●リプレイ本文
●やっぱパーティーですからね!
「甘いものがいっぱいって幸せだよねぇ‥‥」
「ほむ、音さんはもうケイオスさんにチョコはお渡しになったのですか?」
自分への甘いもので精いっぱいです、という状態の薬袋音に赤霧・連(
ga0668)は作戦を遂行すべく言葉をかける。
そこに援護射撃だ、とばかりに伊佐美 希明(
ga0214)もサポート。
「ああ‥‥昔はお義理であげてたんだけどねー」
と、本人捜して視線を巡らせると、愛紗・ブランネル(
ga1001)と仲よくお話中のバルトレッド・ケイオンがいた。
「あっ、バルトお兄ちゃん! 久しぶりだねっ」
たたたっと駆け寄ってにぱっと。愛紗ともちろんヌイグルミのはっちーも一緒。
「はい、バルトお兄ちゃんにもチョコあげるね」
「ありがとうございます、大切に食べますね」
一口サイズのぱんだちゃんチョコ。ラッピングのリボンは赤色。
「と、あのように小さい子にももってもてのルトさんなので音さんからは何もあげないのです。や、もうそれよりもね、この御菓子がね! 連ちゃんも希明ちゃんも食べるといいんだよ、おいしい、甘いもの満載幸せ」
「甘いもの満載のパーティー‥‥うん、実にいい響きだな」
「お、兄さーん」
と、そこに現れたのはエミール・ゲイジ(
ga0181)。この長め、とてもよい、と頷いていた。
「甘い物大好きなんだけど、そういうのの専門店とか男1人だと入りづらくてさ。つーわけで、趣味で作るお菓子の参考にもなるし、この機会に堪能しとかないとなー」
しっかり、手に持ったお皿の上には厳選お菓子。
「あら、固まってるわね! 一輪ずつだけど、私からみんなにプレゼント」
ぱっと、それぞれの前に差し出されたのはナレイン・フェルド(
ga0506)からの青い薔薇。
髪の毛は三つ編みにして青いリボンで一つに束ねているナレインはいちはやく会場にきて、みんなにそれを配っていた。
「これで、配り終わったわね。さてお菓子堪能よ!」
意気込むナレインはしっかり持参のチョコ柿ピーを取り出していた。
「そうだ、この前の焼肉の礼をしにいかねば」
ぽん、と手のひら叩いて希明が取り出したのはラッピングしてある手作りトリュフ。
「本当に焼肉のお礼ー?」
にやにやする音に武道の家系は赤貧でも礼節は忘れないのだ、と希明は言う。
「俺も紅茶のシフォンケーキをプレゼントしにいかねば。音にもある」
「うっわーい、ありがとっ!」
希明の言葉にエミールも忘れないうちにと大移動開始。
一度集まってしまうと、知り合い同士、一緒にいた方が楽しい。
そのころバルトレッドはシャロン・エイヴァリー(
ga1843)からチョコを貰っていた。
「パーティー企画、お疲れさまっ、何か飲む? とりあえずコレ、参加者全員にあげるための大量生産品だけど、1番の手渡しは企画者に、ね。今日はちょっとハメを外しちゃうけど、明日からはまた能力者とオペレーター、気合入れてかかりましょ。じゃあ、またね」
「ありがとうございます、がんばりましょうね」
と、すれ違いざまにシャロンはエミールへと声をかけ一口チョコを投げる。
「はいっと。明日からまた、よろしくっ」
大規模作戦でのお礼に、と渡されたチョコをエミールはしっかり受け取る。
「あ、皆さんお揃いで。しっかり食べてますか?」
「今回もパーティにご招待して下さってありがとうございます!」
「いいえ、僕はお手伝いしているだけのようなものですから‥‥」
連の笑顔に笑顔で答えるバルトレッド。
と、希明とエミールから差し出されたものに、これはという視線。
「この前のお礼。んー‥‥でも、初めて作ったけど、こういうのなんか楽しいね。ラッピングとかしている時が一番楽しかった。バレンタインとか興味無かったけど、周りの女の子が騒ぐのもわかる気がする」
「周りにプロの作った甘いものが大量にあるのにアレだけどさ。ま、気持ちの問題っつーことで」
「ルトが貰わないなら私ががっつり貰うから」
「いえ、とてもうれしいです。ありがとうございます」
と、受け取ったところで。
「よう、焼に‥‥いや、バルト。この前はご馳走様‥‥つまらんものだが、礼だ。LHのドンなんとかで買ってきた、パーティアイテム系の超ゲロ甘饅頭だ‥‥あと、はい、萌えフィギュア」
やってきた藤枝 真一(
ga0779)からどーんと差し出されたそれ。
「男が男にチョコを渡すのもシュールだと思って普通の菓子折りを用意してきた。こっちはこの前クレーンで渡したのは、第2弾の奴だったからな。第1弾全4種、持って来たぞ‥‥ああ、礼はいい」
「ありがとうございます、でいいのかなぁ‥‥」
苦笑して受け取るバルトレッド。その姿を物影から見ているものがいた。
「自分が甘いもの好きだからといって、こんなタイムリーな企画を考えたバル君はまさに策士。ホストという形を取れば、義理とは言え女性陣がバル君にチョコをプレゼントをあげる確率は高まる。こんなにも自分は悩んでいるというのに、なんたるバルトレッド!」
ある種、キイイイとハンケチかみそうな勢いの鯨井起太(
ga0984)。
だがそんな彼にもチョコがやってくる。
「こんなところで何してるの? はい、チョコレート。先日の援護の分、これで返したわよ」
シャロンから渡された一口チョコ。
「シャロン君‥‥!! ありがとうありがとう!!」
一口チョコであっても、妹からしかもらったことのなかった起太にとってはものすごい嬉しいもので地に頭をこすりつけそうな勢いで礼を言う。
「まったくこんな‥‥肝心のごはんが食べられなくなってしまうじゃないか!」
と、言いつつも嬉しさでいっぱい。
そしてチョコを貰って余裕が出てきたのか、プレゼントを私に行かねばと思いだす。
「しかし紳士足るもの、この程度でムキになっても仕方無い」
起太の手にはリボンを結んだ歯ぶらし。
食べたら磨こうの精神だ。
「バル君&薬袋音!」
「フルネェーム。鯨井起太どうした! ‥‥私がフルネームで呼ぶと妙な感じだな‥‥オッキーでいい?」
「いい! 是非呼んでくれたまへ! そしてボクからのプレゼントさ。盛大に感謝してもらって構わないよ」
「お、ありがとー!」
歯ぶらし渡して、さらにオッキー呼びに起太は喜んでいた。
「あ、こんにちは、伊佐美さんにエミールさん。今日は、お互い楽しみましょうね」
見知った顔に声をかけたのは四条 巴(
ga4246)。巴は親友の大川 楓(
ga4011)とともに参加していた。
他にもぱらぱら、見知った顔がいる中で、それぞれ楽しく時間を過ごしていた。
●想い模様は何模様?
「頑張れ〜です」
迷路に入ってゆくカップルたちを連は手ふりお見送り。
「カップルたくさんね〜幸せオーラいっぱいで、私も幸せ気分になっちゃうな〜」
同じようにカップルを見送っていたナレインは笑顔を浮かべる。
「私って、誰と恋をするのかしらね〜‥‥バルトレッドちゃん! あなたに質問よ? 私相手に男の人は恋に落ちると思う? ‥‥正直な意見を聞かせて!」
お酒など一滴も入っていない、雰囲気良いのナレインはどうかしら、とバルトレッドに問う。
「恋は、きっとそのうちぱっと花咲くもので性別は関係ないと思いますよ。きっとナレインさんにも運命の人がどこかにいらっしゃるはずです」
「そうね‥‥運命の人に出会えるって‥‥幸せよね」
微笑を浮かべて、ナレインは気持ちと同じように言葉を漏らす。
そんな会話をする二人を横眼に、そそそ、と連は音の隣へ。
「音さんは本当にケイオスさんのこと好きじゃないんですか? ケイオスさんは恋愛方面はかなりのにぶちんさんと見ました。もしくは鉄壁の心のガードです? そんな人にはアタックあるのみです」
「ないよー、ないない。だって、仲が良すぎてありえない感じだからなぁ‥‥知りすぎて嫌だ、みたい、な?」
「む、むしろこちらが鉄壁のガードのような気が‥‥!」
くう、と噛みしめるところで、ぽとっと愛紗から不思議が落される。
「んーと、お菓子は別腹っていうけど、お菓子しか食べてない場合はどうなるの?」
「お菓子しか食べてないと‥‥こう、その、お腹のお肉がぷにっと‥‥」
「ぷに?」
首をかしげて愛紗はむーっとなる。太らない体質の愛紗には、わからない未知の領域で、まだ理解する乙女心を持つには早いお年ごろなのだ。
「あ、ほっぺにクリームついてるー」
と、愛紗のクリームを取る音。
「‥‥そうだ。薬袋。これ、やるよ」
「お、なんだなんだー。チョコ?」
「俺の気持ちだ」
「ありがとね!」
そのチョコレートは結構良いもので、『貴方にふぉりんらぶらぶ、大好き!』なメッセージカードが入っていることを、真一も音も知らない。
「‥‥甘いものもいいが肉まんもいい」
「! 肉まん! 大好き!」
「‥‥外はもちもち、中はふわふわ‥‥結論は皮だな」
甘いものに囲まれて、何故か肉まん談義が、始まった。
その頃、親友二人も甘いものを堪能していた。
「あ、これ美味しい‥‥これも、こっちも。あ、これはどうだろう。ほら、巴。これとっても美味しいわよ」
「ほら、楓さん。このチョコケーキなんてどうです? すっごく美味しそうですよ」
二人はそれぞれのお皿に乗ったものを少しずつ交換したりと色々楽しんでいく。
「まぁ、たまにはいいわよね‥‥戦士の休息。至福の時間よねぇ‥‥来年は、どうかしら? 同じように楽しめる時間があるのかしら? それとも‥‥もしかしたら、パートナーを見つけて甘い時間をすごしているのかしら? なんて‥‥ね」
そういう楓は、笑っているものの落した言葉はぽつりとしていた。
そんな言葉に、巴は楓の腕をとる。
それにちょっと驚いた楓。
「今日はこうしていたい気分なんです‥‥駄目なら、解きますけど‥‥」
しゅんとしつつ巴は呟く。
そんな巴に楓は笑む。
「あぁ、そうそう‥‥こういうパーティーの席で何も贈らないのは勿体無いから。これ。まぁ‥‥親友の証とでも、思って」
お皿を一度おいて、とりだされたコサージュ。
それを巴は受け取って嬉しそうにする。
「その、ね‥‥私‥‥楓さんと会えて、親友になれて‥‥本当に良かった。ありがとう‥‥楓さん」
二人はより一層、仲を深めていた。
そして、こちらも一つ、進もうとしている二人。
「ほら、甘さ控えめのビターなフォンダンショコラ。すぐ食べられるよう冷たい状態が一番おいしいようにしたんだ。中のガナッシュが舌の上で溶けるようにするのは苦労したぞ」
笑いながらエミールは希明へとプレゼントを渡す。
「ありがとう、私もこれ」
希明が送るのは手作りのジャケット。シンプルだけれども気品があり、なにより丈夫なそれをうけとって、エミールはその場で袖を通す。
「似合ってるか? って、おい‥‥」
「あ‥‥あれ‥‥?」
エミールの姿をみて、今はいない実の兄の姿を、思い出して自然と希明の瞳からこぼれ出た涙。
本人も、少し驚いていた。
「‥‥エミールは‥‥何処へもいかない‥‥よね? もう、誰も失いたくない‥‥もう、一人は嫌だから‥‥」
「‥‥ごめん、俺がいると余計に思い出しちまうことは分かってるのに。でもな、そろそろ失くしたモノと向き合うべきだと思うんだ。俺は同じものを背負うことは出来ないけど‥‥隣で支えることは出来るから」
すぐに、とは言わないけど泣きやめとぽんぽん、とエミールは希明の頭を撫でる。
うん、と小さく、希明は頷いていた。
●好きって気持ちがたくさん
友達同士ではしゃぐ者もいれば、恋に喜び、迷い、そして進み始める人たちも、いるのです。
―幸せ色の青い薔薇
お菓子をちょっとつまんだあと、友人たちとの話もそこそこにホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)と風(
ga4739)は薔薇の迷路の中にいた。
「お話したいコト、沢山あるのに‥‥何でかな、何喋って良いか解んなくなってきちゃった」
風はいつもからかわれるのを気にしてくっつけない分、今を一生懸命感じる。
腕を組んで、ぴとっと寄り添って幸せで、少しぽやーっとしていた。
やがて薔薇にかこまれた東屋にたどり着く二人。
少し休憩、と腰を下ろす。
「‥‥青い薔薇は見当たらなかったな。自然に咲かない色なんだが‥‥限りなく青に近い薔薇なら‥‥人間の果てなき情熱が、奇跡を生み出すこともある」
軽く微笑んでホアキンはカーキ色のファー付きコートから淡く青みがかった一輪の薔薇と、香水を取り出し、風をぎゅっと抱き寄せた。
風は抱きしめられた目の前に、自分がクリスマスにプレゼントしたボルドー色のクロスモチーフペンダントを視界に捕らえまた幸せ。
「俺にとってあなたは、奇跡のような女性だ‥‥」
風の髪に青い薔薇を挿しながら耳元で囁く。
そしてそのまま、流れのままにキスを一つ。
視線が合い、微笑んで言葉を送る。
「‥‥あなたの全てを愛している」
「うん‥‥ん? ‥‥えぇ?!」
ぽわっとしていた風は生返事、だけれどもすぐ我に返って顔を赤くする。
「‥‥あ、あのっ! ‥‥あたしも、愛してる、うん‥‥あはは‥‥照れ臭いね‥‥でも」
ふっと顔を上げて今度は風からのキス。
「でも、これは、あたしのホントの気持ち。ケナ、大好きだよ」
風の笑顔は幸せそうで、そしてまた幸せを運んでくる。
「俺の薔薇は、今ここにある」
二人はぴたりと寄り添って、恋人との時間を大切にしていた。
―想いの深さ
許婚同士である漸 王零(
ga2930)と王 憐華(
ga4039)は東屋にて軽食を取っているところだった。
「今日は久し振りのデートだから腕によりをかけて作ったんだからちゃんと食べてね」
「ぬぅ? 相変わらずな味だな‥‥今度一緒に料理を作ろうな」
相変わらずの味を一口。
王零は笑いつつも、全てそれを平らげる。
その様子を憐華はどこか嬉しそうに見ていた。
「すまんな。初めのころはお前のことを思い出せずにいて‥‥」
久しぶりのデート、能力者になって、最近まで失っていた自分の記憶。
その話を憐華に王零はする。王零の気持ちを憐華は受け止めて、いいのと言う。
「思い出してくれて、今があるんだから。あと、これはバレンタインチョコならぬチョコ串団子よ。私の気持ちと一緒にしっかり味わってね」
「チョコ串団子‥‥ありがとう」
さしだされたそれを照れながら受取って、王零は一つずつ気持ちを受取るように食べてゆく。
「今回は災難だったわね。いい機会だからゆっくり体を休めなさい。あなたはただでさえいろいろ忙しいし、ここには大怪我がもとで運び込まれたんだから‥‥」
憐華は言って笑顔を向けた。
その笑顔に同じように笑顔を返し、そして王零は真面目な表情を浮かべる。
「次は我が一緒に出れないんだ。あまり無茶なことはするなよ」
「ええ」
「お前にいなくなられては我が困るんだから。お前に聖闇の加護があらんことを」
無事に帰ってくるようにお呪いだと王零はキスをする。
憐華はありがとうと微笑むのだった。
―甘いチョコ
メイド服の裾を翻しながらキョーコ・クルック(
ga4770)は最近恋人になったばかりの霧島 亜夜(
ga3511)と会場を歩いていた。
「うーん、やっぱりすげーな〜」
「いろんなお菓子があるんだね〜」
亜夜は自分の兵舎の新メニューになりそうなものはないかなぁと見て回る。
そしてキョーコはそこに並ぶ菓子をみて、自分が作ってきたのよりも良い出来に少し落ち込んでいた。
けれど、亜夜のために作ってきたんだから、と思い直す。
「あ‥‥あのさ‥‥2人っきりになりたいから‥‥あそこ‥‥行こ?」
キョーコが示したのは薔薇の迷路。
亜夜はいいよと頷いて、そこへと向かう。
「手‥‥繋いでもいい?」
しばらくの間沈黙。やがてキョーコが切りだし、二人の手は繋がれる。
「あそこで少し‥‥休んでこっか?」
少し進んで、見つけた東屋。
「チョコ作ってきたんだけど一緒に食べないかい? ‥‥あっバレンタインの分は別に用意してあるから安心していいからっ」
「うちの店の仕事も忙しかったのにちゃんと作ってくれたんだ。ありがとな!」
「口空けて?」
促されて開ければ口の中に甘い味。
「どう‥‥? おいしい?」
「おいしいよ。特に隠し味の愛情が」
笑いつつ話しつつ、いつの間にかチョコは最後の一つ。
キョーコに目を瞑ってといわれ亜夜は従う。
ふっと柔らかな感触が、唇にあたる。
「!」
「‥‥最後の1枚だったから半分こ‥‥」
顔を真っ赤にしたキョーコ。キョーコはふっと亜夜の口の端についたチョコに気が付く。
「口にチョコ付いてる」
それをぬぐってぱくり。そのすぐ後に、亜夜はキョーコをぎゅっと抱きしめる。
「愛してるぜ、キョーコ」
照れ隠ししつつ抱きしめ、その後甘い雰囲気で二人はもう一度キスを交わした。
キョーコの笑顔が一番の宝物だから、彼女の笑顔を守るために頑張っていこうと亜夜は決意を新たにしていた。
―大事な時間
終夜・無月(
ga3084)と如月・由梨(
ga1805)は腕を組んで迷路を回っていた。
そして途中で休もうかと東屋にもってきていたティーセットを広げる。
そこに並ぶのはコーヒーとラズベリーパイ。
丁度準備ができて、さぁ一口となるところを無月は待って、と止める。
途中であった庭師に薔薇を一輪もらった無月は、棘をちゃんと除いて、そして由梨の髪へと、飾る。
「良く似合ってるね‥‥綺麗だよ‥‥」
言葉とともにもう一つ、無月はとあるもののラッピングをはずし、プレゼントとして渡す。
それは赤い薔薇の花束。
感嘆の声だしつつ受け取って由梨は嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます‥‥あ、え、えぇと‥‥その、これどうぞ! お口に合えば宜しいのですが‥‥」
渡さなきゃ、とぱっと由梨が取り出したのはトリュフチョコレート。
好きだという気持ちをいっぱいこめて、もう一度告白するつもりで、それを前へ。
「ありがとう‥‥凄く嬉しいよ‥‥」
無月はそれを受け取り、やわらかな笑みとともに、由梨を抱き寄せ囁いた。
無月の腕の中で、由梨は呟きを洩らす。
「こんなに幸せで良いのでしょうか?」
その言葉に無月は微笑んでいいんだと返す。
いつも隊長として奔走している無月とともにある時間を、大規模作戦中に不謹慎かとも思いつつ幸せとして感じつつ由梨はぎゅっと無月との時間をかみしめる。
人目を気にせず、大事な大事な時間がそこにはあった。
―狼さんとひよこさん
「レグ、凄いぜ薔薇! 綺麗だなー」
微笑みと共に蓮沼千影(
ga4090)から差し伸べられた手にレーゲン・シュナイダー(
ga4458)は自分の手を重ねる。
「白衣も似合うけど‥‥ワンピースも似合うな。可愛いぜ」
繋いだ手は小さくて、可愛くて、千影はどきどきしていたりもする。
今日のレーゲンはいつものように白衣ではなく胸元にアイボリーのレースがあるカフェオレベージュのワンピースにジーンズとピンクのダウンコート。
千影もいつもは着ない一張羅スーツに薄赤なシャツと、紫ネクタイでパリッとキリッと決めていた。
二人は繋いだ手のまま迷路の散策。
薔薇をみて千影の腐れ縁の彼を思い出したりもしていた。
やがて少し開けた、薔薇で囲まれた東屋につく。
「ドイツのバレンタインは、恋人同士がプレゼントを贈り合うらしい」
言って千影が取り出したのは、狼の小さな立体マスコット。
そして自分の携帯をだし、そこにひよこマスコットがついているのをみせて、ニコリ。
レーゲンは一度瞳を瞬く。
「狼です‥‥嬉しい、大事にします」
受取って自分の携帯にそれをつける。そして自分もプレゼントを。
「ウイスキーボンボンを作りました。良かったらどうぞ」
差し出された紙袋を千影は嬉しそうに受取る。
「レグの柔らかな笑顔を見る度に心が癒されて‥‥いつのまにか、レグのことばかり考えるようになってた。手紙やメールを貰うたび、胸が熱くなって‥‥顔が見れるたびに、惹かれていって‥‥レグ‥‥大好きだ。どうか、レグの初恋の相手が俺になれば‥‥いい、な」
レーゲンに向かって、千影は言葉で気持ちを伝える。
「こんなに一人の女性を愛しく思えたことはなかったと思う。レグに出会えて幸せだよ。レグ、ありがとう。愛してる、ぜ」
赤面しつつぎゅっと抱きしめるその腕の中で、レーゲンは嬉しくてぽろぽろと涙を落とす。
「私も‥‥ちかげさんが――ちかが、大好き‥‥です。悲しい時、辛い時、気付けばいつも側で支えてくれて。メールが途絶えた日は淋しくてたまらなくて‥‥ちかは、それが恋なんだよって、教えてくれました。私に初恋を、心や温もりを分け合う幸せを教えてくれて‥‥ありがとです」
互いの言葉に、行動に照れつつ視線を二人は合わせる。
「‥‥ちかは、世界で一番、愛しい人。この戦争が終わった後もずっと、一緒に居たいです‥‥」
「レグ‥‥ずっとずっと、傍にいてくれ‥‥な」
千影は優しく甘く、キスをする。
レーゲンはその温もりを照れながら受け入れていた。
―擦れ違いも違わない
「折角頑張って誘ったのに‥‥オルランドさん、忙しい時間遣り繰りしてくれたのに‥‥私の馬鹿ぁぁ!!」
薔薇の迷路の真ん中で、メアリー・エッセンバル(
ga0194)は頭抱えてしゃがみこんでいた。
待ち合わせまでまだ時間があり、少しの間と思って薔薇の迷路に突入したのが間違いの始まりだった。
そして、今はもう待ち合わせ時間。メアリーはその場へとしゃがみ込んでいた。
「猪突猛進ですぐに何かにぶつかってしまうのは君の悪いところだな」
と、声が上からかかる。
その声はオルランド・イブラヒム(
ga2438)のものだった。
「オルランドさん!」
メアリーは振り向きその姿を見て、そして探してくれたんだと感極まり勢いよく抱きつく。
それは初めての、こと。
オルランドはふっと表情を緩めてぽんぽんと背中を叩く。ぱっと、喜んでいないようにみえても、やっぱり嬉しい。
「突進力があるのはいいが、先導者より先に行かれては困る」
「はい‥‥」
やがて二人は気を取り直して薔薇園を散策。
「道案内ぐらいなら幾らでもするから‥‥ね。さ、薔薇の迷路を楽しもう」
メアリーは薔薇の品種、手入れはどうか、土の様子はなど気になることをじーっと観察する。
おしゃれをすることもなく、いつものツナギ姿のメアリー。彼女らしさに、オルランドは初デートということで欠片ほどに芽生えた甘酸っぱい感情はひた隠しにしてゆく。
「オルランドさん、全体がみたいのでちょっと足場になってもらえませんか」
自分の身長よりもたかい薔薇の木々。少し高い位置に視線をもっていきたかったメアリーは真剣に言う。
オルランドは、そんなメアリーに苦笑したのだった。
この後オルランドがどうしたのかは、二人だけが知ることで、メアリーの望みが抱きあがるという形で叶っていたならば、その口から始めての告白の言葉『それでも、あなたと共に居られて嬉しいの‥‥愛してます』が伝えられることになる。
―まだ、これから
「わふー、こんなに‥‥!」
櫻井 壬春(
ga0816)はきらきらと目を輝かせ、チョコレートを堪能していた。
それも一通り満足。
「はふっ。お腹いっぱい‥‥あっ。向こう、観に行ってみヨー?」
と、ふっと見知った顔を見つけて走り寄る。
「‥‥服‥‥変じゃないかな‥‥」
朧 幸乃(
ga3078)は薄くメイクもして、白いフード付のカットワンピースに黒長袖タイトセーターと白ショートパンツをあわせて、と極力女の子っぽい服を選んでこの場にいた。
「幸乃さん!」
「!」
「飾るもヨシ、お茶もヨシ、プレゼント!」
ドライハーブの花束をプレゼント、と渡すと幸乃はありがとうございます、と笑む。
そしてそのまま、薔薇の迷路を見に行こう、と何気なく壬春は幸乃を誘う。
「こんなに綺麗なメイズ、久しぶりなんだよ‥‥ん、どうかした?」
「時間がなくて、こんなものですみません‥‥」
ふっと幸乃が差しだしたのはトリュフチョコの入った小さな包み。
ありがとう、と壬春が受け取ろうとしたところで、幸乃は
「だから、かわりに‥‥」
ちゅ、と軽く頬に触れる感触。
「足りない分は、これで‥‥ダンスパーティーと‥‥今日付き合っていただいたお礼です‥‥」
壬春は頬を軽く触って、子供扱いしてー、と笑う。
まだ疎い為に、その意味をわかっていない壬春にゆっくりと、伝えていこうと幸乃は思う。
誰にでも優しくいつも明るい壬春の裏には、誰にも見せられないもう一人の彼がいるのかもと思い、でもそれも含めての彼だから、受け止めたいと、思いながら。
「もー‥‥あ、こっち! 出口っ」
と、出口を見つけて壬春は幸乃の手を取る。
何も意識せず、自然に動いているだろう壬春に幸乃は腕を引かれながら笑む。
まだまだ、これから。
―二人の距離感
「パーティの招待状が来たのじゃ。おぬし、エスコートしてくりゃれ」
と、ルミナス(
ga6516)はレーヴェ・ウッド(
ga6249)をつれてパーティーへと来ていた。
ルミナスは大人な感じのドレスに、レーヴェに貰ったブリザードフラワーのコサージュをつけて。
レーヴェはというと着崩した感じの黒のスーツだった。
「このご時勢に各国の全世界津々浦々とは、実に興味深い事じゃ」
「勢い付いて転ぶなよ、子供じゃないんだからな‥‥ルミィ?」
憎まれ口のようなことを言うレーヴェは、さっきまで隣にあった相方の姿が消えていることに気がつく。
「‥‥どこいったんだ‥‥」
その頃ルミナスは薔薇の迷路をほてほてと歩いていた。
「こ、困ったの‥‥勢い込んで1人で入ってしまったが、ホントに迷ってしまったようじゃ」
しばらく歩いて、ふっと考えるつく。
動き回っていても、しょうがない。
レーヴェが探しに来るのを待とう、と。
そしてその想いに呼応するように、レーヴェも薔薇の迷路へと入っていた。
「‥‥何て言うか、良くこんな面倒な物を作るもんだな」
煙草に火をつけず、左手で遊ばせながら園内を見入る。
しばらく歩いてゆくと、見知った背中。
「ルミィ」
「むー、おーそーいー。おぬしエスコートじゃろ? もう少しわっちの傍に居てくれないと困るのじゃ」
名を呼べば少し怒って無くれた風な様子。
レーヴェはルミナスを連れて、少し戻ったところでみかけた東屋へと連れて行き座らせる。
「心配、したんだぞ」
「‥‥心配させてすまなかった。でも探しに着てくれたのは嬉しかったのじゃ。そうだ、目を潰って、そして口をあける」
言われるままに、レーヴェは瞳を閉じ、口をあける。
そこに入れられたものにびっくりするもすぐに広がるのは甘い味。
「‥‥甘いな。チョコか?」
「ふふっ、なかなか良いリアクションじゃの」
会場から持ってきていたチョコを、レーヴェの思った通り、ルミナスは口へと運んでいた。
「まあ、なかなか洒落たプレゼントじゃないか?」
レーヴェはふっと、バレンタインだったことを思い出し、いつもの皮肉さはなく、素直に笑った。
「女の子はの、たまにその砂糖菓子のように甘い台詞に酔いたくなるのでありんす。ぬしも覚えておいてくりゃれ?」
屈託なく、邪気の無い少女のように笑って紡がれた言葉にレーヴェはわかった、とルミナスの頭をなでたのだった。