●リプレイ本文
●開戦
尻尾が薙ぎ払うように動く。俺は操縦桿を手繰り、縄跳びのように交わす。ラリーのチェーンガンはその呆れるほど太い図体を捉え続けた。
『グラップラーが前衛に立つので、交互に頭部を狙ってください。くれぐれも薙ぎ払いの範囲に注意して』
インカム越しにリディス(
ga0022)の声。やっとお待ちかねの到着。
「了解した」
一度、機体をヤツから引き離す。視界の端に高速艇の陰。
『遅くなったわね‥‥到着よ』
『‥‥大きいし‥‥気持ち悪い‥‥』
ケイ・リヒャルト(
ga0598)とラシード・アル・ラハル(
ga6190)の声。高速艇から降りてくる8人の姿をちらり、と見る。もう覚醒というのは済ませているのだろう。臨戦態勢に見えた。
「よろしく頼むぜ、戦友さんよ」
『味方が1機やられた。尻尾がえぐれてるだろ。あれだ』
俺の声にラリーが続く。
『随分と大きいキメラね。KV持ってきたほうがよかったんじゃない?』
白雪(
gb2228)の呟きがインカムに乗る。リディスと早坂冬馬(
gb2313)がもうあの化け物の頭部に向かって走り始めていた。
「ラリー、尻尾を押さえる」
『了解』
『それじゃ、まずは削っていくとしましょうか』
ラリーの声と、アズメリア・カンス(
ga8233)の声が被る。ロケット弾の掃射にも劣らない威力で、アズメリアのP−38と旭(
ga6764)のS−01が頭部にダメージを与える。砂塵をあげて、ヤツがのた打ち回る。
『さて、派手にいこうか』
神崎 真奈(
gb2562)の声の直後、頭部で爆発が起こる。3回。おそらく弾頭矢のものだ。
『おぉ、やるねぇ!』
「薙ぎ払われないように押さえる。逆に出るぞ」
ラリーが素早く30mmに切り替え、尻尾を叩く。さっきオルトロス2がやられた時もそうだった。頭が厄介になると、ヤツは尻尾で薙いでくる。
どうやら接近した2人の打撃は有効らしい。リディスの爪と、早坂の機械刀がぐっさりとヤツの図体を抉り、2人とも噴出したヤツの体液の洗礼を受けた。
『リディス姉さん、綺麗なお顔が台無しです』
『余計な事言ってる暇があったら仕事しろ!』
ラリーの軽口をリディスがあしらう。俺は操縦桿を倒し、呆れるほど長いヤツの体と平行して動きながら、頭部に近づいていった。もう2、3回と打撃を与え、下がってゆくリディス、早坂と入れ替わる。
『この距離で外すかよ!』
TOWが化け物の頭を直撃し、黒煙の向こうでまた蠢く。
『ああ全く、のた打ち回るな! 精神衛生上よくない』
神崎の言葉にまったく同意だ。気味悪いったらない。
『キース!』
ラリーが叫ぶ。尻尾が薙ぎ払いに来ていた。完全に出遅れた。
『‥‥落ちろって!』
ヘリに直撃コースだった尻尾はラシードのスコーピオンと、旭のS−01に弾かれ、向きを変えた。丁度アズメリアとケイが位置した方向へ飛んでいく。アズメリアは跳躍し、飛んでくる尻尾を蹴り再び跳ねる。と同時に、ケイのフォルトゥナ・マヨールーが尻尾を地上へ落とした。
『美しくないのは罪ね』
地上に落ちた尻尾を、白雪が出迎える。
『被害は少ないに越した事はないから‥‥悪いけど早めに終わらせてもらうわよ』
「済まない、助かった」
機体をヤツから引き離しながら、再び接近してきたリディス、早坂と入れ替わる。
『キース、これ持久戦だな』
ラリーが零す。返事はしなかった。
●連携
リディスと早坂がまた接近戦を仕掛ける。頭の牽制は任せて、俺はヤツの尻尾にまた機体を近づける。
『その怠慢な動き‥‥上手に躍らせてあげる』
ケイの射撃に合わせて、旭もS−01を発砲し、2人が取り付いた頭部を地表に釘付けにしていた。
『図体は大きくても所詮はミミズ。‥‥侮りはしませんけれどねっ!』
ラシードが正面に回りこみ、スコーピオンを叩き込む。俺は機体を右に旋回させ、また薙ぎ払う動きを見せた尻尾を牽制する。と、ヤツが鎌首をもたげた。
『落ちてくるわ!』
『距離を取れ!』
白雪と神崎の叫びが重なる。
「言われなくても!」
もう一度機体を頭のほうから離す。
白雪の真デヴァステイター、そして神崎の弾頭矢が同時に頭に着弾し、爆ぜた。が、ヤツはそのまま体を落としてきた。
アズメリアがもう1度ヤツの体を蹴り跳躍する。リディスが落下地点に居たラシードを抱えて転がる。ヤツの頭は、3人を掠めて落ちた。
『ちゃんと引き付けておきなさいよ!』
着地と同時に月詠を構えなおしたアズメリアに、ラリーがまたおどけた。
『あんまり怒るとお肌に悪いよ』
『こんな砂埃で、良いわけないじゃない?』
ケイの声が割り込む。彼女の放った弾丸が急所に入ったのか、ヤツが激しくのた打つ。
「くそ、目にも悪いな」
『大統領のお手紙は弟宛てに頼むわ。俺のお袋患ってるんでね』
またラリーがおどける。ロケット弾が、2号機の爆発でえぐれた傷口をさらにえぐった。
『冗談! みんな生きて帰るんですよ!』
答えながら、旭が月詠で斬り付ける。
『‥‥犠牲は‥‥絶対に出さない!』
リディスの腕から抜けたラシードが強く叫ぶ。彼の両手のスコーピオンのマズルフラッシュが俺の目に届いた。
『さて、ものは試しです。やってみましょうか』
早坂が爪をヤツの胴体に引っ掛けた。
『お、なんか面白いことやろうとしてるな!』
『無茶よ!』
ラリーとケイは早坂の意図を感じたのか、別々の事を言う。いやもう1人、リディスも意図が解ったのだろう、早坂から注意を逸らすように爪を突き立てた。
早坂は爪を引っ掛けたまま、ヤツの背中の上に登り、刀を立てる。
『キース右だ、化け物を地表に釘付けにする!』
言われるまま機体を右に向ける。と、早坂が刀を突き刺したまま、陸上トラックのような長さのヤツの背中を走り始めた。
ラリーが感嘆を口笛にする。
『そのまま真っ二つに』
『‥‥よくやる』
神崎の苦笑いが聞こえた。
●阻止
『正直、目に毒だ。大人しく駆逐されろ』
神崎の弾頭矢が炸裂し、ヤツの側頭部を穿った。丁度そこに白雪のソニックブームが追い討ちをかける。
『八葉流四の太刀‥‥跳蔓草!』
一度距離を取っていた機体を再び接近させる。
『なぁキース』
30mmを撃ちながらラリーが訊いた。
『これ俺らの弾切れと、化け物が音を上げるのどっちが早いと思う?』
残弾数の表示をちらっと見る。ロケットランチャーは残弾ゼロ。TOWはあと1回。それから30mm。俺はちょっと考えて、答えた。
「‥‥化け物だな。冷えたビール賭けてもいい」
答えながら、神崎と白雪が抉った側頭部に機体を近づける。反対側はリディスとアズメリアが取り付いていた。正面には旭。ケイが援護射撃を続ける。尻尾は早坂が捕まえ、ラシードの銃撃に晒されていた。
『俺もそう思うんだけどさ、野郎潜ったらどうする?』
ラリーが訊くのとほぼ同時に、ヤツが鼻先を砂の中に捻り込み始めた。
「ちきしょう、そういう事か!」
TOWが白線を引いてヤツの顔に飛んでいく。残弾ゼロ。機体をヤツの正面に回りこませた。30mmが唸る。
他の8人もヤツの動きに気付き、頭部に攻撃を集中させた。仕留めるタイミングは今しかない。
『さぁ、鉛の飴玉、たっぷり味わいなさい!』
『大地に‥‥還れ‥‥ッ!』
ケイとラシードの正確な狙撃が、頭部にダメージを与える。ヤツが苦し紛れに振り払った尻尾は、捕まったままの早坂と白雪を弾いた。が、2人ともすぐに立ち上がった。
『これで、終わりに‥‥』
旭の月詠がさらに頭部を切り裂く。ヤツは潜るのを諦めたのか、砂の中から顔を出した。俺は一度ヘリを上昇させる。ラリーの放つ30mmが、早坂が切り裂いた背中の傷を深くしてゆく。
もう一度、ヤツは足掻くように鎌首を上げようとしたが、リディスが見逃さず、その爪で頭部を薙いだ。ヤツはもう殆ど余力が無いのか、ばったりと頭を落とす。頭が落ちた所に丁度、神崎の弾頭矢がヒットした。
『ここまできたら、後は一気にやらせてもらうわよ』
『いい加減‥‥観念しなさい!』
アズメリアと白雪の両断剣が、のた打ち回る力も失くしたヤツへの止めになった。頭部が切り離され、尻尾が小さく、痙攣するかのように蠢く。
『‥‥マ・アッサラーマ‥‥』
銃声は止み、俺達のヘリのローター音だけが響いていた。
●終幕
『‥‥後処理どうすんだろうなこれ』
ヘリはホバリングしたまま。眼下に、さっきまで動いていたバカでかいヤツが横たわっている。そしてラリーはどうでも良い事を聞いてくる。
『ハンバーガー屋さんが買い取ってくれませんかね? ほら、都市伝説にあるじゃないですか』
ラリーの軽口に早坂が反応した。頭から足の先まで、ヤツの噴出した体液でどろどろになっている。どうやら煙草がダメになっているらしく、手の中でくしゃり、と握りつぶした。
『俺チーズバーガー食うのやめるわ』
『なんだか、怪獣を倒しに来た様な気分ね』
ぼーっと、動かなくなったヤツを眺めていた白雪が呟く。
『‥‥うぅ‥‥夢に見るかも‥‥』
さも気持ち悪そうなラシードの声。
『夢に出てくる‥‥。あれは絶対夢に出てきますよ‥‥。あのサイズでしたし』
「同意だな。ありゃあ嫌がらせだ。労災もんだぜ」
旭も体液と砂埃でどろどろになっていた。恐らく、多分、キャビン越しだった俺達のほうがその点被害は少ない。
『助かったよ、オルトロス2の弔い合戦ができた』
『偶にはこういう風に連携をとって戦うのも悪くはないものですね‥‥また何処かで一緒に戦ってみたいものです。そのときが来るまで、お互いの幸運を祈っていますよ』
煙草を咥えたリディスがラリーに答える。
『リディス姉さん、綺麗なお顔が台無しだからシャワー浴びてくるといい』
『一言余計ですよ』
リディスの呆れ声。高速艇がヤツの屍骸の横に着陸する。入れ替わるように、俺はヘリの高度を上げた。