タイトル:肉まんが食べたいマスター:玲梛夜

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/02 07:14

●オープニング本文


 肉まんが食べたい。
 すべてはそこから始まった。
「肉まんっておいしいよね。色々種類もあって。でも本当に自分の好きな味ってなかなかだよねー。てか色々包んでみたいと思わない?」
「何、それ僕に言ってたの?」
「うん。わざわざここまできて言ってるんだから聞け」
 ここはオペレーターと傭兵とが混ざりあう本部。
 音はバルトレッドを捕獲して肉まんについて語っていた。
「自分の好きなのなければ作ればいいだけのことだよ」
「ああ、なるほど。そうだね、うん、そうしよう」
「え‥‥あ、やっぱりちょっと‥‥ま、待って‥‥?」
 限りなく嫌な予感がしたバルトレッドは音を止めたが、音はもう止まらない。
「よっし肉まんつくるぞー!! できたらあげるね!」
「や、いや、別にいらないから!!」
 音は、肉まん作り大会を開催することに。

『寒い今日この頃。肉まんでぽっかぽかしませんか。
 バレンタイン前の前哨戦に好きな人に肉まんあげてどんなものか雰囲気みるのもよし!
 ただ肉まん食べたいんだYO! という人も大歓迎!!
 肉まん! 肉まん作りまくるのです!!』

「よーし、道具とかは借りた! やー、あのおっちゃんいい人だったわー。材料は持参ということで‥‥えーっと‥‥まず何から?」
「音‥‥はい、作り方調べてきてあげたから‥‥」
「お、ありがとー!」
 先行き不安な空気も、少し漂っております。

 場所は兵舎の一室で材料こねこね。
 外では持ち運びできるガスコンロにお湯を沸かしてふかす準備万端。
 寒い中、できあがったばかりの肉まんを食べるのが楽しみだ。

●参加者一覧

/ 犀川 章一(ga0498) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / 赤霧・連(ga0668) / 藤枝 真一(ga0779) / 鯨井起太(ga0984) / ロジー・ビィ(ga1031) / 威龍(ga3859) / 荒巻 美琴(ga4863) / 神森 静(ga5165) / 空閑 ハバキ(ga5172) / 絢文 桜子(ga6137) / フォル=アヴィン(ga6258) / 暁・N・リトヴァク(ga6931) / 飯島 修司(ga7951

●リプレイ本文

●肉まんつくりですからそれはもう多種多様なものがですね
 LHにある兵舎の一角にて、それは賑やかに行われていた。
 外に置かれた長机の上には簡易コンロ。そして鍋に蒸籠が置かれて準備はばっちり。
 湯気が立ち上り始め、肉まん作りが開始される。
「主催者にして優勝候補筆頭、薬袋音!」
「優勝候補って‥‥まぁいーや、なんでしょ!」
「絶対負けない!!」
「うん、私に負けずにおいしいの作ってね!」
 鯨井起太(ga0984)の戦線布告は薬袋音が何やら違う方向で受け取ったらしい。
 それぞれ肉まんの方向性は多種多様だった。
「わたくしは本場直伝のレシピで参りますわ。直径15cmと大きなものを‥‥フォル様、お手伝いよろしくお願いしますわね」
 絢文 桜子(ga6137)はフォル=アヴィン(ga6258)へとにっこり笑顔を向けた。
「材料運んだり、道具を洗ったりしかできないけど、手伝うよ。本場直伝のレシピ、楽しみです」
 フォルも桜子に笑顔を返すのだった。
「この太陽の手を持つ藤枝真一‥‥作ってやるぜ、究極のにくまんをな!!」
 真っ赤な瓶を高々と掲げ、藤枝 真一(ga0779)は闘志を燃やしていた。
 めらめらと、バックに炎の幻が見えそうなほどに。
「素敵に燃えてらっしゃる方が‥‥お料理はセンスや技術でなく、心、ですわーっ!」
 ロジー・ビィ(ga1031)はそんな姿をみて、まずは格好から! とエプロンを装着。髪の毛もきちっとひとまとめに。
 そんなロジーの姿をケイ・リヒャルト(ga0598)は温かく見守る。
 友人として、感想を求められれば愛在る率直なコメントを返すつもりで。
「それぞれ趣向があるな‥‥中華料理店の息子としては、親父殿の名を辱めないようにしなくてはならないな。肉まん一つと言っても手を抜く訳にはいかないな」
 威龍(ga3859)は厳選した素材を前に、ごくごくスタンダードな肉まんを作り始める。
 荒巻 美琴(ga4863)が作るのは普通の肉まんと激辛の肉まん。
「生地も具もしっかり練り込んでつくらなきゃね!」
 ラー油も自作でしっかり準備済みだ。
「白くてふあっふあな幸せ食べ物、肉まん‥‥あ、今日はありがとうのはぐぎゅー!」
 空閑 ハバキ(ga5172)は今回の企画者ズを見かけてダッシュ。
 それをバルトレッドは受け止める。
 そして後から衝撃ドーンをハバキは受ける。
「ルトはお手伝い! メイン私! ぐぎゅ!」
「よくわからない理屈の娘ですみません」
「素敵企画者の音、準備お手伝いのバルト、とっても感謝!」
 ハバキはにっこにこと笑顔を浮かべ、他の顔見知りのところへと走ってゆく。
「ユキー! おいしいの楽しみにしてるー!」
 ハバキがぶんぶんと手をふった先には犀川 章一(ga0498)。
 笑顔で答えて調理準備を終えていた。
「食材の旬を活かすのは、日本らしい感覚‥‥大事にしなくてはね」
 章一は豚肉を叩いて粗挽きに。
 味出しには干し椎茸と新玉葱。歯応え要員には新筍を餡へと加えていく。
 その餡にはごま油と牛脂、隠し味に柚子胡椒少々の味付け。
 さらに肉餡に自家製スープストックのゼリー寄せを混ぜて準備は完了。
「ハッ! 手早い! 手早いよ章一君!!」
「御手伝い、しましょうか」
 空いた時間は手持無沙汰。章一は音の肉まん作りをちょこちょこ手伝い始める。
「‥‥とりあえず、この10分で学んだのは私は食べる側の人間だったってことかな、うん」
「やってればうまくなりますよ」
 と、和やかに作業が進むお隣では、激辛を超えるであろう肉まんたちの卵がせっせと生まれていた。
 激辛その1、美琴の肉まん。
「自論だけど『饅頭は生地が命!!』 だから、十分にこねないと‥‥」
 ぎゅぎゅっと力を込めて、しっとりとしつつもコシのある生地を目指して作られていく。
 やがてそれは美琴の理想へ近付き、寝かせにはいる。
 その間に、中に入れる具。
 一通り作り終わった後、生地を二つに。
 ひとつはそのまま、普通の、ほんのりとした辛さがアクセントの肉まん。
 そしてもう一つは、青唐辛子を使った超激辛肉まん。
 持参されたラー油がそこへ、混ぜ込まれていた。
「激辛には『肉』と‥‥よし、この目印でばっちりだね」
 超激辛の方は、自分は食べないように、との目印しっかり。
 そして激辛その2、真一の肉まん。
 こちらはある目的のために、生み出されつつあった。
「餡は、仕込もよし。その間に皮だな」
 小麦粉、イースト菌、ベーキングパウダー。
 手際よくその作業は進んでゆく。
「!! そこにも手際のいい人がいて、軽くジェラシー! いいなぁ、やっぱり昔からしてた?」
「まぁ‥‥昔から、料理を作るのは好きなんだ。食べるというのは動物の本能だが、だが、味覚に関しては違う。味覚は感情を育て、人間を人間たらしめている」
「‥‥なんだかちょっと科学者っぽいこと言ってる気がした」
「料理は人の心を豊かにする‥‥そう思うと、作るのが楽しくてね」
「なるほど‥‥おいしいものは幸せにしてくれ‥‥鍋!」
「‥‥がんばれ」
 薬袋は大変そうだなぁ、と思いつつ真一はこねこね続行。
 こねこね、といえばハバキも皮をこねこねお手伝い中。
 その間にケイとロジーはそれぞれ餡を作っていた。
 ケイはオーソドックスな肉まんの具に少し甘く煮た刻み生姜を混ぜたものを一つ。
 そしてもう一つは白餡。
 ケイの皮には季節を意識して少しだけピンク色になるように食紅が混ぜられていた。
「桜の花の塩漬けの準備もよし‥‥」
 後は包むだけ、と一息ついでにロジーをちらり。
 ロジーは、肉じゃがをつくっていた。
 彼女が作るのは肉じゃがまん。肉じゃがまんだがチーズ入りやごはん入りなどなど、多種多様のバリエーション予定。
「とりあえず肉じゃがが巧く作れるか、が勝負ですわね。ケイ! ちょっと試食をお願いしますわ。ふふ、あたしの本当のお料理の腕を知るが良いのです!」
 ぱっと小皿にとって差し出された見た目は美味しそうな肉じゃがを受け取るケイ。
「曖昧なコメントは在り得ないわよ。愛在る鞭を与えるのが友人でしょ?」
「望むところですわ!」
 ということで一口。
 濃い目に味付けされた肉じゃがは本当に濃い味だった。
「濃い‥‥そしてこう、ちょっと破壊的な‥‥」
「そんなはずはっ!」
 ケイの一言により、肉じゃがの進化(?)がここからまた始まった。
 肉じゃがまんのようにちょっと変わり種、は他にもあった。
「『具が自由』という今回のルールは、一見、その中身に何を入れるかという点が注目される‥‥特殊かつ奇抜な具材、もしくは高価な食材をもって特製の饅頭を作ろうとするだろう。しかしそれはあくまで、素人の考えに過ぎない」
 と、起太は考察する。
 小手先の技では、この群雄割拠の肉まん界で生き残ることなど、夢のまた夢。
 革新的な肉まんを作るのであれば、中身ではなく当然、皮にこそ拘るのが一流、という結論にたどり着いた起太は、自らのすべてをもって、皮作りを開始した。
 その称号に恥じぬ肉まんを。
 変わり種があればスタンダードなものも。
 威龍は鮮度や具材同士の相性などに気を配り、調理も手を抜かず、一つ一つの工程で最善を尽くしていた。
「こうやって料理をしている時が心落ち着くというのは男としてどうだろう? まあ、好きなモノは好きなんだから仕方ないが」
 実家が中華料理店、とくれば子供の時からの手伝いでその料理の腕前はプロ並み。
 もちろん、気持もプロのものと同じで、一つずつ、気持をこめられ、作られてゆく。
 そのお隣では大きな肉まんが作られていた。
 和服の上に割烹着をつけた桜子。
 ボウルに生地の材料を順番に入れて手捏ね。
「フォル様、お手伝い頂けます?」
「もちろん」
 フォルに捏ねを手伝ってもらい、それは出来上がってゆく。
 耳たぶくらいの柔らかさのつややかな生地ができればごま油をぬって発酵。
 その間に餡。
 みじん切りにした材料などいれ、ボウルで粘りがでるまで捏ねてゆく。
 空気が入るように軽く丸めていけば、餡の準備は完了。
 膨らんだ生地はガス抜きをして、また発酵。
 それが終われば生地を伸ばして餡を包んでゆく。
 と、それぞれの肉まん準備は完了。
 蒸し器に入れられ、ほこほこと湯気を纏って登場するまであと少し。

●作ったものを食べましょう!
 ほこほこと良い匂いが漂う。
 それにつられて赤霧・連(ga0668)はふらふら〜っと寄ってきていた。
「肉まんを作っているのですか?」
「あ、連ちゃんだー! やっほーい! もうちょっとでできるよ、食べる?」
「ほむ、食べたいです!」
 音に呼ばれてほくほくの肉まんを思い浮かべダッシュ。
 そこではお茶などの準備をしていたのでもちろんお手伝い。
 同じく匂いに誘われ飯島 修司(ga7951)もやってくる。
 最近着任したばかり、兵舎の外から匂いに釣られてやってきたのだった。
 丁度小腹がすいていたところ、肉まんにありつけるのはありがたい。
 そしてっもう一人。肉まんつくりの様子をみかけ神森 静(ga5165)も顔を見せていた。
「肉まん?今ごろ? でも寒い時とできたては、おいしいのかもしれないわね?」
「俺のはできたな‥‥」
 威龍の蒸し籠が開く。
 ほわほわの湯気の中から程良く蒸された肉まん。
「おおおおおお!!!」
「すごい数できたのね? 美味しそうだけど、作ったのは、全部全員で食べないとね? 残すともったいないわね? これは‥‥」
 できあがってくる肉まんの数をみて静はちょっと感心する。
「あら? バルトさん。お久し振りです。今回は、無理しないで下さいね?」
「静さんこんにちわ、いっぱい食べていってくださいね、そちらも無理せず」
「そうね、八分目くらいで抑えておくわ」
 回りから感動の声があがってくる。
 これを皮切りに、肉まんぞくぞく出来上がり。
 それぞれ気になるものをチョイスして食べてゆく。
「イタダキマスv」
 お腹がぐるぎゅー、となりそうなハバキは章一の作った肉まんをまず最初に。
「ユキまんはタケノコ入ってそう! シャキシャキだといいな!」
「入ってますよ、しっかり」
「あつあつ、はふはふ、もきゅもきゅ‥‥ひあわへ」
 じわーん、とおいしいものに感動と幸せ。
 ひとつ食べてまた他の肉まんも。
「ハバキ! もふり具合最高のハバキ! 私の肉まんをあげるわ! さぁ召し上がれ♪」
「! ロジーの‥‥!」
 どーん、とハバキの前に登場したロジーの肉まん。
 ちらっとケイの方をみれば、さっと視線がそらされた。
「‥‥だがしかーし! おにゃの子の作ったものを食べない分けにはいくまい! バルトも一緒に食べるよね!」
「え、はい。いただけるなら」
 ハバキは道連れ! とバルトレッドにも一つ。
 二人同時にはぐはぐ。
 一口二口、ハバキはぐったりとする。
 だが、バルトレッドはチーズ肉じゃがまんおいしいです、と笑顔だった。
「ツワモノめっ!」
「私も一ついただきます! ‥‥ほむ! おいしいですよ! チーズ!」
「俺のご飯とかいろいろはいって‥‥当たり外れかっ!」
 と、肉まんに一喜一憂もあり。
「バルトレッド? 直接お目に掛かるのは初めまして。ケイと言うわ」
 ケイは自分の肉まん持って、バルトレッドへ声をかける。
「VDの白椿、とても綺麗だったわ。お返しになるか分からないし、お口に合うかも分からないけれど‥‥宜しければどうぞ」
「ありがとうございます、ひとつ頂きますね」
 桜の花の塩漬けの乗った淡いピンクの肉まん。
 それに白餡で苺を包んだものが入っている苺大福中華まん版だった。
「‥‥おいしいです、こういうの大好きなんですよ。甘いの大好きで」
「喜んでもらえて、よかったわ」
 バルトレッドは笑顔を向け、ケイも笑う。
「わ、私にもそれを‥‥!」
 おいしそうに食べているのを見ると、それが気になってくる。
 連もケイの苺大福中華まん版をはふはふと食べてゆく。
「ほむ! おいしいです! これはどうやって作るのですか? 是非是非教えてくださいな」
「ええ、いいわよ」
 と、レシピ講義も始まる。
 その頃他のものよりちょっと蒸し時間長めの桜子の肉まんが出来上がっていた。
 15センチのそれはほこほこと存在感もばっちり。
「うん、すごく美味しいです。さすが絢文さん、料理も上手いですね」
 肉まんを一部とり、フォルは笑顔で食べる。
「うふふ、上手く出来ましたかしら。大食いでは大変でしたが、皆で食べる集まりとなると面白そうでございましょう? 作ってよかったですわ」
「はっ! ほこほこおいしそう‥‥! 私もちょびっともらっていーい?!」
 ひょこっと現われた音はそれを貰ってもふもふ食べる。
「うう、お料理上手さん‥‥! 肉汁たっぷりだね、ジューシー豚まんさんありがとう、おいしかった! 肉まんめぐりの旅にいってきます!」
「いってらっしゃいませ」
 と、音はてってかと肉まんを求めてくるくる回る。
「あ、オッキー! おいしいのできたー!」
「ふふ。見たまえ、これこそが究極にして至高。キング・オブ・肉まんさ!」
「‥‥ぶっちゃけおむすびじゃん」
「キング・オブ・肉まん!」
「おむす」
「キング・オブ・肉まん!」
 高らかと掲げられたおにぎ‥‥肉まん。
 それはほかほか御飯を使い、ジューシーなお肉をご飯で包み込んだ世界発といっても過言ではない肉まんだった。
「おむす」
「キング・オブ・肉まん!」
 そんなやりとりをしつつも、しっかり音の手にはそれがあった。
「‥‥肉まんじゃなくておむす」
「肉まん! ではこれを僕は皆へと御馳走してくるよ」
 キング・オブ・肉まん、おむすびマンに運ばれ皆の前へデヴュー。
 いってらっしゃーい、と見送る音へ、章一は声をかける。
「先月は‥‥有難う御座いました。約束の、30倍返し」
「! ありがとう! 今みてもいい?」
 丁寧な包装の小箱の中には桜を模った砂糖菓子のようなイヤリングがあった。
「かわいい! かわいい、ありがとう!」
「良かった、悩み抜いたんです。こうして‥‥笑って欲しくて」
 嬉しい、ときらきら笑顔を向けられ、章一は年相応の笑顔を見せ、目線を合わせる。
「あなたの事が、好きだ。心から‥‥尊敬、しています」
「好きも、尊敬も、ありがとう、なんか、嬉しい」
「聞いて貰えて、良かった。今‥‥伝えないと、どうにかなっちまいそう、で」
「えと、今ね、一生懸命なことがあるから、それが一段落ついたら、ちゃんとお返事します! だからそれまでごめんね?」
 ちょっと困りつつ照れつつの反応に、章一は紅潮した顔を覚まそうと手をぱたぱたする。
「もう‥‥反則、です」
「待っててね、これ大事にするよ。ん、カード?」
 小箱の中にはもう一つ、カード。
 そこには『恋ひ明かし 春は暁、君は美し。東風に 桜花の 舞う如く』とあった。
 手書きのそれもまた大事にする、と音は言う。
「章一君にはありがとうばっかり言ってるかもね。肉まんもおいしかったよ、ありがとう」
「それはよかったです」
 なんとなく、ちょっと良い雰囲気。

●激辛勃発
 さて、実はまだ悲鳴が上がっては、いなかった。
 ところどころにまぎれこんでいる激辛肉まん。
 それらはまだその姿を見せていなかったのだ。
 その最初のは修司だった。
「それじゃ、こちら頂きますか」
 手に取ったのは、肉と焼印がおされた肉まん。
 それは美琴の、超激辛肉まんだった。
 青唐辛子の辛味が修司の中を駆け巡る。
「‥‥これが、天上の味というものなのか‥‥?」
 ぐ、とうめきつつ倒れる修司。
「ちょ、お水ー! 医務室ー!」
「え? 激辛好みの人が大勢来るって聞いたから、コレつくったんだけど?」
 辛いもの好きではあるが、許容範囲を超える辛さに修司は倒れたのだった。
 美琴は、あれーと首をかしげる。辛いのが大丈夫な人でも、まさに凶器。
 そんな修司を助けたのは静。
 腹八分目、やせの大食いであった彼女は適度にお腹を満たし、飲み物やらを配ったりもしていた。
「お、いた。ほら、これをやる」
 ぱかっと真一があけた蒸し器にはできたてほわほわ肉まん。
「そいつは辛さ控えめにしてある。適度な辛さは食欲を促進させ、脳を活性化させるからな」
「わ、ありがとうね! 早速」
 もふもふと受け取って食べる音。
 おいしいもの幸せ、と表情緩ませる。
「あれ、そっちの蒸し器は?」
「こっちは‥‥真一特性激辛にくまんだ」
 そう、言うと同時にニヤリと笑い、真一の視線はターゲットを補足する。
「激甘党のバルトに激辛にくまんを食べさせ、彼がどういう反応をおこすか、検証だ」
「協力するよ!」
「ありがとう!」
 楽しそうなことは一緒に。
 ひっそり、危険が迫っていることをバルトレッドはまだ知らない。
「バルトー」
「ルトー、肉まんあげるー」
「えー‥‥」
「私からじゃないよ、真一君からだよ」
 ほら、と差し出された肉まん。
 見た目はとても普通だが、辛党の真一が激辛と名をつけるほどのものだ。
 にこにこでどうぞ、と言われれば断れないらしいバルトレッドは恐る恐る、それを一口。
「‥‥ちょっと、辛い‥‥?」
「あ、そうだルトの味覚ちょっとおかしいんだった‥‥」
「反応薄くて面白くないな‥‥」
「‥‥?」
 なんだろう、と二口目。
 だがこの辛さを侮ってはいけなかった。あとから来る激辛。
「っ、ぶふっ!」
「きたー!!」
「水は呑まないほうが良いぞ」
 明らかにわざと飲み物を遠ざけられていくバルトレッド。
 一名、脱落(?)。
 そんな騒動を、フォルは見つめて先日のことを思い出していた。
 ロシアン系では必ず当たる、運の悪さ。
「フォル君たちどれがいいー?」
「え」
「ロシアン肉まん。誰がつくったのか分からないから、何がでるかお楽しみ」
「‥‥いや、ほら俺、こういうの運が悪いし‥‥」
「ひとつ」
 ずずいっと差し出されるいくつもの肉まん。
「では私はこれを」
 桜子は一つ、とってぱくり。
 おいしい、と表情を緩ませる。
「あら、面白そう、私もひとつ‥‥」
 と、そばでみていたケイも一つ手にとって食べる。
「‥‥辛味がおいしいわ、激辛肉まんとかすごく美味しそうだなって見てたのよ!」
「ささ、おひとつ」
 二人の反応が普通で、大丈夫かなと思うフォル。
 というかさぁさぁ、と持ってきた音の目がいっていて断りきれない。
「うぅ、では、ひとつだけ」
 これなら大丈夫かな、と一つ手に取る。
 見た目は、普通。
 ぱくっと食べると、それは。
「だ、誰かっ、水をっ」
「どうぞ」
 さっと章一はフォルへとラッシーを差し出す。
 それをぐいっと飲んでそれでもまだ辛さは引かない。
「フォル君のあたり率はすごいなぁ‥‥はい、こっちは美味しいジューシー肉まんだから」
「あ、ありがとうございます‥‥」
 ほこほこのスタンダード肉まん。
 それを貰いまだちょっとくったりと、フォルはしていた。
 さて、一方きゃきゃと肉まん談義がハバキと連の間出されていた。
「生地はしっとりがおいしいね! あ、いやいやふんわりも‥‥」
「おいしいものはなんでもおいしいのです! ほむ、これとてもジューシー」
「俺も食べよう!」
 と、二人がもふもふ食べていたのは威龍の肉まんだった。
 その様子を威龍はみて、微笑む。
「作ったものを食べて、相手が喜んでくれる、それが作り手としては最高の栄誉だぜ」
 作られた肉まんは、どんどん完食され、やがてなくなっていた。
 後に残るのは、お片付け。
「散らかしたらお片付けは必須だものね、がんばろう」
 使った器具やら、食器やらの片づけは手が空いたもので片付け。
「色々な種類の肉まんを一度に食べられるなんて‥‥幸せです」
「ごちそうさまでしたっ☆」
 食べた分は消費しないとお腹回りが魅惑の触り心地になっちゃう、とハバキはせっせと働く。
「今日はありがとうございました。また美味しいもの食べたいですね」
「そうだねー、次は何作ろうかなー」
 フォルの一言に、音はまた何か作ろう、とそそと考え始めるのだった。
 さて色々あった騒ぎの中でもただただ黙々と、変わらず肉まんを食していたものがいた。
 暁・N・リトヴァク(ga6931)だ。
 暁はいくつもある肉まんの中からどれもおいしいものを食べるという強運をひそりと見せていたのだった。



 片付けは終わり、肉まん作り大会は無事においしく、終了。