●リプレイ本文
●鹿待つ山の中へ、の前に
その鹿キメラのいる場所は、清々しい空気をもった場所だった。
言葉を変えるならばのどかな田舎。
「とりあえず、聞き込みからいきますか」
情報を集めることは大事なこと。
それぞれ手わけして、聞き込みを開始する。
「夜まで長引けばお騒がせするかもしれません、その時はご容赦ください」
犀川 章一(
ga0498)は聞き込みと同時に、住民たちへ配慮をお願いしてゆく。
根回しはとても大事。
「皆様方が安心出来るよう、尽力致しますわ」
聞き込みと同時に不安は取り除きますとロジー・ビィ(
ga1031)は微笑む。
住民たちにとってそれは、安心を促すものとなっていた。
「地図をもらってきた、徘徊ルートも情報から読めそうだ」
レイアーティ(
ga7618)は人数分の地図をもらい、それを配る。
すでにそこには印が何箇所か刻まれていた。
「あ、ここはあまり地理がよくないようだ」
霧島 黎人(
ga7796)はもらった地図を見つつ、言う。
それぞれがさらに集めてきた情報から大まかに立っていた作戦は固まってゆく。
「この崖前には網柵があったほうがよさそうだな」
上善如水(
ga7946)が示した場所は、進まれては追うのに難しくなる場所だった。
「‥‥うまく、完遂できるといいですね」
見ていた地図から顔をあげて飯島 修司(
ga7951)は呟く。
その想いは誰も同じだ。
初めての実戦となる八神零(
ga7992)は軽く震えていた。
それは恐怖などではなく、武者震いだ。
「鹿キメラ‥‥初めての実戦の相手としては、手頃な相手かもしれんな‥‥」
「よっぽどの無茶とか、しなければ私たちなら大丈夫でしょー、がんばろうね!」
零の肩をぽむ、と叩く薬袋音。
と、むぅ、と一人考え込んでいた藤枝 真一(
ga0779)が口を開く。
「‥‥鶏肉はかしわ、猪肉はぼたん、馬肉はさくら、鹿肉はもみじという‥‥鹿キメラ、是非、食材としてGETしたい」
鹿キメラの進む道は、どうやら鍋らしい。
●鹿キメラと崖と
鹿キメラたちに気がつかれぬよう、進まれては困る場所に罠を置いて行く。
網柵や、他にもバネ式の罠などなど。
「薬袋。間違ってかかるなよ?」
「な、それはいくらなんでも馬鹿にしてませんかー!」
「いや、一歩下がると罠があるし」
「‥‥」
「真一、罠はこちらでよろしい?」
真一の指示のもとロジーも罠を一つ二つと設置。
「他の動物さんがかからなければ良いのだけど」
こうして時間をかけて罠は設置され、鹿キメラへの追い込みへとはいる。
事前に遭遇予定ポイントにスタンバイするのは如水と修司、真一。
如水は樹上待機をし、禁煙。
いつもあるものを手放す状態に、溜息が漏れ続け増えていく。
その中で、生きる意味、自分とは何かを哲学し、さらに溜息がふえるエンドレスループにはまっていた。
その頃の追い込みA班、章一と黎人は、鹿キメラの群れを見つけていた。
予定のポイントとは、少し離れた場所。
「鹿狩り‥‥始まりだ」
黎人は呟き覚醒する。
瞳孔は縦長に、赤い瞳は金へと変わる。
同じように章一も覚醒。
黒い瞳は蒼に、髪は白銀へと染まりゆく。
二人の出現に鹿キメラたちは驚き、走り始める。
進んでいく先は予定のポイントだった。
予定通りの動きに、二人は追いたて開始。
そのざわめきは他の班にもかすかに届いていた。
「‥‥何か聞こえたよね」
「そうですね」
息をひそめて潜伏していたB班、レイアーティと音は顔を見合わせる。
ごそごそとあたりを伺えば、かすかに木の枝などが折れる音、のようなものが聞こえていた。
「誰かが遭遇したのかもしれませんね」
「かもねー」
などと、ちょっとばかりのんきな二人の横を、鹿達が走ってゆく。
「‥‥なんか立派な角のいたよ!」
鹿を追うように動いてくる黎人と章一の姿をみて、二人も追い込みに加わる。
右と左から、逃がさないように。
そして鹿たちの向う先にはC班がいた。
どちらに逃げられても、そこは大丈夫なポイント。
罠か、仲間のいるポイントか。
零とロジーは鹿の姿と、仲間の姿を視界の中におさめた。
「驚かせて向かわせましょう」
零は頷き、態勢を整える。
ロジーは銃を構え、足元を狙って撃ってゆく。
仲間のいる方へ、追い込めるよう気をつけながら。
そしてそのもくろみは成功し、鹿たちは、潜伏班がいる方へと進んでいた。
潜伏班は、周囲のざわめきを感じまた緊張していた。
「人の世の生き血を啜り」
その様子を樹上から感じていた如水は覚醒を開始する。
「不埒な悪行三昧」
鹿キメラたちがポイントにはいって、一瞬の我慢。
「醜い浮き世の鬼(バグア)を、退治てくれよう」
その後に飛び出し奇襲をかける。その瞬間口には禁煙解除で煙草が既にあった。
目の前にいたのは立派な角をもつ鹿キメラ。
その角は、交わりあい、ある種槍のようでもあった。
飛び出した如水と修司の武器に真一は練成強化をかける。
真一のその左腕には、覚醒し、電子基盤のような幾何学模様が浮かびあがり、淡い緑の光を帯びていた。
と、修司はぱっと逃げようとしたキメラの前に瞬天速で回り込み、動きを封じる。
「十字架、あるいは剣‥‥か」
ふっと、覚醒して現われる手の甲の模様をみて、修司は自問気味に呟いていた。
その間に追いついてきた仲間たち、くるっと囲みこむように、陣形がなっていた。
角をもって突っ込んでくる鹿キメラ。
その角をヴィアで受け止める章一。
鹿キメラがふっと後へ引いた瞬間、そのまま二段撃を繰り出す。
攻撃があたって動きが一瞬止まった間に、ロジーは後から角狙いで流し切り。
高い音を立てるその角は、なかなか頑丈そうだが折れないことは、なさげな手ごたえだった。
「‥‥悪いが一頭たりとも逃がすつもりは無い」
瞳の色が青となり、口角あげ、好戦的な笑みをたたえたレイアーティは逃げようとする鹿キメラの足を狙って攻撃を繰り出す。
立ちふさがり、踏み込んで繰り出されるレイ・バックル。その攻撃力に、鹿キメラは動けなくなる。
「おとなしく斬られろ!」
一方、黎人も鹿キメラと対峙中だった。角はないものの、その脚力は異常。
ぴょんと軽く頭上を越えられそうに何度もなったが、それを同じく防いでいた。
鹿キメラがどうしようか、とためらって生まれた隙に叩きこまれる豪破斬撃。
きれいに決まったそれにより敵は倒れる。
「さて‥‥始めるか」
零は一番近いキメラとにらみ合いをしていた。
そのキメラの後には角付のキメラ。
立ちふさがったキメラを倒さねばたどり着けない。
手にもつ刀には黒い炎が纏われ、その自身の瞳は金となっていた。
流し斬りを繰り出し、キメラを倒せば後ろの角付きに向かう。
角無しキメラは一撃、もしくは二撃あてれば倒れるほどの弱さで、一頭二頭、とあっという間に倒れてゆく。
けれども角付きは別格のようで多少の時間がかかっていた。
だが、残るは一頭。
それも多勢の前では、問題にはならなかった。
全ての鹿キメラを倒し、そこに立っているのは傭兵たちだけだった。
大きな怪我もなく、無事に終わった依頼にほっと緊張の糸をほぐす。
「お疲れ‥‥助かった」
章一の肩をぽん、と叩き黎人は安堵する。
無事に、終わったことを。
お疲れ様、と他の面々にも言いつつ、罠の回収を開始。
これに住民などがひっかかってはたまらない。
一つ一つ、柵なども含めて回収してゆく。
「こっちにも罠あったよね」
「足元‥‥気をつけて」
「あっぶない引っかかるところだった‥‥ありがとう!」
罠回収中、まさしくそれにひっかかりかけた音に気がついて章一は腕をひいて一歩をとどまらせる。
さりげなく、気にかけているのがじんわりにじみ出ていた。
一方、鹿キメラたちが残る場所では、鹿キメラたちのこの後の進む道が、確定していた。
それは、鍋行きの道だった。
「すまん‥‥決してお前達の死を無駄にはしない」
合掌した後に、真一は選別を開始。
状態がよさそうなものを選んで作業を開始。
それに修司も加わる。
と、罠回収を終えて帰ってくる面々。
「待って、待ってそこ」
「な、なんだ?」
戦闘後、倒れた鹿キメラたち。
その中で、如水が挙動不審だったところを音が捕まえる。
「‥‥一応聞くよ、何してるの」
「別になにも‥‥」
「足、みえてるんだよね!」
「‥‥」
鹿キメラ一匹をコートに隠しお持ち帰り‥‥などというのは到底無理だった。
「‥‥鍋か」
「いや、鍋など‥‥」
団欒など好まない如水ではあるが、しかし鍋は食べたい。
鍋は別だ。
「食べるといいよ、てゆか食べなさい」
鹿キメラは回収され、如水は鍋の輪へと連れ込まれることになる。
●おいしくいただけるキメラはいいキメラ
「キメラの肉って‥‥食えるのか?」
零は解体され終わった、先ほど倒したばかりのキメラの肉を見つめる。
見た目には、普通の肉。
「角だけ発達、って感じだったし‥‥毒見はほらきっと、してくれる人がいるよ!」
零と一緒にそれをみていた音はにっこり笑顔で毒見をしてくれそうな男衆達を見る。
「食べて大丈夫そうだし、おいしかったら住民の皆にも食べてもらえればいいね」
「鹿鍋するんですよね、では調理のお手伝いをしますわ」
レイアーティは、ロジーが腕まくりしつつそういった瞬間、素早く救急箱を取り出し胃腸薬をしっかりと手に持っていた。
そしてそれを、しっかりみていたロジー。
「その胃薬はなんですか、まさか‥‥私の料理が‥‥」
「念のため、念のためですから」
などと言いあっている様子をみて、何か感じたのか黎人は住民たちのもとへ。
「すまないが、胃薬を分けてもらえないだろうか‥‥」
念のために、と言いながら人数分しっかりキープ。
最初に食べるのは自分たちになるのだから準備はしっかりとしておきたい。
そんなこんなで騒いでいる間に、鹿鍋は真一と章一の手によってもくもくとつくられていた。
材料は本部から持ち込み、メインのものは新鮮さは抜群。
「おお、やっぱり手際がいいね、うん。肉まんの時もよかった」
「‥‥気付いたんだが」
「お?」
「‥‥俺はどうも、戦うよりも、料理を作ったり、機械を直したりする方が好きなようだ」
料理の最中にぽつっと真一は言って不器用に笑う。
音はそれに、そっか、と頷くだけだ。
「早く好きなこといっぱい、できる世界になるといーね」
「ああ」
こうして、肉まん作りでロジー料理の腕を知っていた二人は、手伝いを多少ポイントになるところでかわしつつ、鍋はできあがっていた。
だが、最後の仕上げです、とできた鍋を前にロジーは鹿の角をもつ。
「‥‥あの、ロジー、さん? まさか」
鍋の最後の仕上げは、角だった。
「狩猟の記念に置き物にでもと思ったんだが‥‥」
角の存在感は、必要以上。
見た目のインパクトは抜群、味もおいしく保たれたそれは、住民たちの胃袋にも収まる。
それを食べてほくほくと表情を緩ませる住民たち。
零はそれを目の前にし、どこか心に暖かいものが広がるのを感じていた。