タイトル:【ODNK】WHeadSquadron3マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/24 18:03

●オープニング本文


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 二〇一〇年、村上旅団は宇佐市、日出町、杵築市、豊後高田市の三市一町までを攻略した。大分県の主要都市で残るは国東市、中津市、日田市の三市。
 二月に高田市を陥落させてから足を止めていた村上旅団だったが再びの侵攻が別府基地より促されていた。目標は国東半島に残る最後の都市、国東市。
「しかし、どうにも国東ってのは‥‥攻めづらい土地なんだよナァ」
 高田市に置かれた仮の指令室、死んだ魚のような目をしたくたびれた男が一人地図を睨んでぼやいていた。混成旅団長大佐、村上顕家である。
 国東半島には山が多い。古代中華の某国の将軍が山に陣取って敗北したというような話もあるが、それは水の手を切られたからであって、近代の極東島国と北方大国との某高地戦しかり、基本力押しで高所に布陣する軍勢を打ち破るのは難しい。要塞化されているとあってはなおさらだ。宇佐市を攻める時も山はあったが味方が半ばまで抑えていた為やりやすくはあった。
「中央の山岳を抑えられりゃ楽ではあるが‥‥いきなりぶっこんでも負けるか」
 村上は地図上、高田市の北東と杵築の東にピンを指す。海岸沿いに両翼を伸ばす。
「‥‥山と海から撃たれんな、こりゃ」
 村上は高田市北東の213号沿いのピンを外した。大分のバグア軍が所有している巨大戦艦等の海対地への砲撃は凄まじいものがある。山からも砲撃の雨が飛んでくるとなると、北の海から撃たれ東南の山から撃たれ街道の正面に展開する軍から撃たれる。速攻で街道を抜ければあるいはいけるかもしれないが、それをさせてくれる程易い敵でもなく、突破したからといって先があるようには思えない。
 東に目を向ける。
「‥‥まだ目はあるかね?」
 見立、妙見と黙らせて海沿いに大分空港までを抜く。ただこちらも当然、海からの砲撃が飛んでくるだろう。
「海、山、海‥‥忌々しいなオイ」
 村上旅団は制海能力に欠けている。陸なら村上顕家、ハラザーフ・ホスロー、不破真治、他にも諸々居ると強い。空にも不破真治が一人だけで兼ねると少々弱いがやれる者がいる事はいる。だが海戦となると通用するレベルで指揮出来る者が一人もいない。基本が陸軍なのである意味では当然といえば当然なのかもしれないが、今付近に頼れそうな海軍戦力もない。
「必要な戦力が揃ってないので攻めません、といきたいとこだが‥‥」
 しかし既に睨み合って約五ヶ月、事態は好転する様子もなく、使える戦力が増える事もなく、むしろ今のうちに陥落させろという要請は増している。
(「やらざるをえない‥‥ってか、あぁ? こりゃ負け戦のパターンだぞ」)
 村上は舌打ちして煙草を咥え火をつける。
 ゆらゆらと紫煙が流れていった。


「どうやら一気に陥落させるのは国東に対しては難しい、というのが司令部の見解のようだ」
 別府基地のブリーフィングルーム、大尉の不破真治が集まった傭兵達に言った。
「よって今回はまず大分空港までを陥落させるのが目的となる。俺達の任務は先だって敵の防空を突破し国東港を強襲、寄港している八〇〇m級戦艦を撃沈させる事だ」
 どうやら村上は敵海軍の最も厄介な艦を空から黙らせる事にしたらしい。前回も使った手だ。
「この戦艦はバトルフィッシュを元にさらに改良が加えられているようなので俺の一存でバトルフィッシュIIと呼ぶ事にする」
 不破の言葉に安直過ぎる、と誰かが言った。
「他に適当そうな呼称があったら出しといてくれ。良さそうなら採用する」
 などと不破は言いつつ、モニタにビッグフィッシュを元に造られたバトルフィッシュをさらに改良したというバトルフィッシュIIの映像を映す。
「で、この弐式だが、先立っての例の通り猛烈な破壊力を持つ海対地砲を備えている。並でないKVでも直撃すれば一撃で吹っ飛ぶと思ってくれて良い。むしろ密集していると二、三機まとめて吹っ飛ぶ。しかし諜報部が掴んだ情報やこれまでの交戦経歴から察するに、幸いな事に空や海中には撃てんようだ。海中は俺達には意味があるかどうか解らないが‥‥」
 若き大尉は言いつつモニタを切り替える。
「空から爆撃を仕掛けて戦艦を沈めるのは前にもやったと思う。前回作戦時より科学技術の進歩によりKVの対地対艦攻撃性能は増しているので艦へ攻撃を仕掛ける事自体はやりやすくなっている、と思う」
 最近では空対空ミサイルでも低空からなら叩き込めるようになっている。
「問題は、前回も使った手だから当然、敵も対策してきている、という事だ」
 不破はぱっと図を切り替える。
「バトルフィッシュIIには艦の前部、中部、後部に大口径の対空砲が通常の短距離・長距離対空砲の他にそれぞれ一門づつ備えられている。これも海対地砲程ではないが、なかなか痛烈な破壊力でな。極限まで改造されたロンゴミニアトの一撃が飛んで来るものだと思ってくれて良い。命中精度も極めて高い。よほどでない限り二、三発、下手をすれば一発で吹っ飛ぶ、という事だ。有効射程はおよそ四〇〇m。高度を四〇〇と一〇取ればほぼ当たらん。だが高度四一〇取っているとこちらのKVの通常兵装もまず当たらん高さで、ならば低空からアウトレンジよと構えればSES兵器だからな、低空だと遠距離に対して精度が落ちる。よほど命中精度が優れていない限り敵の防御機構に阻まれてしまう」
 どうにも手づまり感があるが、と言いつつ不破は続ける、
「うちの大佐殿がこれの写真を見た所『この砲、下に向けては撃てねぇんじゃねぇか?』とのたまわれてな、そんな馬鹿な、とも思ったのだが、試しにブルーファントムの相良軍曹に威力偵察も兼ねて付近を突っ切ってもらった所、対空砲は飛んでこなかった、との事だ。六時間前の話だ。恐らく海面より高度五十m、それ以下への位置へは撃てない。ただその場合、正面では海対地砲が飛んで来たそうだ」
 不破は言う。
「この化物艦を落とす手段の一つは、高度四一〇以上の高さから通常の長距離対空砲と撃ち合いながら対地兵器で攻撃する事。二つ目は極めて命中精度の高い機で低空アウトレンジから仕掛ける事。そして三つめは高度五十m以下の超低空から侵入して一撃を叩き込む事だ。他の方法もあるかもしれないが、俺が思いつくのはそんな所だ。俺は一隊を率いて防空部隊の撃破と引きつけ務める。その後、もしくは最中に機を見てお前達に突っ込んでもらってこの艦を沈めてもらいたい。やれるか?」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 蒼い蒼い海だ。
「日本での任務は、久々になりますね」
 瀬戸内の西部、伊予灘の煌めく海面を眺めてふと南部 祐希(ga4390)は独りごちた。
(「‥‥思えば遠く来たものだ」)
 戦争が終わったら、どこに帰る事にしましょうか。そんな事を思う。
 本当に終わるのか、人類はこの星を守れるのか、終わった時に自分は帰れる状態にあるのか、今は、そういう事は考えない。きっと考えても解らない。
 戦火が生み出す黒雲は、開戦から十数年以上の長い月日が流れても、未だ晴れる事はなかった。


 南部が独白する数時間前。
 時は二〇一〇年の七月。宇宙に赤い星が浮かび、蒼空に鋼鉄の翼達が舞う時代の話。
「バトルフィッシュ‥‥II?」
 別府基地のブリーフィングルームにKVのパイロット達が集められていた。不破の説明を聞いていたラシード・アル・ラハル(ga6190)は首を傾げる。
「‥‥その呼び名って、安直なの?」
 ぽつりと呟く。その呟きに対し隣に座っている調子の良さそうな青年パイロットが囁いて来た。
「そりゃ少年、R‐01のE型の愛称はストロングホークIIじゃなくて、イビルアイズだろ〜? 能力に応じた愛称って奴がつくのに比べるとなー」
 ふぅん、そういうものか、とラシードは思う。
 彼が乗るアズラーイールも、バージョンアップしたのだが、特には何とも思っていなかったのである。まぁ大改修と強化アップとを一概に比べられるものでもないが。
(「‥‥不破大尉と、もしかしてセンスが近い?」)
 そんな事を思う。まぁあの大尉の場合は単に無頓着なだけな気もするが。とかく、向こうの技術も、どんどん進化してるようである。
「BFII‥‥なんて大きいの」
 女の声が洩れた。
 ソーニャ(gb5824)だ。この少女、見た目は十四程度だが、実際はれっきとした大人であるらしい。エミタが原因なのか、そうでないのか、確かな原因は不明だが、能力者には成長が止まってしまっている者がそれなりにいる。彼女もその一人のようだ。
 女はモニタに映し出された巨大戦艦の姿に目を奪われている様子だった。BFIIの全長は八〇〇m、ちょっとした小島のようなものだ。これが動くという。しかも多数強力な砲が搭載されている。
「‥‥うわー、なんか凄いの来た」
 と一見少年に見える依神 隼瀬(gb2747)もまた呻くように言った。依神もまた見た目とは反していて、れっきとした女性である。本人もそう見られる事に慣れてしまったので、今さら訂正する気も無いらしいが。
「バトルフィッシュの弐番艦がもう完成してるとは‥‥それにしてもまぁ、よくもこれだけ砲門をごてごてと付けたものだこと」
 と言うのは咥え煙草のリン=アスターナ(ga4615)だ。火は例によって点いてない。
(「鯨って言うよりはハリネズミじゃない」)
 そんな事を思う。同様の感想はソーニャも抱いたらしい。
「ハリネズミの様なフェザーにプロトン砲‥‥抜かれたら地上部隊にとんでもない被害がでるわね」
 対地砲は一撃でKV数機をまとめて吹っ飛ばすという、恐るべき破壊力だ。
「あれ近付けたら大変だよね。絶対沈めなきゃ!」
 と依神。そうね、とソーニャは頷く。陸軍に砲が向けられる前に、なんとしても落とさなくてはと思う。だが、しかし、モニタに映されるその鋼の島は、とんでもなく硬そうでもあった。
(「これは、思い切った事をしなくちゃね‥‥」)
 うーん、とソーニャは考える。
「バグアは不沈戦艦を現実のものにするつもりなのか‥‥」
 流石の白鐘剣一郎(ga0184)も渋い顔だ。これだけ火力が油断ならない相手だと射角まで改善されたら厄介どころの話ではなくなる。
「出来ればこれだけやっても駄目だったと思わせるように仕向けたいところだな」
「向こうも懲りませんからねぇ。徹底的に沈めたい所です」
 と頷いて叢雲(ga2494)。
「あのような強力な戦艦を放置しておいては、今後どれほどの被害を撒き散らすか分かったものではありませんわね。微力ながら尽力させていただきますわ」
 とブロンドの美女が眼鏡の位置を直しながら言った。クラリッサ・メディスン(ga0853)である。
 不破の説明によると今回の一連の作戦は一気に都市部まで陥落させるのではなく、まず敵の航空基地を攻め落とすのが目標であるらしい。その為にBFIIを無力化する必要があるとの事。
「段階に分けての侵攻、か――うん。できるところからやっていく、ってのは、大事だと思う。できない事を、できる事にする、唯一の方法だよね」
 ラシードは説明に頷いてそう言った。重傷のメンバーもいるようだが、その分頑張りたく思う。
「あー‥‥下手打っちまったスね。まさか、こんな身体で出撃する事になるとは」
 その重体者の一人である六堂源治(ga8154)が頭を手で抑え首を振って嘆いた。しかも、前に撃墜されたヤツの強化型が相手と来た。
「スケジュール管理できなかった自分の責任ではあるッスが」
 はぁ、と嘆息して六堂。中々、ままならぬものだ。
「悔しいのであります。任務での重傷は戦の誉れでありますが、それ故にて戦えないのは不甲斐ないのであります」
 包帯を巻き松葉杖をついた美空(gb1906)がぶんぶんと腕を振って言う。先の中国での降下阻止作戦にて重傷を負ってしまったらしい。
 いつものバトルフィッシュ相手なら、射程外からの攻撃という選択肢もあるかと思いもしたが、諜報部が掴んだ情報によれば今回の新型の武装は揃いも揃って長射程。いかんともしがたい。
「ま、ここはやれる事やるしか無いッスよね」
 うーむと唸りつつ六堂。無理はせず。しかし仕事はシッカリとこなしたい所だ。
「重体だからな、無理せず行くぜ。無茶はするけどな」
 同じく重体者のセージ(ga3997)はそんな事を言う。基本、無茶な男なようだ。
「ふむ‥‥船を相手とは面白いね? セージ、私を盾に使うといい」
 そのセージに対して煙草を咥えた黒のフロックコート姿の男が言った。UNKNOWN(ga4276)だ。文字通りの盾になる事はよほど機体の大きさに差がないと常に飛び回っている空では難しいので先行して弾を集める心算だろうか。
「そうだな。今回は悪いがそうさせてもらおう」
 セージ、指示や提案の類には素直に従っておく事にしたようだ。一同は作戦を打ち合わせ超巨大艦を沈める算段を整える。
「再アタックを仕掛ける時は、使用可能砲射程距離外で旋回し、皆が揃ってからで」
 とUNKNOWN――それは詰まる所、どういう事か? 使用可能砲というのは敵戦艦のか、各機のか。前者の場合、レンジが短い機はそもそも不可能で、相手から突っ込まれた場合、不可能になる。出来るだけ、という事だろうか。後者の場合は、敵艦上空を全機で突っ切るのは現実味が薄い。戦艦の横幅は三〇〇mあって対空砲の射程も二〇〇mある。低空だと機動力は十分の一まで落ちる。アンノーン機ならブーストをかければなんとかなるが、大半の機は抜け切る前に一方的に撃たれまくられるだろう。
 もしくは、とりあえず仲間が一度全員集合するまでは攻撃を控えて安全圏で旋回して、各機集まってから再度攻撃を仕掛けようという事だろうか。それとも、他の意味だろうか? ちょっと、取れる意味が多過ぎるので上手く伝わらなかったようだ。
「少し気にかかる事もありまして‥‥」
 叢雲が言って、予備案を提出した。こちらは片弦からの突入作戦となる。多弾頭ミサイル装備機、各種射撃装備機、対艦・対地装備機の順に並べ、初撃にて多弾頭掃射で各砲台を破壊・損傷させる。次いで射撃装備機で砲台等に追撃を入れ、最終的にやや高度を上げた対艦対地装備機の攻撃にて撃沈を狙う、といった寸法だ。配置や狙う対象は各自の経験と装備で咄嗟に判断してもらえると有難いとの事。
 叢雲、アンノーン、それぞれの案に関してだが、戦闘に際しては、基本的には各人はそれぞれの意思に従って戦う。どう動くのが有効かもしくは逆に不利になるかは機動力、射程、装甲、火力、手数で違うからだ。故に細かい機動に対しては了解などの明確な意思統一もしくは近似が見られない限りは、各々が得意な間合いで戦う。
 なので、第一案が実行不可能に陥った場合は、片弦からの突入からとしつつも、細かい所は各自判断で戦う事になった。
 傭兵達は準備を整えると別府基地より空へと飛び立った。季節は夏。空では太陽が真っ赤に燃えていた。


「うん、これだけ爆装しても速度は落ちてない」
 瀬戸内の西、伊予灘の洋上、自機の反応を確かめてソーニャが言った。不破隊は真っ直ぐに北上して国東へと向かい防空のHWやキメラと交戦している。その間に傭兵達は東から海に出て弧を描いて旋回するルートで国東港を目指して飛んだ。
 ソーニャ機Mk‐4Dエルシアンは本来は機動性特化型のドックファイターだが、今回の作戦に赴くにあたって思いきって爆装を施していた。
 ブースターを全部外して、センサーに積み替え、命中精度を上げ、多弾ミサイルに対艦ミサイル、フレア弾を装備している。運動性は常よりも低下しているが、護衛機は不破隊がなんとか引き付けてくれる筈だ。エルシアンなら基本性能で十分艦砲を回避できる、と踏んだ。さて、どうなるか。
 十五のKVが港を目指して飛ぶ。迎撃の隊が接近する気配は無い。不破隊は首尾よくやっているらしい。
 港に辿り着く前、傭兵達は800m級超巨大戦艦、ビッグフィッシュの艦影を洋上で捉えた。軍の動きを察知して港から出航し迎撃に出て来たようだ。
「‥‥実際に見ると凄まじいな! できれば歯ごたえがないほうが良かったんだが!」
 堺・清四郎(gb3564)が肉眼でその巨艦の姿を捉えて言った。常識外れの馬鹿デカサ。動く鋼鉄の小島である。まったくバグアどもはなんていう防御艦を作り出しやがったんだ、と思う。
「‥‥まさに大艦巨砲主義の権化だな、これは」
 呆れたように鹿島 綾(gb4549)が言った。
「あんな物騒なもの、いつまでもこの海に居座られてちゃ困るわ。壱番艦と同じく海底で魚の住処になってもらいましょうか‥‥!」
 と、リンが必殺の意思を固めて言う。
「そうね、綺麗さっぱり消えていただきましょう」
 ギラリと眼鏡に冷徹な輝きを反射させて燕の女王、藤田あやこ(ga0204)が言った。アジアのバグア司令には恨み骨髄だ。出身地大分を蹂躙された上に元彼が住んでいる北京まで脅かされている。誘導弾をたらふく喰わせてやろうと思う。
 傭兵達はスロットルを全開に入れて巨大艦へと翻る。敵艦の後方、射程外から海面ぎりぎりの低空まで降りると、速度を落としながらも接近してゆく。敵艦は急な出港で何処か調子が悪いのか動きがぎこちない。十秒で百八十度回頭出来ると事前情報にはあったが、その旋回速度は緩やかだ。しかし、傭兵達が距離を幾分か詰めた時、敵艦は各所を赤く輝かせ勢いを増した。向こうも戦闘態勢が整ったようである。
 傭兵達の現在位置、海面近くの低空より相対距離五〇〇、敵艦の左舷側の位置だ。戦闘開始。
「――それでやろうではないか、ね?」
 先頭アンノーン機、右舷班、高度低く、爆風で海面を割り水柱を吹き上げながら飛ぶ。一〇秒間で四〇〇m程度の移動速度。二番手鹿島機、同じく右舷班、敵艦後方から回り込んでいく形が目標だ。三二〇程度。次いで白鐘機、左舷班、こちらも敵艦の後方を目指して飛ぶ。三〇〇。堺、南部、ソーニャ機の一六〇と続き。美空機は距離を取る方針。同じく六堂機も左舷より相対距離500mを維持するつもりのようだ。
 おおざっぱに計算。500m*2*3.14=3140m。これが半径五百の円周。バトルフィッシュIIは十秒で180度回転。90度側面を取り続けるには合わせてこちらも180度回る必要があるから500mを保ちながらだと10秒間に3140÷2で1570m動ける機動力が必要。
 これは敵がその場から動かず、その場で回転した場合の話で、BIIは10秒間に120m程度機首方向へと動いているから、実際とはまた違ってくるが――それは一先ず置いて、高空の機動力なら六堂機ならばブースト吹かさずとも1500m飛べる。高空なら妥当な戦法と思われる。しかし低空だと六堂機、150mまで機動力が落ちてしまう。ブースト入れても最大300m。ちょっと厳しいか? それは敵がずっと六堂機を標的として全力で回頭しつづければ間の話であり、常に六堂機を補足し続けるとは限らないが――出来る限りをやってみる。
 ソーニャ機の後方に速度の関係で少し距離をおいてリン機、叢雲機、ラシード機、クラリッサ機、依神機、セージ機の一二〇m組へと続く。
 傭兵各機、八〇〇m級の敵艦の後方から近寄るつもりのようだ。
 対する戦艦はというと、猛烈な勢いで波をぶちわり、薙ぎ払われる大剣の切っ先の如くにその機首を傭兵達へと向けんとしていた。情報通り一〇秒で一八〇度回転する速度だ。横を向くのにかかる秒数は五秒程度か。
 実際に目の前で動かれると解るのだが、八〇〇m級の戦艦の回頭半径というのはとてつもなく大きい。船は一般に船尾の舵を支点に回頭するから、左舷側面五〇〇mの距離より後部を目指して飛ぶ傭兵達に余裕で届く。
 取り舵一杯三十五度? 知った事か! な勢いだが事前情報に十秒で百八十度回るとあるんだから仕方ない。きっとバグアの超技術。滑るように自重と抗力を無視して回る。まさに慣性制御。
「――突っ込んで来る模様。高度に注意を」
 南部は猛烈な水柱をあげながら横手から迫り来る超巨大な鉄の壁を目にしても無表情、無感動で言った。回頭旋回には特に警戒していたようだ。海面すれすれの現在位置だと薙ぎ払われる。しかし五十m以上だと撃たれる。敵艦は高さもかなりある。四十m以上あるか? 隙間の位置へと神経を使って上昇させる。
 同じく注意を払っていた鹿島、セージが高度を変更し、この事態は想定していなかったらしい他の多くのメンバーも慌てて上昇する。四十と五十の間。多くのKVはロールすれば翼がはみ出す狭さだ。
「‥‥この位置から挟撃は難しいかと」
 叢雲が言った。まぁ十秒で百八十回転する戦艦相手に低空KVの機動力で、一塊の編隊で向かって、後背から入ろうとするのは、ちょっと厳しい。後部へ辿り着くのは、そこが支点なので弾幕を越えてゆけばやれない事もないだろうが、そこから入るのは不可能だ。
「なかなか、厄介だな、海上というのも。一筋縄ではいかない、ね」
 ふむ、と唸って男が言った。どんな時でも余裕は失わない。アンノーン機、ジェット噴射ノズル核を操作し、迫り来る鋼鉄壁へと機首を向けるとロックせずに照準だけを向けて連射。怒涛の勢いで五百発の小型誘導弾が撃ち放たれ巨大戦艦へと突き刺さってゆく。船体に赤い防御障壁が高速で展開したが、誘導弾はそれよりも速く障壁の内部に飛びこみ、怒涛の爆裂を巻き起こしてゆく。
「く‥‥仕方ない、第二案だ!」
 鹿島が言った。左舷側からの突入となる。ブーストを発動させて加速する。傭兵各機一斉に攻撃を開始する。
「了解、ペガサス、エンゲージ!」
 白鐘機もブーストを発動、ベクタード・スラストで宙を滑って機首を回すと船尾左舷側の短距離大口径対空フェザー砲へとD‐02ライフルで弾丸を撃ち放つ。焔の閃光と共に飛びだした弾丸は螺旋に錐揉みながら空を裂いて真っ直ぐに飛び、赤壁が展開するよりも前に短距離フェザー砲を撃ち抜いた。
 叢雲機、ロヴィアタルは地上に撃てないのでK‐02でゆく。迫り来る船首側の長距離砲と短距離砲をロックオン。
「喰らい尽くしてやりなさい、WarWing4、FOX‐3!」
 発射。焔と共に五〇〇発の小型誘導弾が空にばらまかれて煙を噴出し音速を超えて飛ぶ。二門の砲座を包み込むように赤い障壁が一瞬だが次々に展開し、飛来した小型誘導弾と激突して猛烈な爆裂の嵐を巻き起こす。防がれた。
 ラシード機、キャンセラーの有効範囲は低空だと100mだが、回頭によっては入るので一応発動しておく。突っ込んで来る船首側の短距離砲をロック、赤壁が消えたのを確認しAAMを三連射。誘導弾が煙を噴出して飛び、再度展開した防御障壁に激突して爆炎の華が咲く。
 藤田機、SESエンハンサを発動、短距離砲をロックオン、タイミングをづらしてドゥオーモを発射。威力が増幅された百発の多弾頭誘導弾の嵐がフェザー砲へと襲いかかる。次々に展開した赤壁に激突して放電の嵐を巻き起こした。UK誘導弾を二連射、これも赤壁の前に散らされる。踏み込まないと通りそうにない。
 依神機、アリスシステムを機動する。「避けながら確実に当てる」ようにしたい所。双方共に彼我の能力差が結果を決める。マイクロブーストは発動するものとして、避けるには距離を取れば確率があがり、当てるには近づけば確率があがる。敵が突っ込んで来て、速度差が大きく、どの道逃れ難いなら重視すべきは後者か? 当てる為に距離が詰まるのを待ち、また詰める。機首を左舷側船首の短距離砲へと向けて飛ぶ。
 ソーニャ機、突入の意思。右舷からは入れなく、また死角も無さそうだが、事前に不破が言っていたように遠間で撃ってもよほどでなければ当たりそうにない。やはり行くのがベターだと判断する。ブースト、マイクロブースターを併発させて突っ込む。
「く、皆の足を引っ張る訳にはいかねーッスからね」
 一方重体の六堂機、ブーストを吹かして距離を離さんと飛ぶ、が、あまり離れると船首の対地砲に捕捉されそうだ。それに狙われないようにするには小回りに懐に飛び込む必要があり、そこは船首短距離砲の射程に回頭によっては入る。どう動くべきか、難しいな。対地砲に撃たれるよりは短距離の方がマシだと判断。受けても生き残る目があり、また狙いが他の味方にいけばそもそもに飛んでこない。軌道を変更して船の回頭半径内の端を目指して翻る。
 美空機は多機能型カメラを使って戦場の様子を撮影中。曰く今後の戦術の蓄積のためにも味方の戦術と敵の動きを記録にとどめることも必要と考えたようだ。煙幕を炊きたい所だが、それは最大射程距離の所で炸裂するので、低空の機動力だとそこに辿り着く前に消えるのであまり意味がない。六堂機に習って同様の機動を取る。
 セージ機、バトルフィッシュIIからの安全距離を保ちたいところ。BFIIに対して安全なのは砲が破壊されない限り、三千mよりも距離を置くか一千mよりも離れた高空しかない。開幕位置から既に虎口だ。近距離に入ってしまっている以上、逃れるには破壊するしかない。
「上等! 重体だから無理はしないが、無茶はするぜ!」
 セージ機、ロングレンジライフルで短距離砲へと狙って発砲。弾丸が展開した赤壁に激突し電撃のような火花を撒き散らしながら鬩ぎ合って木っ端に散る。
 唸りをあげて巨戦が回転し船体が迫り来る。中央左舷短距離砲、鹿島機へと紫色の光の嵐を飛ばす。鹿島機はブースト機動で宙を横滑りしながら回避してゆく。
 クラリッサ機、相対距離二一〇、PRMシステム機動、その精度を上昇させてゆく。中央左舷短距離フェザー砲をロックオンし螺旋誘導弾で二連射。
「WarWing3、FOX‐2!」
 焔と煙を巻きあげながらミサイルが空間を一瞬で貫いて飛ぶ。赤い障壁が展開し、しかしそれより前にその内部へと二発の誘導弾は飛びこんでいた。ドリルのついたミサイルが巨大砲に突き刺さり抉ってその内部で大爆発を巻き起こす。痛烈な打撃を与えた。だがまだ動いている。この戦艦の短距離砲はHWと同程度に頑丈。
「さあ、地獄の扉が開く時間だ‥‥!」
 他方、堺機、右舷中央の短距離砲へと狙いをつけていた。ロックサイトが赤く変わる。
「我らがいるかぎりここの通行料が貴様らの命だ! WarWing13、FOX‐3!」
 出し惜しみはしない、全弾放出、五〇〇発のK‐02小型誘導弾と一〇〇発のパンテオン誘導弾が嵐の如くに空間を埋め尽くして飛ぶ。防護の赤光が輝きK‐02誘導弾が悉く激突して木っ端に散る。その奥では一〇〇発のパンテオンが砲に喰らいついて次々に壮絶な爆裂を巻き起こしていた。クリティカルヒット、効果は抜群だ。爆炎の嵐が短距離対空フェザー砲を吹っ飛ばした。撃破。
 先に放ったライフル弾を追いかけるように飛んだ白鐘機、船尾左舷短距離砲をロックオン。螺旋誘導弾を三連射。豪速で飛んだ誘導弾が防御障壁を掻い潜り、砲に喰らいついて木っ端に消し飛ばす。撃破。
 一方、突っ込んで来た船首左舷短距離砲、ソーニャ機へとその大口径の砲口を向けている。閃光三連。轟音と共に紫の光波が飛びだした。
「行けーエルシアン!」
 ソーニャ機は突進しながらかわしてかわして一発が翼の端をかすって装甲を吹っ飛ばされながらも抜けた。なかなか速い。敵艦の上まできたソーニャ機、船首右舷短距離砲をロックオン、ドゥオーモを発射。百発の誘導弾が飛び、障壁よりも速くに電撃の嵐を巻き起こして砲を木っ端に吹っ飛ばした。ソーニャ機は機体を斜めに翼の端が甲板をこすらないように五十以上の高度へ出ないようにヨーイングで調節しながら旋回する。味方機が狙った穴を狙いたいが、角度的に厳しい。移動する。
 マイクロブーストで突撃した依神機、中央左舷の短距離対空砲へと迫る。相対距離一〇m、至近距離。とかく当てる。敵は既に三連射している、情報通りならここで潰せば反撃はこない。信じて度胸で勝負。視界一杯に広がった巨大砲をロックオン、AAEM三連射。
「WarWing12、FOX‐2!」
 即座に機体を斜めに傾けてヨーを使いながら旋回。勢い良く飛びだした誘導弾が展開する赤壁の内部に飛びこんで大爆発を巻き起こす。天鳥は赤い壁をこするように飛びながら抜けてゆく。蒼い激しいエネルギー爆発に呑まれた巨大砲は木っ端に散った。撃破。
 南部機、戦艦の前進速度、彼我のそれを比較し、砲台二機の射程に入らぬ様注意している。ブーストを発動し船首左舷短距離砲へと八〇mの距離まで詰めていた。ガンサイトに納めKA‐01を発射、さらにスラスターライフルで弾幕を叩き込む。大口径から放たれた砲撃と弾丸が赤壁の発生よりも速くに巨砲に炸裂し、爆砕して消し飛ばした。撃破。
 船の回頭が進み傭兵各機の下に鋼鉄の甲板が滑り込んでゆく。
「WarWing8、FOX‐2!」
 リン機、ロックオンキャンセラーを発動させつつ中央の大口径プロトン砲へと狙いをつけて誘導弾を発射。赤壁が展開して爆裂が巻き起こる。爆発を目印に本命のロケット弾を発射する。一発飛びこんでその巨大砲へ爆裂を巻き起こした。
 鹿島機、後部右舷短距離砲を目指してブースト機動で四〇〇m程を移動しロックオン、螺旋誘導弾を二連射しエニセイ砲弾を二発発射する。誘導弾と砲弾が空を裂いて飛び、砲に激突して爆発と共に吹っ飛ばした。撃破。
「GODSPEEDで、だ。無茶はせぬ様に、ね」
 アンノーン機船尾右舷長距離対空砲へとエニセイ砲弾を四連射し強射の元に粉砕している。ブーストで船上を突き抜け翻ると今度は船尾の大口径プロトン砲へと狙いを定めエニセイ砲弾をリロードしつつ七連射。次々に砲弾が直撃してゆき恐ろしい破壊力で爆砕する。
 甲板上。白鐘機は船尾左舷長距離へと狙いを定め螺旋弾頭誘導弾を連射し突撃しながらスラスターライフルで猛射。赤壁の内へと飛びこんだ誘導弾の爆裂と共に銃弾の嵐が一瞬で砲を呑み込み消し飛ばしてゆく。粉砕。
 叢雲はD‐3ミサイルポッドにて中央の大口径プロトン砲へと狙いを定め六十連射。高速で飛んだ誘導弾は今度は赤壁を突破し、次々に砲へと突き刺さってゆく。爆裂が砲の装甲を削り飛ばした。
 堺機、長距離対空砲を狙ってレーザーライフルでリロードしつつ二連射。直撃させてその装甲を削り取る。
 鹿島は周囲を見渡しどの砲が残っているのかをチェックしている。
「敵残存の砲は中央と船首の大口径砲二門、船首右舷左舷の長距離砲二門、船首の対地砲一門の計五門だ」
 敵の機動に意表を突かれた上に傭兵各機、動きがぎこちない者も見られるが、意外に順調な様子。
 ラシード機、鹿島からの報告を聞く。船の回頭は短距離対空砲が狙える位置で止まっているので、逆側へ突き抜けるには十数秒程必要そうである。低空ならば既に脅威は消滅しているようなので、翼が甲板をこすらないように機体を斜めにしつつ、ヨーを効かせて旋回。中央の大口径砲へと狙いを定めKA‐01で砲撃を一発撃ち放ち、AAMを二連射する。赤壁を突破して砲弾が突き刺さり、誘導弾が二連の爆裂して砲を吹き飛ばした。撃破。
 藤田機、エンハンサー継続、船首右舷長距離砲を狙いドゥオーモを撃ち放つ。猛烈な爆発が巻き起こった。クリティカルヒット。近距離から解き放たれた誘導弾は赤壁の内部に鋭く入り込み、激しい放電を巻き起こして砲を消し飛ばした。撃破。
 南部機、船首の大口径砲をロックすると肉薄し対艦ミサイル「共工」を二連射。誘導弾が焔を吹き一瞬でハイパーソニックまで加速し、赤壁を突破して砲に激突した。大爆発を巻き起こして消し飛ばす。効果抜群。撃破。
 クラリッサ機はPRMシステムを発動しドゥオーモと対艦ミサイル「共工」を船首左舷長距離砲へと撃ち放つ。百発のエネルギー爆裂と対艦誘導弾が炸裂し壮絶な破壊を撒き散らして消し飛ばした。撃破。
 依神機、砲は既に船首の対地砲以外は破壊されているようだ。船首を狙おうかと思ったが、戦艦はまたぐるりと高速で回頭を開始した。高速で船首が離れてゆく。船体に対してショルダーキャノンとAAEMを猛射し爆裂を巻き起こす。
「Crowsより各機へ。これより対艦攻撃を開始するッス!」
 六堂、ブースト空戦スタビライザーを発動、回頭しながら離れてゆく敵艦に向け五百発のK‐02誘導弾と四発のG‐01誘導弾を一点に目がけて叩き込む。誘導弾が音速を超えて一瞬で戦艦に喰らいつき、赤壁の内部で壮絶な爆裂を巻き起こした。手ごたえあり。六堂はさらに損傷箇所を目がけてブリューナク・レールガンを叩き込んでゆく。
(「いくらおおきくても‥‥いや、大きいからこそ狙いどころは絞らないとね」)
 ソーニャ機がブーストを併発させて翻った。六堂機が空けた大穴へと狙いをつけてロックオン。
「エルシアン、楔となりて貫け!」
 二連の対艦ミサイルが穴の中へと飛びこみ凶悪な大爆発を巻き起こした。クリティカルヒット。穴がさらに深くなってゆく。ソーニャ機はミサイルを撃ち放つと高空へと移動を開始する。
「どうした! 怪我人相手に逃げるのか?」
 戦艦は抵抗を諦め西に向かっているようだ。セージ機は逃げる巨艦をロックすると二百発のパンテオンと百発のドゥオーモを解き放った。総計三百発の誘導弾が一斉に戦艦に襲いかかり爆裂の嵐を巻き起こしてゆく。猛烈な破壊力。効果は絶対だ。
 傭兵達は高空にあがると各々、猛撃を加えてゆく。船体へ攻撃が集中する一方、ラシード機はブースト機動からパンテオンを対地砲へと叩き込んでおいた。
「太陽(フレア)に焼かれて落ちなさい」
 ソーニャが言った。エルシアンが太陽を背負って急降下する。
「今まで歓迎ありがとよ! 礼だ、存分に受け取れ!!」
 堺もまた言って急降下爆撃を仕掛ける。
「これで沈め!」
 鹿島機もそれに続き、三機からフレア弾とGプラズマ弾が次々に投下されてゆく。狙い違わずに命中し、百m単位で巨大な爆発の嵐が巻き起こった。
 しかし、
「くっそー‥‥相変わらず何て硬さしてんだ、この鯨は!」
 六堂が嘆いた。壮絶な破壊を叩き込んでいるにも関わらずまだまだ沈む気配が無い。やたら頑強だったバトルフィッシュの倍以上の硬さだ。遠距離でやりあえばあるいは、傭兵全機を叩き落とす程の性能を秘めていたのかもしれない。
「コレだけ撃ちこんでもまだ足りないってのかよ。だが、もう反撃は出来ないみたいだな」
 セージが言った。 砲を全部潰した後となっては一方的に殴りたい放題である。
 傭兵各機の猛撃が続く。
「豊後高田の海の底に沈んでる壱番艦の後を追わせてあげるわ、仲良く海底の藻屑になりなさい!」
 リンが言って満身創痍となったバトルフィッシュIIへとロケット弾の嵐を叩き込んだ。
 バトルフィッシュは頑強であったが、港へ逃げ戻る時間までは到底もつ筈もなく、ついにその一撃の前に浸水を抑えられなくなった。やがて海中に沈み、大爆発を巻き起こして天まで届く程の水柱をあげ、左右に割れながら伊予灘の底へと沈んでいった。
『何度でもきやがれ!! その度海に沈めてやる!』
 堺が外部スピーカに叫び、十五機のKV達はBFIIの最後を看取ると一機も欠ける事なく翼を翻し、基地へと帰還していったのだった。

●Misora report
 美空はBFIIとの交戦記録を纏め旅団HQへと提出した。以下はその報告書からの抜粋である。

・BFIIとの交戦に際し注意する事及び弱点

 注意点。
 低空より侵入せざるをえない場合、敵の回頭速度に注意である。
 今回は幸運により事なきを得たが、低空KVの場合、距離一千から降下しても敵に船首を合わされてしまう可能性が高い。一撃でKVを破壊するという海対地砲が最低でも三発は飛んで来るだろう。その接近方法には多角に分散して入り、砲を向けられた側は高空へ逃れるなど工夫が必要そうである。

 弱点。
 しかし一旦懐に入ってその短距離対空砲さえ潰してしまえば、後は単に硬いだけの的である。遠距離で撃ち合えばこのうえない脅威だが、この弱点がある以上、現状では欠陥兵器とすら呼べるレベルであろう。

 最後に。
 この致命的欠陥が明らかになった以上、次回は敵もなんらかの対策を打って来る事は確実と思われる。同型艦が出て来た際には注意されたし。
 

 報告は以上。