●リプレイ本文
●戦闘開始の合図
クレイフェル(
ga0435)はマフラーを撒きなおしながら、視線をあげる。
その先には今回の、敵の姿。
「くっはー。やっぱめっちゃ寒いなぁ」
「とっととキメラ倒して帰って、熱い風呂に入ってビール飲む。これッス」
クレイフェルの視線を追うように六堂源治(
ga8154)も眼をそちらへ向ける。
「鬼‥‥か、豆でも撒いて何とか‥‥ならないか」
額に角のようなものを持つ、キメラ。
鉄 迅(
ga6843)はその角から簡単に想像できる鬼から、豆まきを連想する。
「足を取られて動きが鈍るかも‥‥それと、高い樹木から落ちてくる雪の塊も危険だわ。埋まっちゃうもの」
あまり近づかないようにしよう、と他にも色々注意することを思いながらロボロフスキー・公星(
ga8944)は思う。
「鬼ですね、どう見ても鬼です」
伊鷹 旋風(
gb9730)は敵を見て瞳を細める。
「近接突撃型のキメラと遠距離特殊攻撃及び支援型のキメラですか‥‥見掛けは」
辰巳 空(
ga4698)は目にした姿から、敵の様子を分析する。
その言葉に呼応するように鳴神 伊織(
ga0421)は続けた。
「見かけ通りの力を持つかは判りませんが‥‥まあ‥‥その辺りは刃を交えれば判る事でしょうね」
ごつごつした、腕が発達した角のあるキメラ。
細身のどこかひょろしとした角のあるキメラ。
その様相は自らの心をくすぶらせるものだと鬼非鬼 つー(
gb0847)は思いながら、体を温めるべく手にしていた酒を口にした。
その隣にはマルセル・ライスター(
gb4909)が少し緊張した面持ちでいた。
「だ、大丈夫、訓練通りに。相手の動きを良く見て‥‥柔よく剛を制す、剛よく柔を断つ‥‥力の流れを読んで、重心を見極める‥‥よしっ、行こうミヒャエル。AI神経接続‥‥システム起動」
「いくよ、ウェンディゴ」
マルセルがAU‐KVを起動させるのと同じくし、旋風もウェンディゴと呼ぶAL‐011「ミカエル」を起動する。
ばさり、と木から落ちる雪の音にキメラたちは反応する。
だが何事もないと知れば、止めた歩みを進め始めた。
タイミングを計らい、呼吸を合わせる。
ゆっくりと確実に敵を包囲していた傭兵たちは真白い雪を踏みしめた。
戦いの開始は音なき雪を一斉に蹴りあげる音。
●雪影をかわして
「おーい、雪合戦しようぜー」
銀の瞳はどこか楽しげで、真っ赤な体に実態のない一本の角を額に現わし、つーは雪玉を近距離攻撃をするとみられるキメラへと投げつけ挑発した。
声のした方にどちらのキメラも反応するのは、一番大きな音としてとらえたからだろう。
先に動いたのは巨体を持つキメラだ。
つーの方へと見た目よりも素早く、動いていた。
そして、今まで寄り添っていたもう一方のキメラとの距離が開くのをもちろん、見逃すはずはない。
すぐさま超機械ζでロボロフスキーが電磁波を放ち、二体が合流するのを防ぐように攻撃する。
「さて、参りましょうか」
その間に疾風脚を使い、一瞬で間を詰めるクレイフェル。
足場を見定めながら、装備したルベウスで細身のキメラへと攻撃を繰り出す。
一撃あてて、さっと後ろに引いた瞬間、源治の放ったソニックブームが細身のキメラへと向かう。
そのままソニックブームを追うように踏み込んだ源治は機械剣「莫邪宝剣」を左手に持ち、逆袈裟に切り上げた。
「我流、十字斬!! ‥‥なんつってな」
くらりと傾いたキメラは、そのまま身軽に動き距離をとる。
これほどの攻撃ではまだ、倒れない様子に迅は声を張り上げた。
「頑丈だな、それなら!」
迅はフォルトゥナ・マヨールーの銃口をキメラへ向け、強弾撃を放つ。
だがそれは敵の打ちだした雷と相殺され、中空にて大きな音をたてた。
「っ! 雪崩大丈夫そう!?」
その音の響きは周りの雪を揺らすものの、降り積もった雪を崩すほどではなかったようだ。
視界が開けると同時に旋風が真デヴァステイターで射撃を行う。
再び雷での攻撃を行わせないように、攻撃をたたみかけるのみ、だ。
一度射撃がやめば、空が走りこんだ分の勢いを乗せた円閃をその腹めがけて打ち込む。
その見た目の割に、なかなか高い体力を持っていそうな様子のキメラ。
早く倒してしまいたいのだが、それは難しそうな雰囲気が漂う。
一方、もう一体のほうを相手にしている面々も対してみて、時間がかかりそうな相手だと感じていた。
死角となる背中側から、青白くあわい光をまとい鬼蛍で切りつける伊織はその感触に瞳を細める。
切ってはいるのだが、その感触が浅い。
それは深いダメージを負わせられていないということだ。
「こ、ここ、怖がってないですよ! ‥‥し、慎重に行こうと‥‥思って!」
勢いよく近づくキメラの拳。
それを竜の鱗によって防御力を高めた盾で受け流すマルセル。
意識よりも体のほうが強い力をもって先に動いてゆく。
マルセルが攻撃を受け流すことによってそれたキメラの勢いは、つーのいた方へと向いていた。
「貴様の相手はこの私だ」
その声に反応して振り上げられた拳。
だが動きの大きさは隙を生み、腕の下をくぐりその足元への攻撃を可能とする。
頑丈な体に攻撃ははばまれ、キメラに大きなダメージは与えられない。
どすりと雪に両方の拳をつき、キメラはその頭のある口をかぽっとあけた。
そして、そこから轟音たる声とも叫びとも言えない音を放った。
「わわわっ!! すごい、音っ!」
ひるんで一瞬マルセルは後ろに下がる。
キメラは攻撃してくるわけではなく、ただ声を発しているだけなのだが何とも言えない圧迫がある。
と、同じようにもう一体が呼応して声らしきものを発し始める。
その音は、とても高い音となり果て聞こえているのかどうかもわからないほどだった。
「接近戦なら‥‥こっちに分があるはずッス」
音を発し合うキメラだったが、攻撃の手はない。
ならば今この間に攻撃をすべきだと踏んだ源治は流し斬りを繰り出す。
その攻撃が当たった瞬間、声らしきものは止まったのだが、周囲の木からばさりばさりと雪が落ち始め、攻撃のタイミングを外させてゆく。
それはもう一方のキメラと対している方も同じようだった。
落ちてゆく雪が、戦いの一瞬の間を狂わせていく。
「なんか、セコイ手を‥‥!」
だが、雪を突っ切って細身のキメラのそばに踏み込んだ迅はファング・バックルを使いその額にある角を狙う。
「自慢のソレ‥‥頂くぜッ!」
ガッと硬い音がし、一撃では折れないものだと思わせる。
その攻撃があたった瞬間今までで一番大きく、キメラはぐらつき、そして角を庇うように腕を使い隠す。
「あ、なんか弱点っぽいかも」
ふらついたキメラは、まっすぐもう一方のキメラの方へと向かおうとする。
だがそれをロボロフスキーの攻撃が防ぎ、次の一手に繋いでゆく。
「鬼さん、こちら」
キメラその一歩を踏み出し止まった瞬間、瞬天速で近づいたクレイフェルにより瞬即撃を貰い受ける。
その衝撃で守りの外れた角に向かい空が雲隠を振り上げ角を狙う。
波状攻撃は角の身を狙い、的確に行われていた。
やがて、ビキリと音がして、その角が折れると同時にキメラは雪の上へとどさりと倒れた。
「戦いから気を削ぐとは隙だらけですね‥‥この一撃で断たせて頂きます」
今まで一緒にいたキメラが倒れた事を感じたのか、巨体を持つキメラの動きが一瞬止まった。
何度も攻撃をあてていた場所を狙い、伊織は剣撃を落とす。
だがその傷を起点としてまだ倒れはしない。
「キメラにしておくには惜しいな」
その頑丈さにおいて、つーはキメラのことをみとめぽつりと呟く。
竜の咆哮を付与した榠櫨をマルセルは振り上げ、伊織が負わせている傷へと向ける。
攻撃の瞬間、相手のほうが体が重かったため自分の方がはじき返され間ができる。
やがてもう一体を倒した仲間たちも合流し、囲むような形となる。
「出力全開! 援護、行きます!」
「お待たせしたわ。一気にやっちゃいましょ」
自分が不利な状況であることは、その音から察しているであろうキメラはその拳を振り上げ、そして横に薙ぐように振り切る。
それを受け止めることは難しいと判断すれば、後ろに跳びのいたり、しゃがんでかわしたりと息を合わせる。
「さて、お友達とはさようならだ」
最初にその薙ぐ攻撃をよけたつーは懐に入り込み、瞬即撃で耳のあたりを狙い攻撃する。
両耳とまではいかなかったが片耳にダメージを与えられ、キメラの巨体が傾く。
大雑把に振り回される腕は、正面からの攻撃を受けることは防ぐものの、背面からの攻撃を防ぐことはできない。
「必殺! えーと、シュ‥‥ブリ‥‥ブリッ‥‥とにかく喰らえ!」
腕の攻撃の合間を縫って、竜の爪により攻撃力のあがった榠櫨で攻撃を繰り出すのはマルセル。
それに続くように源治も思い切って突っ込んでいく。
近接主体の仲間が危ないと離れれば、隙を作らないように旋風は 真デヴァステイターでの射撃を続ける。
「拳を振りまわす以外、攻撃はなさそうですね」
他にも何か、攻撃があるのだろうと踏んでいた空は少し拍子抜けしつつもしっかりと攻撃していく。
「さあ、年貢の納め時だぞ。その角と命を納めてもらおうか」
拳を振り回すことで突かれてきたのか、ガードの甘くなってきた巨体を持つキメラ。
積もり積もったダメージも相まって、全員でも角への集中攻撃によりキメラは雪の上にひれ伏すものと、なる。
●やわらかな雪
ほろほろと雪が落ち始める中、巨体をもつキメラも倒れた。
今、そのキメラの体は二体一緒に置かれている。
「蓬生にいつか置くべき露の身は今日の夕暮れ明日の曙」
別れの手向け、とつーは手にしていた日本酒を二体へと向ける。
そしてその酒瓶をそのまま置き、戦った相手へと背を向けた。
「‥‥もしかしたら他にも敵が潜んでいるかもしれないし、油断は禁物」
マルセルは一息ついたのち、ふっと思ったことを呟きあたりを見回した。
だが、そこにあるのは雪のみで、敵の気配はどうやらなさそうだった。
「この手の特化型のキメラは色々と面倒な部類ですけど‥‥きっちり退治しないと量産されて後々痛い目見るのは‥‥こちらですからね」
「鬼という割には大した事が無い様に感じましたね‥‥更に強い相手が増えた事が大きいのでしょうが」
空に応えるように伊織は呟き、まだこの先続くであろう長い戦いを思う。
「ウェンディゴの初戦闘が雪の森なんて偶然にしては出来すぎですね」
戦いが終わって、白銀色に染めたAU‐KVをなでながら、旋風は呟く。
そこには戦い終わったことへの安堵が含まれていた。」
と、音を立てながら冷たい風が走る。
「あー。さむさむっ。はよ帰ろ」
「熱い風呂とビールが待ってるッス」
クレイフェルはその身を震わせ、源冶はこれからの楽しみを思う。
「ほんと、寒いわね。雪も少し激しくなり始めそうだし」
「うん、帰った方がよさそう」
ロボロフスキーは空を見上げて、呟く。
木々の隙間から見える空は、どこか重く薄暗い。はやくこの場から離れたほうが良いと思わせるようなものだった。
空の重さとは反対にさくさくと雪を踏む音は、どこか軽いものだった。