タイトル:響けばマスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/27 03:47

●オープニング本文


 その歌声は美しく響き、聞いたものを誘う。
 セイレーンという魔性のもの。
 船乗りを惑わすその歌が、今はなぜか、陸地できこえるのだ。
 そしてその歌声が響いた後には、血の匂いが漂うといううわさ。

 そんなものを放っておくわけにはもちろんいかない。
 場所はロサンゼルス。
 防衛の限界ぎりぎりにあたる場所にはバグアのキメラがよく送られていた。
 ロサンゼルスの海岸近くの倉庫から響く歌声。
 その歌声を発するものが本当にいるのかどうかを調べ、もしいる場合、それはキメラの可能性が高い。
 できるならばそれを倒すのも仕事になる。

「ということでー、よっろしくぅ」
 きゃらきゃらと明るい声。
 現地について詳しい説明をしたものが笑う。
「まぁ、いざというときは逃げてもいいし。今回は噂がほんとうかどうかぁ、キメラなのかどうか知るって言うのが一番重要なのよぉ。倒せたら、倒せたでOKだからねぇ」
 まぁ気楽に、という雰囲気で彼女は言う。
「ひくひかない、ってのは個人の自由、いま集まったメンバーで協力するしないも自由だからねぇ。あ、わたしとぉ、頑張って一緒に戦う、もなしぃ。なぜなら私はいかないからぁ」
 それじゃあいってらっしゃぁい、と少し気の抜けたような声で、傭兵たちは送り出される。 

●参加者一覧

クロード(ga0179
18歳・♀・AA
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
時任 結香(ga0831
17歳・♀・FT
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

●調査開始
 響く声の謎を突き止める。
 その後ろにキメラの可能性を感じつつ、雇われた者たちはどうしようかと相談を始めていく。
 榊兵衛(ga0388)は私情を挟まず淡々と依頼に向かうが内心苦笑していた。今回のメンバーのほとんどが十代とは、と。
「実態調査となると‥‥」
 聞き込みや本部での調べ物、など何をどうするかを話していく。
「全員の生還を一番に優先すべきだと思うんだよ、獄門は」
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)はそう言って依頼の内容を確認する。
 今回は響く声が何であるかを突き止めるのが一番、キメラがいるのならばそのことを依頼主に持ち帰るのが一番だ。
 だが、倒せるのなら倒してしまえばいいとも思われる。
「いろいろと勝手もわからないし、なんか複雑な気分‥‥まぁ今更色々言っても仕方ないんですけど。とりあえず今は、目の前の仕事に集中することにします」
 平坂 桃香(ga1831)は気持ちを切り替え取り組んでいく。
「それじゃあ本部で現地に関する資料を捜索を担当しよう」
 クロード(ga0179)は本部にも『噂』に関する情報が何かあるかもしれないと、受付へ問い合わせに一行から離れていく。
 もちろん調べた後に現地への合流を約束して。
「‥‥私は聞き込みとか面倒なのパス。適当に時間潰してるから」
 イヤホンを耳にはめ直しつつ伊佐美 希明(ga0214)は今が離れるタイミングかな、と集まっていた輪から離れていく。
 その勝手な行動に、他のメンバーは呆れもするが気を取り直して。
「あたしは海岸あたりの聞き込みだね、行こう」
 時任 結香(ga0831)は風巻 美澄(ga0932)と桃香とともに聞き込みへと向かう。
「俺は軍の人相手に色々と調べてくる」
 ベル(ga0924)も行動開始。
 それぞれさまざまな角度から、まずは調査を開始する。
 下調べは十二分に。

●それぞれの方法
 本部からアプローチをかけるクロードは現地に関する情報の集まった資料を捜索し始めた。
「噂の発祥は何時からか‥‥その時期で現地で起きた事件‥‥」
 一つ一つ、基本的なことから追っていくと様々なことが見えてくる。
 共通することや関連、探せば色々とそれらはでてきた。
 一方、獄門もまた受付を介して本部から情報を引き出していた。
 該当地域でのバグアとの交戦記録、死者や行方不明者の有無とその詳細を。
 そして『噂』をしている者たちについての情報も集めてゆく。
「興味深いねェー! 全ての事象は正確なデータとして数値化されるべき、これらを合わせて‥‥」
 情報のデータを検証、組み合わせて獄門なりの状況の把握を行っていく。
「Ich weiss nicht was soll es bedeuten‥‥」
 一つ繋がっていく結論に、獄門は興味深いねェーとまた呟きながら笑みを浮かべた。
 積み重なりデータとなった情報はこの二人によって綺麗に紐解かれていた。
 そして、現地ではまた、生の情報が動いていた。
 兵衛が向かったのは周辺、ではなくてダウンタウン。情報は酒場など人の集まる所に密集する。
「酒を奢ろう、その代わりと言っては何だが、最近このあたりであったことを話してくれないか?」
 兵衛は親しげに話しかけていく。彼らから聞く情報は些細なこと、関係ないと思われることも逃さない。それらがあとで繋がるかもしれないからだ。
 ベルは現地の軍の人達から情報を集めていた。普段口数が少ないベルだが人を守るために積極的に動いていた。またその噂のある倉庫にある物資も調べたりとやることは多々ある。そして多くの人と関わるのは、ベルにとって良いことでもあった。
 そして三人ともに行動することにした結香、美澄、桃香はあたりに住んでいる民間の人々を中心に聞き込んでいた。
「防衛前線だけど、まだ残ってる民間の人だって居るわよねぇ。よっぽど肝が据わってるか、ここが大好きなんだろうね‥‥」
「そんな人達のためにも不安は早く取り除かないと」
「そうだね。『危ない噂』だったら恐いもの知らずの若者が知ってるかもしれないそ、大人では見えないものが子供の目線から見えてるかもしれないね」
 それぞれの観点をまとめあって聞き込みを開始する。
 その場所に住んでいるからこそ気がつくことは様々だ。
 歌の聞こえる時間、どこからかなど情報は集まってくる。
 そして、単独行動に出ていた希明は噂となっているあたりの情報を集め脱出経路などを調べていた。そして自らが使う弓の調整を行い、もしもの時のための準備をする。
 きっとその場所へ向かうことにはなるのだから。

●情報集めて
「さて、全員戻ってきたし、結果報告だね」
 全員再度集合。
 それぞれの持ってきた情報を出し合っていく。
 場所は倉庫街。その中で三つ並ぶ赤レンガの倉庫から聞こえてくるというのが一番有力らしい。そして聞こえてくるのは夕方から夜にかけて、人通りが少ない時間に。
 そしてその声を聞いて戻ってきたものもいるということも分かった。歌声が聞こえてくると思われた倉庫を覗いたものも、いたのだった。
「小さな子供やお年寄りからそういう話は多くきいたね」
「死者、というのは聞いていないけど行方不明者はいるようだ。聞けば若者たちが多いそうだ」
 また軍もこのあたりを調査したらしく、その時は血の跡はあれども被害にあったものの遺体や、その一部といったものはその近辺にはなかったという記録があった。
「歌は‥‥重なって聞こえてくるっていう話も聞いたな」
「重なって?」
 兵衛は酒場で得た情報を伝える。その歌を聴いたことがあるというものがいたのだ。自慢げに、歌は重なって聞こえたと言っていたという。
「倉庫の中で反響、という線も考えられるけど、何かいるなら複数体というのも」
「ありえるだろうねェー」
 噂。
 単なる噂なのだけれども何かがあるとは思わずにはいられない。
「海岸沿いの倉庫に対象が潜んでいる事は間違いないようだが、どうする?」
「撤退条件をあらかじめ決めておいてもしキメラなら」
「殲滅‥‥殲滅が不可と思われる場合は戦闘はせず全員撤退」
 どう対応するか、をその場で話し合い、一行は歌声に聞こえてくる時間帯に、海岸沿いの倉庫へと向かう。

●響けば
 その海岸沿いの倉庫街。
 夕暮れの中、足跡だけが響く。
「聞こえてくるのを待つしかないわよね」
「歌声対策に耳栓も持ってきたんだよねェー」
 獄門はそれを使うなら、とそれぞれに渡す。
 そうして倉庫街を歩いていると、どこからともなく不思議な歌声が、響いてきた。
 高くなく、低くもなく。
「確かに、二重三重と重なっているな‥‥」
 気をつけていこう、とその歌声の響いてくる方へと向かう。
 そして、歌声が漏れ聞こえてくる倉庫の前へとたどり着いた。
「眠くなったりとかは何もないみたい‥‥」
 少し空いた鉄の扉。ふっと冷たくもあり生暖かくも感じる風が、吹いてくる。
 もし戦闘になった場合を考えて前衛を務めるのは兵衛。
 ゆっくりと扉をあけて中へとはいる。
 そこにはコンテナがいくつか高く、積まれていた。
 そして扉を開けると同時に、歌声が止まる。
「歌が‥‥止まった?」
 しん、と静まりかえるが気を張り巡らせる。
 何かいる、というのは感じていた。
 と、ベルの視線が倉庫の奥、積み重なったコンテナの上で光る二つの光をとらえる。
 はっとしてその方向を打てばそれは攻撃をよけて這うようにコンテナから地面へと降りてくる。
 その影は、ひとつ。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
「榊古槍術、榊兵衛、参る!」
 同時に前へと飛び出したのはクロードと兵衛。
 兵衛は勇猛果敢に、クロードは敵との距離をとりつつ迫っていく。
 黒髪がひと房紫色へと変わるクロード、その瞳の虹彩もまた、紫水晶色となり覚醒完了。
 そしてその後ろで、獄門は覚醒する。
「きたきたきたきた、電波来たァー! 受信・完了!! 科学の総統・ここに爆誕☆ てめェーらキメラにバグアども、もう戦争に勝ったつもりじゃァあるめェーなあ? この星は! 人類の星だ! 人が汚し! 人が守り! 人が壊す! と言う訳、で! 勝負しようか宇宙人!? カツカレーが喰いてェーなあぁぁ!!」
 いつもの無表情さは消えてテンションは高くでもマシンガントークはそのままに、ぴこっとでていたアホ毛は稲妻状となり瞳色は金へと変化。
「! まだいるよ!」
 皆から少し離れていた希明は地面へと降りた一体のほかにも、その存在を感じて弓を射る。死角からの鋭角射撃は別にいたコンテナ上の一体の喉元を貫く。
『弓道は自分との戦い、葛藤‥‥私は私に負けない‥‥』と覚醒中は左顔は鬼のように醜悪に変わり、性格は攻撃的になった自制しがたい自分と闘いながらの一撃。
「皆中!」
 手ごたえあり、そして地面へとどしゃりとおちる音。
 まだ息のあるキメラに結香と桃香も前へと出る。
「血の匂いとともに消えた人達の無念、償わせてやるっ!」
 結香は前にでつつ、覚醒に入る。これから攻撃を繰り出すその手が、腕が黒く変色しまるで焦げているかのように黒い煙を噴き出し始める。
「出し惜しみは無しでいくよ!」
 希明の打ち落としたキメラへと向かって結香は豪破斬撃を繰り出す。
 その攻撃は真正面から入り、キメラは引き裂くような悲鳴をあげて倒れた。
「っ!! すごい叫び声‥‥歌声より凶悪‥‥耳栓しとくんだった」
 歌声に危険はないとおもった桃香は耳栓をしてないことを悔やむ。近い場所での叫び
は耳によく響いた。
 一方、最初に現れたもう一体と対していた兵衛とクロードは少しずつ入口の方へと敵を引き寄せつつ攻撃をしていた。
「一撃必殺は成らぬか、ならば倒れるまで斬る!」
 覚醒により口数が多くなるクロードは刀を振り下ろす。
 と、不意に歌声が響く。
 だがそれは今闘っている一体からではない。そしてもちろん倒された一体からでも、ない。
「まだいる!?」
 倉庫の一番奥の奥、暗闇に蠢く影。
 そこからふっと光が集束して、放たれる。
 光の弾は桃香めがけて飛んできたがそれを彼女は交わす。地面にあたらなかった弾はたどり着きまばゆい光を放って消えた。だがここは暗い倉庫の中、その威力は半減しているが目くらましにはなる。
 気がついた時には、その一体はいない。
 そしてそちらに気を少しとられている間に、戦闘中の一体は出口へ。
 待ち構えていたものたちが、それを迎え撃つ。
 挟み打ちで同時攻撃。今まで与えられていたダメージも重なって、キメラは倒れる。
 そして、また姿をけしたキメラ。
 奥へと慎重に向かうと、倉庫の一角に大きくあいた穴があった。
 それはまだ最近できたものだと思われる。
「逃げられたか‥‥」
「こんな穴、下調べ情報にはなかったわね‥‥」
 兵衛は呟き、あたりに本当にまだ他のキメラが潜んでいないか見まわす。
「怪我はないかい? 見た限り大丈夫そうだけど」
「擦り傷くらいで大きな怪我はないな」
 それぞれが自身を確認して詳しく倉庫の調査をしてゆく。
 なにも変わりがないがところどころに血の痕は確かにあった。そしてある一つの開いたコンテナに服の切れ端やメモといったものが隙間に挟まって残っていた。
 それはキメラの歌声に惹かれてここにやってきたものの残したメモのようだった。
「何て‥‥書いてあるんですか?」
「かいつまむと、歌声によってここに呼ばれ、コンテナに詰め込まれた者たちがいて、彼らはバグアによってどこかに連れていかれた、みたいだ‥‥」
 兵衛はそのメモを読む。
 それは襲われた者たちからの真実を伝えようとする意思の切れ端だ。
「どうやら行方不明者たちは‥‥」
「‥‥」
 ひとつ、影を落としつつも事件は一つの区切りを迎える。

●コンプリート!
 倉庫からキメラの気配は完全に無くなった。
 それを確認してから面々は依頼主の元へと結果を報告しにゆく。
 もちろん残っていたメモも持って。
「あ、やっぱりキメラいたのね〜。噂は本当、正体はキメラ‥‥そしてバグアかぁ‥‥」
「キメラのサンプルを確保をしてきたんだよー、本部と自分にねェー!」
 至極楽しそうに獄門は言って、それの入ったケースを一つ、依頼主へと渡す。
「倒した証拠にもなるわねぇ、これって。詳しい調査はまた皆の報告もあったし上層もいれるでしょうけどぉ、きっともうあそこにキメラはでてこないと思うわぁ。やっつけられたところに長く居座るものでもないと思うしぃ。また同じことあったら皆に連絡するしねぇ。とにもかくにもお疲れ様ぁ。ちゃんと聞き込みとかぁ、分担? 他にも色々あるけどぉ、しっかりしていったのが吉だったねぇ、一体逃したらしいけどぉ、それはこれから軍の人が張り込んでくれるでしょぉ」
 事件は八人の手によって解決を迎える。
 戻ってこなかった者たちの安否はわからないがこれから軍も手をまわして捜索を始めることになるだろうと依頼主は言った。
「今回はお疲れ様だった。また何かの機会に組めると良いな」
 兵衛は共に戦ったメンバーをねぎらう。
「またどこかで‥‥会えるといいです」
 今回の依頼で出会ったばかりの者たちといつか本当に信じられる仲間になるのことがあるかもしれない、とベルは思う。
「‥‥不安が取り除かれれば‥‥それでいい‥‥」
「もう仕事も終わったし、帰っていいわよね」
 マイペースな希明。だが根はやさしい彼女は依頼が無事に終わったことを心の中でしっかりと喜び、皆が無事であったことにほっとしていた。
「ま、無事に終わってよかったじゃないか」
 一仕事終わり一服、と美澄は煙草に火をつける。愛煙家の幸せの一時だ。
「そうだね、撤退ってことにもならずキメラをしっかりぶっとばすこともできたし」
 からからと笑いながら結香はぽん、と獄門の肩を叩いた。
「今回のこともデータとして残しておかないといけないね、全ての事象は正確なデータとして数値化されるべきだよ」
 が、何事にも例外はあるのだよ、胸囲とかねェー、と獄門は続けて小さくつぶやく。
 それが、また始まりだった。
「ん、大丈夫大丈夫。お姉さんにこっそりと言ってみなさい」
 その言葉をきいた美澄は興味津々と聞いてくる。
 と、さらに小さな話題は連鎖を呼び起こす。
「乳はステータスだってどっかの偉い人が言ってたから自信を持って大丈夫!!」
「貧乳はステータス‥‥」
 桃香はぐっと拳にぎって獄門へと言う。その言葉を耳にした希明は自分の胸をみていやいやいや、と首をふって納得したり。
 お年頃のお嬢さんたちは気になることがバグアやキメラのほかにもあるのだ。
「ふむ、上から‥‥」
「例外には触れてはいけないのだよねェー」
 騒ぐ女性陣たち。
 だがここにいるのは彼女たちだけだはない。
 何気に聞かないふりの、男性陣もいる。
 とにもかくにも、無事に依頼達成なのだった。