●リプレイ本文
「ぬいぐるみ探しがいつの間にやらややこしい話に‥‥ヒョウタンから駒ってこのことだな」
百瀬 香澄(
ga4089)は缶コーヒーを片手にモニター画面を凝視していた。
なにせ自らの初の傭兵としての依頼だった場所から、なにやら怪しい事件へと発展しているのだから当然のことだろう。
「子供達‥‥結局秘密基地使えてないんだな‥‥」
ふと、前の依頼で会った二人の子供を思い浮かべる。
あのぬいぐるみを渡したときの笑顔、それが忘れられない。
「デュポンさん、何か進展が?」
依頼の掲示により集まった者が、デュポンの元へと詳細を尋ねに来ていた。
「すまない‥‥寿 源次(
ga3427)殿だったな。進展‥‥確かにこれはある意味進展かもしれない‥‥」
複雑な表情で黙るとデュポンは胸元をまさぐり、タバコを取り出す。
「実は‥‥あのファイルでわかったことなのだが‥‥」
一服すると気が落ち着いたのだろう、デュポンは背後にあった棚から書類の埋まった箱を取り出す。
「今回頼みたいのは他でもない、このファイルに書かれていた内容についてだ。UNOと称される施設内において不気味な実験を行なっているとの事。実際何が行なわれているのかをその目で調べてきて欲しい。あいにく‥‥私の権限では調査隊が出せない。そこで君達に頼みたいのだ」
そういうとデュポンは数枚の報告書とファイルを出した。
「UNOという施設について探していると、水路の会社と同じ会社が浮上してきたんだ」
「ふむ、あの水路と今回の建物に同じ会社が関わっていると?」
寿の言葉にデュポンはうなずいた。
「ああ、調べてみた所、同じ建設会社の名前が出てきた。現段階でわかったのはそれぐらいだな」
「それでは施設についてわかっていることは無いんでしょうか」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)がメモを取りながら聞く。
「ああ、表向きのことなら軽くまとめておいた。どうやら一般の薬物研究施設として届出がでている。そのため施設内での動物の取り扱いも許可が出ているな」
「動物実験ですか‥‥まぁ薬物の研究には必須なところでしょう」
「しかし、裏側‥‥出資している企業は実際のところ実体の無い会社だ。それにここ1ヶ月に関して言えばどうも人の出入りが無い」
「場所についてはわかってるんですの?」
ラピス・ヴェーラ(
ga8928)が首をかしげる。
「ああ、わかりやすいように地図を用意しておいた」
市街地図を取り出す。
「この赤く印をつけたところ‥‥ここがUNOの建っている場所だ。これにあった建物を探すというのは骨の折れる仕事だな‥‥。ここまで調べておきながら潜入させること、誠にすまない」
そう言って取り出したのは一枚の青地図だった。
「僕が提示できるのはこれぐらいだ。すまないが、調査をお願いしたい」
「えっと‥‥この地図によると‥‥」
デュポンが印をつけてくれた地図を頼りに建物を探した。
「なぁ、前回の場所ってどこになるんだ?」
「さぁ、さっぱりわからん。つまり、繋がっている‥‥と言うわけではないんだな」
「そうみたいだ‥‥予想が外れたというべきだろうか」
「あ、でも。これで白衣を持ってきた意味がありますよっ」
そう、みな白衣に身を包んでいる。中には眼鏡も着用しているものも居り、研究者の一団にみえなくも無い。
「ん、煉威はどうしたんだ」
百瀬は一堂を見渡すと一人足りないことに気が付いた。
「煉威ちゃんはなにやら他に御用事ができましたのことですわ」
元々中の良いラピスが説明をする。
「そうか‥‥それでは行こうか」
用事なら仕方ないと建物の探索へと戻っていった。
建物は白い平屋だった。
施設の周りにはぐるりと塀が立てられ、上部には鉄線が回されている。
塀の中にある施設は窓があるものの、道路からは遠く中の様子は見ることが出来なさそうだった。
「見張りはっと‥‥」
あたりを見回してみる。
どうやら人はいないようだ。
「打ち捨てられた研究所‥‥そう考えるべきなのかな?」
「しかし、この異臭は何とかならんのかの」
ルフト・サンドマン(
ga7712)が思わず呟く。
そう、施設からは何やら異常なほどの臭いがした。
白衣の袖で鼻を覆うも、かなりの臭いである。
ラピスは顔をしかめつつ呟いた。
「それにしても酷い匂いですわ、まるで遺体が腐敗したような‥‥」
「そういえば‥‥ファイルには生肉を好むって書いてあったよな‥‥」
記実が思い出される。
「まさか‥‥ねぇ‥‥」
「まぁいい。誰もいないんだ、このまま乗り込もう」
施設内部には簡単に入れた。
入り口のところには警備用であろうカメラが有ったが寿が発見し、潰していった。
扉にカードキーを通す。
文字盤が複雑に光り、そして鈍い音とともに扉が開いた。
「やっぱりこれが‥‥」
刺したカードキーは前回使用した鍵だった。
中に入るとそこは広いエントランスとなっていた。
施設内の床、壁、天上がすべて白に染まっている。
「目がちかちかしそうだ‥‥」
まるで平衡感覚を失ってしまうような錯覚に陥る。
人の気配はしないどころか、床にはうっすらと埃が積もっていた。
「とりあえず‥‥二手に分かれて探索しよう」
香澄・源次・ルフト・ラピスの組(A)とシエラ・フルフレンド(
ga5622)・フィオナ・フレーバー(
gb0176)・ユーリの組(B)へ分かれ探索を始める。
「さて‥‥探索へと当たらせてもらおうか‥‥」
右と左に分かれ、探索が始まった。
両方とも同じ数、3部屋ずつ続いており、中央の奥には一つの扉が見受けられる。
Aは右側を、Bは左側を探索する事となった。
<A>
寿が慎重に内部の音を探る。
物音はしない。
「よし‥‥大丈夫そうだ」
その声を合図に先に百瀬がノブに手をかける。
鈍い音の後にゆっくりと扉が開かれる。
開くほうへと回っていたサンドマンは警戒態勢を忘れない。
薄暗い。
どうやらブラインドが下りているようだ。
ルフトは注意深く部屋内を覗き込む。
どうやら蠢くものはいないようである。
「よしOKだ」
身体を先に入れ、その隙間からラピスらが入り込んだ
そこに存在していたのは机と椅子、そしてロッカーだけである。
モニターが存在しており、画像は乱れているものがある。玄関での映像を写していたのだろう。ロッカーと思った物は捜査パネルであった。
「念のためだ、ここで出来る監視は全て切っておこう」
警報装置を含めカメラの捜査電力を落とす。
「ラピスですわ。シエラちゃん、こちら側の警報の類は全て切りましてよ」
「わかりました〜っ!」
「この部屋はもう良さそうだな‥‥」
2番目の部屋に入る、そこはどうやらロッカールームとなっていた。
鍵の掛けられているロッカーをこじ開けるも、中に入っているのは白衣や靴、着替えといった類のもので、他に怪しいような点は見受けれない。
3番目には所長室とのプレートが掲げられているのだが、少しだけ違和感を感じる。
扉に少し抵抗を感じたのだ。
慎重に開ける。
薄暗くなった部屋の正面に大きな机と立派な椅子が合った。
机の上には封書が一通。それ以外はいたって普通の所長室といえるだろう。
不自然に置かれたカップを除けば‥‥
カップを残して中身は蒸発した‥‥そのようなあとを残して
「‥‥他に気にかかるようなものは無いようだ。写真を撮って後はデュポンさんに任せよう」
<B>
こちらは4人構成を予定していたものの、3人へと変わっていた。
「‥‥頑張れ、俺‥‥」
ユーリはそう呟くと胸元に銃を構え、祈った。
「中は何もいないようです。あけますよ?」
「あ、待ってくださいっ」
フィオナが開け、ユーリが入ろうとするのをシエラは止めた。
「どうしたんだ?」
「こうするのですっ」
そういうとシエラは薄く開いたドアに持参したサンドウィッチを投げ入れた。
耳を済ませる。
「‥‥大丈夫のようですねっ。入りましょう!」
どうやら中に何者かが潜んでないのかを確認したらしい。
中に入ると、そこはどうやら応接室として使っていたのであろう。柔らかそうなソファーと小さなテーブルがある。
テーブルに置かれていた花瓶の中には、萎れ、枯れた花が無残な姿を晒していた。
「人が出入りしなくなって‥‥だいぶ経っているようですね」
埃のつもり具合を見てフィオナが呟いた。
「特にこの部屋の目ぼしい物はなさそうだな」
2番目の部屋に入るときもシエラは投げ入れる行動を繰り返した。
この部屋はどうやら給湯室のようだった。
ガスの元栓は締まっており、蛇口から水も零れ落ちてはいない。
換気口に蜘蛛の巣が張っている所を見ると、やはり使われなくなってから時間が経っているようだった。
何かを示すような類も無い。
3番目の部屋を見てみる。
様々な書物が並べられていた。どうやら図書室のようである。
軽く背表紙を見ると何やら薬物や生物に関する書物のようだ。
「これ、研究用の資料なのかしら」
「とりあえず‥‥変わったものが無いようであれば後はデュポンさんに調べてもらいましょうっ」
<中央>
各部屋を見回った後、再び中央のエントランスに集まった。
残りは奥にある扉、そこから繋がっている場所だけである。
扉は頑丈な金属で出来ており、カード式の電磁ロックがかかっているようであった。そしてそれは、先日の地下水路にあったのと同じ形。
「とりあえずセキュリティーに関しては切った‥‥」
寿が呟くと、フィオナが扉を検査し始めた。
「‥‥どうやら罠などはないようですね。普通にロックがかかっているだけのようです」
「ならコイツか‥‥」
取り出したカードキーを百瀬はリーダーに通す。そうすると付属していた電子板にPASSの入力を促す文が表示される。
PASS−−66
入力をする。
電磁板が光った後、金属音が聞こえた。
「よし‥‥行ってみよう」
扉をくぐると通路が左側へと延びている。周りを警戒しつつ、壁に沿って進むと丁度右手に部屋への扉が三つ並んでいた。
真ん中の部屋に続く扉だけ取っ手がない。
左右に別れ探索する。
<右>
寿のチェック後、ルフトが注意をしながら扉を開く。百瀬が反対側から警戒しながら中へ入る。
入るとそこには一台のモニター操作盤があった。
モニターには何やらかかれているものの、何を示しているのかわからない。
「とりあえず‥‥開錠に繋がるものがあるんだと思うのだが」
「連絡してみますわ。―― あ、シエラちゃん? そちらは何か有りまして?」
<左>
フィオナのチェックとシエラのサンドウィッチ投げを経て中に潜入する。
先頭はユーリだ。周囲に注意を払う。
中に入ると右側の部屋と同じ造りとなっていた。
三人はモニター画面を見つけるが、やはり不明だった。
電子音が鳴り響く。
慌ててシエラが出ると、相手はラピスだった。
「はい、どうしたんですか?―― ええ、はい。こちらもです」
互いの部屋の情報をやり取りしている中、他の者たちは少しでも手がかりをと部屋内を探索し始めた。
しばらくすると、寿が紙を一枚発見した。
「どうやら操作マニュアルらしいが‥‥」
どうやら左右の部屋で同時にボタンを押すようにかかれている。
「同時‥‥ですのね」
ラピスの言葉に頷きで返す。
「シエラちゃん。どうやら二部屋同時にボタンを押すそうですの。ええ、その画面の下部にある‥‥そう、赤いボタンですわ」
それでは‥‥と、二人は息を合わせる。
「「 3 ・ 2 ・ 1 ‥‥0 !」」
同時にスイッチが押された。
壁を伝わり、何やら金属音が聞こえる。
皆部屋から出、真中の部屋へと向かう。
扉が開いていた。
左右に開かれた扉を用心深げに潜ると、そこには広い空間が出来ている。
中心にかかれている不可思議な模様。
そして‥‥
「あれが‥‥」
思わず息を呑む。
そこにいたのはあまりにも毒々しい物体であった。。
赤く、真紅なまでに染まりあがった、半透明の物質。
「これが実験体β‥‥」
記述通りにいけばこれはあのファイルに書かれていたもので間違いないなさそうである。
「血の色そのまんまって‥‥ちょっと趣味が悪すぎるだろ」
そういいながら百瀬は武器を構えた。
次々と覚醒を始める。そんななか、
「ラピス‥‥悪いが写真を頼む。まずはわしが行こう」
ルフトが前へと飛び出し、盾を構えながら突き進んでいく。
その行動に気付いたのであろうβが身体の一部を変形させ、伸ばしてきた。
そこへすばやく射撃が入る。シエラだ。
「何が効くかわからないですからまずは分析ですっ♪」
そういうと、次々に伸びてくる触手に対し銃を替えつつ交代していく。
「これは効くのか?」
そういって百瀬がスパークマシンを作動させた。
βの行動が鈍る。
「ほう‥‥非物理攻撃が効くようだな」
しかし、βは液体をぶつけてきた。
酸だ。
ルフトが防御へと回り、盾で受け止める。
「ルフト! 大丈夫ですの!?」
「あぁ、大丈夫だラピス‥‥」
ユーリはルフトとは反対側で急所を探るかのように、触手を躱しつつ斧を振るっていた。寿により強化された斧が触手に触れるたび、赤い液体がほとばしる。
「くらいやがれ!」
その言葉とともに振り下ろされる斧。
赤い液体が硫黄のような腐臭を出していた。
「電波増幅しましたっ!」
フィオナの声でラピスとやはり電波増幅を使用した寿がβを囲うように立ち位置を変えた。
それぞれが超機械を構える。
「非物理攻撃が効くんなら、一気に浴びせてやろうじゃないか!」
寿が咆哮を上げる。
「援護しますっ」
シエラが3人のサイエンティストに触手が伸びぬよう牽制の弾丸を打ち込めて行く。
「よし! 今だ!」
百瀬がタイミングを計って合図を送った。
いっせいに超機械がβに向かって放たれた。
光が視界を奪う。
部屋中に満たされた光の中で、何かが無くなって行くのを感じた。
そして、それと同時に凄い異臭が部屋に充満し始める。
「い、いったん退却だ!」
ユーリの言葉で、はっとしたように部屋の外へと飛び出した。
ルフトは施設から資料を持ち出していた。
「ん? いや、なに。これだけは特に必要そうだったからな」
そう言って取り出したのは所長室にあった一通の封筒である。
「これが、一番大事に思えた」
デュポンが笑顔で受け取る。
「ありがとうございます」
そう言って封を開け、中身を確認する。
「これがファイルに記載されていた実験体βです。どうやら異臭はβの体液だったらしく、身を消滅させる寸前に部屋中を異臭で満たしたのでそのままの状態でいるんですが‥‥」
「大丈夫。毒ガス処理班にでも頼んで、後ほど探索を開始する」
そういうと、デュポンは報告書とともに写真を封筒へと入れた。
「今回の施設がUNOってことは、DOSとかTRESもあんの?」
その百瀬の言葉にデュポンは少し笑みを浮かべた。
「ああ、次調べてもらいたい施設はDOSというところだ」