●リプレイ本文
●海からの侵入者
海からやってくるキメラ‥‥シェルクラーケンの姿をみつけてから、傭兵たちが態勢を整えるのには十分な時間があった。
輸送機がつくまであと少し。滑走路に降り立つことができない状態、など作ってはいけない。
KVに乗り込んだ八田光一郎(
ga0482)は喜々としてシェルクラーケンの姿がすべて地表に現れるのを待っていた。
「退屈で息が詰まりそうだったところだ。派手に行くぜ!」
コックピット内ではその赤い髪が浮き上がり獅子のようになっていた。手の甲には赤い光を纏わせ、今か今かと好戦的な視線を海へと向ける。
もう一機、KVは待機していた。内藤新(
ga3460)が乗るそれも人型をとり、ガドリング砲、そしてメガコーポレーション、奉天が開発、製造したミサイルポッドをも取り付けていた。
「可能ならシェルクラーケンのサンプル回収もしよう」
新は機内で、淡々と呟く。
そして、生身でシェルクラーケンを迎え撃つ面々は6人。
「よろしく頼むな」
ジェントルメンなファイター、蓮沼千影(
ga4090)は瞳を細めてシェルクラーケンの来る方向をみた。
「‥‥ふぅ、そう簡単に物資を運ばせてくれねぇってか」
煙草の火を消し、意識は戦闘態勢に入る。
「うゎぁ‥‥大きい‥‥タコイカ‥‥?」
まだ距離があるものの、その大きさはよくわかる。月森 花(
ga0053)はおでこに手をかざし、シェルクラーケンの大きさを感じる。
「まだ少し前の疲れがあるな‥‥無理しないように動こう‥‥でも、何かあったら、そんなことは忘れるんだろうな」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)は体を慣らし、敵シェルクラーケンのやってくる方へ。
ぞぶぞぶと海をかき分け陸地に上がってくるシェルクラーケン。
タことイカの足がにょろりと動き、重そうな殻を引きずって近づいてくる。
「適当に‥‥海の似たような生き物‥‥くっつけたようなシェルクラーケン‥‥だな‥‥バグア‥‥粘土細工みたいな‥‥感覚‥‥? ま、いいか‥‥」
幡多野 克(
ga0444)はその姿を見、呟き少し間をおいて、気持をぐっと固める言葉を呟く。
「大事な滑走路‥‥守らなきゃ‥‥ね‥‥」
自分の武器、フォルトゥナ・マヨールーをファルロス(
ga3559)は確認。そして自分とシェルクラーケンの射程も確認。
まだまだ、敵は遠い。
「宗太郎と花ちゃんと一緒で心強いな。よし、兄ちゃんが皆も、そして滑走路も守り切るぜ!」
よくとある自販機前で出会う三人。
千影は二人に笑う。
と、思い出したように宗太郎は心配そうに見守る空港職員へ一言。
「すいません。料理を乗せる大皿に、小皿と箸を人数分用意しといてください。調味料もお願いします‥‥あ、特に七味とマヨネーズは忘れないでください。好きなんですよ」
ニッとイイ笑顔で言って、先進む皆の元へ。
「あんな海産物食べたくないです。だから‥‥」
御山・映(
ga0052)は、すっと瞳を細める。
「三途の川までお引取り願おうか」
と、宗太郎の言葉が聞こえていたのか、映は言って、覚醒する。
風凪いで、海凪いで、シェルクラーケンとの戦いが始まる。
●初撃、攻撃、追撃
「滑走路を傷つけないように気をつけて〜っ」
花はKVへと大きく手を振りながら叫ぶ。
一歩前へ、KVは踏み出す。
まだ敵のシェルクラーケンとは距離が多少あるが、滑走路に近づけないためには早い対処が必要だ。
「能力、解放」
静かな呟きとともに、機体の中で新が覚醒。両手首から先が、ゆるく暖かいオレンジ色の光がゆっくり点滅する。
そして、機体依存能力、ブレス・ノウ、発動。
ミサイルポッドを構え、敵‥‥シェルクラーケンの足、その付け根あたりを狙う。
「邪魔されるわけにはいきません‥‥先手必勝。ミサイル発射」
攻撃でシェルクラーケンの気をひきつけ、滑走路から違う方向へと誘導するための、まず初撃。
音と風と、発射の瞬間に巻きあがるそれを生身の傭兵たちは耐える。
着弾の爆風と音が少しおさまったその中を進みつつ、覚醒するものはそれを行う。
まずその風切り分けて最初の攻撃にでたのは花だ。
マフラーが風になびき、視線は強くいつもの子供っぽさはない。
金色の瞳で、煙突きぬいて攻撃に転じてきた敵の足を、銃に貫通弾を素早く込めて撃つ。
「一つ残らず撃ち落としてあげるわ」
冷たい一言、容赦ない攻撃。
その援護をくぐりぬけ、克と千影はシェルクラーケン近くへと走り寄る。
「この日本刀の切れ味‥‥試してみる?」
踏み込んだ瞬間に銀へと変化した髪が光を反射する。鋭く光る金色の瞳で攻撃対象を的確にとらえて、振り上げる刀。豪力発現、そして豪破斬撃と克の攻撃が敵の足に傷を負わせてゆく。
「滑走路には足一本触れさせねぇぜ!! タコだかイカだかわからねぇけど、足を切り落として夕飯の足しにしてやらぁっ」
にょろっと伸びた足にツーハンドソードが振り下ろされる。
目の前に現れた足は、そのソードをはじき返す強さ。
「っ!」
このままでは埒が明かない、と覚醒。
黒から、瞳と同じ紫へ、千影の髪色が変わる。そして雰囲気も、真剣かつ、妖艶に。
克と同じく豪力発現、そして豪破斬撃のダブルコンボ。
足を一つ落とし、ふと後から気配を感じて視線を向けると、勢いよく薙ぎ払われる足。
攻撃が、当たる、と思ったがそれは宗太郎が防いだ。
ロングスピアで突き、そして払う。足の軌道がそれ、千影の頭の上を通り抜けていく。
「サンキュ!」
短い言葉に当り前だろう、と短く返す。
言葉を掛け合い、攻撃してくる足を生身ものたちが、そして動きをKVに乗った二人が牽制して抑える。
ファルロスはフォルトゥナ・マヨールーを持ち、まさに今覚醒状態。
蒼白いオーラを纏い、どこか高揚したような表情。鋭覚狙撃を使い、時々殻から覗くシェルクラーケンの瞳を狙う。
伸びる足に向かって電磁波を発生させダメージを与えるのは映だ。
紅になった瞳を輝かせ、攻撃の手はやめない。
と、今まで攻撃ばかりをしていた足が殻の中へと引きこもり始める。
攻撃して、切り落とされた足は6本。その残骸を残し、12本の足は、殻の中へとしまわれていく。
「籠城か? どんぐらいの固さなものか‥‥」
試してみるか! と千影はツーハンドソードを振り下ろす。
だがそれはガインと堅い音を立ててはじかれる。
小さな傷はつくものの、ダメージを与えているとは思えない。
きっと何度やっても駄目だろうとすぐわかる。
「不甲斐無くてすまねぇ、頼む」
映とファルロスがシェルクラーケンを挟み込み、内部へ向かっての攻撃をまず試みる。
超機械γと超機械一号の電磁波攻撃は殻の内部へ向かって。それはしばらく何も効果ないようだったが、しばらくして殻がゴトゴトと音を立て始める。
どうやら攻撃が効いているようだ。
超機械γ攻撃を続けながら、光一郎の攻撃。
光一郎はKVを動かし拳を殻へ、ピンポイントで叩き込む。
「クソッ! ぬるぬるぶよぶよ殴りごたえ無ぇフザケた体しやがって! こうなりゃ殴りごたえある方を殴るッ」
今まで牽制で相手にしていた足。殴り応えがないと溜まっていた欝憤を殻に向かって放出する。
何撃か繰り返した後、びきっと何かヒビがはいったような音。
「出来る出来ないじゃねぇ! やるんだよ!」
そのヒビへとチタンナイフを突き刺す。そしてそこへ、アグレッシヴ・ファングで強化した拳を、一撃!
それと同時に、殻の一部が砕けるようにとれる。
生身がうごめくそこを、一気に攻撃。
新はガトリング砲を、花はその部分へと弾丸の雨。
一点に集中してダメージを重ねる。
その攻撃にさらに殻の部分は大きく割れていく。
そんな攻撃に耐えきれず、何かぷつっと切れたのか、はたまた今まではただ体を休めていただけなのか、シェルクラーケンは殻から、その足と、今までちらちらとみえていた金色の瞳をぎょろりと剥きだしにした軟体動物の体を眼前にさらす。
殻から精一杯身を出して、赤と白、タコとイカの混ざった中身がより一層、わかる。
足のふりは大きく、攻撃をよけるのは少したやすくなるが、当たればその一撃は重い。
映は続けて超機械γで攻撃を。シェルクラーケンの足の動きにも警戒しながら死角を補うように動き、危なければ声をかけていく。
KVに乗った新はシェルクラーケンの足に攻撃を、だが攻撃は足でもって返される。
「ほほぅ、あれを弾きますか。ではこれならどうでしょう」
弾かれれば、もちろんまた別の手を。
唸るように攻撃してくる足を一本、捕まえてみせる。
ぎりっと、握る足、それを振り払おうとすると同時に他の足も動く。
その他の足の一本が、ちょうど宗太郎の進む先に現れる。
ガードもよけるのも難しい距離。
「くそっ! やらせねぇ!」
ギリギリまでしないようにしていた覚醒を咄嗟に。
肌の色は浅黒くなり、黒髪黒瞳は金髪碧眼へと変り、と同時に発する言葉は端的に、そして粗雑になり今までの鉄面皮の面影なく表情が豊かになってゆく。
足をロングスピアで受け止め、そのまま豪破斬撃をかけたそれを、シェルクラーケンのその殻の割れた部分へと投げる。
もちろんこの間にも超機械γと超機械一号で瑛とファルロスが、花が銃で少し距離をとり攻撃をし、克と千影は足を徹底的に叩いていく。
初め18本あった足も、もう半数以下、4本で動きも鈍くなっていた。
どちらが優勢かというと、もちろんこちら。
滑走路にはまだ十分な距離があり、傷は一つもついていない。
と、空港からアナウンスが響く。
もうすぐ輸送機が到着するとのこと。
到着する前に片づけてしまおう、と誰もが思った。
光一郎が一言前へ出ると次げ、少し距離を取る。
左右左と弱ったシェルクラーケンに機体を揺らしデンプシーロールへと持ち込んで攻撃、最後に右アッパーをかける。
軽く浮き上がったシェルクラーケンの体。
反応が鈍く、攻撃からの立ち直りが遅いところ、新が再びその足を掴み、攻撃を減らすよう補佐する。
前衛で攻撃をしていたメンバーは走り込んで、足に邪魔されることなく生身に渾身の一撃。
その三人の一撃に、シェルクラーケンは悲鳴なく倒れたのだった。
●このゲソは食べられるのか、そうでないのか
シェルクラーケンの最後の抵抗も終わり、その動きが止まる。
「俺‥‥この前も‥‥クラーケン系のシェルクラーケンと‥‥戦ったんだよね‥‥もうしばらく‥‥烏賊も蛸も‥‥いいや‥‥」
最近こんなのとばっかりだ、と克は視線を空に向ける。
「俺も‥‥あー、しばらくイカとタコはたくさんだ‥‥」
同じようにKVから降りた新もうんざりだという。
だが残ったこのシェルクラーケンの体はサンプルに、と採取し始める。
「ふぅ〜‥‥もうちょっと食べられそうな姿形だったら良かったのに‥‥食べないけどね」
その残った姿をみて、花は呟いた。
とっさに映が食べる気か、と花の方を向いたのは内緒だ。
だがしかし、本気で食べようと思っているものもいる。
そんなやりとりの横を通り過ぎる宗太郎。
無表情のまま足るほどのシェルクラーケンのゲソを切り離し、一仕事したというように額の汗をぬぐう宗太郎。
「よし、今夜の晩御飯ゲットです」
宗太郎さんは食べる気です。
「‥‥食べるんだ」
花はぽそっとつぶやく。
「毒見役だな。案外うまかったらどうしよう」
「誰か怪我した人はいますか? 救急セットで治療します」
と、映は白い服についたほこり払いながら言う。
前衛で戦ったものたちは、やはり怪我も多少ある。
ぱぱっと治療できる怪我はして、シェルクラーケンの残骸を少し端へ。
「あとはマヨネーズがあればおいしくいただけそうです」
食べられそうな部分をしっかり抱えた宗太郎の表情は変わらないのだがどこか満足げだった。
一仕事終わってどこか安心する彼らのもとに、空から輸送機が、降りたってくる。
「花ちゃん、援護射撃ありがとな」
「前に出ると、ボクなんかはあっという間に一蹴されそうだから‥‥後方からサポートって大事だね」
他愛ない話をしながら無事に、任務終了。