タイトル:アシオトマスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/25 02:36

●オープニング本文


 双眼鏡の奥で、陽炎のようにゆらゆら揺れていた光がやがて像を結び、くたびれた土壁が現れる。
 幾つかの倒壊した建物と、破壊から逃れ無事に残った建物を確認して、ロッフェラーはマイクを取った。
「ファエトン6よりヘリオス8、目標地点に到着した」
『ヘリオス8了解、そのまま監視を続行してください』
 復唱をして、双眼鏡から目を離すと、傍らのジーニーの肩を叩く。
「マイクと共に移動しろ。東から村を見渡せる所がいい」
 頷いて、早足で進む二人を見送る。
 小さな集落は、砂と岩とに囲まれていた。
 チームは北から接近し、村を見下ろせる丘の稜線にグレシャムとミラーを残した。さらに少し下り、ウィルソンとロッフェラー自身を残して東へ迂回させる。
『大尉』
 そのグレシャムが、ロッフェラーを呼ぶ。
『歩哨がいます、村の北西の端』
 双眼鏡を振り向けると、丁度建物の裏手へ入る人影。
「ヘリオス8、歩哨を発見した。村の外周を歩いている、要救助者はまだ発見できていない」
 双眼鏡はまだ人影を追っていた。北西の端から外周に沿って、南西へ向かって歩いている。
『敵との接触はなるべく避けてください。障害は全て排除を。間もなく増援が到着します。それまで監視を続けてください』
『ありゃホントに人間か?』
 アニーの声と入れ替わりに、グレシャムの声。彼のスコープもまだ歩哨を追っているようで、釣られて双眼鏡を覗いた。
 ロッフェラーにも、人間の兵士に見える。が、敵地の只中で、グレシャムが不思議がっても無理は無い。
『どっちだって一緒だろ、アニーのオーダーは排除しろ、だ』
 ジーニーがおどける。違いない。任務に求められるのは、あの歩哨共に見つからない事であり、万が一気付かれたら、手早く排除せねばならないのだ。

 グライスナーの階級章は、所謂「星」が一つ増えていた。
 先日の作戦の欠員補充、数合わせだとグライスナーは思っている。現に彼のやるべき事は変わっていない。バリウスの後任は空席のままだ。当然だろう、イベリアからロシアの端まで掌握して軍団を動かせる将など、それほど多くない。けれど見掛け上の数合わせをする必要はあるから、グライスナーの階級は一つ進んだのだろう。
 制服の階級章が変わっただけで、グライスナーは変わらず、チュニジアから自身の指揮下にある機甲部隊を動かしていた。
「聞いたよ。ヘマをやらかしたらしいな」
『もう耳に入っていましたか』
 電話の相手はベックウィズだ。
「ああ、騒いでるのは政治屋だけだがね。前線はそう単純じゃない」
『そう言って頂けると‥‥』
 腹立たしげに葉巻を弄ぶベックウィズの姿が目に浮かぶようで、グライスナーは少し可笑しく思う。
「君と、君のチームの能力は信頼しているんだ。こと隠密作戦については、君の育てたチームはベストだ」
『要救助者は何人居るんです?』
「うちの部下四人だ。戦車のクルーが丸ごと取り残された。サハラの砂にガスタービンを止められてな」
 詳細なブリーフィングは、既にアニーと済ませてある。ベックウィズも把握している筈で、ありがちな雑談の話題として、今回の作戦が選ばれた。
『敵地の中で見付かるようなヘマはしませんよ。ヘリが要ります、四人も護衛しながら歩いて引き返すのは難儀です』
「用意してある。攻撃ヘリも付けよう。すぐ出れるように待機させておく」
『感謝します』
 受話器を置いて、しばし腕組みをする。ふと思い立って、また受話器を取り、内線を掛ける。
「マーカス、空軍に当たりをつけてくれ。‥‥ああ、ダメ元だ。保険になればいい」

●参加者一覧

アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
鬼非鬼 ふー(gb3760
14歳・♀・JG
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ジャスパー・ビュイック(gc4508
25歳・♂・SN

●リプレイ本文


 ギラギラと太陽が照り付けて、湿り気のまるで無い風が、時折小さく砂を巻き上げ、土壁の間を踊る。
 集落を見下ろせる位置に取り付いた一行は、各々に村の様子を窺い始めた。
「状況は?」
 双眼鏡を取り出したウラキ(gb4922)が、監視を続けていたグレシャムに訊く。
「歩哨が二人、中央の建物付近に三人‥‥それ以外は何も」
「じゃ、二手に分かれましょう。北西と‥‥それから南東から」
 風代 律子(ga7966)が、グレシャムに応える。歩哨の後を追うように、集落へと侵入できればベストであった。
「見張りを全員ぶっ殺して‥‥はダメ?」
『オーダーは見つかったら排除しろ、だからな。誰かが正面から堂々と訪ねて行きゃ作戦通りだ』
 蛇穴・シュウ(ga8426)の軽口に、ジーニーが応じて見せたところへ、アンドレアス・ラーセン(ga6523)が割り込む。
「ダメに決まってるだろ、出来れば‥‥殺したくはねぇしな」
 この旧知の男は妙な事を言うな、という目で、グレシャムがアスを見る。
「バグアでも、か?」
「バグアでもだ」
「そりゃまた、殊勝なこった」
 呆れた調子でグレシャムが言う。けれどアスが迷いの無い目をしていたので、グレシャムはそれ以上何か言うのを止めた。


 ジャスパー・ビュイック(gc4508)の双眼鏡の先に、歩哨が映る。村の南東の端。まるでレールでも敷かれているかのように、角を曲がって現れた歩哨は、ゆっくり北上を始めた。
 そのまま頃合いを見計らうべく、ジャスパーは双眼鏡で追う。
 人間によく似た背格好だが、こうして双眼鏡越しに見ると、普通ではないのがよく分かる。キメラの類か洗脳でもされているのか、詳細までは分からないが、まるで人間味の無い仕草と表情は、ぞっとする。
「オーケー、行ってくれ」
 短く合図を送り、また南東の角に双眼鏡を振り向ける。
 鬼非鬼 ふー(gb3760)の姿が映る。彼女は素早く瓦礫の陰に入ると、後続のアスにサインを送った。
 ふーの後を追って瓦礫の陰を目指すアスが、ジャスパーの双眼鏡に入る。彼は一度双眼鏡を北へ振り向け、歩哨を追った。気づかれている様子は無い。
 それから、瓦礫の陰に入った二人を追って、さらに倒壊せず残った建物を見る。
 所々崩れた土壁があって、それから小さな窓。その窓の奥で、何か動く気配があるのを、ジャスパーは見逃さなかった。
「建物の中に何か居る。確認できるか? 援護する」
 双眼鏡を外し、ストックを肩に当てて左手を添える。スコープを覗き、ふーとアスの動きを追った。
 身を低くして、二人はゆっくりと窓の下に近づく。窓の奥の気配はまだある。が、それが何かは、ジャスパーからは見えない。
 背の高いアスが窓を覗き込もうとして、ふーに止められた。彼の容姿と覚醒は、目立ちすぎる、という事だろう。
 代わりにふーが、窓をひょいと覗いて、すぐに顔を引っ込めた。手で「ばつ」を作り、ジャスパーに合図を送る。
「南東の建物に敵。数は不明」
『了解、北東に向かってくれ、今の所、建物内部に動きは無い』
 ジャスパーが無線で告げると、ロッフェラーから応答がある。
 スコープから眼を外して、双眼鏡を覗く。建物から離れるふーとアスを見届けてから、ジャスパーはまた歩哨の様子を窺う。丁度北端まで辿り着いたそれは、角をくるんと曲がり、西へ向けて歩き始めていた。
「歩哨は北西へ向かっている、今だ、行ってくれ」
 合図を送る。また瓦礫伝いに移動を始める二人を見てから、村の中央を見る。三人の敵兵は、侵入に気づいた様子も無く、ただそこに立っている。それから、南西の端を見た。丁度、東進を始めたもう一人の歩哨を確認する。まだしばらく、時間の余裕はありそうだ。


 ふーとアスが侵入した反対側、村の北西の端から、律子とシュウも侵入を図る。ウラキは村に近づき、二人と歩哨の動きを見通せる位置に陣取った。
『歩哨は南に向かってる、妙な動きは無い』
 ウラキの声をレシーバー越しに聞いて、二人は動き始める。
 風が巻き上げる砂に紛れて、律子が先行する。倒壊した家の陰に体を入れて、合図を送った。
 続いてシュウが動き、律子の近くまで進み、一度身を潜める。それからすぐ先の様子を窺って、今度は律子を追い越して、少し先の物陰へ入る。
『そのまま小屋を確認してくれ。窓が無い、こちらからは状況が見えないので、慎重に』
 ウラキの位置からは、建物に窓が無く、中の様子が見えない。返事の代わりに、律子は銃を構えて瓦礫の陰を飛び出す。そのままシュウを追い越して、小屋の壁に張り付くと、中の様子を窺った。
 僅かに、室内から物音がする。
 同じように壁に張り付いたシュウに、律子は一度目配せをする。頷いたシュウは、ドアの横に立ち、ノブに手を掛ける。律子がドアの正面に立ったのに合わせて、ゆっくりノブを捻り、ゆっくりと開く。
「!」
 驚いた顔と目が合った律子は、何か喋るのを手で制して、室内へ入る。さらにシュウが続いて、驚いて喋りかけたままの顔に近づく。
「救出に来ました。さ、立って」
 捕虜が二人。疲労は見えるが、目立った負傷は無い。乱暴にロープで拘束された両手を、シュウが外す。
 二人が立ち上がれるのを確認して、律子は再びドアへ向かい、外の様子を確認した。敵の目は、届いていない。
 慎重に扉から出てくる四人の姿を、ウラキは双眼鏡の向こうに捉えた。
「要救助者二名確保。残り二名はまだ不明」
『オーケー、こちらでも確認した。グレシャムを向かわせる。一度村から離れて、グレシャムに引き渡すまでエスコートしてくれ』
 ロッフェラーに復唱をして、ウラキは双眼鏡をライフルに持ち替える。四人は建物から離れ、こちらへ向かって幾つかの遮蔽物を経由していた。
 銃身を右に振る。南下していた歩哨は、角を曲がって瓦礫の陰に消えた。今度は、左に振る。
 もう一人、村の外周を回っていた歩哨が、北東の端から現れ、こちらへ向かってくるのが見えた。
「まだだ、歩哨が来た」
 短く告げる。捕虜二人の動きが止まるのが見えて、それから律子が手早く死角になる物陰を見つけ、シュウが二人を促して身を潜める。
 薬室に初弾を送り込むと、ウラキはこちらへ近づく歩哨の頭に照準を合わせた。
 息を殺して、体を小さくする四人を、時折風と砂が煽る。それから砂を踏む規則的な足音が遠くから聞こえて、それが否応無しに緊張を高めさせた。
 また律子とシュウは一度目配せをして、身構える。もし発見されれば、二人は素早く飛び出して、無力化するつもりでいる。
 やがて足音が大きくなる。自身の鼓動と、誰かが唾を嚥下する音が漏れ聞こえそうで、呼吸さえ恨めしい。
 足音は、四人の頭上を通って、それから規則正しく、風が巻き上げる砂と共に遠ざかる。
『よし、通過した、今なら安全だ』
 ウラキの声を聞いて、四人は立ち上がる。
「大したもんだ、俺らの出番は無いな」
 捕虜を引き取りに来たグレシャムが、歩哨の頭に照準したままのウラキの腰を、一つぽんと叩いた。


 村の中心に残った建物は、他の建物と同じようにくたびれて、所々崩れた土壁があって、二階部分が完全に吹き飛んでいた。
 確認が済んでいないのはこの小屋だけになり、残る二人の要救助者も、必然的にこの小屋に囚われている事になる。ふーとアスと、それから律子とシュウの二組は、合流して小屋の裏手からそっと近づいていた。
『動きは無い、ドアの前に固まっている』
 ジャスパーの声。歩哨はドアの前に突っ立ったまま、そこを動く気配も見せない。
 先頭を行く律子が、小屋の陰から覗き込む。ドアは一つしか無く、そこから歩哨を引き離さないことには、どうにもならない。
 動いたのはふーだ。一人そこを離れ、ぐるっと小屋を回り込み、三人が居るのと逆の壁に張り付き、様子を窺う。それから、足元の砂と瓦礫から、握り拳大の一つを探して、それを放る。
 ふーの手から離れた小さな石は、土壁と瓦礫に跳ね返って、乾いた音を立てた。
『動いた』
 冷静なジャスパーの声。音に釣られて、歩哨はふーの投げた石のほうへと歩く。
『いや、一人残った』
 今度はウラキの声。三人居た歩哨のうち一人は、そのまま動かず、残っている。
 咄嗟に律子が飛び出す。横合いから突然現れた彼女に何か反応する間も与えず、律子は歩哨の首に腕を回す。そのまま締め上げつつ、ずるずると、小屋の裏へ向けて引き摺り始めた。
 ふーが引き付けてくれている時間は、そう長くは持たない。
 律子と入れ替わりにシュウとアスが飛び出す。ドアの前に立ち、今度はアスがノブに手を掛けた。
 慎重に素早く、と云う無理難題をこなすため、アスは速くも遅くも無い速度でドアを押す。正面で身構えていたシュウは、またドアの中の顔と目が合う。但し今度は、捕虜のそれではなく、人間の背格好に取って付けたような顔。
 先に反応したのはシュウで、ドアの中に飛び込むと、敵兵の口を押さえ、背中から抱え込んだ。そのまま右手のナイフを振り上げ、喉元に突き入れる。
 シュウの手の中で、声を上げることも出来ず、じたばたともがいていた敵は、やがて動きを止めた。
 律子がやったように、シュウも死体を目立たない場所へとずるずる引き摺る。彼女に続いて室内へ入ったアスが、部屋の奥に二人の捕虜を見つけると、人差し指を唇に当て、喋らないよう促してから、拘束を解き始める。
 こちらの二人は、負傷の度合いがやや大きい。
 入り口に律子が現れて、シュウとアスに手でサインを送る。「急げ」という事らしい。ふーは音を立てただけで、彼女が姿を晒して囮となっている訳でもなく、そろそろ時間切れ。
『歩哨が戻るぞ』
 監視を続けているウラキから。ふーは、ジャスパーの指示でまた小屋の裏手へと潜んだらしい。
 アスは、二人に歩ける程度に治療を施し、肩を貸して立ち上がる。もう一人はシュウが同じように、肩を抱え立ち上がらせた。
 律子を先頭に、部屋を出る。歩哨はまだ、戻っていない。
『そのまま、小屋の裏手へ』
 ウラキの声。村を俯瞰出来る位置からのウラキとジャスパーの指示は、有効な目となって、潜入を補助している。
『要救助者二名確保、全員無事だ』
 今度はジャスパーの声。捕虜を連れて、律子ら三人は小屋の裏手へと向かう。
『オーケー、村を離れてくれ、援護する』
 ロッフェラーの声を聞いてから、律子は小屋から離れるべく、先行を始める。
 彼女の通った遮蔽物を伝うように、アスとシュウは、肩に抱えた二人を励ましながら続いた。
 ふーは、小屋を離れる他のメンバーとは反対側に居た。歩哨を引き付ける工作をしたためである。
 撤退時に混乱を誘って、耳目を引くために、対物ライフルで土壁でも撃とうかと思っていたが、思っていた以上にくたびれた土壁は、撃てば小屋ごと倒壊させそうなので止めた。
 その代わりに、フラッシュバンを用意する。
 小屋の陰から顔を覗かせると、丁度歩哨はドアの前へと戻る最中で、さらに首をぐるっと巡らすと、他の三人と、捕虜の姿は見えない。姿が見えないのは、瓦礫に身を潜め村から離れつつあると云う事で、ふーはフラッシュバンのピンを抜いて、歩哨の背後から近寄る。
 ころころと、歩哨の足元を目掛けて転がし、すぐさま物陰に入る。それから、サプレッサーを外した銃口を空に向けて、トリガーを一度引く。
 発砲音に気付いた歩哨が振り向くと、丁度そのタイミングでフラッシュバンが炸裂した。
 青白い光に、前後不覚となる歩哨を尻目に、ふーは村の外へ向かって走り始める。


 ばたばたと、ローターが風を切るヘリの羽音が近づく。やがてそれは姿を現し、乾いた風が巻き上げる砂を散らして、土壁の小屋を粉砕すべく、炎の矢を放つ。
 六人はヘリと入れ替わりに、救出した四人をエスコートする。
 アニーの操るSARヘリは、彼らを拾い上げるためのフライトを始めた。

「よくやってくれた」
 グライスナーは、例えば生前のバリウスや、電話の相手であるベックウィズに比べると、感情の起伏がわかり易いタイプであるかも知れない。
「‥‥ああ、傭兵連中にも酒を奢るよ」
 現に今も、見てとれる程度には嬉しそうな表情をしている。喜色満面、とは行かないが。
「高得点じゃないのか? ペナルティは消えないが」
 喜ぶ理由は、幾つかあるらしい。一つは、純粋に作戦の成功。もう一つは、デルタが関与した作戦の成功、という所のようだ。