●リプレイ本文
「この世界に血を吸って生きなければならないものが存在すると信じているか?」
Cerberus(
ga8178)は窓から月を見上げつつそう呟いた。
一同は移動可能範囲にある近隣の町に滞在していた。依頼人、カノン・ダンピールに現状を尋ねるためでもある。軽い挨拶を交わし、早速数枚の報告書を手元に報告と調査の打ち合わせを行なっていた。
報告自体、特に目新しいことはなかった。カノンは質問に対し自分ではまだ足を踏み入れてないことを述べ答えていった。
「そうですわね、大体判りましたわ。それでは‥‥明日の天候と月齢はどうなっているのでしょうか」
詳細について一番尋ねていたロジー・ビィ(
ga1031)がふと思い出したかのように訊ねてきた。
「え? ‥‥気象についてですか?」
とたんにカノンの表情が崩れた。
「ええ、だって月明かりのことを考慮に入れておきませんと夜の行動が難しいでしょ? 用意のことを考えると気になってしまいまして‥‥」
飄々として聞いてくるものの、瞳が笑っているのをアンドレアス・ラーセン(
ga6523)は気づいた。
「程々にしとけよ、ロジー。カノンが半泣きだ」
苦笑しつつ助け舟を出す。
「〜○×△☆」
アタフタしながらも自分の持ってきた資料の山からこの地方の新聞を取り出し、慌てて読み上げる。
「え、えっと‥‥明日は薄曇‥‥雨の心配はないようです。げ、月齢は‥‥9との事です!!」
瞳に潤いを持たせ、視線が落ち着かない。あがってしまった息を落ち着けるように深呼吸を繰り返す。
ふと頭に軽い衝撃を受け上を見るとCerberusが手を置いている。その視線を受けカノンは思わず呟いていた。
「‥‥護衛‥‥お願いします‥‥」
「今より護衛の依頼を受理した。地獄の番犬の名において、何人からもそちらを守ろう」
その言葉を聞き、Cerberusは真顔になって答える。サングラスに隠された瞳がロジー見て少し笑ったように見えた。
「ここが村長の日記にありました最後の移住者の家なのですね〜?」
シエラ・フルフレンド(
ga5622)が昨日の打ち合わせ時に日記より抜粋した内容と目の前の家を照らし合わせながら尋ねる。
「ええ、ここがその家とのことです」
カノンは端正な顔を少し曇らせて家を見つめる。
「それじゃぁ各チーム調査に入りましょう」
ラピスがそういうとプルナ(
ga8961)がこくこくと同意の相槌を打っている。
「ではさっそく!! レンイさんっ、いくですよ!!」
「お、おう」
裏側に周りこもうとシエラは煉威(
ga7589)を連れて走り出していた。
「んじゃ、俺達も行きますか」
少し後ろに控えていたシェスチ(
ga7729)が肩を解す様回しながら扉をくぐっていった。
<リビング>
ここの捜査はラピス・ヴェーラ(
ga8928)とプルナが行なっていた。
丹念にソファーをよけたり食器棚の奥まで顔を入れ、落ちているものはないか、また隠し扉が有ったりはしないかと確かめる。
「なかなか判りませんわね」
すでに居住者がこの家を後にして一ヶ月以上たつのだろう。
散り積もった埃が鼻腔をくすぐる。
「それにしても‥‥生活感がろくに感じない家だね。置くだけ置いてある‥‥そんな感じにしか見えないよ。この家具達」
「このテーブルの上に置いてあったクッキーの箱、口開いてましたけれども中の袋が開いてませんわ」
「それって‥‥食べようともしていないって事だよね」
「これは怪しいですわね」
<寝室>
ここの捜査はアンドレアスとロジーが行なっていた。
「んー。寝室って一番物を隠しておきそうなんですけど」
ロジーが丹念に布団を引っ剥がしたりベッドの下に潜ったりし始める。
アンドレアスも寝室の隣に有った小さな部屋をくまなく探索していく。
「なんか、こう‥‥いまいち使いました感ないんだよなぁ‥‥」
積み上げられた書籍に関しても、どうも使用した後がない‥‥紙の折り型や、擦れた手垢などが確認できないのだ。
「ええ、このベッドもですの。シーツ‥‥これ卸したてですわ」
「ああ、こっちも買われた本がそのまんま‥‥ジャンルにも統一性がない」
「怪しいですわね‥‥」
「ああ、マジで怪しい」
<家外>
ここの捜査はシエラと煉威が行なっていた。
「えっと、こちらを持っていてくださいね」
そう煉威に渡されたのはメジャーの端。渡すとシエラは勢い良く走り出す。くるっと家を一周して戻ってくると、その数値をメモし、今度は中へと乗り込んでいく。
「今度は中も計るのです!」
家の中は、たくさんの扉があると言うのに、だ。
煉威はそんなシエラを見つつ裏庭や畑の辺りを調べていた。
「それにしても‥‥畑なんて形だけじゃねぇか、ここ」
土を触ってみるも耕された形跡すらなく、何の作物も作られていないことが判る。
いくら1ヶ月以上前にいなくなったとしても、だ。
「明らかにこれ、農民の家じゃないぞ」
裏庭と言ってもただ草が生えているだけ、しかも花すら植わっていない。
「計り終わったです〜そちらはどうですか?」
外壁と内壁を計算しつつ、戻ってきたシエラが尋ねる。
「この家、おかしすぎ。まじ住んでたのか? ここに」
「えっと‥‥周辺探知も行なって見ましたけど‥‥違和感はあるんですよね‥‥」
「違和感?」
「ええ、反応が、下から来るんです」
「望むものが見つかれば良いね‥‥」
家の中に入ったものの特定の場所を探索せず、シェスチとCerberusはカノンに付き添っていた。
「‥‥で、貴様はどこを探す? カノン」
そう聞くとカノンは台所に入っていきある一角を指差した。
「あそこ‥‥きっと隠し階段、ありますよ」
「なに?」
シェスチはカノンが指差した箇所を調べ始める。
「‥‥こういう場所を好んでるはずなんです」
「あ‥‥この板、外れる‥‥」
「よし、俺が開けてやろう、ナイフ貸してくれ」
シェスチの探り出した一箇所に万能ナイフを当て、Cerberusは軽く叩き、板を浮かせた。そして、その隙間に自らのヴィアを滑り込ませ、梃子の原理で上へと跳ね上げる。
「おい、部屋が見つかったぜ‥‥」
隠された扉に懐中電灯をあて、中の様子を窺う横で全員への召集を呼びかけた。
<地下室>
そこは明かりがなく、積もった埃に湿気が混じり、淀んだ空気を醸し出していた。
「うわ‥‥まさか本当に上がカモフラージュだったなんて‥‥」
捜索していた家の中とは違い、ここにはありとあらゆるものが生活感を出している。食べかけの食物に使いっぱなしの本、そして脱ぎ捨てられた服‥‥
そこから推測できるのは最低でも2人ここに身を潜めていたと言うことであろう。
「それにしても‥‥汚いですわ。これでは何も出来ないではないですの」
踏む場所すらないくらいに積まれた書籍となにやら怪しげな蝋燭の群が一角にある。
「でも、村長さんの日記には移住者は一人‥‥しかも女の方ですけど‥‥」
「これ、男物しかないよな‥‥」
「どうなってるんだ?」
脱ぎっ放しの服や靴などから男‥‥しかも体格は結構良さそうである事が推測された。
「おい、この並べ方なんだよッ」
「んー‥‥召喚陣でしょうか‥‥ここら辺の書物もそういった類の物が中心ですけれども」
「おいおい‥‥ただでさえ普通じゃなさそうなのに、ここで今度は召喚陣だと?」
「このノート‥‥調べてみた方が良さそうだよ」
「カノン‥‥探し物はこれだったの?」
「‥‥いいえ」
「ないか‥‥次いくか」
次の探索に別れる前にと、シエラが用意してきた軽食をとることとした。昼前に始まった探索はすっかり時間を経たせ、すでにおやつの時間‥‥そんな時刻だったのだろう。
「みなさん、少し休憩を挟みませんか〜っ?」
そう言って用意されたサンドイッチと紅茶はほんの一時の至福を与えてくれるには充分に事が足りた。
そんな中、ロジーはカノンに色々と質問を浴びせていた。
「ロジー‥‥あまり弄るな。女性恐怖症になられると、今後困る」
Cerberusがカノンを抱えるようにロジーを牽制する。
「このおねーさん怖くねぇぞ。ちょっとマイペースなだけだ」
「ええ。とても優しい方ですわよ」
アンドレアスとラピスがすかさずフォローを入れる。
「酷いですわ。あたしはただ交友を」
「ご、ごめんなさい‥‥僕の姉に似ていたので‥‥」
「どこがですの?」
そっと視線をそらすカノン。
「まぁまぁ、それじゃ悪気がないのは判ってくれるな?」
「あ‥‥それはもちろんです。ただ‥‥」
何かを思い出したようにカノンの顔色が変わる。
「‥‥姉さん、そんなに凄いのか‥‥」
ただ頷くしかカノンには出来なかった。
「そろそろ暗いかもですっ♪」
シエラがランタンの灯りを点けると、ぼんやりと周囲の様子が浮かびだす。
一同は再び分かれて探索を進めていた。シエラ・煉威・ラピス・プルナは今回の事件の鍵となりそうな死体の捜査へと礼拝所へと来ていた。
ただでさえ薄暗く、静かな場所であるため日が傾いてきた現在、室内は手元を照らさなければ見るのが危ぶまれるほどである。
「それでは‥‥私は検死に入りたいと思います」
医師としても活躍するラピスが伝えると、みなそっと手を合わせる。
『ご冥福をお祈りいたします‥‥』
そういうと検死が始まった。
死体は安置されています‥‥その言葉どおり、奥の部屋に綺麗に並べられている。数はざっと30弱というところであろう。さっと見た限りだとどの屍骸にも共通点が見受けられた。それは報告書にあったものと同じ、血の気がない‥‥である。実際検死に当たっては血抜きをしてから施されるため、ラピスにとっては見慣れたものである。でも、今まで扱ってきたものとは決定的に違うものが合った。
「これは‥‥何の痕ですの?」
どの身体にも無数の小さな痕が見受けられるのだ。規模的に言えばほんの小さくまるで針を刺したかのようなものである。死体は洗っておらず、そこから血が抜け出たのは事実である。
「まさか‥‥今回の血抜きはこの無数の傷からですの?」
干からびた皮膚が骨に纏わり付くように縮れている。
その時だった‥‥
「ラピちゃん! 危ない!!」
プルナの声が響く。
その声に振り返るものの、腕や足に小さな衝撃が襲い掛かった。
「っ!!」
「ラピちゃん!」
目の前にゼロの閃光が描く。ラピスから流れ出る血を見つめプルナが苦々しく呟く。
「こいつ‥‥キメラだ‥‥」
一方カノンを始めとしてCerberus・シェスチ・ロジー・アンドレアスは事件発覚の発端となった樹を目指していた。
「さて、こういう街を歩くのならこうした方が明るい」
そういうとCerberusは足元にあった木の枝に包帯を巻きつけ、ウォッカを掛けると火をつけた。なるほどとロジーも同様にしスブロフをかけ、火をつける。
「確かに‥‥しかも肌寒くなくちょうどいい感じですわ」
村の外れに差し掛かろうとしたとき、その樹はあった。
「あの樹は‥‥胡桃かしら?」
枝や色を見つつロジーが呟く。
「おい、足元気をつけろ」
そういわれて足元を見ると、たくさんの枯葉が一面を覆っていた。深く降り積もっているらしく、ずいぶんたくさんの量である。
「本当に‥‥不思議、ですのね」
そういって枯葉を搾取しようとした時だった。
「っつ!!」
ロジーは軽く指に違和感を覚える。
「これ、キメラですわ!!」
それは奇しくも別の場所での同時発生だった。
墓地に現れたキメラの数は、死体の隙間から発生するように溢れ出てきた。
「これ、限がないんじゃ!」
次々出て来るそれはとても小さく、まるで見た目は蝶のようである。
「あちらも今応戦中との事です〜」
シエラが無線機で連絡を取りつつ銃を構える。
「私は大丈夫ですわ。援護、回ります」
先ほど受けた傷に止血を施し、ラピスはプルナに強化を施し始める。
「ラピちゃん、ごめんね‥‥ボクが付いていたのに‥‥」
「いいえ、大丈夫ですわ。ほんのかすり傷ですもの」
「おい、大丈夫かッ!!」
入り口の方で見張っていた煉威が駆けつけ、あまりにも多すぎるキメラの数に顔を歪める。
ラピス自身に巻かれた白い包帯が眼に入り‥‥目が金色へと変わった。
「こっちへ走れッ!!」
まだ死体の近くに留まっていた二人に叫ぶと、瓶を宙へと放った。
狙いを定め、地面へと着く瞬間に彼は打ち抜いた!!
「‥‥赤い清めの炎よ、哀しみを打ち消す軌跡となれ!」
「今回は二つの爪を持つ。ただ守るだけでなく攻めれるようにな」
Cerberusはヴィアを構える。
「背中は僕が‥‥枯葉一枚‥‥近づかせない‥‥」
カノンを挟むようにシェスチが立ち、枯葉にしか見えないキメラに銃を放つ。
鈍い音ともに、一帯から舞い上がる枯葉の群。
「枯葉を擬態に?」
「おいおい、マジかよ‥‥こいつぁまるで‥‥」
ロジーの手当てをしつつアンドレアスは溜息をついた。
「行きますわ‥‥」
紫へと変化した瞳が枯葉を射貫く。静かな呼吸とともに月詠の輝きがいっそう増す。
次の瞬間、月詠が鳴いた。打ち落とされるキメラはまるで木の葉のように舞い、落ちる。
ロジーが先頭をきって走りこみ、こぼれて向かってくるキメラをシェスチ、Cerberusが迎え撃つ。その間にアンドレアスが練成、そんな連携プレイが始まってしばらくしたころ、
「ロジー! 連絡だ! 炎が効くとよ!」
「‥‥わかりました!」
墓地組から連絡を受けたアンドレアスが先の戦いにおいて炎が効いたことを告げる。
「カノン君!」
「は、はい!!」
戦闘に入るにあたり預かっていた松明をロジーへと返す。
「こういうのは‥‥投げるんですの!!」
空高く放り投げられた松明は綺麗な放物線を描き、枯葉の‥‥樹の根元へと到達した。
次の瞬間一気に燃え広がる。
「‥‥芋がない‥‥」
燃えながら襲い掛かるキメラを見て、カノンが呟いた。
「で‥‥結局枯葉がキメラだったと言うわけですか」
唸りつつプルナはつぶやいた。
「はい、そしてキメラの攻撃での出血、そして大量失血が死因となりますね」
検死を担当したラピスが頷く。
「‥‥小さな傷‥‥いっぱいついた」
シェスチの腕には蚊に食われたような痕が。
「樹、焦げちゃったけど‥‥あれは朽ち果てていたって事よね?」
ロジーが小首をかしげていた。
「だな‥‥単にキメラの巣になっていた。しかし、キメラが枯葉に擬態していたため朽ちたように見えなかったというわけだッ」
煉威は銃をクルクルと回転させつつ噛み締めるように言った。
「そして‥‥誰もいなくなった‥‥か」
アンドレアスが思い出し、呟く。
「この村もまた、キメラの被害に合った村‥‥そういうことですのね」
シエラは悲しそうに樹の有った場所を見つめている。
「まだまだ知られていない実態があるかもしれない‥‥今後こういう村の存在が明らかになってくるのかもしれないな‥‥」
Cerberusのその言葉に一同は深いため息をついた。
「‥‥そして、僕の探し物もまた‥‥闇の中に‥‥」
そう呟く言葉は果たして誰かの耳に入ったのか‥‥