タイトル:【AW】太陽の神マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/19 23:19

●オープニング本文


●出撃
「――という訳で、空軍が偵察に出る。というか出た、だな。第1波は全滅。第2波として、君らと同じ傭兵を掻き集めて‥‥こりゃもう威力偵察の規模も通り越してるな。そのまま更地にして帰ってきてくれりゃいいんだ‥‥。まぁそれは置いておいて、陸軍も連動して敵戦力評価のために長距離潜行チームを派遣する事にした」
 長距離潜行、という不穏な響きに、徒歩でどれだけの距離だ、とブリーフィングルームに集まった傭兵達の顔が少し曇る。
「安心してくれ。チームはもう帰路に就いている。少尉!」
 自分達が呆れるほど長い距離の敵地潜入行をするわけではない、と理解した傭兵の一部は、表情が明るくなった。
「6名の長距離偵察チームを派遣、情報を収集しましたが、帰還する際にキメラの追跡を受けています」
 少尉、と呼ばれた女性士官が地図を指し示す。
「このまま追撃されることになれば、全滅は免れません。チームは現在、国境付近をアララト山方面へ北上中です。チームが我が軍の支配領域に戻るまで待てる時間はありません。そのため、ピックアップ隊を派遣する事にしました」
 女性士官が地図に次々と印を付けてゆく。
「皆さんには、ピックアップ部隊に同行してもらい、チームの回収支援をお願いします。私も同行しますが、ピックアップに失敗すると貴重な情報を失う事になります」
「ま、そういう事だ。ウチの潜行チームの情報と、空軍の情報を統合し検証。情報の確度を増すのに必要だ。ヤツらの動きを握れるかどうかは、君ら次第って訳だ」
 司令官は大げさに両手を広げてトボけて見せた。女性士官の申し訳無さそうな愛想笑いには気がつかなかったらしい。

●ファエトン・シックス
 20m程後ろから散発的に発砲音が続く。後方警戒はプロクターの担当。置いていけない。チーム全体の進行速度が上がらない。しかし追跡されている状況では仕方ない。振り返って反撃など試みようものなら、6人程度の小規模偵察チームの全滅などあっという間だ。森の中で有効視界が狭い。太陽が見えやしねぇ。でもなんだってヤツら襲って来ないんだ? いつだって追いつけるだろうに、チクショウ。余裕見せやがって。
『ヘリオス8よりファエトン6、応答せよ』
 無線から聞き覚えのある声。やっとピックアップが来たか。待たせやがって。
「こちらファエトン6。感度良好。オーバー」
『よしファエトン6、現在位置を報告』
「目標より25km北の稜線を北上中。多分、な」
『多分?』
「森の中じゃ磁場がおかしいのか、コンパスがまともに動かねぇ。これもヤツらの仕業か? クソッタレが」
『ファエトン6、現在位置より3km北西に山を下れますか?』
 女性の声に替った。情報将校のアニー・シリングだ。
「アニーか。これはこれは、女神様の登場って訳だ。俺たちゃ助かるな」
『からかわないでください。3km下ると針葉樹林帯を抜けて平原に出ます。ランディングゾーンを確保できますか?』
 なんとなく、ブリーフィングで見たアニーの顔を思い浮かべていた。もう4日も前になるのか、基地出てから。
「やるだけやるが、期待するな。ヤツら余裕綽々で追いかけてきてやがる。もう射程内だろうに手も出して来やしねぇ。狩りごっこを楽しんでるな、犬っころのくせに」
『増援として能力者の方を連れています。到着したら支援に出てもらいます。キメラの数は解りますか?』
 能力者、ね。俺の部隊もある意味能力者だらけだよ。こんな前線の後ろ回りこんで無茶な長距離偵察してくるんだからな。
「狼タイプ、目視できたのは4。鳴き声からすると後方を扇型に囲まれはじめてる」
『了解、あと15分で到着する、間に合うか?』
 男の声に戻った。
「間に合わせろって事だろ?」
『そういうこった。ランディングゾーン到着前にもう一度交信する。スモークで現在位置をマークしろ』
『空軍が陽動をかけてくれていますが、待機時間は5分が限界です。急いでください。交信終わり!』
 アニーにまた替った。そして無線は切れた。
「了解」
 ‥‥簡単に言ってくれる。言われた通り出来たら苦労しねぇ。
「ジーニー! プロクターと後方警戒! 北西に降りる」
「大尉、稜線から降りると囲まれます!」
「3km走り抜けろ! ピックアップが15分で到着する! ウォン! ポイントマンに立て! 慎重に、警戒しつつ、急げ」
「無茶言いますね!」
「こんな陽の光も射さないような森の中で死にたくねぇだろ! 急げ!」

●参加者一覧

須賀 鐶(ga1371
23歳・♂・GP
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
優(ga8480
23歳・♀・DF
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
シェスカ・ブランク(gb1970
19歳・♂・DG

●リプレイ本文

――元UPC欧州軍RT(偵察チーム)大尉の談話・1――
「最初はな、能力者とか信用してなかった。ぱっと出で持て囃されて。俺たちは奴らが出てくる前から、最前線で化け物相手に命の遣り取りしてたんだ。そのプライドがあったから、存在を認めてなかったよ」

●到着
 2機のUH−60がローター音を轟かせながら、トルコ東部の大地を眼下に疾駆していた。
「ヘリオス8よりファエトン6、間もなくランディングゾーンに到着する」
『こちらファエトン6、現在位置をマークする。スモークはレッド』
 予定されたランディングゾーンから東にすこし離れた森の中から、赤色の煙がまっすぐ立ち昇る。
「スモーク確認。くそ、真東に500mほどズレてる」
 優(ga8480)がコクピットに身を乗り出す。
「警戒を、手伝っていただけますか?」
 アニーが「私が北に出ます」と答えるのと同時に、鈍い着地の衝撃。各々は覚醒を済ませ、シェスカ・ブランク(gb1970)は既にAU−KVを装着していた。
「こちらヘリオス8傭兵部隊、ファエトン6応答願います」
 ラルス・フェルセン(ga5133)が無線に呼びかける。レスポンスはすぐだった。
『ファエトン6よりヘリオス8、包囲を受けている、全周囲防御中! 1名負傷、ウォンが腕をやられた』
「了解。すぐ行きますので持ち堪えてください」
『確約はできんがな、仕事はする』
 レシーバーの奥から発砲音。
「まずい状況ですね」
「銃声? チッ、急ごう」
 シェスカと視線を交わしたリュドレイク(ga8720)が探査の目を使い、先頭に立って森の中へ飛び込んだ。須賀 鐶(ga1371)、木花咲耶(ga5139)、そしてラルスとシェスカがそれに続く。
「そっちはよろしくネ」
 ランディングゾーン確保担当のラウル・カミーユ(ga7242)が5人の背中に声を掛けた。口調とは裏腹に、その眼は真摯そのものであった。


――大尉の談話・2――
「‥‥1度だけ、本気でヤバかった事があった。今じゃAWとか呼ばれてるかな、あの時だ。俺達の隊は、トルコ国境を越えてイランへ、空軍と連動して長距離潜行偵察に出たんだ」

●あと4分
 森の中に飛び込むと、視界は薄暗闇に包まれた。太陽光を求めて折り重なった木々の枝葉が、すべての陽を遮っていた。
 その物音と臭いで狼が気付くより数瞬早く、リュドレイクの眼は右前方を走る獣を捉えていた。
「2時方向です!」
 全員が身構えるのと同時に、狼は跳躍した。前足を掛けた枝をバネのように器用に使い、飛び込んでくるのを須賀が受け止める。
「須賀君!」
「‥‥須賀様!」
「ここは任された!」
 4人は須賀を残してまた走り出した。残された彼は狼を引き離さなかった。むしろ飛び込んで来たのを幸いと、後方に倒れこみながら左手のガンドルフで獣の胴を押さえつけ、右手のガンドルフを使い急所突きで喉笛を切り裂く。頭だけになった狼が彼の顔に落ちてくるのを振り払うと、立ち上がって、
「‥‥君等とキスするような気はないよ」
 また駆け出した。

「囲まれてます、手前に2匹!」
 リュドレイクが包囲されている偵察チームと、偵察チームを威嚇している2頭の狼の無防備な後ろ姿を捉えた。掌の中の鬼蛍を構えなおすと、そのまま狼に向かって行く。横を走る木花の国士無双から放たれたソニックブームは2匹の片割れを吹き飛ばし、もう1匹が異変に気付き振り向いた瞬間、リュドレイクが下段に振り払った鬼蛍の切っ先が貫いていた。
「皆様ご無事ですか!」
「微妙な所、だな」
 木花の問いに大尉はそっけなく返した。


――大尉の談話・3――
「偵察自体は上手くいった。いったが、帰りに狼の群れに襲われた。奴らココ(と言って自身の頭をつつく)を使ってくるからタチが悪い。ランディングゾーンに辿り着けないわ、ウォンは腕をやられるわで、無様だったな」

●あと3分
「敵襲は任せて下さい。皆さんはとにかく走って」
 ラルスに「済まない」と短く答えると、大尉は素早く部隊に指示を出した。
「全員彼らに任せて走れ! ウォンは俺と!」
 負傷した1名は大尉自身が肩を貸して走り出す。
「こっちだ! 早く離脱するんだ!」
 シェスカと、いつの間にか追いついていた須賀が包囲網に開けた穴を維持している。木花が6名を先導して走り出した。部隊を囲むように、右にリュドレイク、左に須賀、しんがりはラルスとシェスカ。
 狼達は、人間達の動きを察知して、包囲を解いて追撃を始めた。
「追われてる、足止めを!」
 シェスカの叫びに反応して、ラルスが素早く照明銃を取り出す。
「照明銃、撃ちます! 光注意!」
 ラルスが振り向きざまに、追っ手の目眩ましに照明弾を放ったのと、シェスカのAU−KVが竜の鱗によって淡い光を帯びたのはほぼ同時だった。
「此処まで来て、やらせるかよ!」
 光に怯む狼の群れに向かって、シエルクラインを放つ。ラルスのレイ・エンチャントが掛けられたエネルギーガンも断続的に発砲される。照明弾の閃光で、こちらも照準がまともに合ってないが、牽制が目的。構わずトリガーを引き続けた。
 しんがり2名が足止めをしている間にも、偵察チームは3人に護られてヘリに向かっていた。負傷した1名は噛み付かれた腕を庇いながら、大尉の肩を借りて走っていた。
 と、足元に伸びる木の根に躓いた。負傷していた隊員が倒れる。大尉は「ウォン、立てるか?」と声を掛けながら、抱き起こし、再び肩を貸す。須賀が黙って手を差し伸べたのを、大尉は笑顔で制した。
「済まんな。戦友を首に縄つけてでも基地に連れ帰るのは、俺の仕事だ」
「‥‥果たすべき任務があるのはお互い様という事で」
 須賀もまた、大尉の言葉に笑顔で答えた。
 再び6人と5人が走りだす。間もなく森を抜ける。抜ければヘリはすぐそこ。リュドレイクが無線機を取り出す。
「こちら救出班。間もなく森を抜けます!」


――大尉の談話・4――
「能力者が支援に当たるって言われても、だからどうした、って感じだったしな。自分達でランディングゾーンまで辿り着けなかった時点で、正直終わったと思ったよ、あの時は」

●あと2分
『こちら救出班。間もなく森を抜けます!』
 優、ラウル、2人のレシーバーからリュドレイクの声がかかる。待機中のヘリのローター音と、そのローターによる強い風の中でも、2人は聞き逃さなかった。
「リョーカイ!」
 ラウルが至極軽く返答する。が、眼は確実にキメラをエイミングしていた。
 ヘリを降りた直後から、南西方向へ延々と続く平原のゆるやかな起伏の中に、狼タイプキメラの群れがこちらの様子を覗うようにうろうろしているのを、ラウルも優も気付いていた。そして徐々に近づいてくるキメラの群れに対して、2人はヘリを背に南西方向へと警戒を強めていた。
 ラウルが強弾撃を使用し、スコーピオンで射程内に入ったキメラを掃射する。効果的な足止めになっているが、如何せん数が多い。
「ラウルさん、囮になります」
 優が告げるだけ告げて返事も待たずヘリから西に走る。群れの一部が優の走る方向に釣られるのを見て、彼女の月詠からソニックブームが放たれる。この動きによって、キメラの群れの足が数瞬止まった。ラウルはこのチャンスを見逃さなかった。影撃ちと急所突きを併用したシエルクラインの発砲は、狼の眉間を貫いた。ヘリの中から咥えたままだった煙草は、何時の間にか火が消えていた。
 一方で西に走った優は立ち止まり、狼に向き直った。再び彼女の月詠からソニックブーム。今度は射程内。その一撃は確実に狼を捉え、引導を渡した。


――大尉の談話・5――
「‥‥でも、奴らはホンモノだったよ。意思も。手際も。俺が――」
(記録映像はここで録画が途切れている)

●あと1分
 6人と5人は森からヘリの前へと抜けた。ヘリの南側はラウルが位置取り、牽制射撃を続けている。西側では優が群れの一部を引き付けて囮になっていた。
「怪我をしている方からお願いします」
「すまん、ウォンを頼む」
 大尉が木花に負傷者の肩を預ける。ヘリに乗せると、リュドレイクが続いて乗り込んでくる。
「手当てします」
「リュドレイク様、お願いいたします」
 木花は言い残すと優の居る方向へ駆けていった。
「近づけさせませんよ」
 木花が優と共にヘリの西へ走る。国士無双を薙ぎ払うように使って、狼の群れを牽制する。ラルスはラウルの横合いに飛び出し、エネルギーガンのトリガーを引いた。ラウルのシエルクラインと弾幕を形成する。
「ラー兄、掩護アリガト」
 消えた煙草を咥えたままラルスに声を掛ける。ラルスはちょっと笑顔を作って見せて、またすぐエネルギーガンのトリガーを引いた。
 東の森は相変わらず追ってくる狼の群れを須賀とシェスカが牽制していた。シェスカが弾幕で足止めを行い、動きが止まった狼を須賀の両手のガンドルフが切り裂いていった。
 ヘリのローターが徐々に回転数を上げてゆく。2機のうち片方に大尉以外の5名と、手当て中のリュドレイクが乗り込んだ。ふわり、と機体が宙に浮く。ドアに据え付けられたガンポートから、M−121ガトリング砲の牽制射撃が続く。
『サイドワインダー11よりヘリオス8、タイムオーバーだ。こちらは帰投する。グッドラック』
「ヘリオス8、了解。助かったよ」
 ヘリの無線が、空軍の陽動が終わった事を告げる。これ以上戦域に滞在するのは危険だった。
「皆さん、離陸します! ヘリへ!」
 傭兵達に向かってアニーが叫んだ。

●帰投
 須賀、優、木花が次々とヘリへ乗り込む。ラルスとシェスカはそれぞれエネルギーガンとシエルクラインによる牽制射撃を続けながら乗り込んできた。
「離陸します! 皆さんいますか!」
 コパイロットのシートに収まったアニーが振り返る。
「僕が最後だヨ」
 得物をアサルトライフルに持ち替えたラウルが返事をする。
 ふわりと接地感が無くなる。ラウルはアサルトライフルをフルオートで、キメラの群れに対して牽制を続けている。
「ヘリオス8よりヘリオスリーダー、ピックアップ完了しました、帰投します」
『ヘリオスリーダー了解。帰ってくるまでが遠足だぞ』
「笑えません」
 アニーが無線の軽口に答える。高度が上がり、途切れず続けていたラウルのアサルトライフルの発砲が止まる。
「Au revoir♪」
 ラウルの言葉に、吼えて返事をする狼達だったが、その咆哮はヘリのローター音に掻き消された。

 2機のUH−60が、トルコ東部の大地を眼下に疾駆していた。
 何時の間にか、陽は傾き、西日が機内を、一仕事終えて思わず煙草に火を点けた大尉を照らしていた。眩しさに思わず目を細める。
(「ファエトンに、ヘリオス8‥‥」)
 くるり、と機内を見回す。木花は須賀の手当てをしていた。ラルスとシェスカは何か楽しげに話し込んでいる。ラウルは新しい煙草に火を点けていた。優はやさしげな表情のまま目を閉じていた。そしてリュドレイクは大切な戦友の手当てをしてくれている。
(「‥‥出来すぎだな」)
 苦笑いを浮かべる大尉に、傭兵達は気付かなかった。