●オープニング本文
前回のリプレイを見る 黄塵吹き荒ぶ荒野の果ての果て、ユーラシア大陸がインドの戦場。
ヒマットナガルを陥落させ周辺を平定し後方を固めたバーブル師団は、準備を整えるとカーティヤワール半島解放を掲げ、グジャラート州バーオナガルへと向けて進撃を開始した。
カーティヤワール半島の大半はバグアの支配下にあり、UPCインド軍と戦線を広い範囲で展開して日夜対峙を続けている。二万を数えるバーブル師団はその戦線を増強する形で向かう事になる。
アフマダーバードを後方の支えに南下、戦線を押しこむのが目標だ。バーブル師団隷下のバドルディーン歩兵連隊隷下のアブトマート大隊隷下のディアドラ中隊もこの戦線の一部を担って前進し、バグアの軍勢と対峙した。
UPC軍とバグア軍が荒野を前進してゆく。両軍合わせて多数の自走砲と戦車が撃ちあい、砲弾が突き刺さって爆炎と共に大地を爆砕し、あるいは人と車両を消し飛ばしてゆく。
轟音と共に砲火が吹き荒れる中、万のキメラの群れが幾つかの集団に別れ津波の如く突撃を開始したのが確認され、それを迎え撃つべく能力者達も幾つかの隊に別れて移動してゆく。その基本は横隊だ。砲兵中隊長ランバートはその様を見てまるで旧時代に逆戻りしたかのようだと思った。だが非能力者達の戦いならともかく、能力者とキメラに対しては非SES兵器では頑強な彼等に対してはジャミングの影響で命中力も火力そのものもまるで足りず、雪崩れ込まれて撃破される。ならばSES兵器でとなると射程が短いので撃ち倒す前にやはり雪崩れ込まれる。剣の時代、という程ではないが、一昔前のアウトレンジ戦闘から一転して白兵戦が猛威を振るっていた。突撃を止める槍が必要なのだ。
「よし、出番がやってきたぞ皆の衆。大陸で毎度お馴染み横隊戦だ。キメラ隊の突撃を止めてくれ」
傭兵中隊の隊長を務めるディアドラの声が支給されているインカムの無線から響いた。今回は指揮戦車に搭乗して支援砲撃を行っているようだった。
「死なない事、抜かれない事、無茶しない事、優先順位はそれでやってくれ」
ブロンドの女大尉はそんな事を言った。
バーオナガルは守りの堅い都市では無い。戦線を破れればバグア軍は戦線縮小の為、都市を放棄して後退するであろうというのが大方の見解だ。
「先は長いが一つ一つ陥としてゆきたい所だ。各々目標意識を持って行動してもらいたい」
と戦前にバジャイ参謀長は全軍に述べ、
「難しい事は考えなくて良い。目の前に集中して敵を倒し、隣の味方を助けろ。後はお偉いが勝手にやるさ」
と歩兵大隊長のアブトマートは言った。能力者隊をまとめるディアドラの言葉は先のアレだ。
どれが正しいとも言えるものではないが、立ち位置と性格によって何を重視するかは違うらしい。
ならば傭兵達は何を見て戦うのか――それはきっと、それこそ千差万別なのだろう。
キメラが駆け、能力者軍兵が銃を構え、傭兵達がそれぞれの武器を構える。激突の時が、迫り来ていた。
■作戦目的
持ち場の守備
■所属隊
ディアドラ中隊隷下の歩兵第九傭兵分隊となります
■敵キメラ
1Tに最大100m程度突撃します。移動攻撃します。狼人、豚鬼、赤小鬼、骸骨兵の劣化型、数で勝負な方針らしい。武装は刀、槍、大剣、斧等です。飛び道具はありません。個体差はありますが、攻撃力400あれば期待値でれば一撃で倒せます。攻撃250でも両断剣・円閃を使用すれば期待値で一撃で斬り倒せます。紅蓮衝撃だと150程度。(スキルや消費アイテムの+は相対的に高めです)
敵の攻撃、命中、回避はおおよそMOBですが、囲まれて一斉攻撃を受けると補正率が凄い事になる上に装甲の隙間等狙いますので高LVの方でも死にます。上手く連携してください。
■味方戦力
砲兵隊は非SESなのでおよそ役に立ちません。
指揮戦車隊は自己判断で危険そうな隊を支援します。余裕がありそうな所へは砲弾は飛びません。
■特記
参加者が12人に満たない場合は名も無き剣豪傭兵が十二名になるまで加わります。
●リプレイ本文
黄塵吹き荒ぶ荒野の果ての果て、インドがカーティヤワール半島グジャラート州の戦場。
「うわーお、壮観壮観。こんだけいりゃ、狙いをつける必要もねーッスね!」
津波の如く前進して来る千五百匹のキメラの群れを見やって、植松・カルマ(
ga8288)が言った。
「うわぁ、逃げてェ‥‥」
ぼそりと呟く。気持ちは解らんでもない。
「ジェダi‥‥能力者よ」
そんな中、漆黒の全身鎧『ベリアル』に身をつつみ漆黒のマント羽織った男が言った。UNKNOWN(
ga4276)である。
男はコーホーと謎の呼吸音を立てつつ、
「フォーs‥‥エミタを信じるのだ。エミタの加護があらん事を」
UNKNOWNの手には黒色弾を発生させるオーブの嵌めこまれた手袋、背中にキャノンを背負い、腰にはライト、もといレーザーブレードの一種である機械剣βを佩いている。まさに某SF映画の暗黒ちっくな卿を彷彿とさせる装いだ。
「‥‥DVDでもレンタルしたんスか?」
「コーホー、全てはエミタの導き‥‥‥‥」
UNKNOWN、あくまで今回はこのキャラで通すつもりのようである。ある意味この敵勢を前にしても流石の余裕だ。
「数は力と言いますが‥‥また随分と多いですね」
そんな事をやっている隣でも、他の能力者は真面目だ。鳴神 伊織(
ga0421)が言った。
「まぁ‥‥片端から倒していけば済む事ですか」
着物姿の女は背中から全長1110mmの小銃スノードロップを取り出した。ガコリとロードする。
「攻撃は最大の防御ですものね」
ロジー・ビィ(
ga1031)は鳴神の言葉に頷き、弓と矢を取り出す。
「零距離に入る前に少しでも多くの敵を倒しておきたいモノですわ」
女はそう言った。
他方、
「こりゃまた見渡す限り敵、敵、敵‥‥っと。絵に描いたような戦場だな、此処は」
戦線に進み出て来た鈍名 レイジ(
ga8428)が言った。分隊の正面に相対するのは百のキメラ、中隊では千五百のキメラ、三つの中隊を合わせれば四千五百のキメラで、キメラは敵の全てでなく奥に万の親バグア兵が広がっている。味方も一中隊で二百以上、大隊で六百、連隊をあわせれば数千で師団となれば万。
戦線だ。
(「奴等も俺も此処じゃ有象無象に変わりねぇ」)
鈍名は思う。所詮、数万のうちの一に過ぎない。荒野に吹く塵の一つだ。しかし、思う「だからこそ手前ェの意志ってのは大事なんだろうよ」と。
「悲しむ人を少しでも減らすためです‥‥!」
人の役に立ちたいから参加したという、エレナ・クルック(
ga4247)は自らの意思についてそう述べた。
「俺はこの拳が全て‥‥」
全身鎧に身を包む須佐 武流(
ga1461)は呟きつつ鋼の拳を握りしめる。
「さて、どこまで斬れるものかな」
とアンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)。最初の目標は一〇〇討伐だ。
傭兵達は皆、十人十色な意志と目的があるらしい。
「この勝負美空たちがいただくのであります。いざ、皆の者ども鬨の声を上げるのであります。おーららららぁぁぁぁぁ‥‥げほげほげほっ!」
慣れない事をしようとしたせいか美空(
gb1906)は激しく咽ている。
「だ、大丈夫ですか美空さん」
兵舎仲間のヨグ=ニグラス(
gb1949)が言う。
「げほっ、大丈夫なのであります!」
答えて美空。戦意は高いようだ。高過ぎてむしろ溢れ出ている感じである。
一方、
「‥‥失敗‥‥しました‥‥」
少し辛そうなのがハミル・ジャウザール(
gb4773)である。前の依頼での怪我が治り切っていないようだ。重症で、さらに消耗している。
「あまりご無理をなさらないようにしてくださいね‥‥?」
金髪の少女が心配そうに言った。エレナだ。練成治療を発動しハミルへとかける。傷ついた細胞が癒えて再生してゆく。
「ああ‥‥すいません、有難うございます。少し楽になりました」
常の状態には程遠いが、消耗分の再生が限界値まで癒えてゆく。痛みが少し和らいだ。
(「こうなったら‥‥せめて迷惑だけは掛けないよう‥‥気を付けないと‥‥」)
ガトリング砲を痛みを堪えて取り出し後方支援の構えである。
終夜・無月(
ga3084)は弓を取り出し弦の具合を確かめている。最初は矢を射ってゆくつもりのようだ。藤村 瑠亥(
ga3862)も弓を用意している。
「大規模以外でこんなに沢山の敵を見たのは初めてかなぁ」
如月 芹佳(
gc0928)は少し不安に思う反面、何だかワクワクしているようだ。
「ラクパトを思い出しますが‥‥敵の数がだいぶ違いますね」
浅川 聖次(
gb4658)は苦笑を洩らしつつ言った。しかし久々の依頼だが、我が槍に狂いはないと確信している。
ペンダンと握りしめて精神を統一させ呟く。
「今再び、我が槍と共に敵を貫きましょう」
身に纏うAU‐KVがそれに応えるように一際強く駆動音をあげた。
傭兵達は手早くそれぞれの役割を確認する。
UNKNOWNはインカムをつけつつコーホーと息を吐きだし、
「須佐‥‥そして藤村よ‥‥敵に囲まれ後方からの爆発音あれば注意を払うが良い‥‥」
悪役っぽい雰囲気を纏いエネルギーキャノンを軽く振ってそんな事を言う。
「‥‥撃つのか」
「‥‥真っ直ぐに身を沈めて退がろう。当てるなよ?」
「エミタを信じよ‥‥戦士達‥‥エミタを使うのだ‥‥」
漆黒の男は言う。エミタは言葉は持たぬがAIを持つ。あながち的外れとも言えないのがなんともな所である。AIは時として超感知する。故にこそ能力者達は光線をかわしたり弾丸を斬り払ったり超反応する事が出来る、時がある。それは普通、目で見てからでは反応出来るものではない。修辞を使って言うならば、エミタが無意識に囁くのだ。まぁ、そのエミタを上回って叩き込んで来るのが強キメラやバグアであるから頼り切る訳にもいかないが。能力値がエミタの力なら立ち回りが個人の技術だ。
暗黒卿モドキの男の言葉に対し藤村と須佐は、まぁ了解、と頷いた。
一方、
「これも使ってくださいです」
エレナは展開前に弓と銃を扱う者達に自らの手持ちの弾頭矢四発と貫通弾二発を配っていた。
「どうも有難う」
「感謝であります」
浅川が四発の弾頭矢を譲り受け、美空が二発の貫通弾を受け取った。
「ヨグ君、美空と時計を合わせるのであります」
「了解ですー」
歩兵第九傭兵分隊の面々が展開し、ディアドラ中隊の二百以上を数える能力者達もまた横に並ぶ。
狼人、豚鬼、赤小鬼、骸骨兵のキメラの群れが横に三〇〇メートル、縦に一〇〇メートルの深さで列を組み、武器を振り上げ吠え声をあげ、カタカタと骨を鳴らしながら押し寄せて来る。
津波だ。
一キロ後方に控える砲兵中隊六門の砲と、五百メートル後方で中隊指揮を取る三両の戦車が焔を吹いて砲弾を次々に飛ばした。独特の風切り音と共に弾が炸裂して大地を爆砕し炎を吹き上げてゆく。
ハミル、双眼鏡を使って迫り来る敵を観測している。中隊正面に展開する敵数は一千五百匹。その列の横幅は三〇〇メートル、奥への深さは一〇〇メートルだ。敵は奥に十段に別れて展開しているから、横隊一列一五〇匹、十メートル間隔で奥に並ぶ。横幅三〇〇メートルに千五百だから横の一匹と一匹との間隔はおよそ二。第九傭兵分隊が守備すべき幅も他隊と同様に二十メートルなので正面に見るのは十匹、十段、総計百匹。
「正面から見るとやたら多く見えますが‥‥よく見れば、隙間は結構空いていますね。弾頭矢で一気に巻き込むのは難しそうです」
距離が詰まる。敵は百メートルを十秒で詰めて来る。数匹は吹き飛びながらも千四百以上のキメラが近距離まで突進して来た。
「オラァ、行くぜェッ!!」
相対距離一三〇、植松・カルマ、毒々しき気を纏う長大な大弓を手に矢を番える。ぎりと音を立てて限界まで引き絞り迫り来るキメラの一匹へと狙いをつけ、裂帛の呼気と共に撃ち放つ。矢が猛烈な勢いで飛びだした。続けざま次々に標的を移して狙いは適当に五連射。正確性よりも速射力を重視。一矢目が豚鬼の顔に突き立ってふっ飛ばし、二矢目が狼人の胴に根元まで刺さり、三矢が赤小鬼の肩を貫いて衝撃を撒き散らして独楽の回転させて倒し、四、五と骸骨兵の頭蓋に突き刺さって一撃でぶちぬいてゆく。突き立つ、と言うより突き刺さった周辺を爆砕するが如き破壊力。半端じゃない。無改造のHWなら二、三発で叩き落とす勢いの猛烈さ。五体撃破。
終夜、魔創の弓を構え矢を番えて引き絞る。自身の知識と経験から敵を即刻排除する為の取るべき行動を導き出す。エミタAIが導く道に従って矢継ぎ早に四連射。
唸りをあげて飛んだ矢が狼人、赤鬼、豚鬼、骸骨兵の頭蓋へと次々に突き立ち、一撃でそれを粉砕してゆく。こちらも猛烈な破壊力。四体撃破。
(「終夜さん、藤村さん、植松さん。こりゃまた上に見る腕利きが揃ったモンだぜ」)
鈍名、胸中で呟きつつ長さ1.8メートルの和弓を構えた。片の瞳から火花の如きスパークを発生させつつキメラの群れを睨み据える。
「負けてられねぇ」
男は黒く、静かに、赤く熱く心を昂らせてゆく。
相対一〇〇、鈍名、美空、ヨグが射撃を開始する。
鈍名、引き絞った矢を迫り来る狼人の足を狙って撃ち放つ。素早く番えて連射。左右の足に二本の矢が突き立ち、狼人が駆けた勢いのまま倒れてゆく。撃破。さらに奥の豚鬼の足を狙って射撃。片足を撃ち抜かれ、豚鬼の突撃速度が落ちた。
美空、竜の瞳、竜の爪を発動、ミカエルの頭部と腕からスパークを発生させつつ大口径ガトリング砲を構えてバースト。束ねられた銃身が回転し猛烈なマズルフラッシュと共に振動を巻き起こしながら貫通弾の嵐を解き放ってゆく。
ヨグ=ニグラスもまた美空と同時に全長1230mmのエネルギーキャノンMk‐IIを構え、光を爆裂させた。強烈な破壊力を秘めた五連の光波が最前列のキメラに突き刺さってゆく。弾丸を受けた豚鬼が鮮血を噴出させながら踊って倒れ、骸骨兵が光に呑み込まれて消し飛ばされた。
さらにカルマが速射し、鈍名が矢を二連射し、美空が弾幕を張りヨグが閃光を解き放つ。一列目が倒れ二匹撃ち倒されて八匹となった二列目を狙い、うち七匹を吹っ飛ばす。終夜はオーバーキルにならないようにタイミングをづらして波状に仕掛けた。最前列となった二列目の一匹を射抜き、奥の三列目へと移して二匹を撃ち抜き殺す。鈍名は弓を背に納めて大剣を抜刀した。
相対九十。藤村は蝿弓『ベルゼブブ』を頭上に掲げる。矢を番えながら引き降ろしはっしと放つ。一矢が入って吹っ飛んだキメラから標的を移し、矢を番えつつ二射、三社射と撃ってゆく。狼人、赤鬼、豚鬼が矢を受けて倒れた。三体撃破。
相対八〇。右端に陣取るUNKNOWN、
「デ〇トロイヤー砲、発射」
危険な言葉と共に危険な装いの男は危険過ぎる破壊力を秘めた爆光を猛烈な勢いで解き放つ。予定されている範囲の外からキメラが近づいてこないよう、端を切り取るように射撃を開始してゆく。一射目が豚鬼を貫いて消し飛ばした。相変わらずの凶悪な威力。撃破。端の後続が八〇のラインに入ってくる毎に射撃して撃ち抜いてゆく。
一方、隊の左端に構える鳴神、相対七十、鬼蛍を地に突き刺すと貫通弾を装填した小銃スノードロップを構える。近い敵から、数を減らす事を意識している。広くいく。次々に標的を変えながら発砲、連射。最前列の三匹とその奥の列の二匹と三列目の一匹
と四列目の一匹を撃ち抜いた。七体撃破。
如月、射程外だが射撃を開始。
「リロードの隙に壁を作れば安全かな?」
超機械『扇嵐』を用いて迫り来る最前列のキメラ達の前に電磁波の竜巻を巻き起こしてゆく。四連射。四匹のキメラ達は竜巻を前に突撃速度を緩め、足を止める。一秒程度か、消えた後に再び走りだした。後続との距離が詰まって団子になった。
相対五〇、浅川、エレナ、ハミルが一斉に射撃を開始する。
「的が多すぎるというのも、考えものですね」
浅川、真剣な顔をして呟きつつ譲り受けた弾頭矢を番え二連射。二本の矢が豚鬼に突き刺さり爆裂を巻き起こして打ち倒した。
エレナ、赤いプレゼントボックスを開いて四連の電磁嵐を骸骨兵へと叩き込む。蒼光の嵐が骸骨を呑み込み灼き殺した。
ハミル、正面より迫り来る狼人の足元を狙いガトリング砲を用いて弾幕を張る。唸りをあげて飛んだ四十発の弾丸を、しかし狼人は突撃しながら素早く跳躍して回避した。重症の為、動きが著しく鈍っている。当たらない。
相対四〇、ロジービィ、弓に弾頭矢を番える。
「白薔薇‥参りますわ‥っ!」
裂帛の呼気と共に矢継ぎ早に放って三連射。一匹が二連の爆炎に呑まれて吹き飛び倒れた。赤鬼が身体を焦がしつつも焔を裂いて突っ込んで来る。ロジーはエネガンを抜いた。
須佐、突っ込む事はしない、闘志を抑えつつキメラの群れを睨み激突の瞬間を待つ。
「‥‥来るか」
アンジェリナは呟くと、抜刀する。1.8mの大太刀の刃が鈍く輝いた。精神を集中させこちらも激突の瞬間を待つ。
最前列一匹となった三列目から一匹、四列目に七匹、五、六列目に八匹、七列から十列まで九匹、総計残り六十匹。突っ込んで来る。
まだ距離がある。UNKNOWN、ロジー、美空、ヨグ、浅川、如月、ハミルが閃光と矢と弾丸と電磁の嵐を飛ばす。
「容赦は致しませんくてよ!」
ロジー、先頭を走る赤鬼へとエネルギーガンを一発撃ち放ち、閃光を追いかけるように駆け出す。須佐、藤村、鳴神、終夜、鳴神、アンジェリナ、鈍名、カルマもそれに合わせ疾風の如く駆け出してゆく。
「やりますよー美空さんっ」
ヨグが言った。美空は前衛の周辺掃射に切り替える。前進しながら後続のキメラへと弾幕を叩き込んでゆく。ヨグは攻撃を受けていないキメラを選んで光の砲撃を叩き込む。
ハミルは先頭の赤鬼へと弾幕を解き放ち、浅川も弾頭矢を放ち、また矢を番える。
「もうひと踏ん張りですよ〜」
エレナは浅川に練成強化を発動、さらにキメラの一匹へと向けて三連の電磁波を巻き起こす。
ロジーから放たれた閃光と浅川の弾矢とハミルから放たれた弾幕が先頭の赤鬼に炸裂し、閃光で爆砕し爆炎が焼き、弾丸が突き刺さって赤鬼は鮮血を噴出させながら吹き飛んでゆく。撃破。
UNKNOWNはエネルギーキャノンを八連射して四列目から十列目の七匹を撃ち抜いて倒し、四列目のさらに隣を撃ち抜いて消し飛ばす。八体撃破。キメラの陣に縦に風穴があいた。
美空は竜の爪を発動させつつ、標的を移しながら左端のキメラを中心に次々に弾幕を叩き込んでゆく。四体撃破。ヨグもまた左端を中心に射撃して美空の射撃で倒れた奥のキメラへと閃光を叩き込んでゆく。槍を持っている赤鬼を中心に五体を撃破。如月は四連の電磁嵐を四列目の中央四匹の前に発生させてその足を止めさせて、その後続のキメラ達を横に広げさせている。
弓を納めた終夜は左右の二丁の拳銃を向けるとキメラ達へとドウ、ドウ、ドウ、と銃声を轟かせながら次々に連射してゆく。六発の弾丸が豚鬼、狼人、赤鬼の心臓を撃ち抜き、三体の骸骨兵の頭蓋を撃ち抜いて粉砕した。ヘッドショット。
(「ちょいと‥‥殲滅速度が頭四つくらい抜けてる、か‥‥?」)
鈍名は駆けながら戦場へと視線を走らせ胸中で呟く。鈍名曰く「あくまで怖いのは敵の数。となれば端っから全力でそれを削ぐっきゃねぇだろ」との事だが「ただ、あまりに殲滅が早ければ他所の敵が傾れ込む事もあるだろ」とも考えている。極めて順調に掃討は進んでいるが、気がかりがあるとすれば、それだ。ざっとなので正確な所は解らないが、左右で戦っている第八と第九の前にはまだ九十体程度のキメラが残っているように見えた。こちらは既に五十切っている。鈍名は流石に一瞬では正確な数をかぞえてはいなかったが、その数を三十七体にまで減じさせていた。
(「――囲まれなけれりゃ良い。隣と後ろの仲間を信じて眼前の敵を砕け!」)
流れて来るのは止められない流れだろう。だがそちらがこちらに来る前にこちらを全滅させれば良い。速攻勝負。男はそれらを一瞬で考え判断すると大剣を構え仲間達と共に四十のキメラの群れを迎え撃つべく雄叫びをあげて突っ込んでゆく。
最初に間合いに踏み込んだのは須佐だ。骸骨兵が踏み込んで来る男へと大剣を振り降ろし、赤鬼が槍を突き出し、豚鬼が戦斧を薙ぎ払ってくる。須佐は敵勢の動きの全体をよく視界に入れて捉えると、振り下ろされるた大剣を半身に入りながら紙一重でかわし、槍の穂先をベリアルの腕甲で払って流し、薙ぎ払いの斧撃を低く身体を沈めこませて掻い潜る。倒れこむように踏み込みながら、地に手をつくとそれを軸に独楽のように回転し豪速で足を振り回す。赤鬼が錐揉みながら宙に浮き、骸骨兵がもんどりうって倒れ、豚鬼の左足にオセの爪が深々と喰い込んだ。須佐は限界突破を発動させると斧撃が再度振り降ろされるよりも前に伸びあがりざま目にも止まらぬ速度で豚鬼の腹へと蹴りを叩き込む。くの字に身を折った豚鬼へと素早く踏み込み後頭部へと回し蹴りを叩き込んで打ち倒した。撃破。倒れた骸骨兵と赤鬼の奥から突きだされた穂先と刃を間髪入れずに宙に跳躍して回避する。狼人の顔面を両足のオセとバトルアートを同時に繰りだして吹き飛ばし、反動で跳びざま身を捻って回し蹴りを赤鬼へと叩き込んで吹き飛ばす。起き上がろうとした骸骨兵と赤鬼へと右左の蹴りを叩き込んで粉砕した。四体撃破。
他方、アンジェリナ、藤村と合わせて突撃している。前に豚鬼、狼人、骸骨兵、女は駆けながら猛然と1.8メートルの大太刀を振り上げ、強打を発動させ、敵の間合いの外から彗星の如く袈裟に斬りかかった。骸骨兵が受けに掲げんとした大剣よりも速くに太刀が頭蓋に入って斜めに断裂させて斬り飛ばす。豚鬼が踏み込んで斧を振り降ろし、狼人が打ち込みを仕掛けた。アンジェリナ・ルヴァン、重装だが速い。素早く後退して斧撃をかわし、切り返して突進しながら太刀を避け、逆袈裟に大太刀を振るって狼の胴をかっさばく。血飛沫をぶちまけながら身の半ばを断たれた狼人が崩れ落ちる。その間にもアンジェリナは十字に剣閃を巻き起こして豚鬼を斬り倒した。三体撃破。
その右方少し離れた位置で藤村が突っ込んでいる。狼人からの太刀を一気に踏み込んでかわし、小太刀を振るって斬りつけすぐさま飛び退く。赤鬼からの槍と骸骨兵からの大剣が空を切る。狼人が血飛沫を吹き上げながら崩れ落ちるよりも前に体を切り返して再び踏み込み、赤鬼を右の小太刀で袈裟に裂き、骸骨兵の胴を左の小太刀で払って両断する。絶命を確認するよりも速くにさらに踏み込んで奥の狼人へと太刀を一閃し切り返して左の赤鬼の槍を瞬天速で回避して強引に掻い潜り、斬りつけ、右の豚鬼へと踏み込んで真っ向から唐竹割りに斬り降ろす。周囲から次々に血飛沫がふきあがって赤鬼が倒れ、骸骨兵が倒れ、狼人が倒れ、赤鬼が倒れ豚鬼が倒れた。六体撃破。
「さぁ、ブッた斬られたいヤツから前に出な‥‥!」
鈍名はアンジェリナの左隣からコンユンクシオに赤光を宿して突撃した。狼人の太刀を回避ざまに大剣を振るって首を跳ね飛ばし、豚鬼の斧を踏み込んで掻い潜り一閃させて胴を両断、骸骨兵の大剣を素早く剣を引き戻して受け流し、そのまま剣を竜巻の如くに薙いで剣の腹を叩きつける。猛烈な衝撃に骸骨兵の腰骨が砕け二つに身を折りながら吹き飛んでゆく。最上段に剣を振り上げて踏み込み赤鬼の穂先をかわしざま、落雷の如くに剣を振り降ろしてその頭部を爆砕した。隣の豚鬼が斧を振り降ろすよりも前に逆袈裟に一閃させてその胴を切り裂き吹き飛ばす。キメラ達が襤褸屑のように吹き飛んで次々に倒れてゆく。五体撃破。
カルマは駆けながらブラッディーローズを構え赤鬼へと撃ち放つ。散弾が槍持ちのキメラの身を次々に穿って木っ端の如くに吹き飛び、男は1.6mの長大なガラティーンを構え突撃する。右の狼人へと袈裟に振るって防御に構えた太刀ごと真っ二つに断裂し、素早く切り返して左の豚鬼が斧を薙ぎ払うよりも前に薙ぎ払って首を刎ね飛ばす。正面から骸骨が振り降ろして来た剣へとガラティーンを上段からぶちあてると腕力と衝撃力に物をいわせて大剣を粉砕し骸骨兵の身を一刀の元に両断する。
「ハッハァッ! 俺こそ真の三国無双よ! なーんつって!!」
眼球を赤く染め、鈍色を纏い、全身に幾何学の文様のエネルギーラインを浮かび上がらせた異形の男が軽口を叩きながら暴風の如く特大の太陽の剣を振り回す。まさに桁違いの天竺、中国、日本を貫く破壊力。並び立つ者はそうはいない。太刀を受けたキメラ達が一撃で爆砕されて吹き飛んでゆく。六体撃破。周囲を見るに後退するまでもなく押し切れそうだ。
鳴神はキメラの群れに対し左側面へと回り込んでいる。鬼蛍を振り上げて極限までエネルギーを集中せると四連の剣閃を巻き起こした。大気が逆巻き、爆風の波が次々にキメラ達に直撃してゆく。二体の骸骨兵がその身を木っ端に崩しながら吹き飛び、狼人が身を陥没させながら吹っ飛び、豚鬼が頭部を爆ぜさせながら倒れた。女は生じた穴へと真紅の太刀を構えて突っ込むと、太刀を振り上げる二匹の狼人へと横薙ぎに太刀を一閃させて真っ二つに両断し、火の位から落雷の如くに振り降ろしてもう一匹の頭部を爆砕した。寄って来た豚鬼と骸骨兵へと左右に太刀を振るって一撃の元に斬り倒す。八体撃破。
ロジーもまたエネルギーガンを収め、二刀の小太刀を抜き放つとエネルギーを集中させて一閃させ爆風を巻き起こす。唸りをあげて飛んだ音速波が骸骨兵の身を叩き、衝撃に仰け反っている間に銀髪の女は疾風の如くに踏み込むと小太刀を振るってその頭部を斬り飛ばした。奥から詰めて来る狼人の太刀を左の小太刀で受け流し、態勢が横に崩れた所を踏み込みながら右の小太刀で薙ぎ払う。刃が腹を掻っ捌き、狼人が血飛沫を吹き上げながら身を傾がせる。
「甘い、ですわ!」
女は言って、身を折った狼人の側頭部を左の小太刀で薙ぎ払い、大地へと叩きつけた。
前進する浅川が全身からスパークを発生させて加速した。ランス『ザドキエル』を構え、装輪走行で荒野を稲妻の如くに駆け抜ける。
「我が正義の槍で、その身を貫く!」
猛然と豚鬼へと迫ると突撃の勢いを乗せて破壊力を増大させた穂先を繰り出した。ランスチャージだ。『神の正義』の名を冠した深蒼の槍が豚鬼の胴へと炸裂して一気に貫通する。豚鬼は口から鮮血を吐き出して斧を取り落とした。
その間にも須佐が狼人へと素早く踏み込んで左右の二連の回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、藤村が駆けまわりながら稲妻の如く斬り込んで豚鬼を斬り倒し、アンジェリナが大太刀を振るって骸骨兵を爆砕。ロジーが二刀の小太刀をクロスに振るって豚鬼を斬り倒し、鳴神が太刀を一閃させて豚鬼を斜めに真っ二つに両断して斬り倒す。鈍名がコンユンクシオを竜巻の如くに振るって骸骨兵を粉砕し、終夜が狼人の首を抜き放った明鏡止水で刎ね飛ばした。
正面、百体撃破。
しかし、
「横から来ますッ!」
ハミルの声がインカムから響いた。
鈍名の予測通り、左右で団子になっている隊のキメラが第九分隊の方へと雪崩れ込んで来る。挟撃だ。
「速さで凌ぐか」アンジェリナが東を見やりながら太刀を構えて言う「それともパワーで押し切るか‥‥?」
藤村はその後背で西を見やると、
「‥‥決まっている」
呟き、小太刀を構えた。
『‥‥両方だッ!』
二人の剣士は叫ぶと再び大地を蹴って駆け出した。
「フォーs‥‥エミタと共にあらん事を」
UNKNOWNが言ってエネルギーキャノンから猛烈な光波の連射を開始し、美空が大口径ガトリング方で東を薙ぎ払い、ヨグがエネルギーキャノンmkIIで西を薙ぎ払う。
如月は弾幕を抜けて突撃してきた赤鬼の穂先に対し疾風を発動させて斜め下へと踏み込みながら回避する。
「足元が、お留守だよ!」
円閃を発動させて下方から救いあげるように足を狙って薙ぎ払い、鮮血と共に切り裂いた。すかさず返す刀で打ち込みをかけてその面を叩き割る。頭蓋を砕かせながら赤鬼が倒れてゆく。
「援護しますです〜」
エレナはハミルへと向かってくる敵へと箱を向けると開き、蒼い光の電磁嵐を解き放った。狼人が煙を吹き上げながら倒れてゆく。
戦いはまだ続きそうだった。
その後、左右からの挟撃を受けた第九分隊だったが、すぐに第七が第八の援護に入って西を蹴散らし、第九は一気に第十方面へと攻勢をかけて瞬く間に東を粉砕した。
第九分隊はその後も苦戦している隣接隊の援護へと回りそちらでも次々にキメラの群れを撃破していった。
ディアドラ中隊は第九分隊や他隊の活躍も併せて正面の一五〇〇匹のキメラを殲滅、右翼の中隊が撃破されかかっていたがそちらへと急行してこれを破り、右翼の中隊と共に反転して左翼の中隊が相手をしているキメラの群れへと突撃してこれも粉砕した。
キメラ部隊を破られたバグア軍は後退を開始しアブトマート大隊は戦線を突破すると激闘を続けているバドルディーン連隊内の友軍を支援してその撃破を助けた。
連隊が正面の敵を打ち破るとバグア軍は抗しきれぬと判断したか全軍揃って一斉に後退を開始、バーオナガルを放棄してその後方にある堅所へと入って戦線を縮小させつつも維持せんと動いた。バーブル師団は前進しバーオナガル市を奪還し、ここにUPC軍の旗を立てたのだった。
その旗の元ではハーモニカを吹く少女の姿が見られたという。
了