タイトル:【闘】一角必殺マスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/08 17:47

●オープニング本文


 ナイアガラの滝。
 その周りには雄大な自然が、広がっている。
 そんなナイアガラの滝付近にて、キメラが目撃されている。
 まっ白い体をもつ馬。その額には、一本の角。
 そんな特徴をもったキメラが、多数目撃されている。
 まだ人のいる場所まではやってきていないが、放っておいて利になるとは思えない。
 この一本の角をもつ馬型のキメラ退治の依頼が、今からバルトレッド・ケイオンによって説明される。
「場所は森の中。木々があり視界も開けているわけではありません。このあたりを調査していた軍からの情報によるとこのキメラはそれなりに、素早さも持ち合わせています。また馬型ということで脚の力も相当なものです」
 一撃くらえば、ガードをとれればまだしも不意うちならばどうなるか。
 キメラなのだから通常の馬よりもその脚力が強いことが見込まれる。
「それとこの角です。この角によって穿たれたと思う後が木々に刻まれています。そのあとは転々と一定の場所にあるのでテリトリーを示すものだと思われます。こちらも殺傷能力は十分にあると思いますので気を付けてください」
 あと必要があるものがあれば可能なものは揃えます、とバルトレッドは告げ、依頼の説明は終わる。
 それから傭兵たちは準備を整え、現場へと向かうのだった。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
M2(ga8024
20歳・♂・AA
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
相良風子(gb1425
25歳・♀・FT
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
文月(gb2039
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

 説明を終えたバルトレッド・ケイオン(gz0015)に向け、ニッコリと笑顔で詰め寄る一人の能力者。
「バルトレッドちゃん、お久しぶり〜元気にしてた? 私の事忘れてないわよね?」
 ナレイン・フェルド(ga0506)が、柔らかい笑みを浮かべて話しかける。
「はい、もちろんです。またお会い出来て嬉しいですけど今回はパーティじゃ無いのが残念ですね」
 ちょっと苦笑いをするバルトレッドに見送られ、能力者達は現地へ飛んだのだった。

 ラスト・ホープの高速艇で飛び立ってから数時間後。
「それにしても一角獣ですか‥‥。もうちょっとロマンチックなシチュエーションなら良かったんですけど‥‥」
 森の中に足を踏み入れながら、セレスタ・レネンティア(gb1731)が少し残念そうに呟いた。
「馬のキメラか‥‥」
 そのセレスタの後ろを歩く相良風子(gb1425)は、まだ人的被害が出ていないと聞いて討伐に少し心苦しさを覚える。
 ‥‥しかし、所詮はバグアに作り出されたキメラだ。と、自分に言い聞かすしか無かった。
「敵は‥‥十頭前後、と。おまけに視界も良くないですね。これは厄介そうです」
 文月(gb2039)がリンドヴルムを装着しながら、現状を簡単に分析する。
 それにセレスタも頷いて同意した。
「予想よりも森の中が薄暗いですよね‥‥」
 現場の状況を肌で感じ取ると、能力者達は班を分ける事にした。
 本来は三班に分かれて行動する予定だったが、二班編成に変更する。
 A班:ナイレン、セレスタ、文月
 B班:風子、旭(ga6764)、M2(ga8024)、真田 音夢(ga8265
 事前の調べによると、一角獣は森の一部、約5km四方内で集中して目撃されている。
 二班に分かれた能力者達は、お互いがあまり離れすぎないように注意深く進んで、穿たれた木を探す事となった。
「テリトリーに入ったようですね‥‥。そろそろ来るでしょうか」
 B班の旭が問題の木を発見。それと同時に覚醒する。テリトリーに入った以上、一時の油断も禁物だった。
「旭さん、音夢さん、風子さん、宜しくね」
 M2が警戒を強めながら、これから共に戦う事になるメンバーへと声を掛ける。
 風子、旭もそれぞれ返事し、音夢も『すちゃっ』と右手を小さく挙げる。簡単な挨拶が、メンバー間の信頼を強めた。
「出来れば一角獣に見つかるより先に、こちらが見付けたいところですが‥‥」
 M2が眉をひそめて呟く。
「相手のテリトリー内ですもんね。ちょっと難しいかもしれません」
 旭が周りを見渡して言った。視界も悪い森。先に見つけるのは困難だろう。
 ――と、そんな二人の服の袖が、ふいにちょいちょいと引っ張られた。
 後ろで、音夢がジッと二人を見つめながら、少し離れた場所を指差していた。――草に覆われた地面を。
 それを見た風子が音夢の意図を察したらしく、そちらへ近付いて草を掻き分ける。
 そこには腐葉土にくっきりと残った――――真新しい蹄の跡があった。

 B班から1kmほど離れた場所で、A班のナイレンは一人で森の中を進んでいた。
 A班の作戦は、ナイレンが囮となって、視界の利く場所まで一角獣を引き付けて撃破する事。
 そのためナイレンは、ある程度まで来ると立ち止まり、「S−01」を空へと三回発砲した。
 銃声に驚いた周囲の鳥が羽ばたいていき、しばらくの沈黙。
 ――それからふいに、変化は訪れた。
(「来たわね‥‥」)
 銃声を聞きつけて、前方から動物がやってくる。真っ白の馬に長い角のついた獣。――報告にあった通りのキメラだ。
「‥‥こちらナイレン、一角獣と接触したわ。引き付けるわね」
 無線機に声を掛けると、
『文月とセレスタ了解、‥‥気を付けて戻ってきて下さい』
 という応答。
 ナイレンは無線機をしまうと、「S−01」を一角獣に向ける。木々の間をすり抜けて、早足で向かってくる敵。ナイレンはその胴体へしっかりと狙いを定めて――引き金を絞った。
 途端、炸裂音が森に一際高く轟く。
 FFを貫いて被弾した一角獣が一瞬だけよろける。が、すぐさま体勢を立て直すと、ナイレンへと向けて全速で走り出した。
「さあ、こっちへいらっしゃい? 私が相手をしてあげるわ」
 背中を向けるナイレン。計画通りに二人が待つ場所へと走り出す。
 ――としかし、後ろを振り向いたナイレンの視界の端に、更にもう二匹の一角獣の姿が映った。
 二匹は凄まじいスピードでナイレンに突進、角を突き出した体当たりを仕掛けてくる。
 咄嗟にナイレンは身を捻って角はかわしたが――突進にはモロに当たってしまった。鈍い衝撃と共に身体が吹き飛ばされる。
「たっ‥‥!」
 ナイレンは地面を2mほど転がると、すぐにまた立ち上がって駆け出した。
「こちらナイレン! ごめんなさい、キメラが三匹も釣れちゃった!」
 身体に大した怪我は無い事を確認しながら、無線機に叫ぶ。
『三匹‥‥! ナイレンさん、大丈夫ですか‥‥!?』
『急いで! キメラを視認したら私達も援護します!』
 その返答を聞きながら、ナイレンは悪路を全速力で踏破する。後ろから三頭並んで走ってくる一角獣。しかし、段々とナイレンとの距離が縮まっていく――。
 もう、すぐ背中からキメラの吐息すら聞こえるような気がした――そんな時。
 木々で遮られていたナイレンの視界が、急に広がった。
「今です、攻撃開始――!」
 無線越しでは無いセレスタの声。
 同時に、声とは逆の方向で銃を構えていたリンドヴルムの頭部が、青白いスパークを発光。
 ――瞬間、幾発もの銃声と共に、セレスタのハンドガンと文月のフォルトゥナ・マヨールーによる激しい十字砲火が始まる。
 それらの中心に居る三頭の一角獣は、その猛攻撃に大きくいなないた――。

 遠くから届く銃声。
 それを聞きながらB班は足跡を辿っていき、ついに四人はその主を発見した。
「‥‥こちらB班のM2、一角獣を二頭発見したよ。まだ気付かれてないみたい」
『了解、こちらは現在戦闘中です! 角に注意を!』
 M2はその無線で反射的にキメラの角を見て、出発前から考えていたある計画を実行する事にした。胸のポケットから貫通弾を取り出して銃に装填する。
 その隣で、ふいに音夢が隠れていた草むらから立ち上がる。
 一角獣達はすぐにその小さな姿を見つけると――そのまま走ってくる。対して、音夢は何も持たずに無防備に立っていた。
 音夢の武器を知っている能力者達は、自然と作戦が決まった。
 旭が隠れていた草むらから立ち上がり、一角獣の一匹に「S−01」で射撃を加えながら横へ走り出す。攻撃を受けた一角獣の一匹は音夢から旭へと方向転換をした。
 しかし旭は遠くまで行かず、辺りで一番太い木を背にして立ち止まる。好機とばかりに猛スピードで迫り来る一角獣の太く鋭い角。もう、瞬きした後にはその角が旭の身体を貫いている――という瞬間。
「はっ!」
 旭が身体を捻って横へ跳んだ。
 紙一重、角は旭のレザージャケットの端を切り裂く。その後、鈍い衝撃音と、メキメキッと太い木に何かが刺さる音が聞こえた。
 旭が後ろを振り返ると、キメラの角が根元まで木を貫いているのが見えた。旭はニヤリと笑って、角を引き抜こうともがく一角獣に近付き――ヒラリと背中に飛び乗る。
「よっと、‥‥どうどう。良い子だから、‥落ち着いて下さいね‥!」
 一角獣が暴れて振り下ろそうとするのを、旭は必死で首元に掴まって落ちないように苦心した――。
 一方、もう一匹の一角獣は音夢との距離を猛烈に詰めていく。
 その距離わずか数メートルという所まで来て、一角獣がその小さな獲物へと飛びかかろうと――した矢先。
 その真下の草むらから何かが飛び出してきた。
 高性能機雷、ワイズマンクロック。音夢が隠しておいたそれが、飛びかかる一角獣の首元に直撃、爆発する。
 あらかじめ設置していたものであったため、スキルの効果は乗らなかったものの、不意の直撃を受けてバランスを崩す一角獣。そこへ追い討ちをかけるように続く連続した銃声。
 M2が怯んだ一角獣へ向けて、貫通弾を装填したドローム製SMGで角を砕こうと試みていた。撒き散らされた銃弾は角へ重点的なダメージを与える。‥‥が、多少のヒビは入ったものの角を折る事は出来ない。
「ちっ、やっぱりダメか!」
 舌打ちするM2。
 と、その隣から疾風の如く真っ赤な人影が飛び出す。――風子だ。深紅の瞳を敵に向け、抜刀しながら走り抜ける。そうして一角獣の足に狙いを定めると、流し斬りで一角獣の側面へ回り込み、鋭い剣筋で何度も斬りつける。
 思わず崩れ落ちそうになる一角獣。しかし、何とか耐えると――無傷な方の足で風子に蹴りを放った。
「つっ‥‥!」
 風子の左肩に巨大な足がめり込む。身体が吹き飛ぶように地面へ投げ出された。
 さらに一角獣は向きを変えると、音夢へ角を突き出して迫る。
 多少動きが鈍っていた為に音夢は角の直撃は避けたが、切っ先が腕を軽く切り裂いた。しかも、無理な回避で体勢を崩した所へ、更にもう一度切っ先が迫る――。
 瞬間、銃声が響いた。
「させないよっ!」
 M2のSMGによる牽制射撃。急いで発砲した為にほとんどが射線を遮る木々に当たったが、不意の攻撃に一角獣は怯んで動きを止めた。
「やああぁぁっ!」
 そこへ、一角獣に跨る旭が、猛スピードで駆けてくる。そうしてすれ違いざま、音夢を襲う一角獣へ月詠を振り下ろした。その刀身は一角獣を深く切り裂き――絶命させた。
「よしっ!」
 それを見た旭が満足げに頷く。しかし、その一瞬の隙を付いて、乗り付けていた一角獣が暴れ、馬上から振り落とされた。
「いたたたっ‥‥」
「全員警戒をっ! 新手みたいよ!」
 風子が叫んで警戒を呼びかける。見ると――、森の奥から一角獣が二匹姿を現した所だった。

『こちらB班のM2、敵を一頭仕留めたよ。‥‥代わりに、もう二頭現われたけど』
「了解です、こちらも二頭仕留めましたが、また二頭出てきました‥‥!」
 セレスタが応答しながら、アーミーナイフを使った急所突きを繰り出した。
 急所に刺さり悲鳴を上げる一角獣。セレスタはナイフを抜き取ると、そのまま二人の元まで後退しながらハンドガンで射撃を加える。
 文月も基本は銃撃による前衛のサポートを行っていたが、状況が乱戦状態の為に、それだけに専念する事は出来無い。
 ナイレンと戦う一角獣に発砲していると、――横手から一角獣が飛びかかってきた。
「っ‥‥! 貴方の角と私の爪、どちらが強いか試してみましょうかッ!」
 文月は振り返ると同時に月詠を抜刀。スキル竜の鱗、竜の爪を使用した事によりAU−KV全体に淡い光が纏い、月詠を持つ腕にスパークが走った。
 激突する角と刀。
 リンドヴルムの装甲が剥がれるが、勝負は刀が優勢だった。振り下ろした月詠が一角獣の身体を深く切り裂き、トドメを刺す。
 その横で響く銃声。
 セレスタの銃撃がナイレンと戦う一角獣の足を貫く。間髪置かずにその足を狙ってナイレンが刹那の爪を振るった。
 足を壊され崩れ落ちる一角獣。しかし、ナイレンはすぐには追い討ちをかけずに、地面に寝転んだ姿勢から後方――セレスタに迫っている一角獣へ「S−01」を発砲。注意を引く。
 二頭の一角獣がナイレンに襲い掛かってくる。ナイレンはすぐさま立ち上がろうと手に力を込めた――が。
 モゾッ、と手の中で何かが動いた。
「きゃああああ、変な甲虫ぅぅーーー!!!」
「ナイレンさん、今は虫などにはっ‥‥!」
 リロードを終えたセレスタは叫びながら、瀕死の方の一角獣を撃ち抜く。二発目の銃撃で一角獣はその場に崩れ落ちた――。

『こちらA班文月。二体撃破、残り一頭です!』
「了解、こっちもなんとかなりそうよ」
 風子が無線連絡に応答しながら斬り込む。一角獣の太い胴体へ、飛び掛かるように刀を突き刺した。さらにその刀身が一瞬赤く輝いたかと思うと、そのまま風子は下へ切り裂く。
 血を撒き散らして一角獣が倒れた。
 別の場所では、音夢がワイズマンロックを一角獣に向けて爆発させている所だった。更にそこへ、赤い弾丸が飛来――FFを貫いて着弾する。
 M2が知覚攻撃の方が有効である事に気付き、布斬逆刃を使った銃撃だった。二人の連携にその一角獣はそのまま絶命する。
 そうして、いつの間にかB班の敵は最後の一頭になっていた。
 その相手へ猛然と走り寄る影。
「でやぁぁぁっ!! 食らえ、――暁!」
 旭の全身全霊を込めた必殺技である――『暁』。
 その身体は燃えているように赤いオーラをみなぎらせ、さらにその手に持つ月詠までもを赤い輝きを纏わせると、一角獣の眉間へ――渾身の突きを加える。
 強烈な衝撃にその巨体は宙を舞い、――派手な音を立てて地面へ落ちた。

『B班、キメラ殲滅に成功しました』
「了解、私達ももう終わるわっ!」
 そう言って、刹那の爪を振るうナイレン。
 しかし、一角獣は傷つきながらも、角を振るおうとする――。
 その敵の動きを、文月とセレスタの銃撃が阻んだ。
「大丈夫ですか、ナイレンさんっ!」
 セレスタが声を掛けながら発砲。ナイレンはそちらに軽く頷いた。
「えぇ、大丈夫よっ。これで――終わりッ!」
 強力な回し蹴りから繰り出される刹那の爪が――、キメラの生命を刈り取った。

 ‥‥両班が一角獣を殲滅した後、さらに捜索は続けたものの倒した以上の一角獣は見つからなかった。
『この一帯のキメラは一掃した、とみていいみたいね‥‥』
 無線越しに風子が呟いて、それでもまだ警戒しながら納刀する。
『そうですね、周囲に敵影はありません‥‥。任務完了、でしょうか』
 セレスタも応答すると、構えていたハンドガンを下ろした。
 倒した数は九頭。ほぼ依頼の説明にあった通りである。
「角‥‥、持ってかえって好事家に売れないかな‥‥」
 文月のそんな呟きを聞きながら、能力者達は来た道を引き返し始める。
 しかし、冷静になって現場に戻ってくると、一角獣の血で染まったその場所は――あまりにも凄惨な様相を呈していた。
「生まれ変わって‥‥生きる事を楽しめる人生が来る事を願ってるわ」
 ナイレンは悲痛な表情で言うと、その戦場跡に青いバラを投げる――。
 一キロほど離れたB班の戦場跡では、音夢が死んだ一角獣の身体を悲しそうに撫でていた。
「‥‥‥‥ごめんなさい」
 と風に流されそうな声で呟いて。
 それでもキメラがバグアの『兵器』である以上、これ以外の方法は無かったのだった。


(代筆:青井えう)