●リプレイ本文
●尾?
「あれが噂の尾か‥‥」
岩の山肌から存在感確かににょっきりとはえている、尾。
それは今静かに横に伏せていた。
相手に悟られるように意識を向け、その様子を傭兵たちは伺う。
「これは困る場所にニョッキリと」
ライナ(
ga8791)は瞳を細め迷惑さんだと困ったような笑みを浮かべてその尾へと視線を向ける。
その尾と思われる部分を観察すると外皮の在り方でそれが尾なのかわかるかもしれない、と思って凝視。
だが外皮の向く方向に特別規則はなさそうで、これではわからない。
けれども尾の裏表、はわかる。鱗におおわれていない部分は、下側だろう。
「この正体も気にはなりますが、しっかり倒すことを優先するといたしましょう」
藤川 翔(
ga0937)はきりりと言葉を発する。
「『頭隠して尻隠さず』ってか? まさか恥ずかしがりやなんてことはないだろうし‥‥よくわかんねぇ奴だぜ」
社 槙斗(
ga3086)はうーむ、とその姿をじーっと見る。
「頭隠して尻隠さず‥‥って俺が先に言おうと思ってたのに! うはっ! 俺マジ博識!!」
槙斗に言葉を取られつつも植松・カルマ(
ga8288)は自分すごいぜの勢いで声をひっそりあげた。
同じようにじっと尾をみていた神森 静(
ga5165)はあれが尾なら、本体に逃げられないように、しないといけないわね、と考えていた。
尾と思えるものだけ見えている。それもまたおかしな話だな、と炎帝 光隆(
ga7450)は思っていた。
「正体が何にしろ、人様に悪さをするキメラは放って置くわけにはいかないからな」
猫瞳(
ga8888)はその瞳を細めて言う。
大蛇か大蜥蜴か、はたまた謎の巨大爬虫類か。
それはまだ隠れていてわからない。
「動きはランダムなのか、360度全方位に動かせるのか‥‥まずそこからだな」
白・羅辰(
ga8878)は冷静にいいつつも気持ちははやっていた。
初任務、絶対に迷惑はかけられないし、何が何でも成功させたかったのだ。
「うーん‥‥よくよくみても難し‥‥あれ?」
じーっと間合いの外から観察していたライナはふっとあることに気がつく。
なんだか尾の先がぴすぴすと動いているような、そんな気がした。
そしてさらにじーっと目を凝らせば、黒い点のようなものもあった。
「あれ‥‥やっぱり、尾じゃない、のかな?」
双眼鏡をすちゃっと構えてライナはそこをよくよくみる。するとぱちぱちと瞬きのような動き。
「頭っぽい‥‥」
ライナはそういって、他の面々にも確認してもらう。
確かに言われてみれば、尾ではなくて頭、のような気がしてくる。
「尾でも頭でも、攻撃をよけることには変わりないかな」
と、さんざん悩んでもしょうがない。
あれが尾か頭なのかはおいおいとして、攻撃範囲がどれほどのものかを調べることに。
それは戦いの局面でとても重要なことだ。
ぽいっと拳くらいの石を投げてみる、
それにぴくりと横たわっていた尾、改め頭はぴくっと反応し、頭を持ち上げてその石を上から叩きつけるように壊すとまた同じように道へと横たわった。
「どうやら斜め方向は反応するみたいですね」
「軽く攻撃を仕掛けてみて様子をみてみるか‥‥」
羅辰は言ってそろそろと、攻撃の射程圏外を歩く。
続いてライナもそうだね、と覚醒をする。全身に仄青い燐光のオーラがその身に纏われる。
「うぉっ、でっけー尻尾だな‥‥本体は一体どんなんだよ‥‥できれば本体も見てみたいところだが、このまま討伐できれば‥‥」
羅辰は少し近づくだけでその尻尾の大きさがまったくもって、かわって見えることに声をあげる。
埋まっている部分、何がでてくるかはまだ誰もわからない。
現われた傭兵たちの姿に、キメラはその顔をあげる。
じりじりと取られる間合いを、はかるように。
●尾、改め頭との戦い、開始
「援護は全力でするでおじゃる!」
覚醒した翔は練成強化を仲間たちの武器へとかける。
自分が戦うよりも、仲間たちの援護のほうがためになると思ってだ。
様子を見ることも兼ねて当たるかあたらないかのきわどい攻撃を繰り出す。
しばらく攻撃していくうちに、地面から埋もれているあたりへの攻撃はどうやらかわせないような、様子だった。
だが、そこに攻撃を繰り出すには深く踏み込んでいかなければならない。
踏み込もうとすれば、すぐ頭は動いて攻撃をしようとしてくる。
攻撃の手を波状攻撃にすれば、チャンスが訪れるような雰囲気。
「俺のパネェ本気に恐れ慄くといいッスよ!」
ぐいっとヘアバンドの位置を調整して、カルマは覚醒する。
眼球は赤に染まり、全身の肌は鈍色になって硬く硬くなってゆく。そして全身に幾何学的な文様のエネルギーラインが走った。
それを皮切りにか、本格的な攻撃態勢が作られてゆく。
半孤状に前衛に立つ者たちが並び立つ。
「やはり、堅いし、耐久力ありそうだな? 直接攻撃する奴、飛ばされるなよ。そこまで、フォロ−は、できないぞ」
後から援護する静は覚醒してその髪を銀色へと変えていた。冷たく前衛に立つ者たちへと声をかける。
「最高にシビれさせてやるぜ!」
槙斗の両腕には稲妻模様のタトゥーが走る、それは覚醒した印。
槙斗の攻撃手段はソニックブーム、だがそれは二発程度が限度、その使うタイミングを間違えないよう、槙斗は一番いい時を待つ。
「やっぱ実戦のスリルはたまらねぇーな!」
側面側に回った羅辰は初めての実戦に興奮度をあげてゆく。
全身に血管が浮き出て、覚醒とともに戦闘における快楽性を感じていた。
覚醒してもその姿が変わらない猫瞳はサーベルを振り下ろす。
本当は棒きれのようなものが使いやすいのだが今の相棒は頂き物のサーベルだった。
その猫瞳の攻撃のあとに、光隆の急所突きが繰り出される。光隆の瞳は黒く染まりその犬歯は今、鋭く伸びていた。
傭兵達の波状攻撃を、全てよけることはキメラにはままならない。
キメラは大きくふりをつけて、その頭を持ち上げる。
「来るぞ!」
それをみたライナは仲間に声をあげて注意を促す。ライナ自身も大きな振りを喰らっては、と一歩二歩と射程圏外へと下がった。
大きく振られた頭は、薙ぐように動く。
それの起こす風圧はすさまじいもので、一歩二歩の距離では身がぐらつくほどだった。
そのキメラの大きな振りのあとに、槙斗はソニックブームを繰り出す。
頭のふり終わり、そのあとの隙に重ねての攻撃は動きを抑えるのには十分だった。
「俺のヤッパが光って唸って大騒ぎ!」
「この暴れん坊テイルめ!」
カルマと猫瞳はその隙に走り込み、その付け根あたりへと攻撃を打ち込む。
打ち込んで、そのまま攻撃ではなく一度離れて距離をとってゆく。
同時に打ち込んだ攻撃で鱗ははがれ、防御力は下がってゆく。
「今でおじゃる!」
翔は練成弱体を敵へとむける。攻撃をうけ、その衝撃からまだ回復しきれていない今こそ、相手を弱めて攻撃を繰り出すタイミングとみてだった。
「よし!」
最初に飛び込んだのは羅辰で、そのついた傷跡へと同じように流し斬りを打ち込む。
そしてまた深くなる、キメラの傷。
さらに追い打ちをかけるように光隆の紅蓮衝撃。
一度跳ね上がった首は、その身を地面叩きつけるかと思ったが、持ちこたえてそのまま攻撃態勢に入ろうとする。
けれどもそうはさせないと槙斗はソニックブームをもう一度放つ。
それと同時に、仲間の攻撃タイミングをしっかりとみていたライナは合わせて前へでた。
ソニックブームをキメラがくらうと同時に、ソードをしっかり握り、仲間がつけた傷跡へと流し斬りを確実に、当てる。
と、今まで岩肌に埋まっていたところに、攻撃の衝動をうけていたのかぴしっと日々が入る。
そして大きくキメラは動き、その巨体を岩肌から抜け出してきた。
傭兵たちは本体がでてくるのか、と再度立て直すために距離をとったのだが、そのキメラはそのまま、頭を大きな音と衝撃をもって地に落とした。
「‥‥終わり?」
しばらくたってもキメラは動く気配はなく、それぞれが戦闘態勢を解くのだった。
●戦い終わって
「光! 合! 成!」
戦闘後、受けた傷を治すためにカルマは活性化を行っていた。
その後ろでは、まだ少し埋もれたままの巨体をみていた。
「結局こっちが頭で‥‥まだ埋まっているほうが尻尾でいいのかね」
「終わった‥‥まさかそういうふうになってたなんて」
戦闘の最中、倒れる直前にでてきたその巨体。
それは丸い形に近い体で、小さなヒレのようなものがついていた。
「しかしまあ‥‥どうやったらこんな風になるんだろうな?」
光隆は今その姿を目にして呟く。
山肌に自ら埋もれていたのか、それとも何らかの要因で埋まってしまったのか。それは誰にもわからない。
でも一つ言えるのは、無事にキメラ退治が終わったということだった。
「お疲れ様でした。しかし、皆様無事ですが、汚れましたね? 一体何がしたかったんでしょうね? このキメラ?」
静は山道での戦いでついた砂埃などを払いながら言う。
「今日はありがとな、デビュー戦がこのメンバーで良かったぜ!」
羅辰はにかっと笑ってそれぞれの顔を見回していう。
と、猫瞳は思う。
何かを考えているような風にライナは気がついて、どうしたのかと尋ねた。
「何か、そう、得体の知れないモノと対決する、って感覚が妙に身近に思えて‥‥ま、いっか。必要ならいつか思い出すだろうな。」
失ったであろう記憶を思いつつも、猫瞳はそれをいつか思い出すと前向きに考え、ライナはそうだといいねと笑みをむけた。
「ニョッキリも無事片付いたことだし、帰ろうか。明日からまた無事にこの道を使ってもらえるかな」
ライナはキメラを見、そして街の方をみる。
「人々はこれで安心できるでしょうか」
他にキメラがいないかどうか確認してきた翔は呟く。
山道をふさぐキメラの脅威はなくなったが、他のキメラがいないともかぎらない。
世界にはまだ多くの人々が、彼らの助けを待っているのだった。