タイトル:【D3】Evidenceマスター:あいざわ司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/05 23:47

●オープニング本文


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 エドワードは、彼の私室で1本の電話を受けていた。
 彼の「嫌味な」性格には似合わず、スチール製のデスクの上は無造作に資料で埋め尽くされ、インスタント食品の空き容器が散乱している。
 電話の声は女性。だが、内容は色気のある話ではない。
『予想通り、と云った所ですね。やはり近くに居ます』
「まだ、証拠は押さえては居ないんだな?」
 何時もの彼らしくなく、直截に用件を聞く。
『はい、まだあたしの証言だけ、ですね。用心深いのか、資料なんかはどこにも』
「ふむ‥‥」
 電話口の声は、エドワードにとってイエスかノーのみで簡潔に答えるべきだったらしく、やや顔を顰める。
 いつもの「間」を取った後、彼の次の言葉を待っている電話の向こうに話しかけた。
「‥‥こういう事だ。つまり、我々は内通者の確実な証拠が欲しい。けれど、これ以上待っている時間も無ければ、決定的な進展も無い」
 女性に「簡潔」を求めた割には、彼の言葉は何時も通り回りくどい。
「チームとして大きく動くにしても、敵は内部に居る訳で、そいつは幾らでも足を引っ張るだろう」
 それで、つまり。この狡猾な遣り口の大尉殿はどうしたいんだ。そう思ったが、出掛かった言葉を飲み込んで、女性は次を待っている。
「‥‥考えてみたんだが、ULTを動かしてはどうか」
 たっぷり数十秒置いて、エドワードは口を開いた。回りくどく核心に触れない。彼の癖だ。
『傭兵ですか?』
 続きを引き出すために質問をする。こうしないと、核心が出てこないまま会話が終わる。
「ULTから依頼を請けてくる連中は白だ。繋がっているなら、わざわざ回りくどい遣り方する必要も無い。前回の作戦でもはっきりした」
 そんな事は分かっている。何故傭兵を動かすのか。女性はそれを知りたい。
「それ以外は、君の言葉通り、はっきりしない。要するにお手上げだ」
 ふと、会話の相手がベックウィズなら、この辺で「要点を話せ」を突っ込まれるに違いない、とエドワードは思って、少し可笑しくなった。
 また少し、間を置いた。電話の相手は黙って聞いている。
「‥‥お手上げだから、外部から調査をして欲しい、という名目で動いてもらった時に、敵がどういう反応をするか。そこで尻尾を出すかも知れん」
『名指しで調査させたら、尻尾も何も、今までが水の泡では?』
「いや、名指しはしない。今までの資料、関係ありそうなのも無さそうなのも全部渡して、傭兵連中に目星を付けてもらう」
『‥‥関係無い人物を、調べようとした場合は?』
「その時はその時だ。敵はほっとして、慌てていつもの生活をするように振舞うだろう。それを、見逃さなければいい」
 つまり、ULTを動かした時点で、内通者は、どちらに転ぶにせよ反応するだろう、という事か。相変わらず狡猾な人だ。嫌味の一つも、言ってやりたくなった。
『随分、傭兵を信用するんですね? 正直、意外でした』
「彼らには一定以上の評価をしているつもりだよ?」
 いつもの遠回しな答えが返ってくるかと思ったが、エドワードはあっさりと素直に認めた。時折こうして、本音をさらりと覗かせるのを、受話器の向こうの女性は知っている。
『中佐の前で、それを仰ったらいかがです?』
 エドワードは痛い所を突かれて、少し苦笑いを浮かべた。電話の相手が言いたいのは、ベックウィズの前でももう少し本音を喋れば、今より多少は気に入られるだろう、という事だ。
「憎まれ役ってのが、組織には必要なのだよ」

●参加者一覧

アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
優(ga8480
23歳・♀・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
鳴風 さらら(gb3539
21歳・♀・EP
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●推理
 ロブ・エヴァンス軍曹。バーミンガム出身の26歳。父はグレン・エヴァンス、現マーブル・トイズ・カンパニーCEO。母はバグアの襲撃を受け死別、兄は元空軍将校であり、7年前に戦死。デルタの選抜試験結果は良好であり、着任後は情報分析においてその能力を発揮。勤務態度は問題無く、選抜試験時の思想調査においても、問題点は見られなかった。また、過去の事件の際、彼は任務に就いており、現時点では不審な第三者との接触などは確認されていない。

 イベリアの風。スペインを中心にフランス・イタリアで活動していた親バグア派の武装グループ。リーダーとされるロベルト・サンティーニは指名手配中。前回の工場への作戦で拘束した2名がイベリアの風出身を名乗っているが、直近の半年は、組織としての活動は行われていない。

 ヨーロッパ開放同盟。シリング少尉監禁事件、銀行立て籠もり事件、工場殲滅作戦にて拘束した犯人グループが名乗る。詳細は不明。過去の事件の際、グラナダからの軍の撤退を要求している。イベリアの風出身と自供する者が居ることから、同組織を内包した新組織、あるいは密接な協力関係にある新組織と推測される。

「で、こんな資料を見れば判る事を訊きに来た訳ではないだろう?」
 サンディ(gb4343)の手土産であるキャラメルコートは、テーブルの上に広げられ、各々が手を伸ばしている。
「あんたの目から見た印象を訊きたい」
 直球をアンドレアス・ラーセン(ga6523)が投げる。しかし薄笑いのまま、眉一つ動かさないエドワードの態度は、気に入られる類のものではないだろう。
 アスの質問に対する回答を聞き逃すまいとするかのように、鳴風 さらら(gb3539)が身を乗り出すのを一瞥してから、「ふむ‥‥」と、例の遠回しで、エドワードが口を開く。
「もう少し、君らは察しがいいものだと、思っていたんだがね」
 表情を変えないエドワードと対照的に、アスがぴくりと眉を上げ、鳴風はあからさまに不満の色を浮かべた。
「どういう事、ですかね?」
 フェイス(gb2501)が8人を代表して尋ねると、思っていたよりも真っ直ぐに答えが返ってきた。
「名指しで黒だと思いますか、と訊かれて、ほいほい答えられるようなら、我々だけで片付けられる状況である、という事だよ」
「黒かどうか、なんて訊いてないわよ?」
「では、何を訊きたい? 私の主観やら推理を話せるなら、君らに依頼するまでもない、と汲んでくれているものだと思っていたが」
 鳴風があっさりと切り返され、更に不満の色を濃くする。
 遣り取りを黙って見ていたアスが、鳴風に代わって少し身を乗り出す。
「分かった。じゃあこれは俺の独り言だ。勝手に喋るだけだから、あんたは返事をしてくれなくていい」
 アスが何をする気か察したらしく、エドワードは黙ったまま真っ直ぐアスを見ている。アスもアスで、エドワードを真っ直ぐ見返したまま、喋り始めた。
「これは只の俺の想像だが、マヘリアはエドワードの指示で動いていたんじゃねぇか?」
 喋りながら、アスはエドワードの表情を探る。変化は無い。
「私もそれは気になっていました。マヘリアさんは二重スパイなのではないかと‥‥」
 綾野 断真(ga6621)が、アスの独り言に混ざる。同じように表情を窺うが、話の続きを促すように、同じ顔を張り付かせたまま。
「それだ。どうもマヘリアに探らせてるんじゃないか、って気がしてなんねーのよ」
 アスが自分の推理を、マヘリアがエドワードの指示で二重スパイとして動いている、と考える根拠を語るのを、結局エドワードは、最後まで顔色一つ変えないまま聞いていた。
 独り言に返事をせず、そのまま話を聞き続けるエドワードの態度で、何か確信したのか、8人はそのまま解散し、それぞれ任務に就いた。

●資料
 山のような資料、とはこういうのを言うんだろう。
 銀行口座。
 通信記録。
 搭乗記録。
 ロブ・エヴァンスの名前で残っている記録には、どこにも不審な点は無かった。
 マヘル・ハシバス(gb3207)が、エヴァンスの経歴を気にしている理由は、鳴風と同じである。
 2人は以前、別の依頼で、エヴァンスという姓を聞いている。
 彼の母は、家族でスペイン南部に滞在していた時期に、移動中の飛行機がワームの襲撃に遭い死亡。
 スペイン滞在はエヴァンスのハイスクール時代の2年間とあり、在籍していた確認は取れた。
 それから、生きていれば3つ上の兄は空軍の士官であった。
 地中海上で哨戒任務に就いていた際に、同じく撃墜され戦死。2名共遺体は確認されていない。
 マヘルも鳴風も納得が行かない。
 バグアに対して憎悪を持っていてもおかしくない経歴である。
 親バグアの組織に与するとは思えなかった。
 何らかの心境の変化が覗えるような記録の動きは、エヴァンスの名前で残されているものからは確認できなかった。

●聴取
 優(ga8480)と綾野、サンディは、実に巧妙に聞き込みを行った。
 優が近づいた、エヴァンスとごく親しい友人から、エヴァンスに恋人が居る、という情報を得る。
 気がある素振りを見せ、またそれがあっという間に破れた演技を、優は上手くこなした。
「‥‥その恋人、名前分かりますか?」
 推理が正しいなら、それはマヘリアであろう。名前を聞き出さなくてはならない。
「なんだよ、泥棒猫とか言って刺しに行くつもり?」
「まさか」
 ちょっと呆れて見せた後、とんでもない、とでも言いたげな表情にして見せる。
「‥‥冗談だよ。マヘリアって言ったかな。同じ部隊の――知ってる?」
 知っているも何も無い。
 ビンゴだ。

 けれど、まだ推理が当たっている可能性が出てきたというだけで、直接証拠を得た訳ではない。
 優の演技を利用して、サンディも「内密にお願いします」と訊いて回り、エヴァンスに漏れる事は無かった。
 エヴァンス本人だけでなく、聞き込みを行った人物の身辺も、綾野が調査する。
 けれどその全員が、既にエドワードから受け取った資料に、無関係の知人として掲載されているか、もしくは新たに調査したものの無関係であるかのどちらかであった。

●尾行
 遠倉 雨音(gb0338)とフェイスの任務は、エヴァンスが買い物、あるいは食事に出るのを尾行する事に終始した。
 仕事が終わった後、買い物に出る。レジで店員に礼を言う程度で、他の誰とも、目に見える接触はしない。
 仕事が終わった後、食事に出る。近所の飲食店で1人もくもくと食事をする程度で、他の誰とも、目に見える接触はしない。
 何時もと違う動きを見せたのは、遠倉が家宅捜索のため、アスの出した偽依頼を請けた日であった。
 フェイスが付いていたその日は、仕事が終わって宿舎に戻った後、徒歩で連隊本部を出る。
 尾行に気づく様子も無く、向かった先はマヘリアの住むアパートであった。
 マヘリアの部屋に入り、灯りが消える。
 1時間半程で、アパートから出てきた。
 優が得た情報では、エヴァンスの恋人はマヘリア、とあった。
 そして恐らく、マヘリアはエドワードの指示で、エヴァンスの周囲を探っている。
 人通りの無くなった夜道を、真っ直ぐ連隊本部へと、無警戒で歩くエヴァンスを追跡し、確信した。
 推理は当たっている。

●捜索
 綾野と遠倉、そして優が、アスの出した偽依頼を請けるのに、本部へ顔を出した時、何度か顔を見かけた事のある、隻眼の男に呼び止められた。
 で、「貴様らが探してるのはコレだ」と、資料を渡してきた。2つ伝言がある、と言う。
 1つは依頼主に。エドワードの事ではなく、アスの事だ。
「いくら傭兵でも偽造すればタダじゃ済まない。名目だけ欲しいならエドは指揮官だ。頭使え」
 とだけ。もう1つはエドワード宛に。
「貸し1つだ。デルタのごたごたにエコーの俺を使うな」
 とだけ。

「――筒抜けだった、て事ですかね」
 綾野が苦笑いを浮かべる。
 どんな依頼が出ているかなど把握されていて、エドワードが手を回した。そういう事だろう。
 役者が違う、とアスも苦笑いするしか無かった。

 兎も角、エヴァンスがどこかに出かけた夜を狙って、大々的に家宅捜索は行われた。
 普通なら、宿舎の私室に立ち入る事など無いのだろうが、それでもそれらしい証拠となるものは簡単には見つからない。
 最初は遠倉が見つけた。何も書いていないメモ用紙。上何枚かを破いた形跡がある。
 それから、綾野がゴミ箱から見つけた、幾つもの細かく千切られた紙片。
 紙片はメモ用紙ではないか、と当たりを付け、筆跡から解読を試みると、日付、時間、それから場所が書いてある。
 全部で6箇所。最新の日付は一週間後。
 それ以外の5箇所は、マヘリアが身元不明の人物と接触した日。

 外出から戻ったエヴァンスは、エドワードの指示で拘束された。
 自身の周囲に調査の手が回っているとも気づかず、寝耳に水だったらしく、エヴァンスはあっさりと捕まった。
 本来なら、マヘリアも立会い、彼女の供述と共に、入手した証拠を突きつけて事情聴取するべきだったのだろう。マヘリアの立場はまさにアスや綾野が、エドワードの前で喋った通りであったのだから。
 ところが、サンディの一言が切欠で、エヴァンスは知らぬ間に自供していた。
 確たる証拠はまだ入手出来ていない段階であったにも関わらず、そんな事情を知らないエヴァンスは、基地のゲートで拘束された時点で足掻くのを止め、開き直った。
 そのまま家宅捜索のために集まった8人の前に連れられ、そこでサンディは聞く。
「あの三人の死に、少しでも心が痛まなかった?」
 開き直ったエヴァンスの答えは、サンディの神経を逆撫でするのに充分だった。
「寝惚けた事を。ここに心を痛めるべき仲間など居ない」
 何か叫んで、殴りかかろうとするサンディは、アスや遠倉に止められる。
 サンディの質問は、同じようにエヴァンスの冷静さをも失わせた。

 ロブ・エヴァンスの拘束後に引き続き行われた家宅捜索で、偽造された幾つかの身分証が発見されている。