タイトル:【ODNK】酒呑山攻防戦1マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/07 18:10

●オープニング本文


 アラームがけたたましく鳴り響いている。
 熊本基地のメインモニター、北熊本から福岡を映し出しているその上に、あちこちに赤いマークが明滅していた。
「バグア軍の大部隊、熊本へ向かって南進中、待機中の傭兵はただちに迎撃に向かって下さい――」
「大分方面から転進したバグア軍、熊本へ向かって移動中。迎撃部隊、熊本への侵入に対処して下さい」
「バグア軍主力の予想進路は広域筑後圏、敵の攻撃目標は熊本方面と思われます。全部隊にスクランブルが掛かっています。待機中の傭兵はこれを迎撃、バグア軍主力を福岡方面へ撃退せよ――」
 オペレータたちが慌ただしくコンソールを叩きながら傭兵たちを送りだしていく。
 バグア軍はまだ力を残している。その戦力は今、まさにトールハンマーとなって熊本へ向かって振り下ろされようとしていた。


「あちらさんも足掻くな」
 村上顕家が言った。福岡と熊本の県境にバグア軍が終結しているらしい。そこは大分県とも接しており、そして大分軍が撤退させた旧大分バグア軍の残党達も含まれているようだった。どうやら旧大分バグア軍は一度福岡の、うきは市まで撤退した後、南へと舵を切ったらしかった。
「元々俺達が相手していた連中だ。俺達が叩き潰すべきだろう?」
 別府基地司令日向冬治准将はそう述べて大分県境の防備を固めると独立混成旅団長を務める村上顕家准将に追撃の令を出した。
 村上旅団はこれを受諾し、傷も癒え切らぬまま補給と再編成を終えると大分と福岡の県境の猿駆山、竹原峠を目指した。強行軍であったがしかし村上旅団が入るそれよりも速く敵方は竹原峠を突破し大分、福岡、熊本の三県と接する酒呑童子山一帯を抑えてしまったようだった。
「辻を抑えられたな、一足遅かったか」
 指揮車両の中で村上がぼへっと紫煙を吐きながら言う。准将になっても相変わらずの調子だ。
「閣下、どうなされますか」
 参謀長として新たについた大佐の遠藤正道が言った。
「こっちは国東で無茶やったからなァ。割とガタがきている。今は無理は出来ない。少なくともKV隊の頭数が回復するまではな。腰を据えてじっくりとやるとしよう」
 村上が煙草を携帯灰皿に押しつけながら言う。彼が煙草を口から離した時が、旅団が戦闘に入る時だと半ば魔術めいた噂があった。村上は旅団が交戦している時は煙草は吸わないからだ。
「じっくり‥‥ですか、その間に熊本が破られたらなんとします?」
「俺達だけじゃ広い戦にゃ勝てねぇよ。限界がある。今がそれだ。福岡攻めも熊本の防衛も同時には出来ないし休まなけりゃならん時もある。それで負けたらそん時はそん時だぁナ。だが熊本の連中だって福岡が陥落した事で後がねぇ、死ぬ気の勢いだろ、簡単には負けんよ――‥‥多分な。で、こっちがガタが来ている、大分は既に平定されている、となりゃ、俺達としてはここは焦る場面じゃねェ。道に築城して固め、山岳を盾とし、対空対地の砲を並べ、どっしり構えて横から圧力かけてりゃ良い」
「‥‥今は我慢、ですか」
「まぁ嫌がらせくらいは出すがな。不破に仕掛けさせろ」
「はっ」


 別府基地ブリーフィングルーム。
「今回は簡単に言えば削り、だな」
 村上旅団のKV大隊を率いる少佐、不破真治はそう言った。
「387道の西に敵はあり、村上旅団は阿弥陀杉付近に陣を敷き防備を固めている。味方の対空砲火がしっかりしているから、敵をそこまで引きこんで戦えれば、著しく有利だろう。だが、まぁそこまで入ってはこないだろうな。逆を言うと余力を残しつつ自軍領域まで後退すれば敵を振り切れる、という事だな。しかしこちらの空戦隊が撃ち減らされていれば、破る好機と見て一気に突っ込んで来るだろう。だから撤退は余力を残してやらなければならん」
 モニタに映る図を銀の指し棒で指しながら不破。
「無論、敵も対空砲を揃えていて、その砲火は強力だ。故に地上から攻めたい所だが、地上を往けば当然HWが飛んで来る。空から撃たれると対空装備が無い場合地上は不利だからな、地上から攻めるにはHWを牽制したい所で、やはり空の戦力が必要となる。しっかりとした対空砲は動きが遅いからな。で、だ」
 図を切り替えながら不破が言う。
「定石でやるなら、空陸同時に攻める訳だが、敵も当然それを読んでるだろう。奥に入れば入る程、熾烈な反撃が予想される。そこで今回は地上から敵の対空砲に的を絞る――と見せかけてHWに的を絞る。地上はブラフだ。目的はこちらの損害を極力抑えつつ防空戦力を削れるだけ削る事にある」
 モニタには予想される敵の戦力とその射程が記されていた。
「地上が突き進めば敵は地上に攻撃を集中させるだろう。対空砲がここだと生命線だからな。地上部隊は囮として機能する。空戦隊は対空砲の射程に入らない範囲から、囮を狙うHWを狙撃して撃破してもらいたい。囮は俺と相良軍曹でやる。簡単にはやられないつもりだが、あちらも数が多いからな。可能なら何機か参加してもらいたい。が、地上の囮に参加する者は絶対に撃破されない自信がある者だけにもしてもらいたい。撃破されたら拾いには戻れんからな。次に集中攻撃を受けたら撃破される、という段階までいったらその者は撤退に移る事。囮部隊が堪え切れなくなったら、また確率は低そうだが空の被害が多大になったら総撤退だな。敵の陸上ワーム隊が接近しても総撤退だ。とりあえず、そんな所だな」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

 別府基地、ブリーフィングルーム。
「少佐、提案があります」
 鹿嶋 悠(gb1333)が言った。
「なんだろうか」
「囮と言う事を簡単に看破されないようにただ前に出たり下がったりするだけではなく、相良機の主砲の最大射程に対空砲が入り次第砲撃してはどうでしょうか。一から二回程度攻撃し、打撃部隊に見せかけその後は対空戦に専念、と」
 鹿嶋の言葉に不破は頷き、
「うむ、初手からそれは採用し難い」
「‥‥何故です?」
「間合いと射程の問題だ。囮が前に出ればそれを狙うHWはその分だけ前進しないで囮を攻撃する。そのHWを空戦隊は狙う訳だが、こちらも合わせて前へという事が出来ない。対空砲は動かないからな。長射程の武器を持っていないと空は攻撃出来なくなる。後は撤退する際の危険度の問題だな。進む時は良い。問題は背中から撃たれる時だ。深く入れば入る分だけ後ろから撃たれる時間が長くなる」
「なるほど‥‥」
「だが、鹿嶋の言う事はもっともだ。通常ならそれが必要だ。無視されれば意味が無いからな。囮に価値を持たせる必要がある。今回は敵は対空砲が生命線故に囮を疑っていても近づくだけで撃たざるをえないだろうとは思うんだが‥‥確実ではない。所詮『浅い所でも撃って来てくれるだろう』というのはこちらの希望観測に基づいている訳だからな」
「なら、それだけで進めるのはあまり良くないぜ。敵がこなければユウの作戦通りに前進して叩いて、叩く必要が無かったら七五〇か六〇あたりで航空支援を待つ振りでもしてれば良いんじゃないか?」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)が言った。
「そうだな‥‥‥‥前進する場合、空はどうする?」
「20m未満には対空砲は撃てないんですよね? 届かない場合は超低高度侵入からの変形攻撃か、最悪、対空砲の射程内に踏み込んでの一撃離脱でどうでしょう」
 それには井出 一真(ga6977)が言った。
「HWとはいえ、数がまとまるとかなりのものです。以前、六機のHWに囲まれて痛い目を見ました。油断は禁物です。ですが、圧倒出来た場合は攻めるべきでしょう。その場合も砲へと超低高度から侵入して攻撃を仕掛けてはどうでしょう?」
「うむ‥‥」
 男達の言葉に少佐はしばし考えると、
「よし、基本はリーゲンの言った方針でゆく。砲との距離七五〇の地点までにあちらが撃ってくれるならそれより前には進まない。だが敵が囮に攻撃しない、若しくは途中で引き返そうとした場合は鹿嶋の案に切り替える。そして圧倒出来るようなら井出の意見を採って砲へと低空突撃し、これへも損害を与える。それぞれをプランA、B、Cとする。作戦中に切り替える可能性があるので留意しておいてくれ、以上だ」
 そう言ったのだった。


 出撃前。
(「村上旅団、か。歩兵じゃちょこっと参加したが‥‥今度は九州解放の為に、力になれりゃ良いけどな」)
 アレックス(gb3735)はそんな事を思いつつハンガーを急ぐ。
「そういえば‥‥直接会うのは初めてですね‥‥」
 同様に駆ける終夜・無月(ga3084)は並走する相良裕子へとそう声をかけた。
「玲やチェラルとはよく逢うのですが‥‥何故か逢いそびれてましたから‥‥」
 そう言って苦笑し自己紹介する。
「俺の名は終夜・無月‥‥少佐同様宜しくですよ‥‥」
「ああ、月狼の隊長さんだよね。相良は裕子と申します。無月さんは、玲ちゃんとチェラルちゃんのお友達なんだね。よろしくなんだよ」
 相良は微笑してそう言った。
「渾名の意味‥‥見せて頂きますね‥‥」
「‥‥御免なさい、敵破壊の事なら、ご期待には沿えないかも‥‥」
 今回は囮なので攻撃よりも防御重視でいくようである。
「そうですか‥‥そうですね‥‥俺も‥‥役目を果させて頂きますから‥‥」
「うん、よろしくお願いしますなんだよ」
 他方、
「福岡奪還の端緒となるべき戦いか‥‥精々俺達をこき使ってくれよ、少佐殿」
 榊 兵衛(ga0388)は不破真治へと言っていた。
「こういう時の為に一騎当千の強者達がここに集まったんだ。俺も一廉の傭兵として最善を尽くさせて貰うからな」
「うむ、当てにさせてもらっている。頼んだぞ。上から一気にやってくれ」
「任せておけ」
 十機のKVが別府基地より西の空へと飛び立ち、地上の旅団を支援すべく酒呑山一帯のバグア陣へと向かった。


 敵味方が睨み合う戦線、陸に降りた四機が前進するとすぐにHWが飛来する。
「来た‥‥!」
 空を舞うF‐196‐破敵のコクピット内、蒼空に赤く輝く無数の光を見据えて不破 霞(gb8820)が呟いた。夥しい数だ。
「大分を解放したとは言え、相変わらず北九州戦線は予断を許しませんな」
 F‐108改を駆る飯島 修司(ga7951)が言った。一局地戦に五十機近くのHWが飛来するのは相変わらずではある。しかし、
(「これを五十秒以内に殲滅させるくらいの意気込みで掛かりませんと、ね」)
 こういう有象無象どもの方が、飯島個人としては率先して潰したい。その理由、戦時下では比較的良くある話です、と壮年の男は言った。
「恨み、ですな。それも女絡みの、ね」
 以前尋ねられた時に、飯島はそう呟いていた。
「嫌がらせ、と簡単に言ってくれたが‥‥油断の出来る状況でも無いな、これは」
 Mk.4D改‐リアノンのコクピット内でアッシュが無線に言った。男はニッと笑うと、
「しかし自分は村上准将の御命令とあらば、粉骨砕身の決意を以て任務を成し遂げて見せます! と言うべきかな、なぁ不破少佐?」
 そうおどけた口調で言ってみせる。
「そんな事言ってると、能力があればあるほどホントに砕け散る勢いの任務押しつけてくるぞあの人。生き証人はそこのエースだ」
「死にかけるのがお仕事です、なんだよ」
 割と半ば洒落になってない。
「やれやれ、それはヘヴィだな」
 アッシュは苦笑したが、実際の所、KVでは獅子座と相対した時に醜態を晒したと考えていた。故に、元より全身全霊を傾けるつもりではあった。
「狩るつもりが深追いして狩り返されないように気をつけるとしようか。行くぞ!」
 不破霞が言って空戦隊もまた加速する。真治の方から「交戦を許可する」との報が全機に入った。
 地上、山岳の狭間の街道を駆ける四機は鹿嶋機を先頭に砲までの距離八〇〇まで前進。そこへ攻撃を仕掛けんと四八機のHWが迫る。
 鹿嶋、目視と各センサー情報から対空・対地警戒、自軍と敵との位置関係、動きから考察し、次の動きを予想する。
(「大分では肝心な時に力になれませんでしたからね‥‥名誉挽回と行かせて貰いますか」)
 鹿嶋の基本方針は攻撃重視、無視できる程度の攻撃は無視する事とする。
「砲撃を開始します」
 相対距離四〇〇、クァルテットのチェーンガンを空へと向け猛烈な勢いで射撃を開始する。激震と共にマズルファイアが連続して瞬き、一千六百発の弾丸が嵐となってHWへと襲いかかる。対空用の弾幕は瞬く間にHWを蜂の巣にして粉砕し次の瞬間、超爆発を巻き起こさせた。撃破。良い破壊力だ。
 相対距離六〇〇、空。白のKV、XF‐08B‐白皇・月牙極式を駆る終夜、HWの群れのうち五機をマルチロックオン、
「Alpha1、FOX‐3!」
 無線に発射コードを発し発射ボタンを親指で押し込む。白皇から煙と炎を吹いて五百発もの誘導弾が空を切り裂きHWへと襲いかかってゆく。K‐02誘導弾だ。
「Alpha2、FOX!」
 飯島機もまたブースト及びPFを発動し終夜機とタイミングを合わせて撃ち放つ。終夜機と飯島機から解き放たれた総計七百五十発の小型誘導弾は途中で五方へと別れ、そして回避せんとする五機のHWへ次々に喰らいついた。壮絶な超爆発が連続して巻き起こり、一際巨大な超爆発が五連続で巻き起こって五機のHWが木っ端に散ってゆく。爆散、消し飛ばした。撃破。
「地上で戦う4人に大怪我負わせる訳にはいかないのでな。悪いが、俺達の攻撃の餌食となって貰うぞ!」
 XF‐08D改2‐忠勝を駆る榊、同様にHWの五機へとロックを合わせる。ボタンを叩き押しK‐02誘導弾を連射、五百発の小型誘導弾が次々に撃ち放たれ空を駆けてゆく。誘導弾が全弾直撃して猛烈な爆裂を巻き起こした。
「Beta2、FOX!」
 井出機、爆炎を抜けて来たHW五機へと狙いを定めてロックオン、こちらも追撃の五百発の小型誘導弾を撃ち放つ。再び爆炎の華が咲き乱れ、追撃を受けた五機のHWが超爆発を巻き起こして四散した。五機撃破。
 終夜、さらに素早くガンサイトを回す。敵の動きを見通している。一瞬の判断。指揮官、いない。見た所は、この動きは高確率で全てAIだ。レーザーライフルを発射、リロードしつつ連射。凶悪な二連の閃光がHWを貫いて消し飛ばす。爆裂、撃破。
「釣りは嫌いでは無いが‥‥エサが自分の命となると中々楽しめる機会は無いだろうな」
 地上、覚醒しているアッシュ・リーゲン、赤く染まり残骸を周辺へと撒き散らす空を見上げながら淡々と呟く。防御・回避を重視した構えでアリスシステムを起動している。肩部の砲身を空へと向け赤輝へと向けて一射。光線が宙を奔り、HWは素早くスライドして回避。直後に相良機からの二連の対空砲弾が突き刺さり、不破機が同様にエニセイで追撃の一撃を放って爆砕した。
(「‥‥対空兵器でないと厳しいか?」)
 アッシュ、胸中で呟く。地上から空を狙うのは通常兵器だと困難だ。まぁ注意を惹ければ良い。火力は余りある編成だ。
 飯島機はさらに対空砲の射程外をベクタードスラストでスライドしつつHWが四〇〇まで入って来るのを待つと残りの二五〇発のK‐02誘導弾を撃ち放ち爆裂を巻き起こす。標的を変更しながらエニセイ対空砲を六連射して、うち五機を爆裂と共に粉砕した。F‐108、赤い悪魔だ。
 距離四百、井出機、HWの一機へと狙いを定め機銃を猛射。弾丸の嵐を浴びせ猛烈な勢いで蜂の巣にしてゆく。剣翼、対空砲の射程に入る。蒼翼号はロールすると旋回して距離を取る。
 ロッテを組む榊機、井出が猛射したHWをロックサイトに合わせ誘導弾を二連射する。音速を超えて放たれたミサイルがHWへと喰らいつき大爆発を巻き起こして消し飛ばした。撃破。
「エースにゃ遠く及ばないけど、俺だってやれる所を見せてやる!」
 GFA‐01S‐カストルに搭乗するアレックスが息まいて言った。回りがちょっと化物揃い過ぎるが、こちらも良い機体だ。
「地上班、かわされた場合の着弾予測を回す。当たらないよう注意を頼む」
 ロッテを組む不破霞機、相対距離三〇〇、HWの一機へを狙い面を制圧せんと三十発のポッドミサイルを撃ち放つ。ばらまかれた誘導弾がHWへと向かい、うち十発が炸裂して爆発を巻き起こした。
「攻撃を開始する!」
 アレックス、霞機が巻き起こした爆発にHWの態勢が揺らいだ所を狙い、誘導弾を発射する。三連射。吹き上げる炎と共に煙を引いてミサイルが飛び、次々に炸裂して痛烈な爆裂を巻き起こした。HWが漏電と爆発と共に煙を吹き上げながら落下してゆく。撃墜。
 HW、残り二十八機、既に二十機落している。色々ありえん殲滅力。
 うち十五機が低空に入って鹿嶋機へと一機二発、計三十連の光を降り注がせ、三機が相良機へ、同様に三機が不破機へ、二機がアッシュ機へと仕掛けた。
 鹿嶋機、視界を埋め尽くす紅の光の嵐に対し魔剣を掲げてガードする。十発の光が剣に当たって吹き散らされ、その間を縫って次々に帝虎へとプロトン砲が炸裂してゆく。損傷率六分、鹿嶋機、非常に頑強な造りだ。一発一発の損傷は限り無く零に近い。
 相良機は回避、不破機は盾でガード、アッシュ機は素早く飛び退いて四連の光線をかわした。
 HWが地上へと猛射しKVが空陸から射撃する。夥しい量の光と弾丸が交差する。
 飯島機、エニセイをリロードしつつ連射、終夜もそれとターゲットを合わせ、レーザーライフルで光線を飛ばす。二機はほぼ同時に一射づつをそれぞれ叩き込み、次々に撃破してゆく。かつて地球の半ば以上を制圧したHWが、赤と白のKVを前に蚊トンボのように堕ちてゆく。七機撃墜。
 鋼鉄の獣が両翼から白煙を引き、瞬く炎の咆哮をあげてHWへと襲いかかる。井出機から猛射された四十発の徹甲弾がHWを蜂の巣にして粉砕した。撃墜。
 榊機、あわよくばHWを味方の対空範囲に引きこみたく思ったが、この勢いの敵を相手に前に出るプログラムは無いだろう。旋回すると一機をロックオンし誘導弾を四連射。次々に直撃させて爆裂と共に消し飛ばす。撃墜。
 HW達は地上へと光線を四連で猛射していた。鹿嶋機は六十発の光線に呑まれつつも装甲を信頼して無視、マルコキアスに当たらぬようにのみ注意を払いつつ、それを空へと向けた。一六〇〇発の弾丸を猛連射してHWの一機を爆砕。高低差の不利をものともせずに撃破する。帝虎の損傷率は二割五分。まだまだいける。
 相良、不破、アッシュの三機は防御重視でHWの攻撃を回避しつつ反撃を集中させて一機を撃墜。
 アレックス、多くの敵に囲まれないよう、と思っていたが敵も対空砲に撃たれるのは嫌なのか踏み込んでこない。
「どんどんいくぞ!」
 僚機の霞に向かって言いつつ、アクチュエータを継続発動、ジェット噴射ノズル核を操作して強引に横滑りさせて機首をまわす。HWの軌道を読んでロックすると三連の誘導弾を撃ち放った。ミサイルが鋭く飛んで爆裂を巻き起こしHWの装甲を吹き飛ばしてゆく。
「任せろ!」
 不破霞機はアサルトフォーミュラAを発動、エネルギー出力を増し敵機の未来軌道を予測しターゲットを合わせるとAAMを猛射する。逃れんと慣性制御で翻るHWへとミサイルが喰らいついて三連の爆裂を巻き起こした。追撃を受けたHWは木っ端に爆ぜながら大地へと落下してゆく。撃破。残り十六機。
「いけるな。こちらウォーヘッド、プラン変更、Cだ。殲滅までもってゆく。全機、低空突撃! 続けッ!!」
 少佐の不破が言って、ブーストを点火し加速してゆく。どうやら全力攻撃に出るようだった。


 旅団、司令部。
「閣下、不破少佐から報告です」
 通信を受け取って兵士が言った。
「血相変えて、何かあったか?」
「『HWを削ろうと思っていたら気づいたらHWとゴーレムが全滅していた』そうです。なお自隊の大破は零、指示を請う、との事」
「‥‥解った。そのままそのラインで踏ん張ってろと伝えろ」
「はっ!」
「遠藤、各連隊に連絡、総攻めだ。陣を一つ落とすぞ」
「了解」
 通信が飛び交い、六千の兵が動き出してゆく。
「‥‥しかし、これ基準に考えちゃいけねぇよなぁ」
 村上顕家はなんともつかぬ表情で頭を掻きながらそんな事を呟いたのだった。


 かくて、傭兵隊の大活躍により突破口を見出した村上旅団は方針を即座に変更して切り込み、陣を一つ奪って敵師団を後退させたのだった。
 呑天童子山周辺の攻防は一気にUPC軍にイニシアチヴが移る事になる。


 了