●リプレイ本文
●雪山の麓で
「いい天気です♪」
榊 菫(
gb4318)の言葉通り、冷え込み続く快晴の日。
一面真っ白の世界は光輝いていた。
これから入る雪山、その前に傭兵一同はそれぞれ防寒装備ばっちりで控えていた。
「わぁ‥‥ユキ‥‥キラキラしていて綺麗‥‥でも、冷たいね‥‥」
初めて雪と遭遇する南国育ちの琥金(
gb4314)は降り積もったばかりの雪を手に乗せ、口に運ぶ。口の中ですぐに溶ける雪は。
「冷たくて、おいひぃ」
とのこと。わしゃわしゃと食べる横でリリィ・スノー(
gb2996)はこれから進みゆく雪山を見上げる。
「こんな事でもないと行けないのが残念です‥‥」
「キメラ退治じゃなければ最高の雪景色なのに、ね! そうそう、初めまして、音。今回は宜しく頼むわね」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)はリリィの言葉に同意しくすりと笑う。
そう、雪山には遊びに来たのではなく、あくまでキメラ退治のためだ。
「うん、さっくり頑張っていくね! でもでも! 早く終わらせて街にもどってちょっとくらい遊ぶくらいはいいと思うんだよね! もらったプリンも待ってるし!」
「そう、プリンがっ!」
すでにプリン色のAU−KVを着ていたヨグ=ニグラス(
gb1949)も薬袋音の言葉に声を合わせた。
音の言うプリンとはヨグが記念に! と渡したもの。貰い物は何でも嬉しい音は餌付け状態なのだ。
キャッキャとはしゃぐ二人の横で、うずくまる影が一つ。
それは煩悩を満たされなかった男、紅月・焔(
gb1386)だった。
「‥‥ジーザス‥‥なんて事だ‥‥雪山では‥‥薄着が見れないではないか‥‥ちくしょう‥‥熊め!!」
ガスマスクの玩具をかぶっているため表情は読み取れないが、声色はかなり切羽詰まっており、言葉に込められた悔しさがひしひしと伝わってくる。
「なんだか悶えている人もいますが、キメラなクマーを退治しにそろそろいきますか」
「熊は視覚よりも聴覚や嗅覚に優れていますから、誘き寄せるなら音や臭いを利用するのがセオリーですね‥‥ところで、キメラって食べ物の匂いに反応するんでしょうか?」
「クマーに試してみないとわかんないねぇー、私なら反応するけども!」
もともとの熊の生態からシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)はこの雪山にいるキメラがどのような性質を持っているかを考えていた。
「ぬいぐるみのクマは、可愛いですけど、実際は‥‥です」
菫は苦笑しつつ呟きその瞳を細めた。
「いざという時に動けないのでは意味がないですから、カロリー確保用のチョコレートが必要なら言ってくださいね」
「僕もあったかいコーヒー持ってきたので、寒くなったり餌付けがいるならだしますっ」
すちゃっと構えられたコーヒー入りの水筒にグッジョブ! と音は親指を立てて答える。
そろそろ出発か、とルナフィリア・天剣(
ga8313)は覚醒する。
「こっちのほうが楽かね。非覚醒でも持てるけど」
左手に現れる紋章、そして背中に大きな悪魔の翼が生えその体からは瘴気のような靄を纏う。
「おお、かっくいー! その翼でクマ、のしちゃえ!」
「無論、そのつもりだ。キメラを倒す、いつも通りだな。序でに新武器の実戦テストもやるか」
背負った武器を一撫で、ルナフィリアは不敵な笑みを浮かべる。
「良いだろう‥‥敵が熊なら俺はいわば‥‥鮭‥‥そう! サーモン! くくく‥‥霊長類なめんなよ熊め!! あだっ!」
「あ、すまない」
自分の法則で元気に復活した焔が立ち上がった瞬間とルナフィリアが翼を広げた瞬間あ重なり、焔は衝撃でに雪の中へずぼりと埋まる。
「おーい、大丈夫かー、いくぞー。琥金君もいくよー」
「クマー‥‥食べれるかな‥‥」
食いしん坊スキル保持者の琥金は、クマーを食す気だった。
まじめにキメラ退治なのだがどこか抜けてるような一向は、雪山へと足を踏み入れる。
●クマー出現、クマー!
ざくざくと雪を踏む音が響く。
「村人情報によるとこのあたりに爪痕が‥‥あった」
一番前を進んでいたルナが指さした先。
そこには巨木に刻まれた爪痕が残っていた。
その爪痕はざっくりと巨木を抉っており、まともに食らえば相応のダメージを受けることを感じさせるものだった。
「食べ応えがありそうだ‥‥」
キリリとした表情で大真面目に琥金は呟く。
「まだ起きるには早いわよ? 熊さん‥‥縄張りの中、ってことかしらね、ここは」
「ケイ姉様の言う通り、そうなのでしょう。クマーがその辺にいたり‥‥」
「このあたりにはいないようです。隠れたり待ち伏せしたりしていてもこれで分かるはずですから」
多機能デジタルカメラであたりの様子をシンは確認し、告げる。
この場にいなくても、この先にはいる、ということだ。
「警戒はこれからもっと必要そうですね‥‥」
菫の言葉にこくん、とリリィは頷く。
陣形を確認し、さらに奥へと進み始める一向。
だが気になる点が一つ。
「うん‥‥こっちの‥‥女‥‥熊も捨てがたい」
「後ろからだと君の行動が激しく怪しいのが丸わかり。はい、こっち!」
右方向警戒! と音によりぐいっと首を焔は右に固定される。
そんなやりとりもちょこちょこしつつ、やがて少し開けた場所が見えてくる。
「あそこからあたりを見回せたら良いですね。僕、双眼鏡を持ってきました」
その開けた場所にはこんもりと丸い小さな山のようなものがあった。
岩にでも雪が降りつもっているのだろうか、と思わせるそれが少し震え、雪が落ちるのをルナフィリアは目にした。
同時に待ってくださいとシンが歩を進めることが留める。
何かがいる、そう感じた次の瞬間。
「「クマーーーー!!!」」
二重の雄たけびが響き、ずぼっと雪を払い飛ばしながらその丸いものは立ちあがった。
見上げるほどの巨体を守るかのような硬そうな毛皮。鋭い光を帯びた瞳は傭兵たちを捕えている。
そしてその手足のつめは長く伸び、黒光りしていた。
「雄たけびがクマーって!」
「ファンシーだけど野太い声ね!」
誰が何と言おうと雄たけびはクマー。クマー以外の何でもなかった。
傭兵たちはクマキメラと遭遇した!
●二頭同時に現れましたので全力で倒します
こちらに一直線に向かってくるクマキメラ2頭。
「この悪魔の腕の威力を味わえ‥‥!」
背負っていた双旋刃を一度地面に突き刺し、ルナフィリアは銃籠手をキメラたちに向ける。
そして発射される弾をよけるかのようにキメラは二手にわかれるように動いた。
それは2頭をバラけさせ、それぞれ打ち合わせ通りに二手に分かれる。
そのキメラの一頭の方へ、ケイは進む。
「さ、遊びましょう‥‥」
緑の瞳を真紅へと翻し、ケイは覚醒する。ケイの左肩には蝶が舞うが、それを今見ることはできない。
スコーピオンを持ち、浮かべた笑みは加虐的だ。
「久々にそっちバージョン見たですー!!」
首筋に一筋、黒い線を走らせ、すぐさまヨグは竜の鱗を使用する。
そのまま走りこみ、立ち上がったクマキメラから振り下ろされる爪をイリアスで受け止める。
ぐっと上からの力を耐えれば、知らずに声が漏れていた。
「ふぬぬぬぬ」
「‥‥晩御飯!」
ヨグがその爪を受けとめている間、クマキメラは動けない。
自分のはらぺこ事情にあわせ目を光らせながら覚醒した琥金はグラーヴェで円閃を繰り出し、そのまま遠心力を付けて二連撃をクマキメラの胴へとぶち当てる。
グギャアア、とクマキメラの悲鳴は空気を震わせて響いた。
それに呼応するように、もう一頭のクマキメラは立ちあがる。
「このでかぶつが、このあたしの肌に傷つけるんじゃないよ?」
茶の髪が黒へ染まり、紫の瞳は青へと変化した菫はクマキメラの後ろへと回り攻撃を仕掛ける。
クマキメラが頭を菫の方に回せば、その視界から外れたリリィは死角から攻撃を放つ。
ぼんやりとした青い光を放つ幾何学を纏う手にはドローム製SMG。
菫を狙って振り上げられたクマキメラの腕に、SMGから放たれた弾は命中する。
その攻撃にひるんだ間に焔は懐に入り、グラファイトソードを斜めに振り下ろす。
「そこだ‥‥」
先ほどまでの雰囲気は皆無、冷静にに踏み込み攻撃の重なった腕へと攻撃を当てれば腕がクマキメラの片腕は使えないほどのダメージとなり、ぶらりとぶら下がる。
さらにその攻撃に重ねてシンは番天印から影撃ちを放った。
弱点となった場所を的確に狙い、ダメージの蓄積は多大なものとなっていく。
「そう簡単にやらせはしない」
シンの全身には蒼く光る幾何学模様が現れ、その口調からはいつもの雰囲気は消えている。
連発される攻撃により、隙がうまれさらにそこを突く連携。
「いい毛皮が取れそうじゃないか、覚悟しな」
長刀「乱れ桜」で菫が薙げばクマキメラの膝が崩れる。
クマキメラが態勢を崩したその下には覚醒した音がおり、蛍火を上へと払いあげる。
「あと、任せるよー」
クマキメラの顎が上へのけぞれば、態勢を立て直そうとする。
だがそれを許さぬようにシンが攻撃を行えば、その間にリリィが狙いを定めていた。
「これで終わりですっ」
鋭角狙撃を使用し、貫くのはクマキメラの頭。
血飛沫があがり、声もなくクマキメラは仰向けに倒れ伏す。
ひくりと何度か動いた体はやがて止まった。
銃の音と、ずしゃりと雪の中に巨体が倒れこむ音と、そのわずかな振動でもう1頭が倒れたことを仲間たちは知る。
「あっちは片付いたみたいね! こちらも負けていられないわ!」
もう一頭のクマキメラの攻撃をかわし、ケイはスコーピオンをキメラの四肢の一本へと向ける。
「さ、蝶々と遊んで頂戴? すぐにおねんねの時間よ?」
両手にもった銃より二連射で繰り出された弾は的確に狙った場所を貫く。
動きが鈍くなればルナフィリアは銃籠手外し双旋刃「カリュブディス」を持つ。
「渦の魔物に近寄ったならば、引き裂かれるのみだ」
仲間たちが少し離れたのを確認し、横に振る。その力の流れに逆らわずに体を流せば背にある翼がクマキメラの視界を覆うように動く。
ルナフィリアがクマキメラより離れた瞬間、ヨグがイリアスを横に振りぬきひるませる。
その横から振り下ろされる爪を槍で受け流す。そのままスマッシュを付与した槍を用い、軸足を回転させ勢いをつけて琥金が脚部を狙い叩きつけるように攻撃するとその足は鈍い音をたてて動かなくなった。
痛みにか、本能か、クマキメラは口を大きく開けて咆哮する。
その口腔狙ってケイは銃を向ける。
「鉛の飴玉のお味は如何?」
笑んで放つ弾は口腔に命中し、弾ける。
それは致命傷となり、クマキメラは雪の中に倒れた。
「やったか‥‥」
ルナフィリアが近づくと確認するまでもなく、その心臓は止まっていた。
2頭のクマキメラは無事に倒されたのだった。
●戦い終わって贈り物
「無事に戦い終わりましたね‥‥あ」
「雪‥‥」
ほとりと鼻先に落ちてきた冷たいもの。
リリィが空を見上げれば、ちらちらと空から雪が降っていた。
「やっぱり綺麗です」
「パージしたパーツの回収も終わったし私はいつでも出発して大丈夫だ」
戦闘中に外した銃籠手を回収し終わったルナフィリアも、空を見上げる。
「クマー‥‥よし」
琥金は鬼包丁で倒したクマキメラの食べれそうな部分をゲットし、ひそやかに幸せをかみしめている。
ご飯ゲット。
「雪で、身体冷えたので、温泉に入りたい気分です」
「温泉、それはロマン、覗」
「けると思ったら大間違いだよー、はいはいはい、うりゃ!」
「ぶふあっ」
菫の言葉に煩悩を巡らせ始めた焔。
だが雪玉を音よりくらい、顔面は真白だ。
「あ、僕もするですよっ!」
「あら、楽しそうね! 私も混ざっちゃおう」
楽しそうな、ともに戦った仲間の姿にシンは瞳を細め笑みを浮かべる。
と、眺めていたら流れ雪玉が向かってくる。
それを軽くかわし、空を見上げる。
ちらりちらりと空から降る贈り物の中で、雪合戦という小さな息抜きが始まった。