‥‥いえ、司令官。出撃できるKV部隊ならあります。我々の部隊ではありませんが――その部隊が駐留しているから、KV管理班も第三KV部隊をメンテナンスする事にしたのです」
 そう言って、そのオペレーターは一枚の紙をプリントアウトする。
 そこには現在別件でこの基地に来ていた、――傭兵達のパーソナルデータが記載されていた。
 司令官は紙をジッと凝視する。
 一人一人の顔付き、経歴に目を通して――。
 小さく頷き、オペレーターの方を向いた。
「この傭兵達にKVの使用を許可する。――それとライト少尉をここへ」

 ‥‥司令室に一人の男が呼び出される。
 傭兵部隊への作戦説明役であり、傭兵と共に出撃して任務に当たるUPC軍からの正規戦力。
 その立ち位置から正規軍というより半傭兵と化しているライト少尉は、今回の任務を聞いて思わず溜め息を吐く。
「四十メートルの巨大ドラゴン、ね‥‥。ったく、こりゃ生きて帰れ無いかもな‥‥」
 そんな事を一人ゴチて、傭兵達の集まるブリーフィングルームに説明へ向かったのだった――――。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
束祭 智重(gb4014
21歳・♂・SN

●リプレイ本文

 基地を急き立てるエマージェンシーコール。
「よし! ライト少尉及び傭兵八名、出撃する!」
 格納庫開放と同時に少尉から管制塔へ。
 九名分の離陸許可を取り、『八機』のKVは滑走を開始した。
 ‥‥‥‥。
『ちっこく〜ちっこく〜るるる〜‥わたしは愚鈍で怠惰なへび〜な蛇〜‥』
 一機を除く全員が空に上がった直後、ふいにそんな通信(?)が耳に飛び込んできた。
 やっと地上で滑走を始めたらしい束祭 智重(gb4014)へ、管制塔は静かな怒りを伝えている。
「‥‥やれやれ、生きるか死ぬかって時にも傭兵はのん気なもんだな」
「ははは、まぁ貧乏くじにしてもこのくらいじゃ上等な部類だからな。よろしくな、ライト少尉」
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)がコックピットから清々しい笑顔で親指を立てる。
「まあ何とかなるって少尉。この任務が終わったらパーッと酒でも飲みに行こうぜ」
「あ、あぁ。君は確かシン‥‥ウインドフェザーか。今回もよろしく頼む」
 前回任務を共にした風羽・シン(ga8190)。前回と格段に脅威度が違う敵に対しても、その不敵な自信は健在だった。
「やれやれ、竜退治は生身だけだと思ってたんだがな‥‥」
 『ドラゴンキラー』の異名を持つブレイズ・S・イーグル(ga7498)は呆れたような微笑を浮かべる。
 KV対ドラゴンという異種戦闘。しかも相手はキメラにして超ド級、ワームにもあまり見かけない大きさだ。
「ウシンディ‥誇り高き彼に恥じない戦いをしような」
 しかる激戦を控え、カルマ・シュタット(ga6302)は愛機のシュテルンに語りかける。
 その内に智重機が上がってきた。雲を曳く九機は青空を翔け始める。
『‥‥グッドラック。頼むぞ、ドラゴン迎撃部隊』
 基地からの最後の通信が全員の耳を叩いた。


 約十分後、部隊は空に黒い点のような異物を認めた。
「思ったより早く発見できたな‥‥」
「それでは、少尉にはでかいやつに向かっていただきますがよろしいですかね?」
「無論だ。本命を傭兵に任せたとなってはお笑い種、どころか失笑モノだからな」
 事前の作戦を確認する周防 誠(ga7131)へ、ライトは毅然と了承の意を示した。
 巨大ドラゴン迎撃作戦。
 その詳細は、まず敵進路の誘導、次に巨竜を取り巻く三匹の排除、最後に全機合流して巨竜撃退の流れ。
 その中でも巨竜の気を引き付けておく危険な役目を担ったのが、カルマ、ジュエル、ライトの三人だった。
「少しの間だけ耐えて下さい。小さいドラゴンはすぐ落としますので」
 真剣な表情で霞澄 セラフィエル(ga0495)が言う。彼女は緒戦から全力で敵を落とすつもりだった。
「巨大竜‥‥。どんな強大な敵にしても‥‥街に手を出させはしない!」
 真田 一(ga0039)は巨竜を睨む。当初はサブアイカメラで敵分析の為に録画撮影するつもりだったが、思った以上の改造が必要と分かり断念した。カメラによる分析はできない。
 しかし近付くにつれて分かるその巨竜の迫力に、全員が息を呑んだ。
「オイオイ、いくらでけぇっつってもデカすぎじゃねぇか?」
「‥‥ここまで大きいとヒーロー番組の怪獣ですね」
 霞澄とブレイズが半ば唖然、半ば呆れたように呟く。
「おーお、前に相手した奴とは雲泥のデカさだねぇ? まぁどんだけデカかろうが、退治しちまえば同じだけどな」
 前回と比べモノにならない巨大ドラゴンを、シンは簡単に切って捨てる。
「40mって聞いてもピンとこなかったけど、やっぱ間近で見るとでけぇなあ‥‥まあ的がでかいと思えば」
 ジュエルは全員の反応に頷きながら操縦桿を握りなおした。
 敵はまだ迎撃部隊には気付いていない。

 そして巨竜のシワまで見える距離に到達する九機。
 レーダーには光点が四つ。巨竜だけでなく、その後ろには小竜も固まって飛行している。
「――OK、巨大ドラゴンロックオン。とにかく彼女には振り向いてもらわないとな――発砲するぞ、少尉?」
「ああ。派手にブチかましてやってくれ」
「了解。攻撃開始!」
 ジュエルの叫びに呼応して、雷電に搭載されたD−02が火を噴いた。薬莢排出、次弾装填。
 再び空を焦がすような銃声が響き渡る。
 巨竜の全身を二度赤い光が覆う。そして巨竜は――うるさそうに体を揺らすだけで振り返りもしなかった。
「なにッ――!? 効いてないのか!?」
 相手の反応の薄さに声を上げるジュエル。それを見てライトのバイパーも前進した。
「続くっ!」
 六発のロケット弾が白煙を上げて空を迅り、着弾。‥‥が、それも巨竜には効かない。
 ツッ――とそこへ、さらに六発のロケット弾が飛ぶ。高速で背中の一点に集中着弾。それには巨竜も小さく揺らぎ、後方に首を巡らせた。
「ふぅ、やっと振り向いてもらえたかな」
 両翼下部から硝煙をたなびかせるのは、カルマのシュテルン『ウシンディ』。
 巨竜は大きな瞳を九機に向けたと同時――大口を開く。
「マズイ、何か来る!」
「散開をッ――!」
 一と誠の叫びの直後、五つの巨大火球がKV部隊へと放たれた。
 迫り来る炎塊を誠機は回避。しかし智重機、シン機、霞澄機、ブレイズ機の四機が直撃した。

 その攻撃を皮切りに小竜もKV部隊へ全力で羽ばたく。
 迎撃するように前進するKV九機。
「重量過多でも積んできた最終兵器――! 覚えておきなさい‥私のドリルは竜をも穿つのだと‥!」
「いや‥‥、近接武器は空戦で使えませんよ?」
 ドリル装備の智重に、僚機の誠が冷静に突っ込む。
「‥‥‥‥。なんですってぇ〜!?」
「やれやれ、まいったね‥‥」
 溜め息を吐く誠。一方の智重は泣く泣く兵装を切り替え、小竜の一匹へミサイルD−01を二射する。
 直後、誠がその小竜を狙撃。集中砲火を受けた小竜の血と肉片が空に弾け散った。
「よし――派手に行こうぜッ!」
 続いて赤翼悪魔エンブレムのシュテルン、ブレイズが連続でミサイルを発射する。
 空を走る弾頭は左方の小竜を捉えて直撃。大きく揺れた小竜を、今度は強烈な放電が貫いた。
 一はすぐに兵装をM−12粒子砲へ変更――。
「――食らえっ‥!」
 大火力の光線が小竜へ迸った。二刀黄鳥エンブレムのアンジェリカが発射の衝撃で減速する。光線は大気を一直線に貫き、小竜の身体に大穴を穿った。
 ‥‥しかし仕留めるには至らず、ドラゴンは瀕死の状態ながら羽ばたく。
「っ、惜しいですね。トドメを刺したい所ですが‥‥」
 霞澄機は反対側の小竜に向き直る。瀕死の竜に向かえばこの一匹がフリーになってしまう。それなら――。
「こちらを仕留めれば――良いだけの事です」
 SESエンハンサーが唸るように起動。霞澄の強烈なG放電に、小竜は苦悶の咆哮を上げた。
「待ってろ、楽にしてやるぜッ!」
 僚機のシンがミサイルを発射する。さらにシン機は加速、スラスターライフル、高分子レーザーを連続して撃ち放った。
 二機の強烈な連携に小竜は硬直、――そのまま力を失い墜落した。
「よし、まず一機ッ!」
「――いけない! ウインドフェザー、左方から敵です!」
「え――?」
 シンが横を向いた瞬間、小竜の鋭い鉤爪がシュテルンに振り下ろされた。
 激しい衝撃が機体を揺らす。さらに間隙を置かない二度目、三度目の連撃が装甲を痛烈に削り取る。
 もう一体の瀕死の小竜も奮迅していた。
 一に攻撃をかわされるも意に介さず、次にブレイズ機へと襲い掛かり渾身の二撃、さらに標的を変えて智重機へ。
 同時に、シン機に振り払われた小竜も智重を標的として迫り、その二体が放つ攻撃が智重機を大きく軋ませる。
「それ以上やらせるかッ!」
「いい加減‥堕ちろォ!!」
 一とブレイズの集中砲火が小竜の一匹を仕留めて、落とした。
 最後まで残った瀕死の小竜。一機だけで飛ぶ誠機へ逃げるように突進する。
「やれやれ‥‥。無策に突っ込んでくるようじゃね!」
 誠は肉薄する小竜へ、長距離砲「アグニ」のトリガーを引く。
 ――怒号の発砲音。
 空気を震わせて放たれた一撃は小竜の半身を吹き飛ばし――撃墜した。

 三体の小竜の撃破と同時、突然巨竜が大気を割らんばかりに咆哮した。
「――ッくぅ、バカでかい声だぜ!」
「‥‥! 来るようだな」
 怒れる巨竜が動き出す。
 自らの三方向を囲む三機の内、側面のライト機とカルマ機に巨大火球を吐いた。
「くっ――直撃だ!」
 ライトのバイパーが炎に包まれる。しかし、カルマ機は火球を回避した。
「‥ギリギリだが、避けれない事は無いな」
 カルマが呟く。
 ――だが巨竜のその瞳は突然収縮、猫のように縦に割れる。そしてもう一度、カルマ機へと巨大な火球が放たれた。
「‥ッ!? 動きを読まれたのか――ッ?」
 進路軌道上に迫る炎塊、回避行動は間に合わない。カルマ機は直撃、表層装甲を融解させる。
 さらに追撃しようとする巨竜へ――、ふいに無数の砲弾が降りかかった。
「ホラ、こっちだぜッ!」
 間断なくガトリング砲を撃ち放ちながら、ジュエル機は巨竜正面へ。
 巨竜はうるさい蝿を落とそうと雷電へ突進。巨大な鉤爪を連続で振るった。
「つっ――!?」
 背筋が寒くなるような機体の振動。被弾警告音、レッドランプが騒ぐ。
「大丈夫かッ!? 援護する!」
「少尉に同じく。背中がガラ空きだな」
 バイパー、シュテルンは巨竜に向き直り、同時に火器発射スイッチを押した――。
 ‥‥が、沈黙。
 どんな奇遇か、二機は同時に不発だった。
「チッ――!?」
「整備不良か‥‥?」
 もう一度スイッチを押すと、次は無事に撃ち出された。巨竜の翼に命中、赤いFFを貫いて抉る。
 振り向いた巨竜がまた火球を放とうと口を開いた時――、青白い稲妻がその左肩を強烈に灼いた。
 遥か向こう――、天使のエンブレムを付けたアンジェリカがG放電装置を帯電させていた。
「う‥‥、これだけ大きいとFFで目がチカチカしますね」
「まったくだ。‥‥巨大竜班、無事か? 応援に来たぜ」
 通信を飛ばすシンは巨竜に接敵、スラスターライフルからソードウイングの連続攻撃を放つ。
 更に別方向からも一発の弾丸とG放電が巨竜を傷つける。誠のワイバーンと一のアンジェリカだった。

 続々と集まり出すKV。
 巨竜はそれを見てふいに大きく息を吸い込む。そして首を前へ突き出すようにして――口を開いた。
「うおっ――!?」
 吐き出されたのは空を埋め尽くす火炎。
 その灼熱の炎は猛速で広がりながら、前方のジュエル機、シン機、智重機、誠機へ迫り――四機を瞬く間に包んだ。
 しかも巨竜は反撃の間を与えずに羽ばたいて移動、KV三機の囲みを突破してその後衛KV機群に肉薄する。
「って、わ!? いつの間に接敵されたのよ‥!?」
「視界に収まりきらねぇんだが――!」
 炎が霧散したと同時、目の前の巨竜に動揺する智重とシン。その二機へ向かって、巨大な鉤爪が荒々しく振るわれる。
「智重、ウインドフェザーッ!」
 破片を撒き散らして吹き飛ばされる機体。大きくひしゃげた二機は何とか持ち堪えた。しかし特に、黒煙を上げる智重機は今にも落ちそうである。
 そこへ追撃をかけるように――巨竜はまた大きく息を吸う。
「マズイ、間に合うかッ――!?」
 カルマがブーストオン。ケルベロスエンブレムのシュテルンが強烈な加速で数百mの距離を縮める。
 同時、巨竜の口から吐き出される炎の息。一、ブレイズ、シン、誠、そして智重の乗る五機に炎が迫る――!
「万事休すって奴でしょーね‥‥」
 智重はアクチュエーターを起動するが、目の前に迫る厚い炎はとても避けられそうに無かった。操縦桿を握りながら諦めかけたその時――。
 炎の中を掻き分けて黒いシュテルン『ウシンディ』が姿を現した。
 卓越した操縦で智重機の盾となり、――PRMを発動した機で炎を一身に受け止めた。
「なっ――?」
「何とか間に合ったようだな」
 驚く智重を尻目に、カルマは安堵の溜め息を吐く。
 その他、一はブーストを点火したが回避できず、標的になった全員が被弾。
 しかし、それでも墜落した機体は一機も無かった。

「――当てて見せるっ!」
 一は回避に点火したブーストをそのまま利用して接敵すると、エンハンサー起動。スラスターで姿勢制御。
 狙うは――ブレスの余韻で僅かに開く巨竜の口。
「いっけぇッ!!」
 巨大な光線が巨竜へ迸った。
 小さい的へ光線は命中、巨竜は口内に大打撃を受けて大きく仰け反る。大量の血が空に散った。
「いける‥‥このまま押し切りましょう!」
 誠が巨竜に向けてトリガーを引いた。強改造されたD−02の弾丸が巨体に食い込む。空でよろめく巨竜。
「エンハンサー起動、高分子レーザー全弾発射します」
 接敵した霞澄機の放つレーザーが巨竜を穿ち、焼き切る。肩、背中、首――。
 と、その時。ふいに巨竜は高い咆哮を上げると――その皮膚に変化が起こった。
「何だ? 変色しているぞ!?」
 茶色に近かった巨竜の皮膚がみるみる真っ赤に染まっていく。
「知った事かッ! さぁとっておきだぜ‥、喰らいな!」
 ブレイズがガトリング砲を雨のように撃ち放つ。
 しかし巨竜はそれを――回避した。
「――避けたッ!?」
 明らかに先ほどと違う機動。巨竜の運動能力が著しく向上している。
 ‥‥だが傷ついた巨竜はそのままKV部隊から逃げるように、フラフラと彼方へ飛び始めた。
「撤退‥‥してるのか?」
「なら任務は完了か‥‥。だが、やられっぱなしじゃ割にあわねぇな」
「もちろん、少しぐらい仕返ししないとダメでしょ」
 黒煙を上げるシン機と智重機は照準を巨竜の背中に向ける。
「まぁ落とせるなら落とした方が良いよな」
「この距離なら‥射程範囲内だ」
 ジュエル機も砲口を向け、カルマ機は加速を始める。
 次の瞬間。
 シン機、智重機、ジュエル機が一斉に火器を発射した。巨竜へ次々に着弾、衝撃で動きが鈍る。
 その背中へ追いすがったカルマ機。PRMで知覚強化した渾身のレーザーが、巨竜の傷口を更に深く抉った。
 激しい猛攻に身体を仰け反らせて咆哮を上げる巨竜。
 ――そして次の瞬間。
 傷だらけの巨体は血を噴きながら、ゆっくりと羽ばたきを止めた。
 ――――ドラゴン迎撃部隊、巨竜撃墜。


「やれやれ、KVでもまたドラゴンと戦う事になろうとは‥」
 任務完了後の空。
 ブレイズはさすがに疲労の表情を浮かべていた。
「‥‥だがまさかあの巨大ドラゴンを堕とすとはな‥‥。撃退するだけのつもりだったんだが‥‥」
 ライトはやや恐れの混じった声で呟く。傭兵という存在の底力に目を瞠る思いだった。
 かなり危険視されていた依頼にも関わらず、墜落者ゼロ。さらに巨竜を下すという快挙。UPC銅菱勲章の授与は確実だろう。
 英雄となった九機のKVは――青空の中をゆっくりと帰投していった。
 ‥‥後日談として、仲間の命を救い、様々な局面で活躍したカルマ・シュタットにはUPC銅菱勲章の他にUPC名誉支給品引換券も送られた。