タイトル:【Gr】兵站マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/29 01:52

●オープニング本文


 どうも最初はタートルワームに見えた。しかしよく見ると細部が違う。もっとメカメカしい、とでも言おうか。
 尤も、前線に居た兵士達に、それがタートルワームなのか新手のキメラなのか、そんな事はどうでも良かった。
 問題はこの、レオパルド2戦車と同じくらいの大きさで、同じくらいの主砲を背中に乗せて、高射砲にも使えそうな30mmくらいの機関砲がくっついた、どこかで見たようなカメが、無遠慮に川を下り、パトロール中のボートを2隻沈め、ノコノコと前線の裏へ顔を出し、移動中の機甲部隊の横合いを突いた事だ。
 ピエトロ・バリウスがリスボンに着任し、防衛ラインの再構成のために移動中であった機甲部隊は、「蜂の巣を突いた」という言葉が相応しい混乱に陥った。
 間の悪い事に、既に主力戦車などの戦闘車両は先行し、燃料やら武器弾薬、食料を積載した輸送部隊が通過中の所に、カメは上陸してくれた。
 一部の車両は攻撃を避けることに成功し、先行する戦闘車両と合流できたが、戦闘力に期待できない輸送部隊はおよそ半数をカメに蹂躙された。
 ひとしきり暴れて満足したのか、カメはそれ以上の深追いはせず、川へと戻った。

「――というのが、昨日の出来事だ」
 ここまで一息で喋ると、士官は言葉を一度区切った。ブリーフィングルームを見渡す。
「問題のカメは4匹、その時確認された。そしてもう1つの問題が、輸送部隊を再度送らないとならん、って事になる」
 昨日不躾に輸送部隊を蹂躙して川に消えたカメのせいで、残り半分を前線に輸送しなくてはならない。
 カメが再度現われるかは保障できないが、最悪の事態は想定しておく必要がある。
「輸送部隊は燃油用のタンクローリーが4、弾薬を積んだトラックが6、あれだな、ワンショットライターってやつだ」
 まるで他人事のように士官が語る。彼はこの輸送部隊の長なのだが。
「輸送コースの変更はできない。如何せん他に大型タンクローリーで抜けられる道が無いんでね」
 そう言って、護衛に就く車両のリストを読み上げ始める。
 傭兵諸君らを乗せるIFV2両。20mm機関砲と4発のTOWを装備。
 歩兵1個小隊を乗せたAPC2両。12.7mm機銃を装備。いずれも履帯装備車両。
 そしてジーザリオを一回り大きくしたような装輪車両。2発のTOWを装備。
「ミサイルの類が効かないって事は無いだろうが、どの程度の効果かは解らんよ。何せ、昨日は逃げるので精一杯だったんでね」
 さらっと絶望的な事をあっさりと、この中年の士官は言ってみせた。そしてさらに付け加える。
「カメ共はどうも燃料とか火薬の匂いが好きみたいでね。食料輸送してたトラックやらジーザリオなんかはことごとく生き残った。ありゃあ病気だな」
 士官はさらに困難そうな事をにやにやしながら言ってのけた。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

●カメ掬い
「と、言う訳だ。フォースフィールドを纏ったレオパルド戦車が川から上陸してくると思ってくれれば大体アタリだ」
「武装キメラとは。面倒な物を作ってくれます」
 輸送部隊長を集まった面々が囲む。フェイス(gb2501)が零す後ろで、10台のトラックに物資を積み込む作業が行われている。
 一般兵に混じって甲斐甲斐しく手伝う石動 小夜子(ga0121)はその笑顔でちょっとした人気者になっていた。
「悪食なカメね‥‥」
 キメラの性質を聞いた緋室 神音(ga3576)が率直な感想を述べた。部隊長はニヤニヤ笑いながら「そのための君らだ。病院送りにしてやってくれ」と気軽に言う。この人は緊張感が無いのか、肩の力が抜けているのか。
「補給線を狙われるとはね‥‥ま、何とか守ってみましょう」
「敵を叩かなければ前回の二の舞は必至か。やはり俺達で囮を務める他ないな」
 周防 誠(ga7131)と白鐘剣一郎(ga0184)が顔を見合わせて頷く。
 作戦はこうだ。前回襲われたのはちょうど橋を渡る箇所の直前。そこの少し手前に輸送本体が一時待機。IFVが囮となって先行し、カメを釣り出す。誰とも無く「カメ掬い作戦」と名付けられた。
 囮となるIFVには空きスペースに餌となる弾丸やら燃料が積み込まれる。
「うまく引っかかってくれるとありがたいがね〜」
「そうですね、此方も無事前線に物資を届けないとなりませんから」
 ドクター・ウェスト(ga0241)と優(ga8480)が箱を抱えてIFVに向かう。中身は弾薬。
「攻撃を受けると非常に危険だから、早期に発見したいわね」
 2人の少し後ろから、ポリタンクを持ったアズメリア・カンス(ga8233)が着いて行く。
 真っ先に小箱を抱えてIFVに乗り込んだキムム君(gb0512)は何かを読んでいた。
「袁紹ってのは食料を集めた所を焼き討ちされて負けたらしい。兵站って大事だな」
 独り言なのか、積み込みに来た3人に向けたのか、本から顔を上げず話す。
「少しは手伝いなさいよ?」
 呆れ声のアズメリアに背中を押されて、「おっと失礼」と、本を閉じ積み込み作業に走る。
 ドクター・ウェストと優が、キムム君の置いていった本の表紙を覗く。「三国志」とそこにはあった。
 間もなく作業も終わる。カメ掬い作戦に向けて、アイドリングが始まった。

●渡河
 それほど広くない街道を、1列に補給隊の車列が進む。一般車の通行は規制されているのか、たまに擦れ違うのは軍用車ばかり。
 IFVが1両先頭を行く。車内には白鐘、ドクター・ウェスト、優、キムム君、フェイスの5人と、空きスペースに満載の燃料と弾薬。
 その後に大型ジーザリオ風の車両とAPCが続く。それから更に、10台のトラック、トレーラー。
 最後尾はAPCと、もう1両のIFV。車内には石動、アズメリア、緋室、周防と、こちらも満載の燃料と弾薬。
 先導車と最後尾車でそれぞれが囮でありサポートである。
 基地から出発して暫くは順調に行程を消化していた。目的地まで数十キロ、舗装路用にゴムパッドが取り付けられたキャタピラは街道を疾走してゆく。

「オーケー、諸君、間もなく例の橋だ」
 車列が止まる。橋まで数キロ。一般的な戦車砲の射程外。
 先頭を行くIFVは停止せず橋へ向かう。
「さて。来ますかね‥‥」
 ガンポートからフェイスが川に視線を向ける。
「キメラの都合は知らないが、出てきてもらわないと困るね〜」
 そう言いつつ、囮燃料の匂いを振りまくために、ドクター・ウェストが後部ハッチを開く。
「このまま渡っていいのか?」
「ああ、頼む。向こう岸で降ろしてくれ」
 車長に白鐘が答える。IFVは速度を落とし、橋を渡ってゆく。もう1両、後続のIFVはやや離れて着いて来る。
「うまく出てきてくれれば良いのですけれど‥‥ん!」
「止めて!」
 石動とアズメリアが同時に見たのは、橋の真下の水面に浮かび上がる陰。
 IFVが急停止し、後続車の4人が飛び降りる。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
「主砲を狙ってみるんで、よろしく」
 石動とアズメリア、緋室が姿を現すカメに向かう。水面に浮かび上がったのは2匹。それぞれ左右両岸に向けて上陸を始める。周防はスナイパーライフルのレティクルを主砲に合わせた。

 1両目は橋を4分の3程渡った所で止まった。丁度正面の茂みの中から現われるカメの姿を見た。
「来たな!」
「ドクター、懐に入ります、宜しくお願いします」
 白鐘と優がカメの懐に向かう。カメの反応より早くIFVがTOWを発射し、爆煙が上がる。
 ドクター・ウェストが練成強化を施す。キムム君も先行した2人に続き、コンユンクシオを抜いて駆けた。
 フェイスが降りた横で、キャタピラを逆回転させIFVが後退する。と、爆煙の中にマズルフラッシュが見えた。カメの左右に取り付けられた30mm砲が橋の上を薙ぎ払う。
 殆ど狙いを定められていない発砲は、カメに取り付く寸前であった前衛の3人を薙ぎ払った。
「距離を置いては薙ぎ払われる。一気に詰めるぞ!」
 弾丸に弾かれた白鐘と優は素早く立ち上がり、カメの左右に飛び込む。
 コンユンクシオを構えなおしたキムム君はカメに正面から対峙する。左右に散った2人に、目標を決めあぐねているカメを煙の中に見た。
「下に2匹いるね」
 橋の下から上陸を始めるカメに、ドクター・ウェストは気付きエネルギーガンで牽制する。対岸に上陸しようとしているもう1匹は、後続隊に任せる事に決めた。
「‥‥っ。堅いですね。厄介な」
 時折煙の中に見えるマズルフラッシュに向けて、フェイスは発砲を続けた。武装さえ奪えば何とかなる。が、なかなか沈黙しない。
 と、一際大きな発砲音が響き、フェイスは飛びのく。カメから放たれた主砲弾はドクター・ウェストの背中を掠め、橋を後退していたIFVに直撃した。
 橋の中心で、爆煙が上がった。

「やられましたね‥‥」
 先行したIFVの爆煙を、周防はダットサイト越しに見た。
「私も懐に」
 周防の横で牽制射撃を行っていたアズメリアが、石動と緋室の後を追う。対岸に上陸しようとしているカメには届かない。向こうは先行隊に任せる事に決めて、手前のカメに火力を集中させる。
 遭遇時に先制したTOWの攻撃は、カメの足をやや留める事に成功した。足の止まったカメの前に立った石動は、キメラの目を引きつけるように左右に動く。
 その隙を突いて緋室とアズメリアが飛び込む。
「大きい分懐は死角になってそうだけど‥‥どうかしら?」
 石動の動きに惑わされ、左右に振られる首元にアズメリアは飛び込み、切り付ける。
 緋室は飛び上がって、主砲の根元と思わしき場所を叩いた。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影」
 緋室の攻撃とほぼ同時に、周防の放った弾丸が主砲を叩く。主砲の根元が小爆発を起こし脱落する。と同時に、石動とアズメリアの刀がカメの首を落とした。
 一度、ダットサイトから眼を離すと、周防は対岸のカメに銃を向け、再びサイトを覗いた。

「白鐘さん、下から登って来ます。ここは任せます」
 優が短く言い置いて、川から上陸してきたカメに向かう。正面のカメは、噛み付きを正面からキムム君が受けつつ注意を引きつけていた。
「天都神影流、降雷閃っ!」
 白鐘の剣がカメの30mm砲を切り落とす。主砲はフェイスの狙撃により何度か弾かれ、その照準を合わせられずにいた。
「見えた‥‥!」
 キムム君がカメの顔を振り払い、直後に真上から振り下ろす。同時に白鐘が主砲を切り落とす。
「‥‥天都神影流『奥義』白怒火」
 カメは、その巨躯を地面に突っ伏し、動きを止めた。

 もう1匹は、橋上からドクター・ウェストの射撃と、後続隊の支援射撃に曝されていた。鬱陶しく感じたのか、ゆっくり向きを変えるカメの主砲は、射撃に曝され既に半壊していた。
 そこに、優が取り着く。首元には回らず、トップアタックを仕掛けるようにカメの上に飛び乗った。
 優の動きを見て、射撃がカメの頭に集中する。彼女は自身の剣を2度、3度と主砲の根元に深々と突き立て、飛び退いた。
 3匹目のカメは、数度の小爆発の後、沈黙した。

●もう1匹
 3匹のキメラは殲滅された。被害はIFVが1両大破。しかし輸送本隊に被害は無かった。
 報告では襲ったのは4匹だった。もう1匹いるはず。警戒の継続を強硬に主張したのは優だ。
 後続組のうち周防とアズメリアがIFVで最後尾に戻る。橋の上はAPCと一般兵も混ざり、通行できる状態にするため残骸の撤去作業が行われた。

 撤去作業はおよそ30分に渡り、その間、もう1匹のカメが出現する気配は感じられなかった。
「待っていても、出てくるとは限りませんね」
「判断は君らに任せるよ」
 作業は終わり、フェイスに部隊長が答える。
「警戒は続けるべきです」
「異存は無いが、安全なうちに通してしまいたいね〜」
 優とドクター・ウェストが言葉を続ける。
 橋から数キロの地点で待機する本隊を移動させるか、判断が求められていた。確かにあと1匹残っている。が、出てこないものをいつまでも待っている訳にもいかない。
「では、橋の地点を警戒しつつ、補給部隊を移動させてはいかがでしょうか」
 石動が提案する。橋の両端で警戒を続けつつ、本隊は先に通す。異論は上がらなかった。
「本隊へ。当面の脅威は排除した。輸送を再開してくれ」
 通信を白鐘が本隊へ入れる。緋室が打ち上げた照明弾が周囲を照らした。

 石動が何とは無しに、目の前を通過するトラックを数えていた。彼女の目の前で、トラックは道沿いに右折し、橋を渡る。
 丁度10台目のトラックの後ろを、大型ジーザリオが追って目の前を通過した辺りだろうか、背後の茂みに気配を感じた。
 同時に気配を感じた緋室とアズメリアも振り向く。
 と、茂みの中から主砲の砲弾が掠めて飛んできた。砲弾が大型ジーザリオに直撃する。
 3人と、少し離れたIFVの近くに居た周防は瞬時に臨戦態勢を取る。が、前衛となる3人が近づくより早く、カメは30mm砲で3人を薙ぎ払った。
「懐に!」
 周防が声を掛けつつ、主砲に狙撃を加える。金属が弾ける音と共に、砲身が揺れる。
「止まらないで、走るんだ!」
 対岸から白鐘と優、キムム君が向かう。ドクター・ウェストとフェイスはその場から支援射撃。車列は止めない。一気に橋を渡ってもらう。
 カメは茂みから完全に姿を現し、橋を渡る補給部隊を追うように動き始めた。IFVからTOWが発射される。
 TOWはカメの頭を捉え、爆煙に包まれる。ほとんど狙っていない、30mm砲の薙ぎ払いを、今度は石動とアズメリアが懐に入り交わす。緋室がカメの注意を引きつけるように、薙ぎ払いを受け流す。
 周防の狙撃が着弾するのと同時に発射された主砲弾は、衝撃で照準がブレて橋の上の舗装を抉った。同時に、対岸からフェイスとドクター・ウェストの放った銃撃が主砲を再び弾く。
 懐に飛び込んだ石動とアズメリアは、カメの首を狙って切り付ける。TOWの爆煙が晴れるのと引き換えに、カメは視力を無くし、照準がつかないまま闇雲に30mm砲を発射していた。
 周防はダットサイトの照準を、主砲の根元からカメの首根っこに合わせる。何かを振り払うように頭を激しく動かすカメに、止めの一撃。
 首に大きな穴が開き、カメは動かなくなった。

「これは機械なんでしょうか?」
「機械と生物の部分があるようだね〜」
 屍骸を探る石動とドクター・ウェスト。彼は何やらカメの体の一部を採取している。
「これで、とりあえず脅威は無くなった‥‥かしらね?」
「其のようです」
 アズメリアに優が笑顔で答える。
 1両破壊されたIFVの代わりに、先行組と後続組は入れ替わる事になった。入れ替わった後続組は、2両のAPCに分乗し、護衛を続ける事になる。
「悪食なカメも居なくなったし」
「一段落ですかね。さあ、早々に物資を届けましょう」
 煙草に火を点け、フェイスが緋室に応える。キムム君は何時の間にか読書を再開していた。
「さて、カメ掬いは終わりだ。残り30kmくらい、よろしく頼むよ」
 部隊長の言葉に、9人は思い思いにそれぞれの配置へと散っていった。