タイトル:コンテナ船マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/04 23:57

●オープニング本文


 寒波到来、らしい。
 らしい、と云うのは、こんな雪の中でも、どうも実感が湧かないからだ。何せロンドンの空は何時でも灰色で低いし、こんな雪は前の冬までにも散々見た光景だからだ。
 前の冬まで、と云えば。
 こんな光景は前の冬までで見なくなる筈であった。なのに今年の冬も目の前に広がっていて、両手に抱いているのは愛する妻と子供たちではなく、9mmのホローポイントだった。
 結局、マーティン・ウッドラムは軍を退役した後、あるPMCに再就職を果たしていた。手に職がある、と言えば聞こえはいいが、妻に言わせると「潰しが利かない」らしく、彼自身も妻の言い分を尤もだと思っている。
 やはりウッディという男はどこまで行っても軍人だったらしく、あの糞忌々しいエドワードと数度接触した後、どこの伝手か今のPMCに潜り込み、もう半年を越える。
 無論、ここに居るのが嬉しい事ではない。
 彼の妻は良妻賢母と云うやつで、ウッディが現役の時分は夫の仕事に理解を示し、何も口出しをしなかったが、末娘のシャーリーが産まれて、彼自身が退役を考え始めた頃から、子供達のためにも次は安全な職場を、と事ある毎に唱え、ウッディ自身もそのつもりでいた。妻の夢は小さな花屋らしい。ところが、花屋のオヤジ志望の筈の夫はこうしてヘリの中に居る。

 キャビンに冷えた風が流れ込み、彼の頬を刺してゆく。時計は深夜の二時を示していた。
 雪は強くなるばかりで、空は雲の色で夜の闇よりは濃いグレーに近い色をしている。眼下の海は大荒れで、高い波が風に煽られて不規則に揺れている。
 こんな中船を出しているのは、正気の沙汰とは思えない。
 尤も、船を出しているのは、武器の密輸などに関わる組織らしいので、どちらにせよ正気ではないだろう。
 正気と云えば、今回の仕事だ。
 今までは捜索殲滅だとか爆撃効果判定だとか、所謂正規軍の隙間を埋めるような仕事ばかりだったのに、今回はどうだ。
 親バグア派組織が武器密輸に使っている貨物船を襲い、これを殲滅すると云う。
 まるで彼が現役の時分のように‥‥そう、こんなのはデルタの仕事だ、と思うのだ。
 面白い事に、ここでも現役時代の階級章が通用して、ウッディは六人編成の小隊を任されている。更に手の込んだ事で、今回は援軍がある。
 百メートル程向こうを並行して飛んでいるもう一機のヘリだ。誰が乗っているのか知らないが、能力者を呼び寄せたらしい。
 ブリーフィングでは「頑強な抵抗が予想される」としか説明が無かったが、能力者をわざわざ呼んでいると云う事は、そういう事なのだろう。
 ウッディが現役の頃は、抵抗が予想される戦闘に傭兵を伴って出撃もしたが、それは小さな一部隊ではあの詐欺のような宇宙人の戦闘力に対抗しうる火力を調え切れないからで、軍の一部隊よりも装備の幅が広く融通の利く筈の一企業が、戦力を買っているという事は、相手も能力者か、もしくはキメラか。

 ウッディの今のボスは、元ロシア出身の諜報官らしい。らしいと云うのは、公式にはフランス出身となっていて、伝聞だからだ。こんな事業に手を出すのは大方、宇宙人が攻めてきて西とか東だとか言っていられなくなったか、もしくはルビャンカ広場とベカー高原で教わった事が嘘だと気づいたか、どちらかだろう。
 ふとエドワードの顔が浮かぶ。そりゃあ、元諜報官と言えばプロだ。ウッディ自身は別段そういった訓練を受けていないし、彼のボスの方が一枚も二枚も上手だろう。現にここまで何も掴めてはいない。いないが、嫌な感じがずっと離れず付き纏っている。
 ちかちかと、雪と波の間に、小さな光が明滅するのが見えた。だいぶ貨物船に近づいたらしい。
 視線を落とす。後部ブリッジの灯りは、一部を残して殆ど消えていた。情報だと前方にも小さな艦橋があるらしいが、そこの灯りは見えない。
 左手で銃のストックを伸ばす。取り回しは悪くなるが、ウッディは伸ばして安定する方を好んだ。
 やはりマーティン・ウッドラムという男はどうしようも無く軍人であり、そこからは逃れられない運命らしく、ついさっきまでぐるぐる頭を巡っていた考えはどこかに消えていた。
 降下用のロープを掴んで、甲板を見据える。
 ウッディは手早く確実に、無事に仕事を終わらせて、家に帰らないとならない。
 帰って妻を抱きしめ、ジュニアとシャーリーの寝顔にキスをして、スタウトを引っ掛けなくてはならない。

●参加者一覧

OZ(ga4015
28歳・♂・JG
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
御剣雷光(gc0335
22歳・♀・PN
杉崎 恭文(gc0403
25歳・♂・GP

●リプレイ本文

 降下用のロープを掴み、キャビンから身を乗り出して、杉崎 恭文(gc0403)は少し躊躇した。
「おいおい、こっから降りるのかよ」
 思わず呟く。眼下で甲板を照らす小さな灯りが、ちらちらと明滅する。大きな船体は大きな波に洗われて、大きく揺れていた。
「超こええ」
 下を覗き込む杉崎の横で、御剣雷光(gc0335)がキャビンを蹴る。するすると滑る彼女の姿が、杉崎の視界で小さくなってゆく。
「ビビってもロープ放すなよ、掴んでれば甲板には降りられる」
 杉崎の背中へ、ヤナギ・エリューナク(gb5107)が声を掛けた。一度ヤナギを振り向いて、それからまた眼下の甲板へ、視線を戻す。
「なるほど、こええなんて言ってらんねーしな」
 意を決したのか、杉崎は躊躇わず勢い良くキャビンを蹴った。
「甲板のほうが、海に落ちるよりはマシだしな」
 最後に残ったヤナギは、杉崎が甲板に下りたのを確認すると、ロープを掴んだ。船は、まだ大きく揺れている。


 数時間前。
 ブリーフィングルームを出ると、窓の外は既に暗く、よく手入れのされた廊下の蛍光灯が妙に眩しく、冷たく灯っている。
 OZ(ga4015)は誰も居ない廊下に出ると煙草を銜え、「館内禁煙」の注意書きがあるのを確認した後、火を点けた。
「探るんだろ?」
 OZの吐き出す煙に釣られて煙草を取り出した緋沼 京夜(ga6138)は、禁煙のプレートを見て箱を戻す。
「依頼主の名前は聞き覚えがある。知人が大勢関わっている」
 黙ったままのOZの背中に、もう一度緋沼は声を掛ける。
「妙だろ」
 答えて、煙草を一口、深く吸い込む。
「なんで俺達に任せないんだ? なんで軍に通報でもしねぇんだ?」
 くるりと緋沼へ振り向いて、OZはまた煙を深く吸った。
「‥‥公になっちゃ困るモノでもあるんだろう。俺達相手なら、イザとなったら処分すればいい事だ」
 処分に幾つかのニュアンスを含ませて、緋沼は答えた。OZの想像通りなら――大方、想像通りなのだろうが――、見られて困るモノを処分すればいいし、或いは自分達を処分してもいいだろう。尤も、簡単に処分されてやる気は、緋沼には更々無いが。
「あ」
 ドアの開く音がして二人が振り返ると、ブリーフィングルームから出るアンドレアス・ラーセン(ga6523)と目が合う。
 思わず声を上げてしまったアスは、二人をなるべく見ないようにして歩く。普段なら、二人共なんて事ない知り合いだが、今は何故か関わりたくない手合いだと感じた。アスの脳内で、アラートがけたたましく鳴っている。
「よう、アンドレアス!」
 声と共に、腰の辺りを小突かれ、振り返る。と、OZのわざとらしい笑顔と視線がぶつかった。
「久しぶりだな。いつぶりだ?」
 ここに来て、アスの嫌な予感は増大する。OZが何を考えているのか、探るようにゆっくり彼の表情を見た。それから、壁際にもたれて何も喋らない緋沼を見る。
「覚えてねぇな」
 アスの脳裏にエドワードの顔が過ぎる。今日ほど自分が「素人」である事を呪った事は無いかも知れない。悪い予感しかしないと云うのに、このポーカーフェイスでも何でもない男の顔からは何も読み取れず、状況を打開する妙案も浮かばない。
 返事をする代わりに、煙をゆっくり吐き出してから、OZはアスに向かって喋り始めた。
「知ってる事は全部話そうぜ? 情報は共有するもんだ、出し惜しみすんなよ」
 アスは心臓を鷲掴みにされた。元々この仕事に違和感がある。PMCは幾度となく聞いた名前だ。妙な依頼主、妙な仕事。目の前のOZは何を知っているのか。何をしようとしているのか。
「‥‥何の事だ?」
 アスが空とぼけるのは想定していた。OZはわざとらしく、口だけで笑顔を作ってみせる。
「こう見えても勉強家でな。過去の報告書は目通してんだぜ?」
 今度はOZが、アスの表情を探る。
「‥‥独り占めか? 俺にも一枚噛ませろよ」
「そんなんじゃねぇよ!」
 思わず強く反応してしまって、アスは少し後悔する。が、却ってそれが鷲掴みにされた心臓とぐるぐる廻る頭を落ち着けた。
「‥‥そんなんじゃ、ねぇ」
 もう一度、トーンを落として言い直す。冷静になって、相手の言葉を消化する余裕が出来た。OZは一枚噛ませろ、と言う。OZが何を考えているかは知らない。知らないが、まだ利害が一致するライン上には居そうだ、とアスは確信した。
「‥‥ま、あんまカッカすんなよ」
 OZは、アスからは何も出てこないだろうと判断した。挑発や誘導尋問程度に引っ掛らない精神を備えているか、或いはアス自身、本当の所はまだ何も、知らないか。
 吸いさしの煙草をアスの左手に託すと、OZはそのまま廊下の先へ消えた。緋沼が一つ、アスの背中を叩いてから、OZの後に続く。
 二人が消えた廊下の奥を見据えたまま、アスは大きく息を吸った。
 一介の傭兵が嗅ぎ回った所で、どうにもならない。首に鈴を付けるべき相手の後姿が見えているのは、エドワードくらいのものだろう。それだって、確証が無いうちは人違いに終わるかも知れないのだ。


 雪と風と、大きな揺れで、ただでさえ少ない甲板上の光はあちこちへ散って、灰色のコンテナの山の向こうに小さくぼんやりと灯っている。
 灰色の中、コンテナの陰に御剣とヤナギは潜んでいた。
「初仕事なんだろ?」
 声を掛けられて、御剣がびくりと反応する。彼女はコンテナから様子を窺う視線を動かさずに、「そうです」とだけ短く答えた。
「あんまり無理はすんなよ?」
「大丈夫です」
 しっかりした声が返ってくる。どうも、無茶をしている類ではなく、元々そういう性格らしい。
「来ます、二人」
 小さくヤナギに合図を送って、御剣はやおら立ち上がる。と、スカートの裾を掴むと、一気に腰まで引き裂いた。そのままコンテナの陰から出る。ほぼ同時くらいに、敵の持つフラッシュライトの灯りが、御剣を包む。
 短くマズルフラッシュが光る。反応は御剣の方が速かった。懐に飛び込むと、右手のサブマシンガンを叩き落した。今度は足を叩き、甲板に倒れ込ませる。
 銃声が鳴り、船体がぐらりと大きく揺れた。もう一人、健在であった敵の発砲が、御剣の二の腕に直撃を見舞う。船体の揺れで、射線がずれたものだった。殺意なき一撃。
 向き直ろうとする御剣の横を、ヤナギがすり抜ける。振り上げた切っ先で銃を持つ手を跳ね上げると、そのまま刃を振り下ろした。どさりと、事切れた身体が甲板に落ちる。
 ヤナギに意識が向いている間、御剣に倒されていたもう一人は、叩き落されたサブマシンガンに手を伸ばした。動きに気づいた御剣も、サブマシンガンへ手を伸ばす。
 また、船が大きく揺れる。濡れた甲板の上を、9mmのサブマシンガンは滑って、敵の手に戻った。
 短くバレルが鳴って、御剣の身体が弾かれる。バーストを切った間隙を突いて、御剣はその懐に飛び込む。
 また銃は落ちた。今度は間髪を入れず、トリガーを引く右手に追撃を与えた。右腕が弾かれ、赤く染まる。
「怖いですか、死ぬのが。でも大丈夫ですよ、直ぐには殺しませんから」
 嘲り笑う御剣を見て、ヤナギは少し呆れた。矢張り初仕事で突っ走っているのではなく、こういう性格であるらしい。
(「心配して損したぜ‥‥」)
 剣を一度振り、血を払う。と、男の左手が動くのを、ヤナギは見た。
「左手!」
 咄嗟に叫ぶ。御剣が状況を飲み込むより早く、男は腰の下から短剣を抜いて、御剣の腕を切りつけた。
 御剣が飛び退くと、それに合わせるように、男は飛び掛る。
「こいつ‥‥!」
 能力者か。確かに致命傷は与えていないが、それにしてはダメージが軽い。
 もう一度振り上げられた短剣を、腕を犠牲に受け止めようとした時。
 コンテナ越しに回り込んだ杉崎が、二人の間に割って入った。爪で、切っ先を受け止める。
「っし、間に合った!」
 短剣が爪から離れて、もう一度振り下ろされる。隙を見逃さず、杉崎は左足を振り上げた。
「いくぜっ!」
 左足の爪が、男の膝に入る。と同時に、振り下ろされた短剣は、杉崎の肩をえぐる。
 今度は御剣の一撃が、男の腰をなぎ払う。弾き飛ばされた男は、コンテナへ強かに叩き付けられた。
「よし! 無駄な抵抗は――」
 男に向かって喋り始めた杉崎に、今度は御剣が割って入った。
「奉げよ 命 今宵は殺戮の宴なり‥‥立ちなさい」
 御剣はまだやる気であるらしい。腕を負傷した御剣と、全身にダメージを負った男とでは、勝敗は明らかである。
 止めようとした杉崎はヤナギに制されて、次の目標を探してその場を離れた。


 操舵室は灯りが落とされ、携帯端末の液晶画面がぼんやりと光っている。
 扉を開けて、緋沼が入ってくると、OZはモニターから顔を上げた。
「何か、見つかったか?」
 緋沼の問いに、大げさに両手を広げて見せる。大した成果は無いらしい。
 一つ溜息を吐いて、緋沼は連れて来た捕虜を無造作に床へ転がした。両腕を負傷しているのか、手を付く事もせず、ぐったりと倒れこむ。
 倒れた捕虜の横にOZが座り込む。手に持ったライフルの先で、捕虜の顎をくいと持ち上げた。
「積荷は何だ?」
「知らない! 俺達がコンテナの中を検分する訳じゃない!」
 抵抗を試みる捕虜を見て、OZは不敵に笑い、立ち上がる。と、緋沼が操舵室の端から、もう一人の捕虜を連れて来た。戦闘の跡か、だいぶ衰弱している。
「こいつも同じ事を言ってたな、隠すのはタメになんねぇぞ?」
 捕虜を二人、隣り合わせに横たえてから、緋沼はポケットを探り、煙草に火を点けた。
 衰弱しているが、意識はまだしっかりしているらしい。OZが今度は、そちらにライフルの銃口を振り向ける。
「船の行き先はどこだ?」
「グラスゴー」
 声色は弱々しい。が、はっきりと答える。
「オーケー、じゃあ船主は誰だ?」
「そこまでは知らない」
「そうか」
 返事をして、OZは何の躊躇いもなくトリガーを引いた。乾いた発砲音が操舵室に響き、捕虜はびくりと身体を震わせた後、動かなくなった。
「ちくしょう! 何て事しやがるんだ! 何が目的だ!」
 残された一人が騒ぎ出す。
「静かにしろ」
 近づいた緋沼が捕虜の顔を蹴り上げる。口の中を切ったのか、激しく咽て、捕虜は喋らなくなる。
「俺達は仕事で来ている。この船を襲撃しろって仕事だ」
 諭して聞かせるように、緋沼が話し始める。
「まぁ襲撃されて当然だな、貴様ら全員、物騒なモノぶら下げて抵抗してくるんだからな」
 そこまで話して、煙草を一口吸い込む。
「襲撃する相手の積荷、行き先。仕事をするに当たって、情報収集しようって事だ。合理的だろ?」
「そういうこった。さ、積荷は何か、教えて貰おうか?」
 今度はOZが入れ替わり、ライフルの銃口をまた突きつける。逆の手で煙草を取り出し、捕虜の口に銜えさせると、ゆっくり火を点けた。捕虜の男はされるがままに二、三度吹かし、煙が立ち昇る。
「まぁ一服して落ち着けや。‥‥何もてめぇまで殺そうって気はねーよ。何なら俺らと組むか? 積荷を教えてくれれば、悪いようにはしない」
 そこまで言うと、OZは捕虜の口から煙草を取り上げた。「喋れ」と云う事だろう。
「本当に知らないんだ! 本当だ! 信じてくれ!」
「そうか、そりゃ残念だ」
 またOZは無造作にトリガーを引く。銃口を突き当てられていた額が爆ぜて、捕虜の男はふっつりと事切れた。
「クソが、碌なネタがありゃしねぇ」


「もう二人、居る筈だけど」
 そう言って、杉崎はきょろきょろと辺りを見回す。二人、とはOZと緋沼だ。貨物室に降りて、PMCの派遣したチームと合流を果たした。が、二人は未だ姿を見せない。
「ブリッジの中をまだ捜索してんじゃねぇの?」
 アスが言う。ウッディは、集まった四人全員に等しくねぎらいの言葉を掛けた後、それきりアスと会話を交わしていない。何度か目は合ったし、互いに誰か認識しているが、アスが個人的に話し掛けたりしなかったので、「そういう事」なのだと理解し、今に至る。
「じゃあ、全員集まったら撤収だ。よくやってくれた。報酬は忘れずに受け取ってくれ」
「おっと」
 部下に指示を出し、撤収を始めるウッドラムを、ヤナギが呼び止める。
「こんな夜中に、海の上まで悪党退治に来たんだ、連中が守ってたのは何なのか教えてくれても、バチは当たらないと思うぜ」
 ウッドラムは四人に向き直って、喋り始める。
「武器、らしいぜ? なんでも密輸組織が使ってる船らしい」
 彼の声は、コンテナの陰に潜むOZの耳にも届いていた。


 呼び出しが十コール程、電話の相手はようやく名乗る。
「ウッディに会ったぜ。何を企んでる?」
 こちらは名乗らず、端的に言いたい事だけを言った。声と、それから内容で、誰からの電話か、察しは付くだろう。
「ああ、言えないなら、言わなくていい」
 案の定、はぐらかされた。電話の相手は核心を喋ろうとしないだろう。けれど、電話の相手が何を企んでウッディを動かしているのかは、予想がつく。
「あんたがどんな汚い事してても、知った事じゃねぇけどな」
 知った事じゃない。が、一つだけはっきりさせておかないとならない。
「何か分かったら、ちゃんと連絡してくれ」
『それは友人としてお願いか? それとも事件に関わった関係者として?』
「両方、だ」
『分かった、お願いなら、聞かないとならないな』
「オーケー、俺はこう見えて案外執念深いのよ、誰かさんみたいにな」