●リプレイ本文
●焔ワンコの使い道
「捕獲、ですか?」
そう、捕獲と伊佐美 希明(
ga0214)は頷いた。
「町の人からすれば、とんでもない話なんだろうけど、キメラ自身に悪意があるようには思えないし、できれば、捕獲したいかなって」
捕獲を行う場合必要なのは捕獲ケージと受け入れ先。
「話に聞けば直接人間を襲っているわけではない犬を皆でボコるってのもな‥‥俺は協力するぜ」
希明の案に協力すると増田 大五郎(
ga6752)は腕を組み大きく頷く。
「ではケージは手配しますが、町にそのままおいていくには住民たちの意識もあるし、本当に危険があるかはわからないので一度こちらへ連れてきてください。それから本当に必要としているところに連れていけるよう手配しましょう」
と、捕獲できた場合の方向も固まってゆく。
「危険そうじゃなければ弱らせてから捕獲だね‥‥それにしても随分と迷惑な、走る篝火だね‥‥まあ、同時に見つけ易いだろうけれど」
阿木 慧斗(
ga7542)は言って、仲間たちとの齟齬を合わせてゆく。
「燃えるお犬サマねぇ‥‥アタシゃどっちかっつーと猫派なんだけどね」
風巻 美澄(
ga0932)は煙草に火をつけつつ
「やれやれ。ボクもよくよく犬とは縁があるようだね」
美澄の犬、という言葉についこの間、戦ったキメラを思い出しながら鯨井起太(
ga0984)は呟いた。
クリストフ・ミュンツァ(
ga2636)はそういえば、と言葉を紡ぐ。
「中国の弓使いにも、こんなふうに火と熱を撒き散らしながら地上を焼く太陽と月を射落としたという伝承があったりするらしいので微妙な皮肉といえば皮肉かもしれませんね」
「なんにせよがんばるのみです!」
シエラ・フルフレンド(
ga5622)はぐっと気合を入れるように一言。
「炎のわんわんかぁ‥‥ウチ、わんわん好きやねん。特に大型犬、めっさ好きやねんて」
どんな犬なのか楽しみ、と要 雪路(
ga6984)は表情を少し緩めてのんびり笑っていた。
●下準備、開始
作戦の決行は夕方から夜にかけて。
現在まだ昼間。
町の人たちによると、もうすでに昼間の疾走は終えてしまったらしいキメラ。
現地について件のキメラが通りそうなルートや、今日通ったルートを下調べしてゆく。
「出現場所は絞れそうだね。町の人たちに聞けばいい」
と、情報集めをしてルートを確実に絞っていくのは起太だ。
「日々、僅かにズレていく太陽と月の位置に合わせ、犬の取る経路も変化を見せるのか。それともそこまで正確ではなく、ある程度の誤差を生じつつ走っているのか‥‥聞き込みあるのみ」
「炎ワンコ知りませんか〜?」
シエラも街の人たちに話しかけての情報収集。
その途中で目当ての小麦粉も無事購入。
情報を事細かに収集し、ルートが絞られてゆく。
そしていくつかの可能性を考慮して、落し穴に一番良さそうな場所が決定された。
「ふむ、どうやら次に炎の犬が選ぶルートは、ここで間違いなさそう‥‥かな」
「じゃあ落とし穴はここってことで」
「落とし穴を作ってる間にこの先にケージをカモフラージュしよう! 罠は二重に準備と」
作業の手筈をいくつかにわけて、それぞれすべきことを開始。
「落とし穴には水、と。効果があるかはわかんないけどね」
ある程度の深さの穴を掘って水を張りつつ美澄は言う。
そこへ周囲を調べてきたクリストフが合流。
「周囲に可燃物がないかみてきました。障害物もないしうまくいきそうです」
「これ以上、燃えたら皆が困るもの‥‥」
同じように燃えそうなものをこの落とし穴付近から排除していた慧斗はその手に集めたものを持っていた。どこからか飛んできたのか、チラシなども危険。
戦う準備と、もう一つ重要なことがある。
「今晩が最後の我慢! っちゅーことで、もしものときは火消しをよろしゅう! 必要なくなればそれでええねんけどなぁ」
住民たちへの呼びかけは雪路が行ってゆく。
戦いで飛んだ焔によって惨事が起きるのを防ぐためには協力が必要だった。
砂缶や水瓶を道に並べたりと協力してもらってどんどん進めてゆく。
こうして街全体が協力しつつ、準備は整い昼から夜へと、時間帯は移り変わってゆく。
●焔ワンコとの遭遇
「綺麗な夕日ですっ、明日は晴れそうですね〜」
シエラの視線の先には沈む太陽。
そして空には満月が浮かび始める。
太陽が沈むのとは反対の方角、薄暗くなってきた方向に赤いものがチラチラと動くもの。
「‥‥きた、ね」
その様子を予想ルート付近に隠れみていた慧斗は視界の端におさめる。
静かに背中に広がるダークレッドの光の翼。
すぐさま繋がる仲間たちへの無線によってそれぞれがキメラの出現を知る。
「ケロよりは楽そうだけど、力で押し込められないとなると、自分から入ってもらうのを狙うしかないか‥‥少し難しそう」
連絡をうけて罠付近に待機していた希明は呟く。
予想していたルートへとキメラが進み始めたとの連絡が再び入る。
火消し役をつとめる雪路はそのまま連絡をしつつ、キメラを追う。
「一切の手は抜かない。それは命を賭けて戦う者に対する最低限の礼儀だ‥‥」
走りゆくキメラの鼻先をかすめる一撃。
物影から起太が一瞬の気をひいて、そのまま進路方向を定めるように、導く。
その方向は仲間たちがいる方向であり、罠のある方向。
「うぉぉぉ!!」
ミネラルウォーターをばしゃっと被り、炎に備えた大五郎がキメラの前へと現れる。
手には水属性のフランベルジュ。
水の気配を感じたのか、キメラはじりじりと動きを抑える。
キメラの一番近くにいる大五郎は、その焔の熱気を感じる。
「あちぃ!! 水かぶっててもあちぃな!」
大五郎は周囲に仲間たちが集まってくる気配を感じる。
そして頃合を見計らい大五郎はこっちだ、とキメラを引きつける。
その誘導に追い風を送るようにクリストフはキメラの足もとを狙撃。
一歩踏み出せば、導かれる流れに乗るようにキメラは動きだす。
「もうすぐ落し穴だね」
「かかってくれると良いんだけどね」
連絡を取り合いつつ、落し穴付近。
大五郎はそれを一足、ジャンプで飛び越えてゆく。
「罠にかかれ〜!」
そしてその後にそのまま走り込むなにも知らないキメラ。
願いの通り、見事にそれにひっかかり、水音と驚いたのかキャウン! と声が上がる。
「‥‥でてこない」
クリストフは穴から出てきて、まだ元気であったりして危険であればすぐさま対応できるようにスコーピオンを構えていた。
同じように、起太もワンチャンスで多くのダメージを与えられれば、と警戒をしていた。
そんな状態が3分。
「む‥‥焔ワンコの反応がない‥‥」
連絡をそれぞれ取り合い状況確認が一番と、じわじわと大五郎が落とし穴へと近づく。
慧斗は大五郎が何かあればすぐさま練成治療できるようにスタンバイしていた。
ゆっくり、気をつけながら落とし穴を覗きこむ大五郎。
その視線の先にあるものをみて、思わず表情が緩む。
大五郎から、仲間たちへ大丈夫そうだ、との連絡が入る。
焔ワンコは、穴の中で目を回し気絶していた。
「‥‥まぬけなわんこさん!」
「うーん、なんか気がぬけちまったね。でも被害もなにもなくてよかったか」
「物影でも流石に熱かったね。お疲れ様」
「捕獲できてよかったかな。無尽蔵の熱エネルギーが手に入るとか思うのは、貧乏性かな。いやいや、油田をバグアに抑えられている現状、貴重な代替燃料になるはず!」
このご時世、使えるものは使わねば! の勢いで希明は言う。
「ケージを持ってきて、こいつを引き上げるか」
いつまでも落とし穴の中に置いておくわけにはいかない、と大五郎はキメラの引き上げを提案する。
それに否もなく隠してあったケージを運び、キメラを引き上げる。
焔を発しないキメラは本当にただの犬のようだった。
「火消しは完了したでー! あ、捕獲できたんや」
そこへ一通り、飛び火を消して回るのを終了した雪路が合流。
全員の無事を確認しあい、今回はキメラの殲滅、ではなく捕獲で無事に終わったのだった。
●ワンコの焔
「どうやら丸いものをみると、興奮して焔を纏うみたいだね」
一晩あけて、朝。
昨晩のうちに太陽の見えない場所へと移動させられていた焔ワンコは現状捕まった、という状態であるにも関わらずのんきにお腹をだして寝ていた。
そして捕まえた傭兵たちにも敵意をあらわにはしない、というか持っていないようだった。
むしろ食べるかな、と置いていたドックフードをもっとよこせと要求しているようなそぶりで、敵意もない犬状態。
「ほ、コイツはライターいらずだな」
何かしらの焔を発言させる条件、を探っているうちに発覚したこと。
丸いものをみると、興奮して焔をどうやら出すらしい。
実験で舞いあがった焔で美澄はタバコに火をともす。
「丸いものを得ると焔が収まるけど、燃えるものだったら消えちゃうからね」
「焔がでてないときはまるっきり普通の犬だね‥‥しかも性格は図太そうな」
「もう怖い目にはあわないですからねっ」
シエラはしゃがみこんで、焔ワンコへと話かける。」
「わんこは怪我とか‥‥なさそうやね、よし。とりあえずや、大阪人としてアレいわなアカンな」
雪路はどこか使命感を帯びたような声色で、一言。
「ちゃうちゃうちゃうん?」
指名真っ当、とやりきった表情の雪路がそこにはいた。
後日、もしものことを考えてこのキメラを退治することのできる能力者がいる場所に、という条件付きではあったが、このキメラは危険性は極めて低いとみなされ、エネルギーに乏しい場所へと送られることになる。