タイトル:新型KV導入評価試験マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/16 23:41

●オープニング本文


●KVの威力
 小高い丘の上。4両の戦車が、茂みを背にハルダウンの態勢で射撃を繰り返していた。120mm滑腔砲を装備したレオパルド2と呼ばれるそれは、140mm砲搭載のM1戦車より1世代前の設計による車両であったが、改修を重ね未だ現役として主力の一翼を担っている。
「ちくしょう、速くてこの距離じゃ追いきれませんね」
 砲手のディスプレイの先には、最新型KV「リッジウェイ」が映っていた。能力者が居ることが前提になるが、連隊として採用しIFVとしての運用に足るか、実戦さながらのトライアルに掛けられていた。
「接近する。11時方向の丘だ。曹長! 逐次躍進!」
『了解。04、03、進行します』
 有効射程ぎりぎりである3km強ほどの交戦距離を取っていたが、リッジウェイのスピードに対して追いきれないと判断した小隊長が接近を指示する。3号車と4号車からスモークが発射され、2両が別の丘へ向かって移動を開始した。小隊長の乗る1号車と、ウィングである2号車はその場に残り砲撃を続ける。
『随分、踏破性が高いですね』
 4号車の先任曹長が率直な感想を漏らす。
「4脚装輪は伊達じゃないってか。しかし有効打が無いのも癪だな。1発くらいキャビンに当ててやるよ」
 小隊長の言葉に呼応して、1号車の滑腔砲が再び火を噴く。訓練用の砲弾は、APFSDS弾と同じ軌道を描き飛んでゆく。が、リッジウェイは地形の起伏の影となり、視認できなくなった。
『04、ポイントベータ確保』
「了解」
 先行した2両が、別の丘の上を確保した。今度はその2両の掩護を受けながら、1号車と2号車がポイントまで移動する。
「伍長、スモーク焚け。11時方向。01及び02、左梯隊形で進行」
 スモークディスチャージャーによって展開された煙幕の中を、ディーゼルエンジン音を轟かせて2両が移動してゆく。こちらからリッジウェイは目視できないが、リッジウェイからも目視できない状態。3号車と4号車の発砲音が聞こえる。素早くポイントまで移動し、近距離からの砲撃で一矢報いたい所であった。が、小隊長の目論見は敗れた。
『中尉! 03大破! ‥‥変形はズルいよなぁ』
『04、こちらも大破。ターレットから上が無くなった事になってますよ。随分速いどころじゃないな。ブーストか?』
 小隊長の元に、相次いで先行した2両が撃破された報告が入った。
「‥‥かすり傷1つ無しか」
 歯噛みしつつ、次の指示を残った2両に与える。
「正面にスモーク展開。02、横隊に変更、ポイントアルファまで後退!」
『02了解‥‥あ』
 隊形変更の際、2号車の車長はスモークの向こうに既に迫りつつあるリッジウェイを見た。
『車両形態の火力は大したことありませんが、懐に飛び込まれると終わりますな』
 撃破された4号車の曹長の声が届く。しかし言われなくとも、小隊長もスモークの中に動くリッジウェイの影を見ていた。
「全車自由射撃しつつ全速後退!」
 2両の滑腔砲がほぼ同時に轟音を上げる。が、一足遅かった。既に有効射程の内側、つまり懐にリッジウェイは飛び込んでいた。
『02大破。‥‥あーあ、見つけてたのに』
 2号車の車長の声。左に居た2号車が大破、という事はリッジウェイもそちらに居る。スモークの中、小隊長は車両を旋回させた。
「主砲左90度! 旋回し後退!」
 ターレットが左に向き、リッジウェイと目が合う。訓練弾を発砲した直後、1号車は大破した。

●フラッグゲーム
「――という訳で、戦車小隊大破4に対して、リッジウェイは左前脚部中破、という結果でした。この結果には一定の評価をしますが、変形後の状態も戦闘結果として含まれているので、純粋に特殊作戦に使用できるIFVとしての評価をしてみたいという意向です」
 そう言うとアニー・シリング少尉は地形図を取り出し、ブリーフィングルームのホワイトボードに貼り付けた。
「まぁ、リッジウェイの車両形態は火力よりも生存性、速度を重視しております。火力は、人型になることで充分補え――」
 ドローム社の営業担当が何か言いかけたが、アニーはそれをまるっきり無視して話を続けた。
「そこで、模擬戦をしてみよう、というのが今回集まって頂いた趣旨です。ルールは簡単です。こちらが守る旗を取ってもらえばOK。こちらは守備としてレオパルド2戦車4両、FV510ウォーリア装甲戦闘車2両、歩兵2個分隊12名で守備します。そちらには2機のリッジウェイを貸与します。但し、IFVとしての性能評価が目的ですので、変形は禁止、またドライバーはこちらで用意します」
 話しながらアニーは車両を表すコマを地形図上にぺたぺた貼りつけてゆく。
「ま、あなた方傭兵さん達がよほど変な作戦を立てでもしない限り、勝ち――」
 言いかけた営業担当をキッと1度睨み付け、アニーはさらに続けた。
「覚醒、武器の使用に制限はしません。但し弾丸はペイント弾、刀剣類は普段使っていただいている武器の模造品になります。また作戦も立ててくださって構いません。が、リッジウェイは指示通り動きますが変形はしません。それからこちらも訓練用のペイント弾を使用します。生命力に関係なく、ペイント弾の着弾箇所によって戦闘不能かを判断します」
 アニーがテーブルの上にサンプルのペイント弾頭を何本か並べる。
「5km四方の野戦訓練場で行います。スタートは北西の端、フラッグは南東の端に配置し、こちらの守備配置は秘密です」
 顔を上げて、アニーは少し似合っていない眼鏡の奥で笑顔を作った。
「それでは、よろしくお願いします!」
「いいか、こっちはドロームの看板背負ってんだ。いくら正規軍相手とは言え、無様な負け方すんなよ!」
 営業担当は余計な一言を残し、ブリーフィングルームを出て行った。

●真意
 アニーがブリーフィングルームを出て自身の執務室に戻ると、彼女の上司が待っていた。
「ご苦労さん。‥‥どうだ、連中は」
「はい、能力的には申し分無い方が集まって頂きました」
「そうか。で、例の機体の方は」
「今回は啓開地での模擬戦ですので、変形を制限しました。本来の市街戦を想定すれば、人型になるのを押さえられれば、何とかなるとは思っています」
「ふむ」
「‥‥ドロームが、売りますか?」
 軍に、ではない。ごく一部の、KVを犯罪に使うような連中を指している。
「カバーがあって金を出せばお客様だ。今や軍需産業は車のディーラーと変わらんよ。傭兵個人相手に、するのは金融の信用調査くらいだろ、それも、作られた信用情報だ」
 葉巻を燻らせながら上司が答える。アニーは不安げな表情を眼鏡の奥の瞳に湛えていた。
「‥‥報告、期待しているぞ」
「了解しました、中佐」
 中佐、と呼ばれた男は、葉巻の香りを残しアニーの執務室を出て行った。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
須賀 鐶(ga1371
23歳・♂・GP
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
優(ga8480
23歳・♀・DF
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
美空(gb1906
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

●林を抜けて
「広いね〜。ピクニックとかしたら格別だろうねぇ♪」
「シルバージャケットよりアルファリーダー。ポイントA4に到着。異状無し」
 戦闘エリア西側を南下するヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)とリン=アスターナ(ga4615)。それぞれ木陰から、緩やかに続く登り斜面へ様子を窺っていた。
『了解』
 リンのレシーバーが短く鳴り、神撫(gb0167)の応答が届く。
 咥えていた煙草を指先でつまみ、めずらしく火を点け木の陰からそっと差し出す。意図を察したヴァレスが丘の稜線に目を走らせた。動きは見えない。
 煙草は、火が点いたままリンの胸元に戻ってきた。灰を落とさないように火を消し、再び咥える。
「吸わないの?」
 煙を振り払うように片手をひらひらさせつつ「‥‥臭いもね。痕跡になるのよ」と、リンは丘を見遣る。
「この方面はあうとな気がするんだよねぇ」
「‥‥何で?」
「ちょーっと、キャタピラの音っぽいのが」
 ヴァレスに指摘され、リンも耳を澄ます。確かに、小さく複数の走行音が聞こえる。
「ヴァレス君、稜線の右の茂みまで走る。掩護お願いね?」
「任されよう〜!」
 木陰から半身乗り出し、ヴァレスはS−01を丘に向けた。

 ――ブリーフィングで最も驚いた顔を見せたのは美空(gb1906)だった。
「乗れないのでありますか?」
 どうやら自分で操縦できる、と勘違いしていたらしい。
「はい、ドライバーはこちらで用意しますので――」
「乗れないのは残念でありますが、全力を尽くすのでありますよ」
「ん。もう立ち直ったみたいだね。よかった」
 美空と入れ替わりに神撫がアニーに近づき、頭を数度ぽふぽふと撫でる。
「あ、もう大丈夫‥‥って違います! いいですか、ドライバーはこちらで――」
 煙草を一息吸い込んで、ちらっとアニー達の遣り取りを見て「相変わらずか」とファファル(ga0729)が零す。
「ミスタ‥‥頼りにしているぞ」
 手元の資料を見るとも無く見ていた翠の肥満(ga2348)は顔を上げ、ファファルにびしっと左手の親指を立てて見せた。
「あのー! 皆さん聞いてますかー!」
 アニーの話はあまり真剣に聞かれていない。

●丘の向こう
 須賀 鐶(ga1371)と御影 柳樹(ga3326)が瞬天速でほぼ同時に、遮蔽物となる手近な茂みの陰に飛び込んだ。
「幾つ、見ました?」
 戦域東側を偵察していた2人は、丘陵から続く林の横を通り過ぎようとした時に射撃を受け、即座に瞬天速で逃げた。瞬天速を追うのは困難と判断したのか、射撃はあっさりと止んだ。索敵で先手を取られたが、それでも確認するべきモノはしっかり見ていた。射撃を受けた際のマズルフラッシュの数で、敵の数は推測できる。
「稜線の向こうに3つかな。あとIFVに30mm撃たれたさぁ」
「俺は、森の中に多分2つですね。という事は1個分隊こちらにいるのかな?」
「正確な数は解んないさ。僕らが逃げたらあっさりと発砲止めたからね。確認しきれてない事もあるさ」
 御影が姿勢を変え、ちょこっと頭を出して丘の方を覗く。反応は無い。動くモノの気配も無い。
「無駄弾撃って来ないってのは、やっぱりデキる人達揃えてるんですね‥‥」
 須賀の、恐らく独り言だったのだろうが、御影が頷く。
「まだ、厄介なスナイパーの位置が解ってないさ」
「となれば、当面の脅威をこちらに引き付けますかね」
 須賀は閃光手榴弾を取り出し、御影は無線機を取り出す。
「ウィローグリーンよりアルファリーダー。ポイントH3にIFV確認。引き付けておくさぁ」
 ピンを抜いてしばらく握っていた閃光手榴弾を林に投げ込む。同時に2人は視線を伏せつつ、閃光の中を瞬天速で駆けた。稜線の向こう、IFVへ。

 ――ブリーフィングで最も嬉しそうだったのは御影だった。リッジウェイの開発に関わっただけあり、感慨深いようで、機体に頬擦りなどしていた。リンも関わったので感慨深げではあったが、流石に頬擦りはしなかった。
「さて、どこまでやってくれるやら」
 もう1人、南雲 莞爾(ga4272)が興味深げにリッジウェイを眺めている。
「こんにちは、アニーさん」
「あ、優さん、よろしくお願いします」
 優(ga8480)がアニーに声を掛ける。もう3回目くらいだろうか。アニーはにこっといい笑顔を向けた。
「装甲目標に対してトップアタックは有効と判定されますか?」
「あ、はい。上面キューポラに対する攻撃は有効と判定します」
「なるほど。いざとなったらイスルと美空はお願いね?」
 藤田あやこ(ga0204)が会話に割り込み、イスル・イェーガー(gb0925)の頭をくしゃくしゃと撫でる。返事に困ったのか、イスルはそっぽを向いた。

●2機のKV
『シルバージャケットよりアルファリーダー、ポイントB7にMBT4確認』
 神撫の無線が鳴るのと同時に、彼の合図で機体の前面にスモークが展開される。
「足止めで充分かな?」
 後部ハッチから降りしなに翠の肥満が尋ねる。前衛機から降りた5人は、そのままリッジウェイをMBT正面に押し出し囮とし、側面の林から接近戦を試みる手筈であった。
「皆さん倒す気まんまんじゃないですか。嫌でも足止めになりますよ」
 苦笑いの神撫も、林の中に入る。

 後衛機も動きを見せた。前衛機より東側を擦り抜け、フラッグ担当の3人が降車する。
「イスル先頭お願い。10m間隔」
 藤田が手早く指示を与え、イスル、藤田、美空と続く。一気に飛び込むような浅はかな真似はしない。スカウト班の4名も合流を見越し、充分に索敵しながら歩を進めた。

 リンとヴァレスが発見した戦車が移動し、丘の稜線ぎりぎりに配置され、滑腔砲の射撃が始まった。ハルダウンの姿勢は、リッジウェイから見た前面投影面積を少なくし、ハンドガンによる照準を困難にさせていた。
「鮮やかなものね」
 元軍属であるリンが感嘆を零す。しかし彼女らの目的は戦車の攻撃ではない。引き付けられている間に、回り込んで対歩兵班との合流を目指すため動く。
 砲撃を続ける戦車の裏を取って進もうとした時、4両のうち2両が動いた。リンは身を翻し、茂みの陰へ転がり込む。1両が、後方警戒を行うかのようにターレットをこちらに回す。ヴァレスの反応が瞬時遅れた。
「ヴァレス君!」
 リンは手を伸ばして茂みに引っ張り込もうとして止めた。HE−AT弾を撃ち込まれたら2人ともアウトだ。
 そして、Cal.50のペイント弾がヴァレスの足から胴体にかけて赤く染めた。ペイント弾とはいえ、12.7mmの衝撃によろめく。
「ふむぅ。万事休す。ペイント弾でも痛いなぁ」
『ヴァレスさんあうとー』
「シルバージャケットよりベータ、MBT2がフラッグへ迂回中」
 合流は無理かも、とリンは思いながら、戦車の履帯が遠ざかる音を聞いていた。

 ファファルのライフルが戦車の側面装甲をノックする。流石に歩兵携行火器では厳しい。しかし周辺に歩兵が同行していないのが僥倖であった。
「ミスタ、奴等作戦ミスか?」
「作戦ミスか、味方の誰かがどっかでぼこぼこにされてるかのどっちかだね」
 ガトリングを掃射しながら翠の肥満が答える。優と南雲、2人が戦車に取り付く時間を稼いでいる。
「ウィローグリーンから定時連絡が無いから、もしかすると‥‥」
 神撫が発砲を止める。南雲と優が1両に飛び乗った。ハッチが慌てて開くが、遅かった。
『04あうとー』
「フラッグに回りましょう。お2人に任せて」
 神撫が再び指示を出す。南雲と優は後退を始めた残り1両を追いかける。
「先に取り付く、よろしく頼む」
 瞬天速で戦車に取り付いた南雲が、そのまま後ろへ回りこむ。釣られて、ターレットが回った。至近からの砲撃を再び瞬天速で南雲が交わす。
「がら空きですよ!」
 後続の優がキューポラに登る。後は呆気なかった。
『03あうとー』

「‥‥チョコ、食べますか」
「ありがたい、喜んで頂くよ。でもスナイパーの位置だけ知らせたかったさぁ‥‥」
「まぁ、IFV1撃破です。喜んでいいんじゃないですか?」
「須賀さんの言う通りだね。勝っても負けても、リッジウェイは実力を発揮するさぁ」
 2人は戦闘エリアを一望できる丘の上に並んで座っていた。
 瞬天速でIFVに取り付いた2人は、キューポラの上に登り、それを撃破した。で、周囲にいた3人の歩兵も撃破した。
 撃破した所で、ちょうどポイントI4にスコープの反射を御影が見つけたのだが、既に遅かった。
 御影の頭部にペイント弾がヒットしたのを見た須賀が弾道から射撃を受けた方向を確認し、撃破したIFVの陰に滑り込もうとした瞬間に彼も撃たれた。
 インカムからの『あうとー』に「どうも‥‥」と返すのが精一杯だった。

「あうとー、の緊張感が無いのよね」
 ぼそっと藤田が零した直後、美空のAU−KVから跳弾の金属音が響いた。
「伏せて!」
 イスルと美空も伏せる。
「11時方向からでありました!」
 イスルが伏せたままスナイパーライフルのレティクルを合わせる。目標は見えない。
「ベータよりアルファリーダー、ポイントH7にて狙撃を受けた。支援求む」
『了解』
 通信直後に、藤田は練成強化を施す。
「狙撃なら負ける気はない‥‥父さん仕込の腕を舐めないでよね‥‥」
 イスルのレティクルにギリースーツが映った。サプレッサーがくぐもった発砲音を上げる。鋭覚狙撃は確実にスナイパーの頭部をペイント弾で染めた。
『グレシャム曹長あうとー』
「クリア、っと」
 そう言ってイスルが立ち上がった時だった。彼の顔はペイント弾で赤く染まる。
『イスルさんあうとー』
「はぁ‥‥実戦なら戦死‥‥。まだまだかな」
 イスルはがっくり肩を落とした。そしてイスルと同じくらい、藤田も肩を落としていた。
「そりゃ2部隊ならマークスマン2人居るわよね‥‥」
 もそもそと、ヘコんでいる藤田の横を美空が匍匐のまま通り、前に出る。
「伏せてても狙われるだけであります! アルファチームと合流して打開するであります!」
「よし美空! 匍匐のまま前進しなさい!」
「イエッサー! であります」
「サーじゃない、マムよ、マム」
 美空は聞いていないのか、匍匐を続けた。

 2機のリッジウェイは2両の戦車と1両のIFVを相手に苦戦を強いられていた。ポイントE9に陣取り稜線射撃の態勢を組んだ2両の戦車は、リッジウェイからの照準を困難にして、さらにスモークディスチャージャーが目視照準を困難にして、地形的な不利と変形禁止という足枷を嵌められ進退窮まっていた。
「っ‥‥これはきついな」
「得物がデカけりゃブッ放し甲斐もあるってもんだぜ、フゥハハーッ!」
 丘と丘の間、谷間のような位置で2機のリッジウェイを遮蔽物に使いながら、ファファルと翠の肥満が実に対照的な反応を見せる。
 前衛機は既に右前脚部に被弾して機動性を失いつつあった。
「リッジウェイに押さえさせて、フラッグに向かいましょう」
「おーけー神撫さん」
 翠の肥満がM−121ガトリングを抱えて振り返る。彼の弾幕は、頭を出させないために有効になる、と神撫は信じていた。

「往生せいや、なのであります。ズゴガガガ」
 ズゴガガガ、と口で言うのに合わせて美空の大口径ガトリングが弾幕を張る。リロードの隙に敵が顔を出した所を藤田のスナイパーライフルが狙う、と云う実にオーソドックスな戦法で、『あうとー』を2回くらい聞いた。
「あや子さん、美空は側面に回りこむであります!」
「あ、ちょっと!」
 藤田が止めるのも聞かず、美空はAU−KVをバイク形態にして移動を始めた。始めたところで、9mmのペイント弾が美空の小柄な体を弾いた。
『美空さんあうとー』
「まったく、どうしろってのよー!」
 遮蔽物の陰に小さくなりながら、藤田の叫びは空に響いた。銃声はまだ止まない。

「シルバージャケットよりアルファリーダー、ポイントE9に到着」
 リンが南雲、優と合流して戦車の裏を取った。
「南雲さんお願いします」
 優が声を掛け、リンと共に得物を構え直す。南雲は2人を確認した後、瞬天速で一気に2両の戦車の前に出た。
 裏から突然現れた南雲に、戦車2両が慌てて照準をする。が、優とリンがそれぞれ、2両のキューポラに登っていた。
 2両の戦車が沈黙し、彼我の戦力比が逆転した。

 後は実にあっさり終わった。リン、南雲、優が神撫のアルファチームと合流すると、リッジウェイの後衛機を押し出し、旗の前を守備していたIFVは火力の差であっという間に無力化された。
 防衛ラインを敷いていた歩兵は、翠の肥満とファファルの張る弾幕に頭を出せないでいるまま、南雲やら優やらの接近戦チームが処理していく。
 アルファチームに合流しようとした藤田が立った時、御影と須賀のチームが撃ち漏らしたスナイパーに、最後の最後で狙撃されたのは愛嬌として。
 かくして、フラッグはリッジウェイを駆る傭兵チームの手に落ちた。

●終戦
「――という訳で、貴重なデータを採集する事ができました。皆様にはご協力頂いて感謝しております。ありがとうございました」
 ぺこり、とアニーが頭を下げる。お下げがぴょこんと跳ねた。
「ふぅ‥‥骨の折れる仕事だったな」
「お疲れ様。こんなに制限つけられるとさすがにきついなぁ」
 ファファルと神撫が疲れを口にする。が、彼らはアウトを頂いていない分マシと言えた。イスルなどは珍しくあからさまにげんなりしている。
「シャワールームなどを開放しますので、よろしければ使ってください。それでは」
 またぺこり、とお辞儀をして、アニーはブリーフィングルームを出た。
「‥‥次にやったら、もう勝てないね」
 翠の肥満が小さく呟く。聞きつけた南雲が、意味を探るように翠の肥満の顔を見る。
「‥‥いや、彼らはそういう部隊だって事ですよ。僕らはテロリスト代わり。テロリストがリッジウェイ使ったらどう守る? というテストをしたかったのかな〜、なんて」
 南雲に耳打ちをする。
「評価試験、というのは嘘なのか?」
「いや、本当ですよ、多分。どちらも本当」
 翠の肥満は南雲の耳から顔を離して、笑顔を作った。
「僕の想像ですけどね」