タイトル:HappyWhiteDay!マスター:玲梛夜

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/26 00:11

●オープニング本文


 ホワイトデーです。
 大好きな恋人へプレゼントを贈ったり、気になる人にちょっとアタックしてみたり。
 日頃の感謝の気持ちを乗せて何かを誰かに贈るのもよし。
 大規模作戦前でも、そういう気持ちは忘れてはいけないと、思うわけで。

 好きなあの人、お世話になっているあの人へ。
 ホワイトデーのひとときのはじまり。


「ホワイトデー、ラブの季節だよおおお!!!」
「はいはい」
「ちょ、なんでそんな淡々と‥‥!」
 無駄に張り切り薬袋音と、それを一歩引いて見守るバルトレッド・ケイオンと。
 テンションの高さが天地の違いの二人はなにやら作業をしていた。
「叫ぶ前に手を動かそうな、ほら、早くやれつってんだよ!」
「え、ちょ、何その逆切れ! やだもう学生時代に戻ったよ、このへたれ!」
「あ、つい‥‥」
「丸くなった人ほどおっそろしいんだよねー、いざという時がおー、がしゃーんみたいな」
「ならないならない」
「なるなるなる」
 無駄に掛け合いしつつ、二人が作っているのはプレゼントだった。
 大変なときでも楽しむのは大事、ということでやることにしたホワイトデーパーティー。
 場所はまた、クリスマスダンパやら、バレンタインパーティーやらできたあの場所を借りて、だ。
「お菓子とか用意して、みんなでキャッキャできるといいねぇ」
「ハメはずしすぎるなよ」
「無理、ごめん、無理!」
 と、こんな感じで、ホワイトデーパーティーの準備は進んでいく。
 今回は、参加した人にささやかなるお土産が用意されているとか。
「えへへ、薔薇迷路とかも何回いっても楽しいよねー」
「存分に迷子になるのはいいけど一人ででてこいよ」
「うん、大丈夫。誰か巻き込んで一緒に迷子になるから」
「‥‥‥‥」
 ちょっと心配だ、などと思いつつホワイトデーパーティーの準備は進み、それぞれの手元に招待状が届く。



 HappyWhiteDay!
 日頃の感謝とねぎらいを兼ねて、皆でわいわい遊びましょう!

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 水鏡・シメイ(ga0523) / 新条 拓那(ga1294) / 村田シンジ(ga2146) / エマ・フリーデン(ga3078) / アルヴァイム(ga5051) / 神森 静(ga5165) / 空閑 ハバキ(ga5172) / シーヴ・王(ga5638) / なつき(ga5710) / 不知火真琴(ga7201) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 百地・悠季(ga8270) / 天(ga9852) / シュブニグラス(ga9903) / 美環 響(gb2863) / 最上 空(gb3976) / 美環 玲(gb5471

●リプレイ本文

●天気良き日に
 少しあったかい、天気の良い日。
 薔薇迷路の前はにぎわいと見せていた。
 そこにはテーブルが用意され、白いクロスがかけられている。
「ホワイトデーも幸せにならねば。というか毎日幸せにならねば」
「良い心がけですね。あ、こちらにこれは置きますよ」
 ひょこりと現われて準備を手伝っていた水鏡・シメイ(ga0523)は言って、テーブルの上にお菓子を置く。
 テーブルの上には持ち寄られたさまざまなお菓子が並び準備はもうすぐ終わりそうな雰囲気だ。
「もうすぐ準備も終わりそうだし、薔薇迷路を出口から入口に探索してくるかな」
 準備の様子を一通りみて、新条 拓那(ga1294)は薔薇迷路の出口から入口へと入ってゆく。
 いってらっしゃい、と石動 小夜子(ga0121)は楽しげな恋人の姿を手を振りながら見送る。
 あとでゆっくり、薔薇迷路を二人で巡ることに思いを走らせながら。
「目一杯、みんなとパーティ楽しみたいわね!」
 ドンっと大好きな柿ピーチョコをテーブルの上におきナレイン・フェルド(ga0506)は笑顔を浮かべる。
「そうね、こんな場所で休日もいいわね」
 シュブニグラス(ga9903)は瞳を細め、周りをみつつナレインの言葉に頷く。
「準備もほぼ終わり‥‥何かお手伝いすることありますか? 空は甘い物の味見をしますので、任せて下さい!」
 最上 空(gb3976)はどんと胸を張って言うのだが、目はらんらんとテーブル上のお菓子を捕えていた。
「もうちょっとお預けだよー! 私も我慢してるから!」
 まだ早い、と空にストップをかけたのは薬袋音。だが同じく目はテーブルの上から離さずのまま。
「むむ、はうっ! 空は持病の癪が出たので、寝ますので準備が出来たら起こして下さい、決してサボる訳ではないですよ?」
 とててて、と空は振り返り、念を押しながら並べられた椅子の上に座る。
 その近くでは天(ga9852)が飾り付けの終わった薔薇迷路への入口の最後のチェックをしていた。
 少し離れて見れば、人形や布で作った白薔薇がバランスよく配置されている。
「ホワイトデーなので白薔薇で飾りつけというのは安易でしたか?」
「そんなことないですわ、白がとても映えます」
 天に白薔薇を、とリクエストしたのは美環 響(gb2863)。
 飾り付けの終わった入口をみて言った言葉に美環 玲(gb5471)は微笑を浮かべる。
 天の飾りつけた入口は華やかに、でもさりげなく、と場の雰囲気を盛り上げる。
「いいですね、こうやって賑やかなの」
「あ、ちょ、サボり厳禁!」
「サボってないから」
 立ってのほほん、としていたバルトレッド・ケイオンに音はつっかかる。
 そこへシーヴ・フェルセン(ga5638)とラウル・カミーユ(ga7242)がそれぞれの持ち込みものを持ってやってくる。
「こんちは、です。シーヴ・フェルセンでありやがるです」
「ご招待、どもありがとデス! はい、お菓子の差し入れー♪」
 ぺこり、と頭を下げるシーヴと、手を上げつつ笑顔で挨拶するラウル。
 音とバルトレッドも挨拶を返す。
 と、音はじーっとシーヴを見つめる。
「何でありやがるですか?」
「髪! 似た色同士!」
 シーヴと自分の髪色が似ていてなんとなく嬉しいと音は笑う。
「あ、紅茶持ってきてくれたんだよねー、こっちこっち、ティーセットこっち」
「僕のお菓子はどこおいたらイイー?」
「テーブルの上ならどこでも大丈夫ですよ」
「リョーカイ! 手作りだからさ、あとで感想教えてネ!」
「手作りすごーい!」
 準備の中でも賑わいがあれば、そこに人は集まるもの。
 パーティー開始の少し前に現れた者たちはそこへと足が進む。
「こんちはっ!」
 賑わいに少しためらいつつのなつき(ga5710)と一緒にこちらへ向かってくるのは空閑 ハバキ(ga5172)。 そこには知った顔があり、ハバキはひらひらと手を振る。
「なつきさん!」
「わ、真琴さん」
 不知火真琴(ga7201)はぽんっとなつきの肩を叩く。
 友人の姿を見つけ、少し嬉しさがなつきの胸にこみ上げる。
「そろそろパーティーを始めましょうか。準備も終わってますから」
 と、バルトレッドがパーティー開始を切り出したころ、薔薇迷路の出口にはアルヴァイム(ga5051)がいた。
 待ち人は百地・悠季(ga8270)。
 やがて現れたいとしいものの姿を視界に収めてアルヴァイムは小さく笑む。
 彼女が着ている純白のドレスは自分が送ったものだった。
「いこうか」
「ええ」
 アルヴァイムから差し出された手に悠季は自分の手を重ね二人は薔薇迷路の中へと入ってゆく。
 そのころ出口ではパーティーが始まり、さらに人も増えていた。
「では僭越ながら一曲、刻ませて頂こう」
 持ち寄りのお菓子がないので代わりに、と村田シンジ(ga2146)は忍刀『鳴鶴』で音を生み出す。
 即興演奏の音楽は心地よく、その場に響いてゆく。
「バルトさん、お久し振りです? 本日、御一緒してよろしいかしら?」
「こんにちは、神森さん。ええ、もちろんかまいませんよ」
 優雅ににこりと神森 静(ga5165)が笑めばバルトレッドも笑み返す。
 あとで薔薇迷路に一緒にと二人は約束して最近のことなどもいろいろと話す。
 賑わいと、奏でられる音楽があたりに響く。
 それにふと気がついた朧 幸乃(ga3078)は薔薇迷路を視界に映す。
「ここは‥‥一年ぶりかな‥‥あれから、もう1年たったんだ‥‥」
 足は自然と動く。
 薔薇迷路の中を歩いてみよう、と幸乃はそちらに進んでいった。
 ところ変わってパーティー会場。
 甘いものを目の前に止まらないものがいた。
「ああ、ちょ、それ私のっ」
「ふっ、早いもの勝ちです、隙あり! おいしいです、やはり甘いものは最高です! 空は今日の目的を十分の一くらいは達成しました」
「ぎゃあああ、最後の一個ー!! あれおいしかったのに‥‥!」
 だがまだ食べる気の空。いつもは小食なのだが、甘いものは別、別なのだ。
 たくさん甘いものがあって、自分の手元にもまだあっても、隣の芝生は青い、隣人の狙うものは狙いたい。
「あ、これ美味ぇでありやがるですよ」
「それ、僕のエクレアだよ、シーちゃん。シーちゃんのお茶もおいしー、お茶と一緒にお菓子ってやっぱりいいネ」
「エクレア!!」
「バルトんと音っちも食べて食べて。んまい?」
 ラウルはエクレアを差出せば、ぱくりと二人は食べる。
「! 美味‥‥!」
「おいしい‥‥すごいですね」
「ありがとッ! バルトんと音っちは、かっぽーじゃないの?」
「ないないないないない」
「ええ、まったく」
 首をかくーり傾げながら尋ねるラウルに二人は真顔で否定する。
「そうなんだー」
「ルトより甘いものの方が好き。あ、シーヴちゃん私にもお茶淹れてー!」
「ん、どれが良いでありやがるです?」
 紅茶を淹れ始めれば、自分にもとそこに人が集まる。
「ふおっ! な、なんですかこのマフィンは! 餡子の味がします!」
「それは私がもってきたものね、いろんな味があるのよ」
 ふと、手にとって食べたマフィンの味に空は声を上げる。
 それは静が持ってきたもので、笑顔で応えが返ってくる。
 空はしばらく、ほかのマフィンを見つめ食べようかどうしようかと真面目に考えていた。
 そのお隣でなつきがじっと柿ピーチョコを見つめている。
「柿ピーチョコって、何だろう‥‥?」
「食べてみるといいわよ、おいしいから! 私のオススメ!」
 柿ピーチョコをもってきたナレインは、なつきの柿ピーチョコが気になる風な視線を感じて勧める。
「あ、私も食べてみよう」
「あまじょっぱい‥‥」
 ぽりぽり。
 柿ピーチョコを囲む一群がそこにあった。

●恋人って微笑ましすぎる
「やれやれ、やっと出られたよ‥‥って、ありゃ〜、もう宴、始まってら。はは、遊んでたら出遅れたみたいだねぇ」
 薔薇迷路を少し探索し、拓那が戻ってくるとすでにパーティーは始まっていた。
 戻ってきた拓那の姿をみつけ、小夜子は拓那の分の飲み物も持ってやってくる。
「おかえりなさい」
 小夜子が笑顔を浮かべれば拓那も同じように笑う。
 二人は付き合い始めて一年、最近『街中で手を繋ぐ』ことができたまだまだ初々しいカップルだ。
「乾杯し損ねたから‥‥二人で。これまでのありがとうと、これからもよろしくってことで、乾杯♪ お互い無事に、また来年も一緒に過ごせたらいいね」
 こつんと軽くグラスをあわせ、テーブルの上のお菓子や料理を他愛のない話をしながら食べる。
「小夜ちゃん、これおいしいよ」
「はい、おいしいです。あれは拓那さんが持ってきたマカロンですよね? 私も一つ‥‥」
 隣で笑顔を浮かべる小夜子との一時がとても大事なものだと拓那は思う。
「薔薇迷路に行こうか、小夜ちゃん」
 二人で並んで、薔薇迷路の中に。
 こっちだよ、と先ほど軽く探検をしていた拓那は小夜子を誘う。
「追いかけっこ、してみます?」
 少し悪戯めいた表情の小夜子の提案に拓那は頷き走り出す。
 小夜子もそれを追えば捕まりそうで捕まらない距離感が生まれる。
 ふと、眩しさに目を閉じた瞬間に小夜子は拓那を見失う。
「あれ‥‥」
 T字路で見失った姿。どちらに進んだらいいのかと拓那の影を探すが見当たらない。
 まだ遠くに行ってはないはず、と進んでいけば、開けた場所に小夜子は出る。
 きょろきょろとあたりを見回せば、正面にある道からひょっこりと拓那が出てくる。
 拓那も同じく探していたようで、その表情には出会えてよかったと安堵の色があった。
「あぁ、こんなとこに居たのか。ごめんね、見つけるのが遅れて‥‥そこで一休みしよう? 渡したいものもあるし」
 差し出された手をとり、小夜子と拓那は東屋で一息。
 と、拓那は小夜子にプレゼントを差しだす。
「ホワイトデー、だからね」
「わぁ‥‥ありがとうございます」
 拓那からもらったのは電子オルゴール。
 小夜子はオルゴールと拓那を見、そしてあたりをきょろきょろと見る。
 そして拓那にぎゅっと抱きついて、頬にちゅっとキスを一つ。
「その‥‥プレゼントのお礼、です」
 ぱっと離れ、かーっと赤くなる顔を隠しつつ小さな声。それを拓那はしっかりと受け取っていた。
「本当に‥‥拓那さんに会えて、好きになって良かった‥‥これからも、よろしくお願いしますね」
 電子オルゴールの音を聞きながら、寄り添い手をつなぎ、温かい時間を二人で共有した。

●仲良しな距離間
「‥‥もしかして迷ってねぇですか?」
 背後からの声にラウルは歩みを止めた。
「こっち行ってあっち行って‥‥アレ? ち、ちっとも迷ってなんかないんだからネっ!」
「‥‥‥‥」
 無言で下から向けられるジト目。ひやりと背中に汗を感じ、ラウルはシーヴに負ける。
「‥‥スイマセン」
 シーヴは一つ溜息をついて、こっちとラウルの前を歩きだす。
「綺麗な赤でありやがるです」
「だネ、あの薔薇ってさ」
 と、ゆっくり薔薇を見ながら自身のことなど、いろいろなことを話せば時々シーヴの表情に笑みが生まれる。
 その笑みが嬉しくて、ラウルの表情も自然と緩む。
 やがて同じ景色の繰り返しから抜け出せば、そこに東屋があった。
「ちょっと休憩しよっか」
 二人で座れば、歩いていた時よりも落ち着いて話せそうな気持ち。
 報告したいことがあったラウルは口を開く。その表情はわずかに照れて、綺麗な笑みで、だ。
「シーちゃん、僕、彼女と恋人になれたヨ」
「おめでとう、でありやがるですよ」
 自分を妹のように可愛がってくれるラウル。そのラウルの幸せは素直に嬉しい。
 自然とシーヴの表情は柔らかい微笑みに変わる。
「おめでとうをありがとう!」
「わっ‥‥ぐちゃぐちゃにするんじゃねぇです」
「スイマセン、調子に乗りマシタ!」
 照れ隠しに、わしゃわしゃと勢いよくシーヴの頭をなでるラウル。
 だがラウルの幸せを、自分の髪をわしゃわしゃにされるのは別だ。
 ピシリと手を叩きそれを咎めるようにじっとり見るとラウルはちょっと困ったように叩かれた手をさすりながら笑う。
「‥‥シーヴも幸せ、ですよ」
 少しの間をおいて、シーヴもちゃんと恋人と上手くいっており幸せであることを告げる。
 お互いの幸せ。
 それが嬉しくて。
 知らずのうちに浮かぶ笑みが、互いの笑みを呼びあう。

●優雅な一時
「えーえー、えー!」
「もう一回やってさしあげたら?」
「では最後の一回です」
 パーティーの合間に響が奇術を繰り広げる。
 先ほどからそれに釘付けの音は何度もリクエストをしていた。
 そんな様子を見ていた玲がにこりと笑いつつ響に再度と促す。
 ひらひらと手になにも持っていないことを響は示す。
 何も持っていない手、右手を握り、左手を重ね、上へと上げていく。
 するとそこに、薔薇が一輪。
「はい、プレゼントです。汝の魂に幸いあれ」
「えーえーえー! 何も持ってなかったのにっ!」
 今回もどうなっているのかわからなかった、と言いながら再びの甘いものタイム。
 響と玲も同じようにテーブルにあるものを食べ楽しみ始める。
「玲ちゃんと響君はそっくりだよね、仲良しさんだし、家族?」
「秘密ですわ」
「えー!」
「秘密のほうが、いろいろ想像できて楽しいよ」
 玲の言葉に響も乗る。答えを言わず、二人は体を寄せ合って笑みあうのだ。
「なるほど‥‥あ、おいひぃ‥‥玲ちゃんにもあげる」
「あら、ありがとうございます」
「甘いものは別腹だよねー!」
「ええ、そうですわ」
 きゃー、と手を合わせあってはしゃぐ二人を響は見守る。
 そんな視線と同じような視線がもう一つ。
「たまにはのんびりしたかったから‥‥薔薇園で休日も悪くないわ」
 全身お気に入りのブランドで固めて、所作も美しくシュブニグラスは笑みを浮かべていた。
 その手にはワイン、あたりの雰囲気を楽しみつつ、自分の時間を満喫していた。
「こんなに肴いらないのに♪」
 目の前で楽しそうにしている娘っ子たちを愛でつつのワインはまた格別なのだ。
「さって、そろそろ薔薇迷路いこー。空ちゃんもいくー?」
「迷路ですか、特に空は興味ありませんね、ええ、迷路がお伽噺のお菓子の家みたいに、お菓子で出来ているとかなら、興味をそそるんですが」
「何それ! 超素敵! 誰か作って‥‥!」
「でしょう! と、それはおいといて、まぁ、一人で入って偶然迷路で、イチャイチャしているカップルと遭遇すると、アレなので、遠慮します」
 空は空気が読めるのです、というようにきぱっと言うのだが、まだ当分補給が十分でない空は迷路よりも目の前のものが優先。
「僕たちも行きましょうか。薔薇の香りが心を和ませてくれるでしょう」
 響と玲も手をつなぎ、薔薇迷路へと向かう。
 玲がぎゅっと繋ぐ手に力を少し入れれば響は笑む。
「響さんと一緒に薔薇迷路なんて、素敵ですわ」
 その長い髪を揺らしながら、一足先に響と玲は薔薇迷路の中へと向かう。
「ナレインちゃんも行こうぜーい! シュブニグラスさんもいくー?」
「ふふ、薔薇の花、愛でるにしても、トゲが邪魔‥‥フッ、いってらっしゃい」
「なに、ちょーカッコいいんだけど! 素敵なんだけど! ねーさまと呼びたい! いってきます!」
 大人の余裕に音は興奮、ダッシュで薔薇迷路へと向かう。
「僕たちも行きましょうか」
「ええ、そうね」
 約束の通り、静もバルトレッドと一緒に薔薇迷路へ。
 そこにある薔薇の色を見つつ、歩はゆっくりだ。
「いい天気で、今日は楽しめそうだと思っていたの」
「楽しんでいただければパーティーをしたかいもあります」
「なんだかもらってばかりで、気が引けますので、差し上げます。深い意味無いですので、気になさらずに‥‥」
 言って静が差し出したのは真珠のついたネクタイピンだった。
「いいんですか? ありがとうございます。大切にします」
 バルトレッドは笑んでそれを受け取る。
「いつか、お返しをしますね。さ、薔薇迷路の続き、楽しみましょう」
 和やかな雰囲気の中、二人は薔薇迷路を進んでゆく。

●素敵な三倍返し
 薔薇迷路は広い。
 夏に来た時は雨、その時とは別の景色になつきは笑みを浮かべる。
 あの時とは気持ちが違う。今は隣にハバキがおり、少しずつ、ゆっくりと歩み寄りたいとなつきは思っていた。
 ハバキはそんな様子を嬉しく思い、繋いだ手の暖かさを感じる。
「うんうん、やっぱり薔薇と言えばこーゆーの!」
「‥‥あ」
 ハバキの指の先、赤色の薔薇。
 その赤が、なつきの心を揺らす。知らず、繋いだ手に力が入り、それがハバキに伝わる。
 赤い色で思い出すのはなつきの兄代わりの人の存在。重症のまま飛び、帰ってきたその人は、片目と片腕を失くしていた。
「‥‥」
 今まで無いものとして扱ってきた、自身の感情と向き合う様になって、気持ちを情報として処理できなくなってしまった。
 ざわりと心に感じるものを持て余すような感覚だ。
「コワレモノ、なんだよな‥‥」
 ゆっくりと繋いだ手を、ハバキはほどき、なつきに向き合う。
「忘れてた訳じゃないけれど、こういう事があると思い知らされる。大切な人達も、こんな穏やかな時間も、繋いだ手だって‥‥」
 視界に映った終わりかけの薔薇、それに触れればはらりと花弁は落ちてゆく。
「帰りに、会いに行こう?」
「はい‥‥あとで、会いに行きましょう」
 もう一度、指を絡めて、しっかりと手を繋ぐ。
 まだ言葉無しで気持ちを共有するほど未熟だから、思ったことは言葉にして伝える。
 少しずつ進んでいるなつきの傍にいたいと思う。
「そういえば‥‥日本ではホワイトデーはヴァレンタインデーのアンサーデーという事になっているんです‥‥三倍返し。期待しても?」
 ふと話題を変えるように悪戯っぽく小さく笑ったなつき。
 ホワイトデーというものがよくわからないハバキは少し考えて、やがて満面の笑みを浮かべて答えた。
「‥‥あぁ、うんっ。おーけー♪」
 繋いだ手でひょいっと軽々引き寄せて。
 三倍分のキスをなつきに贈る。
「あいじょー三倍返し☆」
「‥‥、‥‥え?」
「‥‥あれ、違った‥‥?」
 突然のことでぽかん、とするなつきに違ったのかなとハバキはおたおたとする。
 と、後ろでがさりと音がしてはっと振り向けば。
「ご、ごちそうさまっ‥‥!」
「音ちゃ、いつから其処に‥‥っ」
「いいい、言っていいなら行っちゃうけど邪魔ものは退散するよっ! さらばっ!」
 去っていく音の姿にハバキはあたふたする。
 その姿をなつきはみて小さく笑む。
 びっくりしたけれども、でもやっぱり嬉しい。
 再びの大規模作戦の存在は、なつきの思考を深く沈みこませる。
 けれども、それを掬いあげてくれるのはハバキの手だ。
 どうか、無事で、いなくならないでほしいとなつきは願う。

●楽し薔薇迷路
「華やかです‥‥」
 パーティーをひとしきり楽しんで、ぶらりと薔薇迷路の散策にでた真琴。
 雨の中でみた薔薇は静かだったが、晴れた日に見るのもまた違うもの。
 色が光を受け、花びらが輝くようだった。
 花瓶に活けられた花よりも土に根付き、生きている姿。
 それが好きで、時々薔薇に触れ、その感触を楽しんだりと真琴はゆったりとこの時間を楽しんでいた。
「あ、ここは‥‥」
 ふらふらと歩いていれば、見覚えのある風景。
 もしかしたら、と記憶を辿っていけば、やがて夏に立ち寄った東屋がそこにはあった。
 東屋に立てば、夏のことを思い出す。
 まだ色々な事に気がつかずあった頃と、今と。
 自分は少しは変わっているのだろうかと思う。
「良い方向に変われて、進んでるかな‥‥」
 呟いて、目を閉じて思う。
 胸の中に巡るのはさまざまなこと。
 その思いにしばし真琴が感じ入っているころ、薔薇迷路は様々なものたちがいた。
「‥‥ここはどこだ」
 シンジは迷っていた。
 薔薇迷路に入ったはいいが、だんだんと緑色に惑わされ把握していた位置がわからなくなる。
 それでも仕方がないか、と角を曲がろうとした時だ。
「わ、おー! びっくりした!」
 ぶつかりかけるも一瞬。
 シンジと音は曲がり角でばったりと出会う。
「ちょうど良かった! 私迷子なんだけど出口わか‥‥」
「俺も迷っている‥‥」
「‥‥じゃあ一緒に迷子ろう」
 薔薇迷路の中を散策しつつ、出口がわからないまま進んでいく。
 それもまた楽しいじゃないか、と思いながら。
「あ、人の姿発見!」
「おや、ちょうどいい所に‥‥」
「あ、待って、そのセリフの感じ‥‥」
 ふっと先を横切った人影を追えば、そこにはシメイがいた。
「ゆっくり薔薇を眺めながら巡っていたのですが出口がわからなく‥‥」
 迷子仲間が増える。
 だが一人でいるよりも賑やかになりそれはそれで楽しい。
「よし、こうなったら歩き回ろう。そのうちちゃんと出口がわかる人に出会える‥‥かもしれない!」
「それは信じていいのか‥‥」
「あはは、いいですね。では行きましょうか」
 不安ながらも歩く三人は、さらにさらに、迷って行く。
 これはまずいなと誰もが思っていたころ、救いの神は現れた。
「あ、あれはっ」
「天さんだー!! あ、写真とってとってー!」
 見つけた姿に手を振ればカメラを構える天。
 かしゃりととれてよかった、と言っているうちに忘れそうになる迷子の事実。
「そうじゃない、そうじゃない! 迷子なの助けてー!」
 天は迷子たちに捕まった!

●愛です
 二人でゆったりと歩く。
 それは大切な時間だ。
 この関係となってから三か月、アルヴァイムと悠季は手を繋いで歩いていた。
 一か月前のヴァレンタインデーの喧噪もそれなりに落ち着いたホワイトデー。
 ちらほらと想いを成就したものたちがいることを耳にしつつ、改めて幸せな二人でお祝いをできることを考えればホワイトデーも良いものじゃないかと悠季は思っていた。
 出会った頃のツンツン具合の様子は今はなく、既に耽溺のデレデレ甘々状態。
 自分を支え、保護されることの方が多いが、それでも要所で支えていきたいと、アルヴァイムの姿をちらっとみつつ悠季はひそりと笑む。
 事前に下調べをしていたアルヴァイムのおかげで迷うことはなく、歩は落ち着いている。
 アルヴァイムを頼りとするのはこの薔薇迷路の中だけではない。
 まだ十代である悠季だが将来の伴侶を確定してしまってもそれはそれ。
 先急いでいるわけでもなんでもなく、ともに歩くことが大事で、心の安定は大きい。
 まだアルヴァイムの伴侶として今は足手纏いである自分を感じているが、それでも少しずつ向上していければと悠季は前をしっかり見据えていた。
 今、繋いでいる手が暖かい、嬉しい。そう思うとするりと言葉が出てくる。
「こういう時にデートに誘った甲斐が有ったわね。改めて、これからも宜しくね」
「ああ‥‥内縁ではあるが、よろしくな。マイハニー」
 悠季の言葉に答えながらアルヴァイムは彼女とこの関係を築いてからのことを思う。
 『闘争が自分の対価』と思い、闘いに明け暮れた頃からすれば大分変わった。
 今も『闘争が自分の対価』だと思う。だがそれに、今までにない、別の何かが混ざっているように感じる。
 それが何かはわからなく、傭兵としてそれが正しいかは別として、悪い傾向ではないと思っていた。
 『強さ』とは、『最強』とは何か?
 闘争と戦争の先にあるものは何か?
 能力者はどこへ行き着くのか?
 人の持つ『可能性』とは何か?
 様々なことを、思う。
 思案し、時には迷い、見極めながら、これからも歩いていくのだろうとアルヴァイムは思う。
 バグアとは必然的に何らかの決着をつけねばならない。
 その時が来るまで、この自分の隣には彼女がいるのだろう。
 悠季の、その背中の羽をもぎ取らぬように、自由であってほしい。
 自分が守りたい世界がどんな世界か知ることは、切り札になるだろう。
 そう思いながら、隠し持っていたマフラーを取り出し悠季の首にアルヴァイムは巻いた。

●似たもの同士
 出口近くまで迷子たちを送り届けた天は再び薔薇迷路写真を撮っていた。
 空の青と葉の緑。
 撮るに心惹かれるものは多い。
 自然のそばにあり、楽しかった数か月を思う。
 過去にあったことを思うが、この中にあると難しかったことも単純に思えてくる。
 薔薇を間近にファインダーをのぞいていると、遠くからフルートの音が聞こえてくる。
 この音は、と惹かれて歩めばだんだんと音がはっきりと聞こえてくる。
 そのフルートの音の先には幸乃が静かに座って生み出す音だった。
 極力薔薇迷路の中では人を避けてきたがなんとなく、幸乃はそうする必要がないと思った。
 近づき、そのまま幸乃が座っているベンチの隣に腰を下ろす。
 言葉を交わすわけでもない、ただフルートの音の中にある。
 その中で空の写真を一枚、天は撮る。
 そしてそのフルートの音に心を傾けながら、目を閉じる。
 互いに感じるのは似たもの同士。
 だからこの距離間は嫌ではない。
 ここまでくるまで、幸乃は一年前に一緒に歩いた相手を振り返りながら歩いてきた。
 元気でいてくれれば、それでいいと思う。
 自分の奏でるフルートの音。
 それが空白の時間をふさいでゆく。
 静かに、しみこむように。
 やがてフルートの音が途切れれば天は立ちあがる。
 声をかけるわけでもなんでもなく、また写真を撮りに。
 けれども去り際に、ふっと思って幸乃の横顔を一枚、写真におさめた。
 薔薇迷路で撮った最後の一枚は自分でもなぜ撮ったのかわからない、一枚だった。
 それはアルバムに入ることなく、のちに迷宮の薔薇に添えられることになる。

●思い出に
「あ、今日はお招きありがとうございました」
 と、今回招いた音とバルトレッドをみつけ、ぺこりと一つ小夜子はお辞儀をする。
「今日はきてくれてありがとうっ!」
「楽しんでくだされば何よりです。これはお土産の‥‥」
「待った、ルト、チェンジ」
 お土産を渡そうとしたバルトレットを音が制する。
「彼女さんの前で別のおにゃのこが例え本命でなくてもあげてたらいい気持ちしないでしょー! 私はしないの! だから私が小夜子ちゃんに渡すのです、はい!」
「ということらしいです」
 二人に差し出されたお土産は音からは赤い薔薇のついた小箱、バルトレッドからは黄色いフリージアのついた小箱が差し出される。
「中身は同じなんだけどね!」
 パーティーも終わりかけ。
 天は悠季を抱き寄せたアルヴァイムの写真を撮る。
 すぐさまプリントされたそれをみつつ悠季は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 だが次の大規模で怪我しない様、ひっそりと祈りも込めていた。
 パーティーでとった写真は希望した者にプリントしてアルバムとして渡される。
 ホワイトデーの思い出がまた一つ。
 日々の辛いことも楽しいことも、振り返る穏やかな日がある。
 またこんな日をいつか、と思う。
「服が違うからわかるけど、同じ服だったら私、見分けられないなぁ‥‥」
「ふふ、そのうちわかるようになりますよ」
「そうなるといいなー」
 アルバムの写真の中の一枚、響と玲の写真をみて音は唸る。
 そして、甘いものを堪能していた空はカップル率の上昇に言葉を漏らしていた。
「な、なんですか、このサッカリン並みに甘い空間は‥‥これがバカップルの力ですか!?」
「ホワイトデーだからね!」
「何だか無性に、目の前の空間に、物理的な突っ込みを入れたい気分ですが、空は堪えてみます」
 堪えるためにも、甘いもの!
 まだ少し残るお菓子、それを空は手に取る。
「バルトレッドさんも薬袋さんも、今日はありがとう! 楽しかったよ!」
「真琴ちゃんありがとー! またこんなことあったら遊ぼうねー!」
 パーティーは最後まで、名残惜しくあるけれども終わる時は来るもの。



 愛情も。
 友情も。
 感情も。
 いっぱいのホワイトデーでした。