タイトル:戦場のクリスマスマスター:あいざわ司

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/07 23:48

●オープニング本文


●思いつき
「そうだ!」
 ライラが大声を出したのはコンポートにした梨をデコレーション用にカットしていた時。
 大抵こういう時に碌な事が起こらないのを他の従業員は知っている。ついこの間の牛乳の時しかり、だ。
「クリスマスよ!」
 はいはいそうですね。クリスマスだ。まだ2ヶ月先だ。でも商戦は始まっている。ライラの店も、御多分に漏れず、デコレーションケーキ予約用の広告をついこの間発注した。
 発注したと言うのに、彼女は何を思いついたんだ。今更広告の原稿を変えるとか言い出しやしないかヒヤヒヤものである。
 しかし、ライラの考えは更に斜め上を行っていた。
「戦場のメリークリスマスよ!」
 ライラを他の5人は一斉に止めた。まだ何を始める気なのか聞いていないが、碌な予感がしなかった。

●コンテスト
 曰く、戦場で戦っている傭兵さんやら兵隊さんにクリスマスケーキを届けたいらしい。
 どうやって届ける気か問い質したら、「レーションとか作ってる会社に買い取ってもらうの!」とか言うではないか。そんな会社に伝手は無い。
 しかしライラに言わせると、「それは後で考える事!」らしい。
 コンテストをするのだ、と勇んで言う。
「ULTから、実際に戦っている傭兵さんに来てもらうのよ!」
「料理自慢の人もいるでしょうから、自作のケーキ持ち寄ってもらって!」
「料理できない人はどれが食べたいか、審査してもらうの!」
「優勝したケーキのレシピをうちで買い取って、レーションに入れてもらうの!」
 店の宣伝にもなって一石二鳥だ、とか言う。
 彼女が云うにはこうだ。

 最優秀賞1人、賞金3万C 副賞レーションとして商品化
 優秀賞1人、賞金2万C
 佳作1人、賞金1万C

 クリスマスケーキであること
 レーションに入る事を想定しているケーキであること
 味重要!
 見た目最重要!

 審査員の人は上記を踏まえて採点してもらう。
 そしてライラも審査委員長として参加する!

 言い出したら聞かないライラである。バイト君はしぶしぶULTに依頼を出した。

●参加者一覧

/ 竜王 まり絵(ga5231) / 御巫 ハル(gb2178) / 美環 響(gb2863) / ミヤザキ・セリカ(gb3664

●リプレイ本文

●開催!
 ライラの思いつきのみで始まったレーションクリスマスケーキコンテストは、彼女の思いつきによってどんどん大袈裟になっていった。
「商店街のイベントにしましょう!」
 とか云って、4軒隣のレストランを経営する商店会長と交渉、というかゴリ押しをして、アーケードの一角を借りる事にしたし、
「ポスター貼るの!」
 などと云って、数百枚の「レーションクリスマスケーキコンペ開催!」とデカデカと書かれたポスターを街中に貼ったし、
「大々的に宣伝よ!」
 なんて事を言い出して、街のケーブルテレビにCMまで出した。
 ライラの思いつきは、彼女の店の3ヵ月分の利益を吐き出して、大袈裟な大会になった。

 そして、この現状である。
 ぽやぽやにこにこ笑顔の育ちの良さげなお嬢様、竜王 まり絵(ga5231)と。
 甘いもの大好きでどこから調達したのかサンタのコスプレで登場した美環 響(gb2863)と。
 3食ケーキでもいいのか、1ホール食べつくす気まんまんの御巫 ハル(gb2178)と。
 これだけである。竜王と美環がコンペに参加し、御巫は審査員。もう1人参加予定だったのだけれど、急遽来れなくなった。
 これだけである。
 それでも、やっぱりとかがっかりとかどうすんだこれとか、何とも云えない表情を浮かべるライラの店の店員達を尻目に、ライラ本人はやる気まんまんだった。
 いつの間にか、「大会委員長」とか言う肩書きに4軒隣のレストランの商店会長を祭り上げ、
 いつの間にか、アーケードの一角に大勢の観衆を集め、
 いつの間にか、街のケーブルテレビの中継が来た。

 ライラの思いつきと行動力は、遥か斜め上を行っていた。

●対決!
 アーケードの一角にライラがどこからか用意した2つのキッチンで、竜王と美環が作業に勤しんでいる。
 その間をうろうろ、実況しながら地元ケーブルテレビのアナウンサーとカメラが着いて回る。
 2つのキッチンの正面に、ライラと御巫が座り、実にわくわくした眼差しで、2人の作業を眺めていて、どこからか集まった大勢の観衆がぐるっと周囲を囲み、その観衆を見た街行く人がなんだろうと足を止め、観客の数は増えていった。

「さて竜王さん、これは何をしているんでしょうか」
 アナウンサーの声と共に竜王の手元がカメラに映る。
「これからスポンジ台を焼きますわ」
 手元の長方形のトレーに、綺麗な板状にスポンジ台の「素」が流し込まれる。
「ロールケーキになるのかな?」
 御巫が心底楽しみな笑顔を浮かべる。で、御巫の横で同じくらいの笑顔でライラが答えるのだ。
「きっとブッシュ・ド・ノエルね!」
 言い当てられた竜王は動じるでもなく、にこっと笑顔を見せて作業を続けた。
「でもブッシュ・ド・ノエルをどうやってレーションにするかが問題よね」
 また嬉しそうな御巫の声。横でライラが知った風にうんうん頷いている。
「ではそのあたり、この後の作業で注目しましょう。美環さんを」
 アナウンサーはカメラを引き連れ、美環のキッチンへ移動した。

 上から下まで完璧なサンタクロース姿の美環は、クッキー生地を作っていた。
 平らに延ばして、丸い型で少し大きめにくり抜いて、表面にかわいらしいサンタのマークを入れた後、オーブンへ入れるトレーへと移してゆく。
「美環さん、これはクッキーでしょうか?」
「フォッフォッフォッ、サンタクロース響君からのクリスマスプレゼントだよ!」
 アナウンサーの質問に答える美環はもうサンタクロースになりきっていた。
「ほほう、クッキーか」
 レーションに含まれる甘いもの、クッキーは定番である。御巫は感心する。
「でもクッキーをどうやってクリスマスケーキにするかが問題よね」
 また、ライラはにこにこしたまま、知った風にうんうん頷くのだ。
「ではそこも、この後注目しましょう。竜王さんに」
 盛り上げてはいるが、アナウンサーの言っている事はさっきと同じだった。

 スポンジ台を焼いている間に、竜王はクリームとフルーツの用意を始めた。
 エアインのペースト状のクリームに、色とりどりのドライフルーツ。見た目にも鮮やかに揃えられた。
「これはロールケーキのクリームでしょうか?」
「ええ、保存性を考えてドライフルーツを用意しましたの」
 アナウンサーの問いに答えつつ、てきぱきとクリームをホイップしてゆく。
「本当はフリーズドライを使用するのがいいのですけれど‥‥」
 クリームのホイップを済ませ、ドライフルーツを準備する。
「こ、これは本格的な‥‥」
 レーション、という頭があったので、竜王が見せた本格的なブッシュ・ド・ノエル作りに御巫が感嘆の声を上げる。
「これは期待大ね!」
 そしてまた、ライラは横でうんうん嬉しそうに頷いてみせるのだ。

 美環がクッキーを焼き上げている間に用意したのは、白と黒の2色のチョコレート、そしてカラフルなグミだった。
 ホワイトチョコレートを湯煎にかけ、焼き上がったクッキーを沈めていく。ホワイトチョコのコーティングが施される。
 もう1つ、ミルクチョコレートをまた湯煎にかけ、絞り機に入れ、コーティングの上から「メリークリスマス」の文字。
「なるほど、デコレーションされてきました!」
 アナウンサーが大袈裟に驚いてみせる。
「なるほど、こういう事か‥‥」
 また御巫が感心してみせる。クッキーは綺麗な白でコーティングされ、いかにもクリスマスらしくなってきた。
「ふふん、なかなかヤルわね!」
 ライラが御巫の横で満足げに頷いた。大会委員長、という肩書きを与えられた商店会長より偉そうなのはもう仕方が無い。

「竜王さん、いよいよ仕上げの工程です!」
 アナウンサーが盛り上げる。
 スポンジ台に綺麗に塗られたクリームと、そこに散らされたフルーツ。
 竜王は鮮やかにくるっと巻いてみせると、観客から「おおぉ!」と感嘆の声が上がった。
 見事なロールケーキに仕上がった上から、ココアパウダーを振り、さらにパウダーシュガーを振る。
 ご丁寧な事に、レーションとして梱包用の缶を竜王は用意していた。
「ラベルは自作したものですの」
 綺麗に缶の周囲に貼られたラベルは木目にサンタがあしらわれていて、まさにブッシュ・ド・ノエルのそれであった。
 ロールケーキをパラフィン紙に巻いて、そのまますっぽり缶に納めると、後は蓋をするだけ。
「竜王さんの見事なブッシュ・ド・ノエル、完成です!」
 またアナウンサーが盛り上げてみせる。御巫とライラは揃って身を乗り出して拍手を送っていた。

 美環も仕上げに入っていた。
「さぁ美環さんどう仕上げてくるのか!」
 カラフルなグミが、その出番を迎えた。ホワイトチョコレートでコーティングした上に、赤と緑を中心にグミを散らす。
 元はクッキー、それも糧食用にも考えられた、栄養価の高いクッキーだったものに、見事に彩りを与える。
 白の上に鮮やかな色のグミが乗ったそれはまさにクリスマスケーキで、観客がまたも「おお!」と感嘆の声を上げる。
「クラッカーとか、クリスマスには必需品ですよね」
 そう言いながら、美環は完成したクッキーと一緒に、クラッカーを梱包の中に入れ、見事にレーションとして仕上げた。
「美環さんのクリスマスクッキー、完成です!」
 アナウンサーの声に、御巫とライラは再び拍手を送った。

●決着!
「満足、満足! どっちもレベルが高くて迷うなぁ‥‥」
 御巫は非常に悩んでいた。
 双方の作品を完食するかの勢いで食べた後、とても満足そうな表情を見せた。そしていざ採点しようとして、悩んだ。
 味は、双方申し分無い。100点。
 見た目は、竜王の中身はシンプルながら凝った缶ラベル。美環は見た目にも鮮やかな上にクラッカーを沿えて。甲乙付け難く、100点。
 そしてレーションとしてどうか。御巫はロールケーキがレーションにいいんじゃないか、と思っていた。そしてその通りやって見せたのが竜王だ。
 ところが美環のはどうだ。クッキー。持ち運びに申し分無い上、栄養価も考えられている。甲乙付け難いではないか。
「うーん‥‥」

 悩む御巫をよそに、ライラは双方のケーキを頂き、それぞれに高評価を与え、「すごく美味しいし綺麗!」とか言いながら竜王の両手を握りぶんぶん振って、「クッキーをケーキにする発想は無かったわ。美味しいしばっちり」とか言いつつ美環の両手をこれまたぶんぶん振った。
 そして大勢の観衆を鮮やかに整理して、試食が振舞われた。集まった人々は嬉しそうに、美味しそうに、竜王と美環が用意したケーキを頬張った。
「御巫さん!」
 ライラが御巫にびしっと指を突きつける。
「迷ってるわね! 私も!」
 何が嬉しいのか、迷ってると言いつつにこにこしている。
「同率優勝にしましょう! 両方売り込むのよ!」
 妙に力強いライラの声。根拠は全く無い。何故か説得力はあったが。

 審査員のライラ、御巫の採点によって、同率優勝と宣言され、竜王と美環には賞金3万Cづつが手渡された。
 拍手に包まれた開場は、試食会から気の早いクリスマスパーティー会場と化して。
 ライラの思いつきと行動力は、参加した2人の思った以上の水準の高さに盛り上げられ、たった2人のコンペとは思えないほど盛大に幕を下ろした。
 だが、レーションとして売り込む伝手はまだ無い。
 が、この人ならいつの間にか伝手をこさえて来てもおかしくない、と、ライラの店のバイト君は思ったが、口には出さないでおく事にした。