タイトル:三斬戦マスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/26 07:22

●オープニング本文


 一の斬撃は右から。
 二の斬撃は左から。
 交わしても続く波状攻撃。
 攻撃の主導権は相手にある。それを奪わなければ延々と攻撃は続いていくのだろう。
 そのキメラの姿は、というよりもそのキメラがもつ最大の武器は甲殻の体に持つ三つの刃だろう。
 頭の右と左、おそらく口だと思われる場所から突き出た刃がそれぞれ一本ずつ。
 シャギシャギと耳障りな音を立てながらその口とおぼしきものは動く。
 そして長く、いくつもの関節を持つ尾の先に閃くのは三つめの刃。
 歪みを孕んだその体はその大きさに似合わず素早く動く。
 敵を捕える目は虫の持つそれと同じだ。
 サソリのように地を這い、背には硬い虫の翅、足は六本。
 その翅を動かし生み出す風は土埃を巻き上げ視界を奪うことさえあるという。
 そんなキメラが3体、とある荒野で確認されていた。
 サソリ型をベースにしたキメラの大きさは大人の男性ほど。
 荒野で生きるそれを野放しにしておくことはできない。
 UPCはこのキメラの退治を傭兵たちに依頼するのだった。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
優(ga8480
23歳・♀・DF
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG

●リプレイ本文

●見下ろす荒野にキメラの影
「たしかに、土煙があがりそうな場所」
 戦いの場となる場所を見下ろし、すっと瞳を細めてケイ・リヒャルト(ga0598)は呟く。
「キメラ、三匹仲良くいますよ」
 双眼鏡を目から外し、優(ga8480)は敵の位置を確認、と言葉にする。
「蠍退治、がんばります」
 ぐっと拳を握り、レーゲン・シュナイダー(ga4458)。
 ほんわりした雰囲気だがその表情はきりりと引き締まっている。
 これから向かう戦いを思い、鐘依 透(ga6282)はその腰にある双剣『行雲流水』を知らずのうちに触れていた。
 触れている双剣を持ち主に突き返すことができるくらい強く、もっと強くなりたいと思いながら。
 と、ぶわっと強い風が一陣走る。
「あ! もぉ‥‥ボサボサにして! エリノアは女の子なんだから、身嗜みはちゃんとしないと駄目だよ?」
「風のせいだし‥‥身嗜みなんか、戦いの役にたたねぇだろうが。ばーか」
 エリノア・ライスター(gb8926)は風で乱れた髪を甲斐甲斐しく整える兄、マルセル・ライスター(gb4909)をため息混じりで見つめる。
 一通り髪を直して満足したマルセルに、エリノアはにっと笑みを向ける。
「おぅ、馬鹿兄貴。気合入れて欲しかったら、遠慮なく言えよ。蹴り上げてやっからよ」
「またそんなこと言って!」
 きゃっきゃとはしゃぐような二人だが、至極真面目、これからのことをちゃんと分かっている。
「サソリか、中国では高級食材として養殖されているのが居るそうだが‥‥」
 竜斬斧『ベオウルフ』を肩に担ぎ、夜十字・信人(ga8235)は覚醒する。
 信人の背後にふわりと黒い翼をもつ黒髪の少女の幻影が現れる。
「バグアのサソリは、煮ても焼いても食えなそうだ」
「AI神経接続良好‥‥AUKV・ミヒャエル起動!」
 マルセルとエリノアもAUKVを起動し、いつでも迎える状態だ。
「マル君、エリノア君もいつでもいけるな」
 信人の言葉に頷きが返る。
 堺・清四郎(gb3564)は敵の持つ刃から繰り出される攻撃を思い、気を引き締める。
「3連続攻撃、見切ってみせる‥‥」
 それぞれ分かれて、敵との距離を縮める。戦闘に入るタイミングを合わせて呼吸が重なる。
 周囲に意識をむけつつ、敵を視認できる距離までたどり着けば、いつもと違う雰囲気を感じたのか三匹のキメラの動きがせわしくなり、落ち着きが消えていた。
「透、一緒の班での戦闘は初めてだったかしら‥‥? 共に戦い抜きましょう」
「そういえば、共闘はあれども組むのは確かに初めて‥‥頼りにしてますよ」
「心から頼りにしてるわ」
 ケイは透へと微笑を浮かべ返す。そして二人は視線を合わせ、頷きあう。
「あんた達、準備いいかい?」
 いつもは真っ直ぐな茶色の髪を、覚醒によってふわりとしたゆるいウェーブのプラチナブロンドへと変化させたレーゲンは優と清四郎に声をかける。
 優は感情を表すことなく一つ静かに頷き意思を示す。
 清四郎も短くそれに答え、敵の動向を見やっていた。
 それぞれの班は射程距離に触れるか触れないか、その曖昧な立ち位置を守り、戦い始めるタイミングを合わせる。
 ゆるく吹く風に少し舞い上がる砂。
 敵キメラの持つ翅の羽ばたきによって砂埃が舞い、視界を奪われるのを防ぐために水を少しずつ撒いて、準備もほぼ終わり。
 あとはあのキメラたちの周囲にも水を撒けられれば完璧だが、近づかなければそれはできない。
 今、自分たちがいるのは風上。敵の羽ばたきで生まれると思われる砂埃への相乗効果となる状況は防いだだけでも十分だ。
 タイミングを見計らい、それぞれ一番近くにいるキメラの前へとその姿を現わせば、戦闘開始の幕があがる。

●一撃、二撃、三撃
「堺・清四郎、推して参る!」
 その言葉とともに身体は一回り大きくなり、髪を黒から白に、そして肌を褐色へと変え清四郎は敵の前へと躍り出る。
「‥‥さあ、こい!」
 その手にもつ真デヴァステイターを連射し、敵の注意を自分に引き付ける。
 清四郎が攻撃している間に優はさっと敵の側面に回りこみ、攻撃態勢を作ろうとする。
 作ろうとするのだが、簡単にそうはさせてくれないのが敵なのだ。
 振り下ろされる尾の刃による攻撃を後ろに引くことで避ける。
 狙うのはまず尾と足。その動きを奪えば敵の脅威は大幅に低下すると冷静に判断し攻撃する場所を定める。
 同種が三体、弱点なども同じだろうが油断せず、確実に仕留めなければと優は思う。
「さァ、良い子におしよ、お前たち!」
 だがその攻撃を行うことで止まった巨体にレーゲンがかけるのは練成弱体。
 このチャンスを優と清四郎が見逃すわけはない。
 攻撃態勢の整う前である尾に向かい、優は流し斬りで重い一撃をくらわせる。
 その攻撃の衝撃を受け、揺らめいた尾は攻撃の目測を誤り清四郎に届くことなく一度、地に突きささる。
 尾での攻撃ができないと理解すると、キメラはその口らしき所にある刃をジャキジャキと音を立てながら動かしながら正面の清四郎へと突進してくる。
 その突進とともに羽ばたくがごとく動く翅、その付け根に向かって優はソニックブームを放つ。
 ソニックブームは翅の付け根に近い部分にあたり、そのあたった瞬間キメラの身体がひくりと震えた。
「! 翅の付け根が弱点、みたいだね」
 砂埃よけのため装備したゴーグル越しに見たキメラの反応をレーゲンが見逃すわけがない。
 エネルギーガンを構え、翅の付け根を狙い撃つ。
「焼ききれればいいンだが!」
 狙い通り付け根にあたったその攻撃で、一方の翅がへたりと力を失い倒れる。
 動きが止まった一瞬に、足と胴のつなぎ目を狙った攻撃を優は放つ。
 それによってバランスを失った身体は斜めに傾いて、身動きがとりりにくくなることはすぐみてとれた。
 キメラは一番、自らの攻撃が届きやすいのは清四郎と判断し、その口と思わしき場所にある刃を向ける。
 向かってくる刃を紅蓮衝撃をまとった蛍火を逆手に持ち、地面へと突き立てためを作ったのち、向かってくる刃とタイミングを合わせ真上に振りぬき攻撃をはじく。
 それと同時に身体を捻り、振り下ろされる尾の刃の攻撃を横に跳ぶことで清四郎はかわした。
「‥‥斬!」
 地に突きささる尾、刃を避けるようにし、甲殻で覆われた部分をレーゲンは鞭で抑え込む。
「さァ、やっておしまい!」
 その言葉を受け取った二人はキメラの息の根を止めるべく攻勢を激しくしてゆく。



「怖くない‥‥怖くないぞ‥‥習った通りにやればいいんだ。戦いの基本は‥‥防御から‥‥先手を取る必要なんて無い。攻撃した瞬間が、一番無防備だから‥‥!」
 マルセルは紡ぐ言葉の通り、尾の攻撃をヴィーナスの盾で受けていなし、榠櫨をふるう。
 マルセルがはじいた尾はそのまま、エリノアの方へその反動をうまく使い向けられる。
「‥‥ハッ、きたきたきたぁ、来やがったな虫野朗!!」
 その尾の攻撃をエリノアは避け、機械剣βを振りぬく。
 軽やかなマルセルとエリノアのコンビネーション。それに合わせ、信人はキメラの前に立つ。
「振りまわすのも一苦労だが」
 肩に担いだベオウルフを大上段に構えて、両断剣をかける。
「当たれば痛いぞ」
 信人の前に突進してくるキメラだったが、信人との間にマルセルとエリノアが素早く動き立つ。
 二人は盾をそろえて姿勢を低くし、体当たりを受ける態勢を作る。
 その間に信人はさらにスマッシュをかけ、攻撃力をどんとあげる。
 ガッと鈍く、重い音をたてながら盾で受け止めた体当たり。
 ぐぐぐ、と後ろに押されそうになるがそれを踏ん張り、はじくかのように動く。
 そして二人が離れたあと、キメラに向かうのは信人の攻撃だ。
「力押しなど、あまり趣味では無いのだがな」
 危険を察したのか、キメラは素早く後ろに下がりその攻撃はかするにとどまる。
 だがそれでも一本の刃を折るという十分なダメージを与えていた。
 振り下ろされた斧はくるりと回され、再び肩の上に。その重みを感じるかのごとく信人は首をコキコキと鳴らす。
 と、キメラの背中にある翅が風を生み出す。
 地に向かい叩きつけられるような風は砂を舞いあがらせ視界を少し、濁らせる。
「いくら視界を奪われようが、向こうは近付かねーと手は出せねぇ。んなら答えは簡単だ。わかってるな、馬鹿兄貴」
 エリノアの言葉にマルセルは頷く。
 右側はエリノアが、左側はマルセルが受け持って守り、攻撃する。
「エリノア!」
 だが視界に、横から凪ぐように動く尾をとらえ、マルセルはエリノアを押しのけその攻撃を受け吹き飛ばされかけるが、それを信人が受け止める。
「てッ‥‥んめぇぇえ!! バラすぞグルァぁー!!」
 マルセルがダメージを受けたことで、エリノアは怒る。
 今までと同じ攻撃だが、それにこもる気迫は今まで以上。
「っ! 問題無いぞ。俺の人生はこんなモンだから。うん」
 マルセルを受け止め、その勢いに多少ふらつきながらも信人はぐっとこらえる。
「ありがとう、俺は大丈夫」
 ダメージも小さく、すぐにマルセルはエリノアの隣へと戻る。
 幾度も三人で重ねる攻撃にキメラの勢いは衰えてくる。
 先ほどは止めるので精いっぱいだった体当たりも、抑え込んだ瞬間、二人同時の竜の咆哮によってその巨体が浮き上がり腹を見せる。
「エリノアッ」
 マルセルの声にエリノアは身を低くし、その背をマルセルが装輪走行によって飛び上がる。
 その飛び上がった勢いは殺されることなく、竜の爪がかかった榠櫨へと伝えられる。
 腹の上に落ちた攻撃は重い音とともにあたりに響いた。



「あちらももう終わりが近いみたいね! さぁ、あたし達とまだもう少し遊びましょう‥‥」
 ひらり、と左肩口に現れた蝶の模様とともに刃の攻撃をかわしながらケイは透へ言葉を向ける。
 透はケイの動きを予想し、自分がどこにいれば一番いいかを考えつつ動いていた。
 蒼くなり、猫のように細長く変化した瞳孔をさらに細めるかのように透の視線はキメラの動きを注意深く見る。
 ケイが攻撃し、自分から一瞬気がそれた瞬間を狙い放つのはソニックブーム。
 それはキメラの目へとあたり動きを鈍らせる。
 そしてその瞬間にできる隙を使い、ケイは急所突きを使い、エネルギーガンを向ける。
「此処ならばどう?! 痛い? 痛いでしょう‥‥?」
 エネルギーガンの向く先は、キメラの翅の付け根だ。
 その攻撃は連続。二人の今までの攻撃により羽ばたくこと力をほとんど失っていた翅を、確実に沈めていく。
「ふふ、もうその翅は動かないようね。どう? 知覚攻撃と物理攻撃のハーモニーは?」
 サディスティックな笑みを浮かべ、ケイはエネルギーガンからアラスカ454へと武器を持ちかえる。
 ケイが狙いやすいよう、透はキメラの視界にわざと入るように走りこむ。
 自分へと攻撃が向くように仕向け、大きく尾が振りかぶり向かってきたところでざっと走りこみその攻撃をかわす。
 ただかわすだけでなく、近距離よりソニックブームを双剣にのせて放つ。
 それと同時に、ケイは攻撃後の空白を生んでいる尾の関節に向かい、ゼロ距離でアラスカ454を向けていた。
 重量のある音を響かせ、関節に打ち込まれた弾の威力は大きく、尾がゆらりとバランスを失い、今までの動きの精彩さを欠く。
「透、今よ!」
 ケイの声によって、透はケイが攻撃した関節の部分を狙う。
 同時に振りぬかれる双剣の軌跡は尾を斬り伏せ、刃の部分を含め斬り落とす。
 びちびちと跳ねるように動く落ちた尾の動きはすぐ止まり、残るキメラの刃が向けられる。
 体当たりすると同時に向けられる刃をソニックブームを放ち、払う力に上乗せする。
 そのすぐ後にケイは攻撃よってあいている口らしき場所に向かい連続で引き金を引く。
 キメラはその攻撃に身体を跳ねさせ、浮き上がったところを再び透のソニックブームが放たれる。
「こっちは片付いたから手伝うよ!」
「レーゲン‥‥助かったわ」
 先にキメラを伏せたレーゲンが、キメラへと練成弱体をかける。
 すでにとどめの一歩手前ほどのキメラに向かいケイと透は視線を合わせ、同時に攻撃を繰り出すのだった。

●戦い、終わって‥‥
 戦闘終わり、無事三体のキメラを倒し終わった面々。
 一息つくも、問題があった。
「砂と汗とでざらざらです。はぅ。帰ったらまずはお風呂ですね」
 服をぱたぱた叩きながらレーゲンは呟く。
 そう、乾いたこの荒れ地、撒き上がった砂埃はそれぞれの身にしっかりとくっついていた。
 戦闘中は気にする暇がなくとも、終われば気になってくるもので。
「そうね‥‥とても、ざらざらだわ」
「砂埃をくらったからな、髪がじゃりじゃりとしている‥‥」
「口の中も少しじゃりじゃりしているような気がしますね‥‥」
「頭ふったら砂、払えねーかなー」
「そんな犬のぷるぷるみたいに言わないの!」
「喉も渇きましたし、ビールが美味しく頂けそうです☆」
 一つの戦いを終えて、傭兵たちの一時休息。
 まだまだ色々な場所で戦いは続く。