●リプレイ本文
●豪雪
吹きすさぶは真っ白い世界。
住民を守るための、安全確保を終え一時休憩し、また探索に行こう、となったときの天気だった。
あと五分ほど、出発が早ければこの雪の中、ここへと帰らなければいけなかったのかと思うとラッキーだと、傭兵たちは思った。
この中を進むには、リスクが大きすぎる。
「こりゃまた凄い天気だな。どうする?」
セージ(
ga3997)は民家の窓から外を見る。
一メートル先の視界も保障できないであろうことは容易に想像がつく。
「視界確保用にゴーグルつけてもこれじゃあ‥‥」
月森 花(
ga0053)はつけていたゴーグルを外しつつ窓の外を見る。
現地の住民も、悪いことは言わないから待った方が良いと言うほど吹きすさぶ雪。
「この大雪になる前にセンサーは取り付けられてよかったが」
この村へとたどり着いてすぐ、行った作業を思い出しゲック・W・カーン(
ga0078)は言う。
本部より何かが近付けば知らせるセンサーを借り受け、村の周囲に設置。
この村へと近づくのは、この天気の中ではまた限られてくる。
「ま、とにかく凍死だけは避けたいとこだし‥‥しょうがないか」
外に出れなくてもやれることはある、とエミール・ゲイジ(
ga0181)は言う。
地図を借り、どのあたりでみたのかと住民に聞いてゆく。
時任 結香(
ga0831)もその手伝いを。
「だいたいの目星がつけば探しやすいと思うンだ‥‥この村の人たち、キメラなんかに絶対に襲わせやしないっ」
言葉は想いの表れ、結香の表情はきっと引きしまっていた。
窓の外、白い世界は見えないが、それを感じていたのはシエラ(
ga3258)だ。
聞こえてくる雪のふぶく音が、彼女に外のあり様を伝える。
「キメラだと言っているだけで確証がまだ無いのですが‥‥それはもうすぐ分かる事ですし」
この町から得た、狼キメラがいるという情報はまだあやしいところ。
自分たちが来て少し落ち着いた人々へと鳴神 伊織(
ga0421)は視線を向ける。
霞澄 セラフィエル(
ga0495)も困っている人がいるのならば見過ごせるわけがないと彼らの力になることを誓った。
だが、何にせよこの天候では動いた方が反対に危険。動きたいのを我慢し、天候が早く回復することを祈った。
●深々なる森
「しかし、森はいいな。この静かな騒めき、心が安らぐ。これで依頼がなきゃ森林浴と洒落込みたいぐらいだぜ」
昨日の猛吹雪は嘘のように、ぴたりと止まっていた。
再び動けるようになり入った森を見上げてセージは呟いた。
森は静かで、濃い緑に白く雪が覆い被さっていた。
「それじゃあそれぞれ、別れて」
「無理しないように!」
「大丈夫。受けた仕事はきちんと片付けるよっ」
それなりに広さのある森、まず散らばりこの森にいるという狼の手がかりを探すことに。
ゲッグ、セージ、セラフィエルのA班、花、伊織のB班、そしてエミール、結香、シエラの三班に分かれて、行動開始。
「狼達のテリトリーが早くどの程度かわかれば進展もあるだろう」
「風向きが変わったな、マーキングや足跡‥‥は、あの雪で古いものは消えたか」
セージはまだ真新しい雪の白をみて言う。
確かに古い足跡などは新しい雪で隠れてしまった、けれども新しい足跡なら、簡単に見つかりそうだ。
「あ、少し他の班と距離があいています。少し気をつけましょう」
他の2班も見える位置に、とセラフィエルは促す。
痕跡ばかり探して他の班を見失っては、もし敵が現れた時対処が遅れるかもしれない。
綿密に練られた計画に沿って、捜索を進めていく。
花と伊織は雪の上を見、そしてあたりを見ていた。
「雪で何かを食べたとか、木に残った痕跡から生息範囲を絞り込めればと思ったんだけど‥‥」
望遠鏡であたりを見回しつつ花が言うと、伊織も頷く。
「あ、双眼鏡少し凍りかけてますよ」
「本当だ、ありがとう」
女の子チームはまったり、だが確実に捜索を進めていた。
「瞼の奥に浮かぶ‥‥白のイメージ‥‥故郷の‥‥ローテンブルクを思い出します‥‥」
雪の冷たい感触にシエラは呟く。
雪、というものは今見えてはいないがそういうものだとわかるのだ。
「シエラ、大丈夫か?」
エミールはシエラを気遣いつつ問うと、大丈夫ですと一言。シエラはエミールへと地図を渡す。
その地図には住民から得た情報が書き込まれていた。
「獣を追うなら糞を追っていくのもよさそうです、エミールさん」
シエラの言葉に、エミールはなるほどと頷く。
「吹雪かなきゃいいけど‥‥」
ぱら、とまた少し雪が降り始めた空を見上げて結香は呟く。
雪が積もれば痕跡はまた見つけにくくなる。
それに、寒くなれば動いているとはいえ体温も落ち、自分たちも危険に近づくことに違いはない。
「ま、焦らずでも確実に探していこうか」
「地味な作業になるだけど、しゃーないな」
雪の森で狼とかくれんぼってか、とノリ軽く言うものの、エミールの表情は気を抜かないようにと引きしまっていた。
●爪痕
「‥‥あった」
それは本当に偶然だった。
結香がふっと視線を巡らせた瞬間に、木の枝に積もっていた雪が落ちた。その動きとともに木の幹についていた雪もともにはがれ落ちる。
その木の幹に、明らかに獣がつけたと思われる傷。
爪痕があった。
この爪痕をつけたのが普通の狼だと考えると、不自然なほどに、大きく深い傷跡。
「これは‥‥キメラっぽいな」
結香はエミールとシエラを呼びそれを示す。
エミールはそれを見てやはり結香と同じことを思ったのだった。
と、シエラが何かにぴくりと反応する。
敏感に感じた、自分たちからは少し遠く離れた場所での音。
シエラが何かに反応したのをみて、二人も敵は近いと感じる。
「皆、呼ぶよ」
呼笛を取り出し、それを結香は吹く。
「あちらに何かあったようですね」
呼笛の音にセラフィエルは顔をあげる。茂みにかかった雪を払い、少し隠れたところを探していた時に聞こえた音。
鼻先に少しついた雪を払い、ゲッグとセージを見る。
三人視線がかみ合い、すぐに行こうと意思疎通がなされる。
「まだ明るいし時間はある‥‥もしかしたらもうすぐご対面、かもしれないな」
「そうなるなら、風下をとっていかないとな」
そんなことを話ながら、C班のもとへ。
示された爪痕を見れば、確かにそれは普通の狼のものではないと一目瞭然。
住民たちの言う狼キメラがつけた、という可能性が高くなってくる。
「ハムや生肉をつかった罠も考えたけれど外におくと凍ってしまうし‥‥」
この爪痕をみつけ、付近にいることは間違いない。
だがどうやってみつけるか、と少し話しこんでいた時だった。
狼の、遠吠えが響く。
その声は、そう遠くない場所から。
風上の方から、聞こえてきた。
「こちらが風下とは‥‥ラッキーですね」
「狼は群れで行動するし、鳴き声で相手の群れの数までわかるらしいね‥‥誰か狼の鳴きまねしてみる?」
と、花は冗談交じりに言って場を和ませる。
少し和らいだ雰囲気、けれども自分たちのやることは一つだ。
「このまま向かって殲滅してしまうが良いかと思います。まだ天候も保ちそうですし」
群れを見つけるまではまた一時班毎に散開。
だが距離は今までよりも近く保つ。
「雪で真白‥‥あれ」
と、双眼鏡で遠くを見ていた伊織が呟く。
白い中に少しくすんだ灰色。
「‥‥10頭‥‥それよりもまだ多い‥‥かな‥‥」
一回り、体が大きな狼を中心に数頭の狼がたむろしている。
その様子は他の班も気が付いていたようで、ゆっくり、音を立てずに少しずつ距離を詰めていく。
ぴく、と一頭の狼が顔をあげて反応する。
その瞬間に、息をひそめる。
しばらくして、その顔を再び下ろす狼。
一瞬ひやりとしたが、順調に包囲していた。
近づいて行くと、やはり狼のキメラ。
牙と爪が伸び、そして鋭く光っている。
その狼キメラたちも何か違和感を感じているのか少し、せわしい。
タイミングを合わせ、一斉に覚醒。
「村の皆を恐怖に慄かせた罪、償わせてやるっ!」
踏み込みのために力を込めた足から黒い煙を出し結香は豪破斬撃を繰り出す。
一対一では勝ち目がないとみた狼キメラは、その結香の初動が終わらぬうちに二匹一斉に飛びかかってくる。
「さて、とっとと終わらせて帰りたいんでね。悪いけど手加減とかは無しだ。リーダー格潰すには、守る頭数が多いな!」
と、その飛びかかる二匹の足もとめがけてエミールの援護射撃。
前からふく風に流されるように、髪が流れる。
ギャウ! と狼キメラが後方に下がった瞬間、態勢を立て直した結香がすばやく回り込み流し切りで吹き飛ばす。
その衝撃で吹き飛ばされた一頭の目の前には、シエラが立つ。
「‥‥Einschalten‥‥」
呟きとともにシエラの瞳の色は深い朱色に染まる。そして視界が開け、世界がその瞳に映る。
眼前の一体を見据え瞬天速で一気に距離を詰め、そして喉元へとそのファングを突きたてるように動く。
すぐさまファングを抜き一足一刀の間合いをとる。
「Schachmatt」
まだ衝撃から立ち直らない狼キメラにトドメの一撃。
それを横目でみて、負けられないなとセージは思う。
「我は世界と共に在り、世界は我と共に在る」
より筋肉質になり、青白い仄かな燐光を纏う身体。そしてまた右手首が蒼く輝き光を放つ。
向かってくる狼キメラに向かい、構えた刀。
「無神流‥‥『粋』」
勢いで飛びかかってくる所に流し斬り。
その後ろからゲッグが飛び出す。
「‥‥お前の牙と俺のファング‥‥どっちが疾いか試してみるか?」
ゲッグの瞳は金色に輝く。そして犬歯が見た目でも分かる程、長く伸びる。
先手必勝を使い、狼キメラより素早く動き、その拳を振り下ろす。
と、攻勢に怯んだのか距離を保ち逃げる狼キメラもでてくる。
「妖を射る熾天使の称号、伊達ではない事を示しませんと」
纏うオーラが白い、三対の翼に見えるセラフィエルは弓に弾頭矢を番える。
誤射を避ける為にも遠くの逃げるキメラへ、狙いを定めそれを外さない。
積極的に前へとでている伊織の頭上を、それは越えていく。
「では‥‥参ります‥‥!」
髪と瞳に宿す蒼い輝き、そして青白い、淡い光が動きに合わせて軌跡を描く。
「紅蓮衝撃‥‥如何ほどの威力か受けてみますか‥‥!」
伊織の身体を、覚醒で纏う光の上からさらに、赤い炎のようなオーラが覆いかぶさる。
瞬間的に引き上げられた力は、襲いくるキメラを一撃で、仕留めるに十分な威力をもっていた。
「一体の力はそれ程でも無いようですが、数が多いですね‥‥」
器用に木の上にあがり、上から飛びかかってくる狼キメラ。
伊織が構えた瞬間に、その体は撃ち抜かれた反動で反り返り落ちる。
後から花の援護。
今度は花に向って狼キメラたちは迫ってくるが、金色に光る瞳は確実に急所をとらえ、弾を撃ち込んでゆく。
「お前達がボクに触れる事は決してない」
冷淡に言い放ち、向かってくる狼キメラの数を減らしていく。
そして残るは、リーダー格の狼キメラと守るように立ちはだかる二頭。
「これを倒せば、最後だね!」
一番近くにいた結香が踏み込む。
一頭が前へでてきた瞬間にエミールの援護射撃、足止めが入る。
「先にリーダーっぽい方! この数ならいける!」
エミールの声に向かう先は一つ。
さっと駆け寄ってきたシエラがもう一頭を足止めし、他の狼キメラを片付けた面々も手伝いに走る。
リーダー格の狼キメラが一吠すると、前にでていた二頭は後へ下がり戦いから引こうとする。
傭兵たちに背を向け逃げようとするが、狙撃眼で射程距離を伸ばした花が、その足元を狙い立ち止まらせる。
セラフィエルとエミールもそれを助けるように、遠慮なしの射撃攻撃。
その間に近距離を主とするメンバーは、キメラ達との距離を詰める。
「貴様の相手はこっちだぜ!」
ばっとセージはキメラの視線を受け止める。
その、一瞬生まれた隙にゲッグの攻撃が一撃。
さらに、その影から伊織が飛び出し、リーダー格の狼キメラに、紅蓮衝撃をもっての、攻撃。
胸元から切り上げる攻撃をくらわしたその直後に結香が上から下へ、豪破斬撃。
「キメラへは遠慮なんかしないわ!!」
その一撃に、リーダー格のキメラは大きな叫び声をあげて、倒れたのだった。
そして残る二頭はリーダーを失い、対応に迷いが生じた間にスナイパーたちからの一斉攻撃、そして、とどめの近距離攻撃を喰らいあとを追うように、真っ白い雪の上へと倒れた。
●降りしきる雪
「うーん、このまま戻るのはまだ危険‥‥かな」
テントからちらりと外をみたエミールは呟く。
「風の音が‥‥とてもすごいです」
シエラは耳を澄まさずともわかるその音をとらえる。
戦闘後、しばらくして強く降り始めた雪。
それはだんだん強さを増し、傭兵たちの足止めをするほどだった。
このまま進むと危険、と話をした結果、テントを張り、少し待つことに。
すぐ和らぎそうな雰囲気ではあるが、戦闘後だ。
無理はすべきでないともしもの時のためのゲッグが準備してきていたテントを張りその中で過ごしていた。
「ふう、運動した後の一杯は最高に美味いな。これにはいくら出しても惜しくない」
セージが持ってきていた飲み物で、寒さで少し冷える体が温まる。
「しっかり討伐した証拠として毛皮を持って帰りたいが‥‥大丈夫だろうか」
外に置いてあるキメラの毛皮をセージは心配する。
「これでまた平穏な日々になるかな」
村の皆にとっての脅威を取り除けたことに結香は安堵する。
「これで村の人達も少しは安心できれば良いですね‥‥」
伊織は村の人達を思い浮かべ呟いた。
「村への被害もでませんでしたし」
よかったです、とセラフィエルはふと表情を緩める。
「う〜っ、寒い。早くお風呂でも入ってあったまりたいよぉ」
心の底から花は呟いて、暖かい飲み物を飲む。
雪が少しおさまるまで、あと少し。