●リプレイ本文
●そこは危険地帯
ニューヨーク州付近にある廃墟となった街を目視できる場所に、傭兵達は降り立つ。
目的の場所は、その廃墟の、連絡が途絶えたポイント。
犀川 章一(
ga0498)は隣に立つアグレアーブル(
ga0095)へと視線を向ける。
何? と少し首をかしげて章一をアグレアーブルは見上げた。
「アグ‥‥いや、何でもない‥‥成功させよう、な」
その言葉にアグレアーブルは小さく頷きながら、思う。
章一は自分がここにいることを快くは思っていないだろうが、そんなことは構わない。この件を成功させて無事に帰すのが第一なのだ。
「危険区域付近での活動‥‥常に周囲に気を配らないといけませんね‥‥」
朧 幸乃(
ga3078)は遠い遠い先を見つめる。
まだ今の段階では危ないそこに、いつかは踏み込めるものだと思って。
「生存者救出の為に、戦地に散っていく部隊員達‥‥そんな映画在りましたよね。嗚呼、思い出したく在りませんでした」
と、冗談はここまでと八百 禮(
ga8188)はいつも以上に慎重にいこうと気を引き締めてゆく。
「人の居ない町‥‥か。あまり気分のいいものじゃないな‥‥捜索対象が生きていれば良いんだが」
藤枝 真一(
ga0779)はこれから進む方向に視線を送る。
安全ラインは今いる場所。
ここから先は何が起きてもおかしくはない、と思っていたほうが良い場所だった。
「理想は敵との遭遇ゼロ、かな。状況的に厳しいけど倒れて失敗ってだけじゃ済まないしな」
ライナ(
ga8791)はそうだよね、と隣にいた薬袋音へと声をかける。
音は、そうだねーとまだのんびり気味だった。
「バルトにお前を無事に帰すと約束している‥‥あまり世話を焼かすな」
「えー、大丈夫だよー。その辺はちゃんとわかってる!」
でもありがとう、と真一へ向かって音はいう。
「バグアやキメラを殲滅する‥‥そのために私は戦っています。みんな無事に戻ってきましょう」
優(
ga8480)の言葉に2班に分かれて、作戦の再確認。
「‥‥さて、始める‥‥か‥‥」
そして西島 百白(
ga2123)のつぶやきでもって、2班に分かれたメンバーはそれぞれ行動を開始した。
●息をひそめて
出だしは好調だった。
遠くに薄らと街の影。それが目指す場所だった。
アグレアーブル、真一、優、章一らA班は真一が探索を担当し、前方を優とアグレアーブルが、背面を章一が守る形で進んでいた。
ところどころにある岩陰などに身を隠し進んでいく。
アグレアーブルは足取り軽く、感覚は澄ませ、優は覚醒し、自分たち以外の気配を探るように。
「‥‥何かいる」
優は何かの気配を感じ、仲間に止まるように促す。
しばらく息を潜めていると、キメラが一党、それも大型のものが駆け去ってゆく。
こちらには気が付いていないようで、そのまま素通りをしていく。
ほっとしようとしたのも束の間、そのキメラが立ち止まりあたりをきょろきょろとする。
戦うのは簡単だが、ここで戦って、騒ぎを聞きつけどんどんキメラが増えていく、ということになれば自分たちのなすべきことができない。
じっと、息を抑え沈める時間が続く。
しばらくして、止まっていた足音がまた響く。今度こそ本当に、キメラは去っていくようだった。
「もっと、周りに注意しないといけないかもしれないな‥‥」
「ここからもっと危険‥‥」
一度目の合流ポイントへはあと少し。
ゆっくり確実に進んでいくと、先にもう一班は辿り着いていた。
物陰に隠れ、無事だったことを喜びつつ静かに情報交換をする。
「こちらはキメラとも出会いませんでしたが‥‥どのあたりでした?」
地図を広げて幸乃は問う。
その場所を書き込んでゆくのは帰る時のことも考えてだ。
「そちらは何もなかったんですね」
「うん、何事もなく、もう少しそっちが遅かったら戻ろうかって言ってたんだよね」
「そうだね。どちらが欠けても、危険なお仕事だから」
次の合流地点の確認、改めての準備も終わり、2班はまた出発する。
「音さん、君あればこそ。想えばこそ、今‥‥此処に居ます。だから、俺は‥‥平気」
「うん、ありがとう!」
と、出発前に章一は音を呼びとめる。また無事に会おうと、言い合いながら。
出発したB班は禮を最後尾に幸乃、百白、ライナ、音は進んでゆく。
「遠くに敵の影は‥‥」
「こっち側は大丈夫だよ」
双眼鏡を離しつつライナは言う。幸乃もこちらは大丈夫です、と進行方向の安全を確認していた。
ライナを先頭に、五人は進む。
「ニューヨーク州には迷い込まないように注意しましょう‥‥」
「キメラから逃げて、そっちのほうに行っちゃった、なんてなったら洒落にならないよねー」
帰る時に邪魔になりそうなものをライナがその場所から少し離したところに置く。
「そこ、ぬかるみあるからちょっと気をつけて‥‥あれ?」
ぬかるみにはまって足跡を残しても、と思い注意を促しに後ろを向くライナ。
先ほどのけたものがもとの位置に戻っている。
「‥‥?」
「どうかした?」
「うん、さっきのけた‥‥」
「ああ、だめだよ通り道においちゃ!」
元に戻した犯人は音、だった。
通り道にものをおいてはだめ、というが通るためにのけたはず。
だがここでもめても時間の無駄だと感じてライナはそうだねと頷いたのだった。
「さて‥‥ここから当分身を隠す場所がありませんね」
と、地図で確認していた、何も身を隠すものがない場所へとたどり着く。
だがここを通り抜けなければ、目的の場所にはたどり着けない。迂回はできるが時間のロスは相当なもの。
「まっすぐ‥‥この方角ですね」
方位磁石で進むべき方向を幸乃は確認する。
「敵は極力回避。だけど、ここじゃ隠れる場所もないから一気に突っ切るのが一番かね」
「異論無し」
「戦闘になったら‥‥極力迅速に‥‥」
「何時も以上に慎重にですね。何も出ないことを祈りましょうか」
できるだけ気配を消し、何とも遭遇しないことを祈りつつ、次なるポイントへと彼らは向かう。
この後も数度、全員で合流し、目的の廃墟へと、彼らはたどりつくのだった。
●得たもの
連絡が途絶えた街。そこへ無事にたどり着いた彼らはポイントの探索を開始した。
崩壊した建物。
なにも、そこに似合わないものがない状態。
逆にそれが、どこか不自然であるようでもあった。
アグレアーブルは長い髪をクリップでひとまとめにして、瓦礫の間をのぞきこんだり、なるべく物音をたてないように捜索をしていた。
「‥‥戦闘痕」
と、まだ新しい戦闘の後を章一は見つける。
それはここで確実に何かがあったことを示していた。
そしてそのあたりを先に捜索していた真一は、連絡が途絶えた者たちが使っていたであろう無線機を見つけていた。
破壊され、なんとなく原型がわかるようなその形。
それを見つけた付近を念いりにそれぞれが捜索を始める。
がらり、とゆっくりと大きな瓦礫をのける。
と、ひらひらと。
ひらひらと舞う一枚があった。
それを見つけた優は気になったのか空中に舞っていたのを捕まえた。
少し破れたそれは何かのチケットのようだった。
だが、その紙は汚れてはいるもののまだどこか真新しさを感じさせるものだった。
「これは‥‥」
「ん、何かみつけた?」
周囲を警戒していたライナは優が何かを見つけたのをみてそれは何、と問う。
「ちょっと汚れてて見辛いけど‥‥滝の絵、かな?」
「とりあえず持って帰ってみる? 他にめぼしいものって‥‥壊れた連絡機しかないから」
生きてはいないのか、と場の空気はしんみりとなっていた。
一度集まり、戻ろうかという時、ふっと、なんとなくライナが向けた視線の先。
そこに動く気配を感じたのだった。
「‥‥待って」
「どしたのー」
静かに、と身振りで示す。そして視線で何かいることを知らせる。
今までのこの場での探索の落ち度はなかったはず。
となると、もとから潜んでいたり、偶然通りかかった敵である、という確率も高くなる。
「私が‥‥」
幸乃は覚醒をし、瞬天速で一気に、間合いを詰める。もし敵であればそのまま逃げるつもりで。
そしてそれを仲間たちもわかっており、すぐに動ける状態で見守っていた。
「!」
そしてその動いた気配の主を見て大丈夫だと仲間へと合図を送った。
そこには、生存者がいたのだった。
「君、たちは‥‥」
「まだ‥‥生きているな?」
百白のぶっきらぼうな物言いだったがそれでも生存者は安心したようにほっと一息をついた。
「助けに来ました。怪我とかは‥‥ない、とは言えないようですね」
相手の様子をみて章一は手早く治療をする。
「大きな怪我はないみたいだな、じゃあ錬力は温存だ」
章一の手当で大丈夫だと判断し、真一は覚醒をやめる。
まだ帰り道があるのだから、温存は必要だった。
「長いは無用かな。俺が背負って行くよ。歩いてもらうより早いだろうし」
はい、と差し出されたライナの背に、生存者は体を預ける。
「あ‥‥このあたりにチケットのようなものはおちて、ませんでした?」
「これ?」
チケット、といわれて優は見つけたものを出す。
それをみて、生存者はよかった、と呟いていた。
そのチケットは、バグアが落としていったものだ、と傭兵たちに生存者は告げた。
「あの、ほかの皆さんは‥‥」
その言葉に生存者は一瞬息を止める。だがこれは言わなくてはいけないことだとゆっくりと話始めた。
「仲間は‥‥散って連れて行かれたようで‥‥僕だけが瓦礫の奥深くに隠れていたから無事だったんだ。君たちの微かなもの音を感じてでてきてよかった」
そう言った生存者の表情は、自身の無事を安心したようで、だが残念なようで、色々な感情がおり交っていたのだった。
●無事に‥‥
「あと少しだから頑張ってー」
迎えが来ている地点まではあと少し。
そこにはヘリが待っているはずで、その姿がうっすらと見えていた。
「あと少しですね、ここまで何もなく来れて‥‥最後にひと波乱あるみたいですね」
仲間とは一呼吸遅らせて周囲状況をみていた禮は後方に見えたものに視線を送る。
可能ならば回避が基本、だがこの場所で隠れれば、この先にある脱出のための道がふさがれる恐れがある。
すぐさま禮は覚醒する。右頬から右肩に掛けて、紫色の奇妙な文様が浮かび上がり、いつでも戦える体勢。
「先に行くな」
生存者を背負っていたライナは仲間から抜け出すように目的の場所へ向かう。
このまま戦っては足手まといなのは予想済み。
「‥‥面倒なときに」
百白は立ち止まり、覚醒する。
「‥‥すぐに‥‥終わらせて‥‥やる」
体全体が白く光り、目は獣のように鋭くなる。
向かってくるキメラは一体。
ライオンの体に鷹の頭、そしてしっぽは蛇と他にも多様な生物を掛け合わせたものだった。
百白に続いて優もキメラを倒すべく向かう。
叫ばれて仲間を呼ばれては困る、短時間で一気にケリをつけるべく向かう。
真一はその後ろより、援護と練成強化を仲間へとかけていく。
その間に、ライナと、彼をフォローするようにヘリへと向かっていた。
「よいしょ、と‥‥じゃあ、俺もあっち手伝ってくるから」
ヘリへと生存者を乗せるとライナは仲間のもとへと向かう。
幸乃は彼らが無事にヘリに乗り込むのを確認してからライナと入れ替わるようにあたりを注意しつつヘリへ。
「章一さん、乗って」
「俺よりもアグが乗れ」
アグレアーブルをヘリに章一は押し込む。そのまま仲間のもとへ向かおうとするが、逆にがしっと腕を掴まれてヘリの中へ。
「まぁ、もう終わりそうだし大丈夫だよ」
見ればすでに、退治も終盤。
禮の両断剣がその喉元を狙って放たれ、距離をとっていた百白のソニックブームが禮が離れた瞬間に繰り出される。
ぐらりと揺れるキメラの体。
そこへ優が駆け込み、急所を狙って攻撃する。
それでもまだ息のあるキメラに、走りこんできた勢いを乗せて、覚醒し仄青い燐光のオーラを纏うライナの流し斬りが決まる。
その瞬間、ライナのオーラは火花のように明るい赤の光へと変化した。
ぐっと踏み込み、懐へ入って百白は追い打ちをかけるように紅蓮衝撃を向ける。
攻撃をうけ、叫び声を上げかけるところ、さらに深く、声を発する喉を禮は突く。
そして呼吸が止まったことも確認し、長居は無用とヘリへと向かう。
「全員‥‥乗っていますね」
幸乃が確認をし、ヘリは飛び立つ。
ここよりも安全な場所へと。
●後日
後日、それぞれのもとに生存者の復調と、そこで得たモノについての情報が少しだけ流される。
バグアのキメラ闘技場。
その場所の目星が、付けられたということ。
そして近々そこへ向かう作戦が、軍では立て始められるのだった。
場所はニューヨーク州の西端にある街、『バッファロー』。
バッファローにはナイアガラの滝が、ある。その周辺を怪しいと軍は睨んでいた。
そしてあの少し汚れた紙切れ、チケットはそこへいたるものへとなる。