タイトル:【CE】生還する輸送機マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/19 19:22

●オープニング本文


 カンパネラ学園。
 この学園ではドラグーンという新クラスの登場と共に、大勢の新入生を受け入れた。
 しかしその入学式を計画する段階になって問題が浮上。以前まで行ってきた入学式では予算の負担が大きすぎて今の時勢に合っておらず、さらに新入生を加えた全員でまともな式を行える場所は学園施設内に存在しなかった。
 対策を講じた学園上層部は式場をグリーンランドに新しく完成した拠点を使用する事に決定。
 さらに費用軽減の為にカプロイア社とクルメタル社にコンタクトを取り、両社が発売を控えている新KV、新AU−KVの発表セレモニーと合同で行う事となった――。

 グリーンランド新拠点。
 極寒の大地に出来たその拠点では、着々と入学式兼新KV発表セレモニーの準備が進められていた。
 北米からは空輸機によって続々と物資が送られてくる。メガコーポレーション二社とUPC軍学校カンパネラ学園の合同式典であるからそれなりの規模は予想されるが、それにしてもやってくる幾多の貨物は少し過剰な印象を与えた。
 それでも戦力が集結しているわけでは無いのでバグア軍の動きは緩慢だったが、‥‥だからといって見逃してくれるほど甘くも無い。
「――緊急連絡! 北米B空輸中隊が敵と接触! 護衛戦闘機の十二機中七機が大破、敵戦力はHW(ヘルメットワーム)が3‥‥」
「B中隊の現在地は!? 近くを哨戒中の三機以上のKV部隊、もしくは十五機以上の戦闘機部隊を応援に向かわせろ!」
 司令官が鋭く叫ぶと、オペレーターは鬼気迫る勢いでキーを素早く打つ。
 しかし――、
「‥‥ダメです! 一番条件に近い部隊がこの緊急連絡を打診してきた二機編成のKV偵察部隊です。B中隊から30km地点で任務中ですが機種はR−01改、搭乗員は‥‥」
 オペレーターが早口に報告する。
 司令官はそれを聞いて顔をしかめて歯軋りをする。他の部隊はどこも離れすぎていた。助かる見込みは無い。応援の部隊が駆けつけた頃には、輸送中隊の破片が流氷の海にばら撒かれた後だろう――。
「もはや‥‥手遅れ、か」
 状況を分析して、司令官はそう判断を下した。

 ‥‥だが意外にも、その航空基地にB空輸中隊の輸送機ニ機だけが何の支援も受けずに到着し、そのまま着陸した。
 奇跡的に九死に一生を得たパイロットは青ざめた顔で状況報告に来ると、妙な事を語った。
「敵は‥‥我々ニ機以外の機を次々と撃墜していきました。手始めに護衛の戦闘機が落とされていき、次に中隊輸送機が一機ずつ。必死に操縦桿を握りながら私は、次は自分の番だと恐怖で戦慄していました。‥‥そしてその通り、HWの一機が私の元へ飛んできたんです。
 ――ああ、終わったな。そう思った時――敵は我々だけを残して突然撤退を始めました」
 パイロットの報告。
 輸送機などという無力の敵を前にして突然撤退を始めるなど、前例の無い事だった。
 司令官はパイロットを下がらせると、一人デスクに着いて首を捻る。
「‥‥なぜ敵は撤退した?」
 自問自答する。敵側の都合か、それとも運ばれる物資が式典関係のモノだという情報を掴んでいて、そんなモノを破壊しても益が無いと判断したのだろうか。だとすれば好都合である。今回の式典の『本当の目的』を相手は把握していないという事だ。
 しかし、司令官の胸のモヤモヤは晴れなかった。
 例え式典の物資を運んでいるのを知っていたとしても、目の前の輸送機を落とさないという判断などあり得るだろうか?
 たまたまバグア側に撤退命令が出たのかもしれない。弾切れの可能性もある。HWは無人機のようだから、AIの誤判断という事もあるかもしれない。
 しかし、他に理由があるとしたら――?
 だが正直、物資が到着してこちらに不都合な事など何も無かった。今頃は積み下ろし作業が行われている所だろう。何も問題は無い。しかし、得体の知れない不安は収まらない――。
 時計の秒針だけが、堂々巡りの思考をあざ笑うように静かな部屋に音を刻んでいる。
 その時、ふと内線の呼び出し音が鳴った。
「何だ」
『司令官、敵第二波を発見! 進行方向からE空輸中隊に五分後接敵します――!』
 司令官は立ち上がる。彼に考えている暇は無かった。
「すぐ向かう。確認されている敵戦力は?」
『小型HW3、CW(キューブワーム)8です!』
 脅威的と言うほどではないが八体ものCWは厄介だ。中途半端な迎撃部隊では被害が出るかもしれない。基地に駐留中の傭兵能力者を使う方が良いだろう。
 司令官は思考しながら部屋を出る。
 ふと、――今回の敵は輸送機を全部落とすつもりなのだろうか、と頭に過ぎった。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

●出撃
 基地に鳴り響く警報。
 ――それと共に、格納庫から八つのKVが青空の下へ姿を見せた。
「ミズキ機、離陸します。‥‥それにしてもなんか変だよね。二機だけ落とさないなんて‥‥何か無いとは思えないし」
 格納庫から出た柿原ミズキ(ga9347)の雷電が、水を得た魚のように滑走を始める。
「確かに謎が多すぎる気もする‥‥やはり、内通者のセンは調べるべきか‥‥。疑いたくは無いがやむをえませんね」
 同じく滑走しながら、翔幻に乗るシャーリィ・アッシュ(gb1884)も無線で応じた。全員が今回の任務に違和感を覚えている。敵の意図が見えないのが不気味だった。
「‥‥まぁあまり難しく考えてもバグアの考えることはよく分からんですし、とにかく輸送機を守りましょうっと。邪魔するバグアは蹴散らしてやるのです!」
 その暗い空気を吹き飛ばすように如月・菫(gb1886)が翔幻のコックピットで元気良く言い放つ。
「そうだな、先ずはE空輸中隊を守る事を考えますか。謎解きはその後だ」
 自機を離陸させながら龍深城・我斬(ga8283)も菫の言葉に頷いた。相手の行動を予想するにしても現時点では情報が少なすぎる。それに、主目的は輸送部隊を守る事なのだ。
 その為にこの任務に狩り出された傭兵部隊は、五機の雷電を中心に、カンパネラ学生の乗る翔幻が二機、新鋭機のイビルアイズが一機、計八機である。
 しかし――。
「痛っ‥‥でも参加した以上、みんなに迷惑はかけられないもの‥‥」
 機体上昇のGに顔を歪めながら、重傷から治りきっていない御崎緋音(ga8646)は必死にKVを操縦する。
 それともう一機、血の翼を持つ剣と時計のエンブレムを付けた白銀の雷電も遅れていた。
「‥‥まったく、重傷なんて付いてないな。あんまり無理しないでおきましょう」
 緋音と同じく、サルファ(ga9419)も怪我を押しての参加である。
 ‥‥傭兵側の二人の重傷者。
 幸いにも敵は大した戦力でも無かったが、輸送機を守りながらの戦闘では予断を許さない。状態が万全で無いならなおさらだった。傭兵達にいつもとは違う緊張が走る。
 それでも八機の騎士は一直線に空を翔けた。輸送機を守り、謎を解く為に。

●会敵
「レーダーに友軍反応ですね。‥‥こちらUPC軍傭兵部隊、そちらはE空輸中隊ですか?」
 先頭を飛んでいた霞澄 セラフィエル(ga0495)が通信回線を開いて、レーダーの飛行機群に問いかける。返事はすぐに返って来た。
『そうだが‥‥傭兵部隊か。なんとか間に合っ――』
 突然、良好だった通信状況に激しいノイズが混じる。同時にレーダーが消滅。
 身に覚えがありすぎる反応。既に空輸部隊を視認していた為に見失いはしなかったが、傭兵達は合流を急いだ。
「‥‥どうやら現われたようね」
『敵襲かっ!?』
 両部隊は至近距離まで近付くと、ノイズ混じりにそんな会話をする。
 月と鷲のエンブレムを付けたアズメリア・カンス(ga8233)の雷電は、機首を大きく傾けてそちらを向いた。
 その遥か向こうには、異形の機影が数機。離れていても間違いようが無い。バグアのHW三機とCW八機の独特のシルエットが浮かんでいる。
「それでは作戦通り迎撃態勢に移りましょう。御崎さんとサルファさんは無茶をしないで下さいね」
「輸送機はボクらが守りきってみせるから」
 天使のエンブレムが側面に付いた金色のイビルアイズと、夜の刀と鳥のエンブレムを付けた雷電が輸送機部隊直衛に付く。
「KITTEN了解です。‥‥私達も頑張ってみんなの護り手になろうね、ヘルヴォル」
 『ヘルヴォル』と名付けた自機に向かって小さく呟く緋音。それに応えるようにヘルヴォルの兵装は解除され、臨戦態勢となった。
「EXも了解です。まぁ怪我しててもナタデココには不覚を取らないつもりです」
「‥‥多いのは数だけですもんね。大した事は無いのです」
 強く断言して緋音機、サルファ機、菫機の三機がCW掃討に向けて編隊を組む。
「各個で狙うHWは事前の打ち合わせ通りいこう。‥‥CWのせいで通信がやられそうだしな」
「直近の敵、ですね。了解です」
 我斬の言葉にアズメリアが返答する。
「それでは行きましょう‥‥。‥‥いざ、空の戦場へ‥‥!」
 最後にシャーリィの号令の下、この三機は対HW隊として編隊を組んだ。

●交戦
 ――接近してくる敵ワームの一団。
 ――展開するKV迎撃部隊。
 動いたのはKV部隊が先だった。
「ラージフレア投下ッ!」
 直衛隊のミズキがラージフレアを投下。直後、――HWは居並ぶKVへ赤色の閃光を放った。
 空を切る光条。
 八体ものCWの怪電波を受けた前衛KVはそれぞれが直撃。機体の装甲が一瞬で蒸発する。
「うぅっ‥‥この体に、この頭痛‥‥最悪の組み合わせね」
 被弾した機体を持ち直しながら緋音は呟いた。
 一方、後方の輸送機隊はCWの怪電波の範囲に入っていなかった。迅速に回避行動を取り、輸送機も含めて全てが閃光を避ける。
「ロックオンです――」
 被弾から立て直した菫の翔幻から、84mmロケット弾が火焔と共に発射される。何発ものロケットが密集するCWへ幾つか被弾し、透明な外殻を砕いた。
 さらにその後方からもサルファのミサイルや緋音のスナイパーライフルが飛ぶ。濃度の高い怪電波のせいで命中率は良く無かったが、それでも何発かがCWへ吸い込まれるように直撃して破片を撒き散らした。
 さらに、HW対応班の我斬機、シャーリィ機、アズメリア機が敵HWと一対一のドッグファイトを開始する。
 通常戦闘機の常識など無視した空中戦闘機動。静止状態から直上、直下、果ては跳ぶように後退までする敵を相手に、三機のKVも急加速、急旋回、急減速を持って対応する。
 火線と光条の激しい応酬。
 それを後方で見ながら、直衛班の霞澄とミズキは首を捻る。
「襲撃に来たにしては‥‥あまり積極的ではありませんね?」
「‥‥そうだよね。囮ってわけでも無さそうだし」
 ミズキは交戦している方向以外にも首を巡らすが、澄んだグリーンランドの空に他の機影は見えない。
 しかし今交戦中のこの敵には、KV隊を突破して輸送機を叩こうという気配が見られなかった。むしろ八機のCWを基軸にして防戦に回っているようですらある。
「とにかく、少し前進してCW班の援護に回ります」
「了解、‥‥HW班が辛そうだしね」
 そう判断を下して、霞澄機とミズキ機は自兵装の射程距離内にまで近付きCW掃討に助勢した。
 CWを潰さない事にはHW班が圧倒的な不利に立たされ続ける事になる。現にHW班は大いに苦戦していた。

●逃亡
「空戦は初めてだが‥‥小型HWごときに後れをとるようなヤワな鍛え方はしていないっ!!」
 紫色の光線に装甲の一部を削られながら、シャーリィ機がMSIバルカンRで反撃する。それは回避されるも熾烈なドッグファイトへもつれ込む。我斬とアズメリアの状況も似たようなもので、なかなか攻撃をHWに当てる事が出来ない。
 敵が小戦力にしては長引く戦局。縦横無尽に暴れ回るHW。
 ――しかしそれも、傭兵達が六体目のCWを撃破した時を境に変わった。
「ほらっ、プレゼントだ。持って行きな!!」
 サルファ機が放つ最後のミサイルG−01。それが着弾すると同時、CWを粉々に吹き飛ばす。傭兵達を苦しめる怪電波がまた少し和らいだ。
 同時、アズメリアが撃ち放ったR−P1マシンガンがHWの機体に――穴を空ける。
「やっと‥‥当たったわね」
 ここへ来て初めてダメージらしきものをHWに与えた。続けて、アズメリアはR−P1をHWへと連射。内一回は外れたものの、着実に攻撃は当たるようになって来ている。
 そこからは早く、傭兵達の猛反撃に次々とCWは落ち、HWはダメージを蓄積していく。
 しかし、傭兵達は適度に手加減してHWを落とさないようにした。
 ‥‥敵はなぜ輸送機を完璧に落とさないのか。その理由の一つとして能力者達が予測したのは、HWが特定の輸送機に向けて何らかの信号を発しているというものだった。
 もしそれが重力波による信号だった場合、イビルアイズの特殊能力で妨害できる可能性がある。
「最後のキューブ、撃破してやったです」
 菫がCWをただの残骸に変えて、通信で全機に報告する。残るは適度にダメージを与えたHW三機が居るだけである。
「了解しました、それでは対バグアロックオンキャンセラ――」
 霞澄がイビルアイズの特殊能力を起動しようとした直後、――突然HWの動きが変わった。
 ‥‥CWがやられたと見るや、HWはそのまま逃亡を始めたのだ。
「――っ!? 逃がすかよ! ソードウイング、アクティブ!」
 我斬がブーストと超伝導アクチュエータを併用してHWに追いすがり――剣翼で敵機を真っ二つに切り裂く。HWの一機が爆散した。
 しかし、他の二機はそのまま猛スピードで彼方へと飛んで行く。
 だが輸送機を置いておくわけにもいかない。傭兵達は見送るしかなかった――。

●調査
『基地が見えてきたな‥‥。君達が来てくれて助かった、ありがとう』
 その後はバグアによる襲撃も無く、無事にE空輸中隊は基地まで辿り着く事が出来た。
 そのため隊長が礼を言ったが、傭兵達の反応は明るいものでは無い。傭兵達にとって護衛は任務内容の『半分』でしかないのだ。
 やがてE空輸中隊と傭兵部隊は基地に無事に着陸する。
「守りきったけど、奴らの目的って何だったんだろう‥‥?」
 KVを降りながらミズキが呟く。輸送機を落としに来たにしては消極的だった敵の動き。おまけに量産型の小型HWの撤退など、あまりお目に掛かれる事では無い。
「帰りに輸送機を観察した感じでは、おかしな所は無かったけどなぁ」
 我斬はしかめ面で輸送機の方へ歩み出す。他の能力者達も同じようにそちらへ向かった。
 その中でただ一人、サルファだけが足を止めて考えを巡らす。
「‥‥他の皆は輸送機を調べるか。なら、俺は他の事に当たろうかな」
 ‥‥そもそもサルファとしては、入学式と新KVの発表セレモニーぐらいでこれほど大規模な輸送を行うのは異常に思えた。
 ――そしてそれは、敵の場合であっても同じだったかもしれない。
 つまり敵が輸送機を全部撃墜しなかったのは、計画が早まったり別の場所で行われるのを防ぐのもあるが‥‥生還した輸送機の積荷を、基地に居る内通者に調べさせる為?
「空想の域を出ないが‥調べてみるか。万が一ということもあるしな」
 呟きながらサルファは聞き込みに基地の中へと入って行った。

●表と裏
「さて‥‥中を調べさせてもらえますか?」
 緋音が司令官から預かった書面をE空輸中隊長に見せて、そう要請する。我斬ら、能力者達のただならぬ雰囲気と許可が下りている事を知って、中隊長は呆気に取られながらも頷いた。
「それでは‥‥調べましょうか」
 霞澄が弓を手に、輸送機の後部ハッチを慎重に開く。
 その後ろには我斬とミズキも武器を構えて控えていた。
 開かれたハッチからは、しかしキメラなどが飛び出てきたりはしなかった。それでも三人は油断無く中へ入っていく。
「それじゃあ私は機体の外側を調べてみるのです」
 三人が輸送機内部へ入っていくのを見て、菫は機体の外側を入念に調べ始めた。バグア内通者が付けた発信機か何かが見つかる可能性もある。
「輸送させる事が目的じゃないかと思えるけど‥‥どうなのかしら」
「積み込むとすれば‥‥爆発物の類‥‥。あるいは‥‥小型のキメラが有力‥‥か」
 アズメリアとシャーリィは頭を突き合わせて輸送機の積荷リストをめくっていく。
 そしてこの二人と輸送機に入った三人が――同時にその『異常』に気付いた。
 この輸送機が運んできたのは入学式と新KV発表セレモニーを行う為の装飾やその他資材のはずだ。
 それならば――この各メガコーポレーションの研究資材や物騒な大型火器部品の数々は何なのか。
 ‥‥そこから導き出される結論は一つ。
 今回の大規模な輸送は入学式やセレモニーの為では無く。
 恐らく、軍の中枢やメガコーポ各社にとってはもっと重要な計画が始まろうとしている、という事実を断片的に表していた――――。

●真相
「‥‥ああ、物資の半分はアンマサリク地下に送られるらしいよ。そこが広大な研究所になっていて、何人もの研究者が居るってもっぱらの噂だけど」
「‥‥なるほど。秘密の研究所、か。香ばしい匂いがするな」
 基地で若い軍人を捕まえてそんな噂話を聞きだしたサルファは、ジッと考え込むように腕を組む。運ばれてきた積荷を実際に見る人間は絞られる。輸送者、搬送者、搬送先の人間‥‥。そしてその中で一番機密に近そうなのが‥‥この噂の研究所だった。
「この予想が、外れであればいいんだけどな‥‥」
 サルファは呟いて、窓の外に居るE空輸中隊を眺めた。
「そうですか‥‥。軍歴は8年‥‥十分長いですね。では‥‥」
 シャーリィがE空輸中隊のパイロット達を集めて一人一人に綿密な聞き取りを行う。内通者の存在を調べる為に些細な事も突き詰めて質問する。
 その間に、他の傭兵達が積荷を入念に調べていた。
「んー、別に気になるモノは無いね」
 ミズキが資材の梱包を解いて中を覗き込むが、特におかしなモノは無い。一応、リストの通りの物である。
「後は‥‥そうだな。他部隊の生き残った輸送機の積荷に共通点とか無いのかね? 特殊な電波を発するものとか‥‥」
 我斬が思案げに呟く。これといった異常が見つからない以上、特定の機体にだけ何かがあると予想したのだ。
「‥‥つっ、重っ――あっ!」
 と、ふいに負傷中の緋音が資材の重さに傷が痛み、つい箱を取り落としてしまった。強い衝撃に箱は――フタと側面の板が取れる。
 何かの精密機械の他に側面の板の中から――異質なモノが飛び出す。
「機体の外側には何も無かったですよー! って‥‥ん? これは何の卵ですか?」
 検分を終えて戻ってきた菫が、床に転がるそれを見つけて屈み込んだ。外見はグロテスクな虫の卵でありながら、大きさはダチョウの卵ほどもある。
 それは――緋音の落とした箱から出てきた卵だった。 
「これはまさか‥‥キメラの卵!?」
「‥‥だとしたらまずいわね。他の輸送機にもこれが積み込まれていたのかしら?」
 霞澄の言葉に、アズメリアが眉をひそめて応じる。
「とにかく、基地司令官に知らせないとっ!」
 緋音はそう提案するなり輸送機の外へ出た。そのまま走り出そうとした所で――。

 ――大地を揺るがす衝撃音と同時に、基地全体にエマージェンシーコールが鳴り響いた――。

 能力者達は全員が外に出て空を振り仰ぐ。
 ――遠くにバグアワームが大挙してやってくるのが目に映った。
 突然の敵襲に響き渡る怒号。それでも彼らは基地司令の下へと走る。他の積荷にも仕掛けられた卵の可能性を知らせる為に――。


 ――こうして序章は幕を閉じ、入学式狂騒曲へ繋がったのだった――。