●リプレイ本文
●捜索
マヘリアの携帯は綾野 断真(
ga6621)に繋がった。約束の時刻になっても店に現われない2人に気を揉んでいた所で、あの電話である。
一方通行な電話に不穏な空気を感じ、神撫(
gb0167)は即座に2人の所属する連隊本部に連絡を取った。丁度連隊本部でも、ビーコンの受信により場所は特定できるものの、状況が解らず情報収集を行っていた。
連隊本部と情報交換をし、休日モードからスイッチを切り替え、8人は高速艇へ。おそらく、軍の到着より僅かに、こちらが早く現場に到着する。
「何と言うか、いろいろ巻き込まれますね」
「‥‥一度お祓いでもさせにいくべきかも知れんな‥‥」
煙草を灰皿で揉み消しながら、ファファル(
ga0729)が須賀 鐶(
ga1371)におどけて見せる。
「二人とも災難ですね。お休みの日だと言うのに」
フェイス(
gb2501)が零す。
「制限時間もあります‥‥急ぎましょう」
セレスタ・レネンティア(
gb1731)は、出来るだけ軍の到着までに救出したいと考えていた。2人の休日のために。
8人は4棟並びの倉庫の真横に出た。正面を覗き込んだ優(
ga8480)が、4棟の丁度真ん中、2棟目と3棟目の辺りに、2台の白いバンとマヘリアの物らしき車を見つけ、合図を送る。
「作戦開始ーっと♪」
妙に楽しげな風花 澪(
gb1573)の声を合図に、8人は散った。
倉庫正面に回った須賀、優、そしてセレスタ、フェイスの4人は、真ん中2棟の扉が少し開いていたことから、両端の2棟は放置した。
セレスタとフェイスが手前の倉庫入り口に張り付く。須賀と優は、倉庫の前に止まったままのバンを回り込み、奥の倉庫入り口に取り付いた。
一度視線を交わし、フェイスが倉庫側面に回る。セレスタはそのまま、正面から気配を探り、一度中を覗き込んだ。人が居るのは確実。だが正面に大きなコンテナで、それ以上の様子は探れない。彼女は一度離れて、バンの裏に身を潜めた。
側面に回ったフェイスは、採光用に取り付けられた窓の下に滑り込んだ。掌の中のシグナルミラーをゆっくり差し出し、倉庫内の光景を映す。そっと、ミラーを傾斜させて、映し出される箇所を変えてゆく。
ミラーに映ったのは赤い目出し帽とスカーフが1人づつ。他には確認できなかった。倉庫の正面に戻り、セレスタの横に身を潜める。
「2人いますね。さて‥‥」
「コンテナがあります。遮蔽に」
小声で短く、必要な事のみ伝え、2人は再び正面ドアに取り付いた。
「須賀さん」
彼にしか届かないように短く声を掛けると、優は倉庫の側面へ回った。フェイスと同じように、窓から中を確認するため。
須賀は彼女の動きを確認すると、まっすぐ入り口扉へと取り付き、中を覗く。がらんとした倉庫内。一番奥に、何かを囲むように3人立っている。
扉の陰に身を潜めていると、戻ってきた優と目が合う。指を3本立てて、3人と合図を送る。
優が何故か首を左右に振り、掌を広げて見せた。5人、と言う事であろう。須賀が見た3人はテロリスト。囲まれていたのは?
「‥‥ビンゴ?」
疑問形にして、小さく優に聞く。優は無言で頷いた。
「それにしてもみんな優しいなぁ‥‥殺しちゃえばいいのに」
呟きながら、風花は綾野が探索に向かった手前から2つ目の倉庫に向かった。一番手前の倉庫は無人。気配を感じ取るのに敏感な風花は確信があった。裏口を登らず、そのまま綾野のカバーに向かう。
綾野が2つ目の倉庫を裏口の窓から、ミラーで探る。管理室に2人。サングラスは見えない。奥の倉庫に向かった神撫とファファルに、ちかちかと反射光で合図を送る。合図に気付いたのを確認してから、片手で「2人」と示して見せた。
と、綾野の後ろから、風花の手が伸び、もう2本合図して見せた。そして、下をしきりに指差す。
正面からフェイスが確認した2人を、風花も見つけていた。この倉庫にはおそらく、4人。
綾野と風花の合図を確認した直後、正面に回ったチームから定時報告が入る。セレスタから2名確認、両端の倉庫は使用形跡なし、優から、3名と倉庫1階部分に人質。目標は7人確認できた。あと1人。
そして、神撫が見上げる3つ目の倉庫の裏口に、ファファルが取り付いた。管理室に1人、と合図が送られる。サングラスではない。という事は、優から報告があった、人質を取り囲んでいるうちのどれかがサングラス。
神撫は閃光手榴弾を取り出し、ファファルと共に配置に付いた。
●突入
閃光手榴弾の炸裂音と同時に、綾野は裏口のドアノブを撃ち抜いた。間髪を入れず、風花が飛び込む。
管理室に居た2人が振り返るが、振り返った時には片方の右肩は風花の月詠の切っ先が貫いていた。同時に、もう1人の顎も綾野の振り上げたS−01のショルダーストックによって蹴り上げられる。犯人が倒れながら引いたトリガーは、天井に穴を穿った。
炸裂音に続いて、管理室からの銃声で、1階に居た犯人達はキャットウォークへ続く階段を駆け上がろうとした。駆け上がろうとして、セレスタの発砲による跳弾で足が止まった。
セレスタは発砲直後に、入り口からさらに奥のコンテナの陰へ飛び込む。犯人から彼女の姿は見えなかった。右手にハンドガンを握ったまま、アーミーナイフをくるんと左手で持ち替え、コンテナから再び飛び出した。
管理室の銃声と、セレスタの発砲に紛れて、フェイスは倉庫の奥まで進み、足を止めた犯人を見た。犯人にとって不幸だったのが、混戦の中で立ち止まる敵を見逃すほど、フェイスはお人好しではなかった。
管理室に居た2人は負傷して動けず、1階の2人は戦意喪失し、銃を捨てた。
フラッシュパンの閃光と同時に、裏口から管理室へ神撫とファファルが、そして正面入り口から須賀と優が飛び込んだ。
ファファルが管理室で閃光によろめく1人を殴りつけ、そのままうつ伏せに押さえつけ、後頭部に銃口を突きつけた。リーダーではない。
神撫が1階へ飛び降りるのと同時に、優が月詠の柄で3人の中央の背中を殴りつける。男がよろめく横で、もう1人が須賀の体当たりをまともに喰らい倒れる。
残った1人が慌てて人質に銃口を向けた時、銃を持つ手が神撫に切り付けられ、そのまま倒れる。
優に殴りつけられよろめいた男は、振り返り際をもう一度、同じようにして優に額を殴られ気絶した。サングラスが、割れた。
アニーはと言えば。
フラッシュパンの閃光で、彼女は無意識のうちに覚醒した。そして、何だかよく解らない間に、彼女と彼女の親友を取り囲んでいたテロリスト共が倒れ、そして目の前に見知った面々が現われた。今日逢う約束だった友人達であった。
この日は、覚醒を解いた後ヘコんだりはしなかった。ただただ、友人達に感謝していた。
ただ、傍で護りたいという神撫の申し出に、「でももう8人身柄確保です」と言って天然ぶりを発揮したのは、彼氏いない歴7年のなせる技か、神撫に同情せざるを得ない。
●長い休日の終わり
彼らが事態を収束に導いた直後に現われた軍の特殊部隊は、犯人の身柄を引き取り戻っていった。但し、アニーはマヘリアと共に明後日、つまり彼女らの休み明けに、SRP連隊本部に事情聴取のため出頭を命じられた。
アニーは司令の計らいだと喜んでいたが、マヘリアは休暇を消化させないと上が五月蝿いからだ、と冷めていた。
兎も角、少し当初の予定と違ったが、一行は綾野のバーで休息の時間を過ごす事になった。
そして。
たっぷり4時間は飲んだろうか。帰り道、千鳥足のアニーと、肩を貸すマヘリアは、秋の夜風に吹かれながら、街灯の下をゆっくり歩いていた。
いつものお下げが、ちょっと尺の足らないツインテールになっている。壊れた眼鏡はハンドバッグの中。鼻眼鏡を掛けたまま、アニーは上機嫌だった。
「どお? 楽しかった?」
優しい声色のマヘリア。
「澪ちゃんにいっぱいちゅうされた〜」
ちょっと回っていない呂律で、くふふ、と愉快そうに笑う。
「彼女、笑いながら人刺しそうよね」
「そんなことない! 澪ちゃんはいい子らよ」
力説する。尺の足らないツインテールは澪の手によるものだった。酔ってはしゃいだアニーのテンションに、彼女も一緒になってはしゃいでいた。
年下と見るや少しお姉さん風を吹かすアニーの悪い癖にも乗ってくれて、姉妹のように隣同士並んで座ってはしゃいでいた光景を、マヘリアも思い出す。
「‥‥そうね、いい子ね」
「そうらよ」
またくふふ、と笑う。
「誰か、いい男はいた?」
また優しく尋ねる。
「ん〜〜」
ちょっと考えた後、またくふふ、と笑って、アニーは語り始めた。
「綾野さんは、店長さんらったんらよ。素敵なお店」
着替えた綾野は様になっていて、見事なフレアはアニーを、いやアニーだけでなく、その場に居た全員を喜ばせた。名前は解らなかったが、オススメのカクテルをアニーはひどく気に入った様子だった。
「あたしは常連になるよ。美味しいカクテル飲めるなら毎日れもいいんら」
「ちょっと、毎日はやめときなさいよ」
毎日酔ってへべれけになったアニーを送る光景を想像して、マヘリアは止めた。そんなマヘリアの気持ちを知ってか知らずか、アニーはにこにこしたまま。
秋の夜風は少し冷たくて、それがかえって、酔って火照った体に心地よかった。
「神撫さんは直球なんらよ‥‥」
ほんの少し、アニーのトーンが下がった。神撫は果敢にも、傍で護りたいという申し出を、酒が入って良い雰囲気になった際に再度試みたのだが、残念ながらもうアニーは良い雰囲気を通り越して酔っていた。
彼の告白は、「じゃあSRPの入隊試験受けてください!」とからから笑うアニーに砕かれた。
アニーは解っていて、彼の告白をのらりくらり交わしていたのか、とマヘリアは思い、少し感心した。
「でも、神撫さんは試験受けてくれるんらきっと!」
思い過ごしだったかもしれない。マヘリアは思いなおした。
またくふふ、と愉快そうにアニーが笑う。
「フェイスさんは、歳が一回り違うんら」
1人、カウンター席でハンターのグラスを傾けていたフェイスの姿を思い出していた。
「‥‥楽しかったかな、フェイスさん」
心配そうな表情になるアニーを見て、マヘリアも彼を思い出していた。カウンター席に居たけど、会話にも混ざっていたし、笑顔も見えた。
「大丈夫よ」
「そっか、ならいいんら」
また愉快そうにアニーは笑う。
「須賀さんは、ちょこの人!」
突然叫ぶ。マヘリアは彼が肴として持ち込んだ種チョコを思い出していた。
「須賀さんは、ふーせんなんら」
「風船?」
怪訝な顔でアニーを見ると、アニーは笑っていた。
「うん、遊園地とかで貰える、ふーせんなんらよ」
「そっか、風船か」
アニーの言いたい事はマヘリアには伝わっていなかったが、マヘリアは優しく肯定した。
街路灯が、夜闇の中に2人の影を落とす。雲が無いのか、綺麗に月が浮かんでいる。
「あたしは!」
また突然、アニーが叫ぶ。
「あたしは、優さんとか、ファファルさんとか、セレスタさんみたいな女性になりたいんら!」
最初にアニーに飲ませたのはファファルだった。勝負に勝ち負けを付けるなら、ファファルの勝ちだろう。けれどもアニーは酔った後もテンションを上げて、ファファルと同じようなペースで飲んでいた。
酔い潰す気だったファファルは苦笑いで、途中で諦めた。
ソフトドリンクを飲んでいたセレスタは、そんな2人の光景を笑って見ていた。アニーが一緒に仕事をしたのは2度目、クールで冷静に仕事をこなす人だと思っていたので、笑顔を見せて楽しんでくれていたのが、アニーにはたまらなく嬉しかった。
飲みに行く前、殴られた左頬を手当てしてくれて、乱れた髪を梳いてくれて、メイクを直してくれて、最後に鼻眼鏡を、優は掛けてくれた。コンパクトを開いて鏡で顔を見て、2人で笑いあった。
アニーは空を見上げて、少し力強い声で言った。
「みんなかっこよくて、強くて、優しくて、綺麗で、素敵で‥‥」
途中で止まった。マヘリアが見ると、空を見上げたままでいる。
「そんな女性に、あたしもなりたいんら‥‥」
感慨深げにそう言ったあと、また歩き始めた。
「そう、あんたならなれるから、なんなさい」
マヘリアは優しく答えた。またアニーが、くふふ、と嬉しそうに笑う。
「マヘリア、ありがとお」
呂律が回っていないアニーの酔いが醒めるのはもう少し先だろうか。心地よい夜風が、ゆっくりと歩く2人を包んだ。