タイトル:あなたはどこにいますかマスター:天音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/30 11:51

●オープニング本文


●待ち人来たらず
 カンパネラ学園音楽準備室――

 トントントントン‥‥
  トントントントン‥‥
   トントントントン‥‥

 指で机を叩く音が暫く続いていた。
 それは音楽を聴きながら調子をとっているというよりも、明らかにイライラしていますよということを表している感じで。
「リィン先生、あの、少し落ち着いたほうが‥‥」
「俺は十分落ち着いているが?」
 確かにリィンと呼ばれた二十台後半の男性、リィンシェイド・キアは落ち着いて椅子に腰をかけていた。だがその長い指先だけが、彼の感情を全て物語っているようにリズムを刻んでいるのだ。
「30分と26秒。遅い。遅刻にも程がある」
 リィンシェイドは時計を見て眉を顰める。確かに約束の時間よりも待ち人が遅刻しているのは事実で、庇い立ての仕様がないのだが。
「きっと、何かやむをえない事情があるのだと‥‥」
「やむをえない事情? おばあさんが困っていたとか迷い猫を拾ったとか、怪しげなアンケートにつかまったとかか?」
「えーと‥‥それはぁ‥‥」
 今彼が挙げた物は、全て横にいる少年が今まで使った遅刻のいいわけだった。まあ良くある言い訳といえよう。
「‥‥もしかしたら、迷っているのかもしれませんよ?」
「よりによって迷子か」
 少年の言葉にリィンシェイドは額に手を立ててため息をつく。彼にしてみればなぜ迷うのだろうと思えるのだが、学園にはじめて来た者が迷うことは往々にしてありえる。
「音楽準備室の場所は伝えてあるというのに」
「あはは‥‥でも広いですからね、この学園」
 場所を伝えたってどうやったんだろう、地図でも渡したのだろうかと少年は思ったが、それ以上疑問を唱えるのをやめた。
「人を使ってもいい。とりあえず、探してつれて来い」
「えぇぇぇぇ‥‥」
 不満の声を上げたものの少年は知っていた。まっとうな理由で論破できない限り、この教師の命にそむく事はできないということを。

 +−+−+

 その頃、人の行きかう放課後の学園敷地内で、白金色の髪をなびかせた一人の少女が壁に向かってしゃがみこんでいた。
「あなたも迷子‥‥ですか?」
 決して壁に向かって話し込んでいるわけではない。その足元には小さな子猫が擦り寄っていた。
「にゃ〜‥‥」
「そうですか。実は私も迷子なんです‥‥。ここは、どこでしょうか?」
 少女は子猫を抱き上げると、きょろりと辺りを見渡した。


●捜索資料
 氏名:レシーナ・フロラーナ
 年齢:17歳
 髪の色:白金。腰まであるストレートで毛先に巻き癖がついている
 瞳の色:青
 身長:女子平均ほど
 体重:見かけよりは軽い
 体型:意外に豊満
 性格:おっとり天然
 趣味・特技:歌唱、楽器演奏、他

 捜索範囲:カンパネラ学園地上部のみ(男子学園寮、女子学園寮、グラウンド、各種施設、広場など)

●参加者一覧

カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
ブラスト・レナス(gb2116
17歳・♀・DG
水門 亜夢(gb3758
22歳・♀・EL
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
周太郎(gb5584
23歳・♂・PN

●リプレイ本文

 まず一同が向かったのは問題の依頼人、リィンシェイド先生のいる音楽準備室だった。現役学園生のブラスト・レナス(gb2116)、橘川海(gb4179)らの案内で向かったそこにはあからさまに機嫌悪げの青年が座っていた。
「レシーナさんの外見的特徴資料――つまり写真が欲しいんです」
「ほら」
 水門亜夢(gb3758)が正面から挑むと、意外にあっさり資料提供があった。何だ配ってなかったのか、と依頼を出した少年を睨み、コピーをとりに行かせる。先生が悪いんだか少年が悪いんだか判断つきかねるところだが、これで顔がわかる。提示された写真には、白金のストレートヘアを下ろした大きな瞳の可愛らしい少女が写っていた。
「先生、放送室を借りたいのだけれど」
「放送室?」
「そう。呼びかけるの」
 百地・悠季(ga8270)の提案に先生は一瞬考えた後、許可、と。
「先生に聞きたいことがあるんですけど」
 言葉を選んで問いかけるのは海。
「先生がどうやって場所を伝えたのかがわかれば、迷い方もはっきりしてくると思いまして」
 先生がきっちり伝えていなかった可能性もある。そうでなくても、日々過ごしている学園の説明を、知らない人にするのはどうしても言葉が足りなくなってしまうものだ。
「彼女にいったセリフとできるだけ同じセリフで、お願いします」
「‥‥」
 一瞬の沈黙の後、彼が口にしたのは。
「『教室棟の音楽準備室に来い』だったか」
 うん、迷うね。教室棟だけでも二つあるんだから。どれが教室棟だかわからない可能性も高いのではなかろうか。

「まあ、新人ならここで迷うのも無理ないし、ましてや天然で方向音痴ぽいなら尚更ね」
「この学校、対象図形だから方向が狂いやすいんだよねっ?」
 放送室に向かう悠季と共に歩きながら海は地図をみて考える。
「集合場所は学園のどこからでも見える大鐘楼でどう? 中央だから一つしかないしねっ」
「まったくこういうデカイ学園で迷子になるのもわかるよな。俺も迷子になりそうだ」
「うん。学園で迷子っていうのは理解できるわなぁ。私だって、この学園は広すぎだって思うもん」
 カルマ・シュタット(ga6302)にブラスト・レナス(gb2116)が苦笑をもらす。捜索人が迷子にならないようにやはり「迷ったら大鐘楼」よさそうだ。
「声出すときはこれで思いっきり叫んでね!」
「こ、これ使うの?」
 恋人の亜夢に手渡されたメガホンをみて、サルファ(ga9419)は「‥‥亜夢ー。好きだーとでも叫ぶか?」と笑う。
「とりあえず捜索開始か‥‥」
「行って来ます」
 周太郎(gb5584)に着物の見えるところに横笛を挿した澄野・絣(gb3855)がまず外に出る。
「よし、俺も行こう」
 A−0アーマーを着込んだその姿は目を引くかもしれない、リュウセイ(ga8181)も迷子探しに飛び出していく。
「私は、彼女の立場になって探してみるねっ」
 笑んだクラウディア・マリウス(ga6559)には「迷子にならないでね」とツッコミが入った。

「うひょぅ、高い高い。プラチナブロンドのお嬢さんはどこかなー?」
 バトルギターを担いだ亜夢は大鐘楼の上から下を見下ろしていた。
『亜夢、そっちはどうだ? それっぽい人、いる?』
 無線機越しに聞こえてくるのはサルファの声。
「サルファにはブルネットの可愛い彼女が居るんですから、余所見禁止、お仕事第一ですよー?」
『からかうなよ‥‥。解ってるって。余所見はしないよ‥‥っていうか、この会話、皆に筒抜けじゃないか』
 付き合って二週間ほどの恋人達は初々しくも可愛く。きっとこの会話を聞いた皆もそう思っていることだろう。
「その位置から東に10m、それっぽいお嬢さんです。確認してみて?」
『OK。確かめてくる』
 亜夢はサルファがそれっぽいお嬢さんに近づいている間も双眼鏡で捜索を続ける。はずれだった時のためだ。

(「天然さんだから、放課後の人の波に流されて裏手くらいで座礁してるって可能性もあるからね」)
 ブラストはKVバイクをゆっくり転がしながら校舎の裏手を捜索していた。
「うーん、さすがに人は多くないか」
 見渡した限り白金髪の少女は一人いたが、肩位の髪を三つ編みにして友達らしき少女達と話をしている。たぶん違うだろう。
「音楽でもかけようかな」
 ブラストはバイクに乗せておいたラジカセのスイッチを入れながら、再びバイクを転がし始めた。

「案内板、か」
 カルマは学園内に設けられた案内板の一つを見上げていた。自身の位置関係を理解するためでもあるが、初めて学園に来たというレシーナが案内板を見上げていないとも限らなかった。だがきょろ、と辺りを見回すが、それらしき少女は見当たらない。
「別の案内板のところにいるのかもしれないな」
(「まったく無線がないと俺も迷子になりそうだ」)
 小さくため息をついて、カルマは次の案内板へと向かうことにした。

 ドームの壁付近を探していた周太郎は、何かを腕に抱いてきょろきょろ辺りを見回している少女を発見した。白金色の長い髪が確認でき、そして制服を着ている。瞳の色はもう少し近づいてみないとわからないが、もしかしたら――。
「あの、迷子‥‥」
「申し訳ありませんっ、私、ここに来たばかりなので案内は出来ないんですっ‥‥」
「そうじゃなくて‥‥」
「ごめんなさい、他を当たってくださいっ‥‥」
 もしかしたら今まで相当案内を頼む声をかけられていたのかもしれない、その少女は周太郎の説明を最後まで聞かずに本校舎エリアの方へと走っていってしまった。
「多分、あの子だと思うんだが‥‥」
 とりあえず連絡を、と無線機を取り出した時、優雅な音楽が耳に飛び込んできた。

 ――呼び出し申し上げます。レシーナ・フロラーナさん。リィンシェイド・キア先生が探しておられます。この放送が聞こえているならば、なるべくその場を離れずに周りを見渡し、無線機を持ち歩いてる方を見つけたら話しかけて合流をお願いします。

 悠季による放送は繰り返される。何事かと耳を傾ける者もいれば気づかない振りをする者もいる中、リュウセイは何かを抱えたままわたわたしている少女を発見していた。ゆっくり近づいていくが、彼女の方から小走りに近づいてきて――ドンッ!
 余所見をしながら走っていた彼女は、アーマー姿のリュウセイにぶつかり、驚いたような顔をした後に懸命に頭を下げた。リュウセイは手を差し出し、彼女を立ち上がらせる。
「おっと、ゴメンよ。大丈夫か? 道に迷って困っていたんだが知ってるか?」
「申し訳ありませんっ、私、ここに来たばかりなので案内は出来ないんですっ‥‥」
「なら一緒に――」
「すいません、他に案内できる人を探してくださいっ‥‥」
 相当慌てているのだろう、リュウセイの声が聞こえていないようだった。少女はそのまま風の様に走り去っていく。
「逃げられたか」
 恐らく初めての場所で生徒と思われて沢山声をかけられ、更に放送で名前を呼ばれて混乱しているのだろう。リュウセイは無線機を取り出し、仲間に連絡を取った。

 グラウンドと女子寮の間の広場を通って、教室棟、文化部棟を目指していたクラウディアは、呼び止められていた。先ほど放送で流されたレシーナの容姿が彼女と似ていたからである。
「えっと私は違うんですっ。どちらかというと、探しているほうで‥‥」
 何か違いはないか、と写真を見て。
「はわ、そうでした、髪の長さは腰まである子なんですっ」
 写真を見せれば誤解が解け、解放してもらえたもののそれなりに時間を食ってしまったのは仕方ない。
「えーい、きっとこっち!」
 勘で次の行き先を決め、クラウディアは進んでいく。やはり時折呼び止められながら。
「音楽が‥‥聞こえます」
 雑踏にまぎれてしまいそうな繊細なオルゴールの音色。
 腕の中で子猫がみゃあと鳴いたのでおろして上げると、猫は気ままに走っていってしまった。これで、もうひとり。
「あの」
 声をかけられて振り返ってみれば、そこには笛を持った少女がいた。
 少女――絣はふらふらと音につられて歩いている一人の少女を見つけていた。遠慮がちに声をかけると、写真で見た顔がそこにはあった。
「あ、あなたもあのオルゴールを聴きに行くのですか?」
「え?」
 突然かけられた言葉は意外なもので。歩みを止めぬ彼女についていきながら、絣は「あなたを探していたんです」と告げた。
「レシーナさんですよね?」
 絣と彼女が辿り着いた先では、カルマがオルゴールを鳴らしていた。彼もまさかこれでつれるとは思っていなかったらしく、びっくりした表情だ。
「‥‥まさか本当に本人?」
「はい。レシーナ・フロラーナと申します」
 レシーナは一同の苦労もよそに、ほんわかと笑ってみせた。
 後から聞いた話によれば、音楽を聞いて精神的にだいぶ落ち着いたので、いっぱいいっぱいの状態から抜け出せたのだという事だった。

「サルファ、プラチナブロンドの三人連れがくるわよ」
『OK。合流するよ。亜夢も降りておいで』
 絣とカルマが対象を保護したという話を聞き、一旦大鐘楼に集合する事にした一同。悠季は見つかった事と謝辞を述べる放送を流してから、放送室を出る。
「あ‥‥先ほどの」
「よっす、上手く行った様だな?」
「無事に合流できたなら良かったな」
 リュウセイと周太郎の姿を見て、レシーナは先ほど逃げてしまった事を平謝りする。
「見つかったんだ、よかったねー」
 到着したブラストはバイクを止め、メールアドレスと携帯番号を書いた紙を手渡す。
「困った事があったら連絡しなよ? 送ってあげるからさ。何ならバイクで一緒に景色の綺麗な場所にでも行くかい?」
 え、と慌てる彼女を見て、冗談だよと笑うブラスト。
「おー写真と一緒。はじめまして、橘川海だよっ」
 悠季と一緒に到着した海が自己紹介をし、私の良く行く場所はここにはないんだよと笑った。彼女が良く行くのは地下のAUKV整備室らしい。
「彼女も無事見つかった事だし、亜夢。一緒に、学園でも回ってみないか?」
「そうね、広場で休ませてもらいましょ。ラムネ持ってきたのよ」
 サルファと亜夢はこの後学内デートに繰り出すつもりだ。
「ちょっとまって。クラウがいないわ」
『えっと‥‥ここ、どこ?』
 無線機からもれてくるクラウディアの声に、悠季は苦笑をもらしつつ、とりあえず大鐘楼まで来なさいと告げた。

 程なくして合流した(保護されたとも言う)クラウディアを加えて一同は音楽準備室へと向かう。
「ねね、レシーナちゃん、お友達になりましょ」
「あ、はい‥‥喜んで!」
 クラウディアの言葉に、レシーナは嬉しそうに微笑んだ。だがその表情が一瞬で暗いものにかわる。
「リィン先生、怒っていらっしゃいますよね‥‥」
「あの説明は先生のほうが悪いと思うよっ」
「もしレシーナさんだけが怒られるような事があれば、先生の落ち度を指摘してみるか」
 海と周太郎の言う通り、確かに今回は先生の伝え方にも問題があった。だからそれを納得させれば、彼女だけが怒られるという事はないはずだ。
「そんな事までお願いしてしまって‥‥いいんですか?」
 遠慮がちに見上げるレシーナに、ブラストは微笑んで言った。
「‥‥これからは同じ学園の生徒同士だからね♪」

 彼女の学園生活は、明るいものになりそうな予感がした。