タイトル:僕は神を否定するマスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/05 00:23

●オープニング本文


 それはとある仕事先でのこと。
 瓦解した街はキメラが蹂躙した印。
 そのキメラが最初に現れたのは一週間前のこと。
 ひとしきり街を破壊し、そのキメラは去っていった。
 人々は街の片づけや避難などのためにせわしく動き回った。
 そして、三日前。
 再びそのキメラは現れた。片付けられた街をもう一度散らかし回り、そして去っていく。
 二度あることは三度あるという。
 そこに住む人々は全員近隣の街へ避難。
 そして、傭兵たちがそのキメラを倒すべく派遣された。
 だが、避難したのは全員ではなかった。
 その街で傭兵たちは一人の少年と、一人の傭兵に出会う。

「僕はここにいる」
「ん、でも危険だよ、やっぱりー」
 そう言ってこの場所から動こうとしない少年を一人の傭兵がなだめていた。
 曰く、少年のいる場所‥‥墓地から離れたくないのだという。
 この場所には数年前に亡くなった母が眠っているというのだ。
 僕がいなくなれば母がさびしいといって、動かない。
「どうしてキメラは襲ってくる。あれは僕らをなんだと思っている」
 そして、どうして死んだものすら静かに眠らせてくれないのかと。
 少年は動く気配は全くない。
「そう言われると、私だけがだした答えしか返せないんだけど‥‥と、ああ、本部からきたお仲間さん?」
 と、傭兵のほうが気がついて笑う。
「一人で三体を相手にするのも無理だしー、まーかせちゃっていいかな? こっちの少年は私が安全確保するから。説得もすぐには無理そうだし」
 さっくり分担を決められ、ほらほらと言われる。
 ここでまた分担を決める、なんて時間はない。
 すでに、遠くにキメラの姿がみえている。
 そのキメラの姿は人型。
 だが空に浮かんでいるのはその背にある翼のおかげ。
 ぱっとみれば天使というものの姿を、しているのだ。
「ひどいよね。僕は神様を否定するよ。どうしてキメラはあんな姿なんだろう、本当に、ひどい‥‥」
 少年のつぶやきは消えてゆく。
 今は対キメラの方が、先。
「まぁひどいっちゃひどいけどね。これが今なんだから」
 しょうがない、という言葉は嫌いだけどしょうがないんだと傭兵は言う。
「君は神様否定するけど、私はどこかにはいると思うよ。だから私ら、能力もらって戦ってられるんだから」

●参加者一覧

七瀬 帝(ga0719
22歳・♂・SN
藤川 翔(ga0937
18歳・♀・ST
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
来栖 晶(ga6109
26歳・♂・GP
夜柴 歩(ga6172
13歳・♀・FT

●リプレイ本文

●視線を受けて
「ただ敵を叩き潰せば良いと思っておったのに、こんな子供がおるなんて聞いとらんぞ!」
 夜柴 歩(ga6172)は声をあげて気持ちを吐き出す。だがすぐに落ち着いて自分の目的はただ一つ、眼前の敵を叩き潰すだけということを思い出す。
 少年の存在を知ったと同時に無難な依頼と思っていた依頼が金城 エンタ(ga4154)も驚いていた。けれども、やることは変わらない。
 変わらないはずだったが墓地にて少年からの問をうけた傭兵達。
 ただ倒すだけでなく、少年の心のケアも必要なのだと、だれもが感じていた。
 少年の問の答えはそれぞれしっかりと持っていた。
 だがそれに答えるよりも先に、戦いの場所へ向かう。
 墓地から動きたくないという少年はそこに偶然居合わせた傭兵が安全を守ると約束した。
「少年のことが気になるが‥‥まずは街の仇を取ることの方が先だね」
 音クン、少年をお願いするよ、と七瀬 帝(ga0719)は言って颯爽と身を翻す。
 翻しながら、音と名乗った彼女をどこかで見たなと、思っていた。
「敵は三体‥‥出来る事を最大限行いましょう」
 まだ遠くに見える三つの影を見つめながら藤川 翔(ga0937)はきゅっと心を引き締める
「無線機も借りてきた。面倒くせぇがやるしかないな」
 三つの班にわかれるためそれぞれに借りてきた無線機を渡すのはベーオウルフ(ga3640)。
 皐月・B・マイア(ga5514)はじっと少年を見た後で瞳を一度伏せ、呟く。
「神様は‥‥何かをしてくれる為に在るんじゃない。何かをする事を助ける為に在るんだ」
「バグアの奴ら此方の心の拠り所まで利用して人の心を挫こうとしやがる本当に嫌な奴等だな」
 話に聞いたキメラの姿を思いザン・エフティング(ga5141)は言う。
 その横で来栖 晶(ga6109)は少年の幼さを感じていた。まだ答えを出すには早いのではないかと思いながら。
「俺たちが悪魔を退治してきてやる。オマエは母さんの墓を護やれ」
 最後にもう一度、神無 戒路(ga6003)は少年を振り返って安心させるように言った。
 自分の存在を示すために戦いに出たはずだった。だが少年の話を聞いて、過去の自分の姿をそこに重ねた。ただ、守りたいと思う。
 背に少年の視線を受けながら、それぞれ配置へと向かう。

●天使の姿をしたモノ
 三班に分かれて一体ずつの撃破。
 キメラの動きは、一つどころに固まらずそれぞれ別の方向へと向いて行た。
「狙撃してバラけさせる手間は省けたか」
 移動して高い場所から見ていた戒路は呟く。
 キメラを引きつけるのは囮役のエンタ。
 バララララ、と音をたててキメラの周りを打ち抜いて行く弾丸。
「こちらです!」
 体すべてでSMGをささえその身にうける反動を軽くするエンタ。
 覚醒したエンタの双眸は右が青、左が赤へと変わっていた。
 キメラは思惑通り、自分たちの方へと向かってくる。
 その羽をもって空を飛ぶ姿は優美なのだが、どこか禍々しいものを感じさせる。
「悪魔にその翼は必要ない」
 戒路は呟き、覚醒をする。
 黒い髪は白へ、そして肌の色も白く、変わってゆく。キメラを認識する瞳は赤く輝く有鱗目に。白い肌の上に映えるような赤の呪印が浮かび上がっていた。
 翼にむけて銃口を向ける。
 その翼は、少年の心を抉ったものだ。怒りに満ちた心は、反対に冷静さを保っている。
 自分の限界までポテンシャルを引き上げ、一番良いタイミングでもってトリガーを引く。
 全てを運命にゆだねるのみ、と発された弾は、キメラの翼を打ち抜く。
 突然の攻撃にその身を崩し地に落ちるキメラ。
 そこへ素早く更なる攻撃を撃ち込んだのはザン。
 ショットガンでまず攻撃。
 強弾撃をかけられたその弾の威力は格段に上がる。
 そのまま蛍火を抜き、刀での斬り込みも素早くかける。
 キメラの身から流れる血のようなものは青。攻撃をうけても、まだ動けるらしいキメラその手を前に差出し光を集める。
 攻撃がくる、と思ったエンタはさっと壁となる瓦礫へと身を隠す。
 ザンも身を引き、その攻撃をよける体制を。
 集まった光は一直線、手の動きに合わせて軌跡を描く。
 だが好きにはさせないと、上からの攻撃。戒路が放った弾はその腕を狙ったもので、貫くことはなかったが、腕をかすって軌道をそらせる。
 その一瞬でエンタはまた敵の前へ。
「‥‥一気に行きますっ!」
 あわせてザンと戒路もキメラへと一斉に攻撃をたたみかける。
 キメラは、それを受けて地に倒れふす。
「こちらはこれで、大丈夫なようです」
「他の所にまわろう」
 ザンとエンタは頷きあい、戒路へと仕留めたと合図を送る。
 戒路は狙撃ポイントから移動し、自らも動かなくなったことを確かめ他の班と合流すべく動き出した。
 時間は少し遡り、キメラの前へと立つ覚醒した晶の姿があった。
 その右腕が蒼く、輝く。
「天使のような姿のキメラか。人類にとっちゃ堕天使だな」
「おおオオヲヲッ!!」
 晶の近く、歩は覚醒する。
 血に飢えた獣の如く、吼えるような声。
 こっちだ、とキメラに向かう。
「よーし、いい子だ。こっちに来な」
「さて神とやら、おぬしらはどの程度潰せば死ぬのじゃ?」
 キメラは晶と歩に気が付き、攻撃を仕掛けてくる。発射される光弾をよけ、予定しているポイントへ。
「こちらじゃ!」
 歩が声を発し注意を促す。その間に晶は先へと進み、そして今度はこっちだと気を引きつけて誘導していく。
 瓦礫などもうまく利用し、攻撃をよけながら導く先。
 そこには、帝が狙撃の態勢を整えて待っていた。
「僕の神々しさとキミの神々しさ‥‥どちらが上かな?」
 キメラの姿を見、呟きを漏らす。心を落ちつけ、キメラの翼を狙っての攻撃。
 一番狙いやすいポイントへキメラがたどり着き、二人が離れた瞬間。
「当たれ、僕のビューティーショット!!」
 全身が淡く光り、背中に天使の羽の形のような金色の光を纏う帝。キメラよりも美しくあるその姿から繰り出されるショットは翼を貫く。
 翼を貫かれ飛ぶことが困難になったキメラ。
 地上で待つのは歩と晶だ。
「灰は灰に‥‥塵は塵に!!」
 晶の、その蒼く光る右手から繰り出される急所突きはキメラの胸元を強襲する。
 そして続けざまにグレートソードをしっかりと持ち素早く回り込んだ歩からの流し斬りが胴あたりにヒットする。
 ぐぎゃと潰されたような、声のようなものがキメラの口から洩れる。
 またそこに帝からの援護射撃。勢いを完全に味方のものとして一気にその体力を奪う。
 集中しての攻撃に反撃する間を与えられることなく、そのキメラの動きは停止する。
「二人とも、撃ちやすい状況を作ってくれてありがとう」
 その動きが止まると同時に、二人の元へと駆け寄る帝。その手には救急セットがあった。
「怪我はしてないかい? 救急セット持ってきたよ!」
「俺は大丈夫だ」
 ぶっきらぼうに晶は言って、そして他の班の方へと言う。
「我も問題ない。それより早くキメラを仕留めるのじゃ」
「そうだね」
 三人はまだ戦闘が続いていると思わせる音のする方へと向かった。
 最後の一匹となったキメラと闘っているのは翔、ベーオウルフ、そして皐月の三人だった
 だがこちらも、もうすぐカタがつきそうな場面。
「くそっ!」
 光弾がかすりゆくベーオウルフ。
 だが傷はすぐさま翔の練成治療によってふさがり小さくなる。
 思う存分戦ってください、という意味も含むように翔は二人のフォロー体制を万全に。
「ふわふわ浮かんで‥‥そのふざけた翼ごと、射ち落としてやる! 獲物は槍だが‥‥弓でだってやれる!」
 緑色の光玉が皐月の周りを飛ぶ。
 その手にはいつもの槍とは違う武器である弓があった。
 最初は当たらなかったものの、使っているうちにその扱いを体が理解してくる。
 武器には翔が練成強化をかけ、威力は上がっているところ。
 放たれる弓矢は、そのキメラの胴へとしっかりとあたっていた。
 幾度となく放たれた弓はキメラの体へと刺さりやがて飛行を難しくすることとなる。
 高度が落ちてきたキメラの後から、周囲の瓦礫を足場として強く踏みきってジャンプし、ベーオウルフは攻撃を繰り出す。
 振り下ろされるファングの一撃は背中に大きな一撃を与え、キメラの態勢を崩す。
「貴様等は殻だ。そんな姿をしただけの‥‥只の殻だ! 中身も無い張子風情が! そんな姿をっ‥‥するなぁっ!」
 動きが止まった瞬間に、皐月の周りに幾何学模様が浮かんだ。それはレイ・バックルを使う前に起こる。
 強い一撃を、キメラに向かい飛ばすために。
「面倒だからさっさと終わりにしたいものだ」
 同時に、ベーオウルフは覚醒する。淡い光を全身に纏い、瞬天速を使い、一気に懐へと飛び込む。
 皐月のはなった攻撃のすぐ後に、ベーオウルフの一撃。
 キメラはそれをうけてその身を地に完全に落す。
 だがまだ動けるようで、その手に光弾を生み出し放った。
 弱り、動きの読めるその攻撃を避けることは簡単なこと。
 素早く、再び接近するベーオウルフ。
「俺は神が嫌いだが、神を気取る輩はもっと嫌いでな。消えてもらうぞ」
 言葉と共に最後となる一撃を、キメラへと繰り出した

●心はここに
「ほら、無事に帰ってきた」
 戦闘の音が静まったことで落ち着いていなかった少年の背を音はぽん、と叩く。
 そして、行って話を聞いておいでと背中を押す。
 墓地へと戻ってきた傭兵たちは、少年の元へと歩み寄る。
「あなたの思うことをすべて吐き出してみませんか?」
 翔は最初にそう言う。少年の思うことはもっとあるはずで、それを聞き出し、受け入れることで少しでも心のありようが柔らかくなればと思ってのことだった。
 それを一通り聞き終え、自分の思うことを伝える。
「私自身にとっての神とは、八百万の神様達ですから、唯一絶対神という発想はよくわからないんですけど‥‥一人の神様がいなくなったなら、別の神様にお祈りすれば良いだけだと思いますからね」
「僕には、神様はいるかいないか、のどちらかで、いっぱいいてもいなくても同じだよ」
「それなら、神を信じないのならそれも良いだろう。だが、他に信じられるものを探すべきだな」
 ベーオウルフはそのまま、言葉を続ける。
「俺は俺の力と武具、そして仲間を信じているからこの世界で生きていける」
 それが俺の信じるものだというその表情は、それが自分の中で一つ、はっきりあるということを少年にも感じさせた。
「神がいるか、いないかの結論はもっと生きてから決めるんだな」
 晶は言って、先に行っているとその場を立ち去る。かけられた言葉は冷たく突き離すようだが、心はそんなに早く結論を出すことはないさと諭すような、暖かい響きをもっていた。
 ザンは晶の言葉にそうだな、と頷く。
「まあ、神が居るかどうかは置いといてこれだけは言える。お前は今生きているだろう。大体神が居るかどうか何てそんなに簡単に分かる訳ないだろう? その答えはお前がこれから生きて見つけていく物だと思うぜ俺は」
 それぞれの思うことを少年に伝える。
 少年の心は確実に動いているがけれどもまだ、この場を離れようとは少年はしない。
 母という存在を一人にするということが、できないでいた。
「一人に、したくない‥‥」
「過去は未来に進む為の糧だ。縛られる為のモノじゃない‥‥離れていても‥‥離れても、絆は無くなりはしない」
 胸に下がるロケットを見下ろしながら、静かに皐月は言う。
 神様は見捨てた訳じゃなく、今何かをしようとする自分に『力』をちゃんと与えくれている。
「視覚に惑わされないで‥‥と、美しい僕が言うのも説得力ないね! でも‥‥あのキメラは天使の姿だけれど、中身は悪魔だった。それと同じく‥‥この街だって、キミが目をつぶればいつもの街が脳裏に浮かぶだろう? それと同じようにお母様だって、キミが想えばいつでも会いに来てくれるのではないかな?」
 帝は微笑みを浮かべて言う。それに少年は瞳を閉じて、何かを思い浮かべているようだった。
「お母さんが大好きなんだね‥‥じゃあ、君はお母さんが一番望みそうなことをしなくちゃね‥‥それはきっと、君が今ここで一緒にいる事じゃなく‥‥今は逃げ延びて、平和になった後もずっと、君がここに来てくれる事だと思うよ? だから、僕たちと行かない?」
「母さん‥‥」
 エンタの言葉にかみしめるよう呟く少年。
 一度墓地をみて、そして前をむく。
「まだよくわからないけど‥‥考えてみます。僕の神様‥‥が、どこかにいるならいいな‥‥」
 そう言って少年は傭兵たちとその街を後にする。
「早く平和になって‥‥街の復興を願うよ」
 一度立ち止まって、振り返る少年の肩をポン、と叩いてさぁと帝は促す。
「前に進め。そして己の信ずるモノを見つけるがよい。それこそがおぬしの神じゃ」
 とりあえずこの場を離れることを決めた少年だったがまだ、何か思うことはあるらしい。
 振り返って街を、母のいる方をみて足が止まる。
 だが止まるわけにはいかないんだと歩が声をかければ、少年は頷いてともに歩み始める。
「オマエの母さんはオマエとこの街を見護っている。決して無様な姿は見せるなよ」
 再び歩みだした少年に向かい、戒路は諭すように、声をかける。
 少年に前を向いてもらうためにむけられた、傭兵たちの言葉は温かかった。
 戦いが終わっても、まだここから始まるものがたくさんあるのだった。