タイトル:ベルガンズ・サガ6マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/09 02:11

●オープニング本文


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――うんざりだ。こんな生き方。なんであいつが殺される必要があったんだよぉ。あんなに皆の為に頑張ってたのに、あいつが守ってたんだぞ、あの連中を! それを、なんで。

――うんざりだ。こんな生き方。地べたを這いずりまわって、必死にやって、必死にやるからこれ? ふざけるな。僕達は、なんなんだよ。

――こんな、こんな、適当に利用されて、踏みにじられて、虫けらみたいに生きるのは、もううんざりだ‥‥!


 火。
 赤。
 壊滅した都市。焔の海。
「ルミス、血迷うな。俺達は何の為に在った。思い出せ、お前は何の為にその外套を纏ったんだ。俺達は人類の為の剣だ。それが人類と敵対してどうする」
「人類の為? 人類の為? 人類の為?」
 白外套の少女はけたたましく笑い声をあげた。
「人類なんて名前の奴、何処に居るんだよクォリン‥‥! 僕が守りたかったのはそんなのじゃない! 奴等が、皆、壊したんだッ!!」
「だから殺したのか。悲しみに振り回されて、罪の無い人々を巻き込む程、脆かったのかお前は」
 少年は言う。
「俺も怨んだ。基地の連中を殺ったのは、まだ解る。だが何故、まったく無関係なこの街の人々を斬った。何故‥‥何故、殺した!」
「ハッ! こいつらが僕等の事なんかまったく考えないでへらへら笑っているからさ‥‥お前等の幸せの陰で誰が犠牲になっていたのか思い知らせてやるんだよ! これは死んでいった皆への供養だッ!!」
「貴様の八つ当たりの正当化に皆を利用するな‥‥ッ! あいつらは何の為に戦ったんだ? 何の為に死んでいったんだよ? その全てをお前は踏みにじるのか」
「君は馬鹿だ。まだ目を覚まさない。所詮お子様だね。僕等は利用されていたんだ。自分で戦いもしない癖に綺麗事ばかり唱えてその癖自分の為には下衆な手を使うあの連中と人類とやらにだ。僕は気づいたよ。僕は、僕が、使い潰されて死んでいった皆の無念と怨みを晴らしてやる!!」
「こんな事して、あいつらが喜ぶと思うのか」
「僕はとても今、気分が良いんだ。だから皆もきっとムシケラを潰せばスカっとしたと思うんだよ。ホントは絶対みんなぶっ殺したかった筈だッ!!!! だから喜ぶッ!」
 哄笑をあげてルミスは言った。
「ねぇクォリンッ?! 君もどうだい?! 君なら歓迎するよ! 君が強化人間になれば無敵だッ!!」
「‥‥‥‥ルミス」
「なんだい」
「今すぐ投降しろ」
「‥‥嫌だね」
「ならば斬るッ!!!!」
「酷いな。ずっと一緒に戦って来た仲間だろ。僕より人類とやらの方が大切なのかよ。それじゃあ聞くけど僕は人類じゃないのか?」
「都合の良い時だけそんな事をほざくのか貴様は‥‥ッ! どちらが大切だと? 貴様一人と百万の人々の未来が比較になるとでも思うのか‥‥!」
「‥‥そう‥‥ああ‥‥そう‥‥ああ、そう! あーそうッ!! なるほどね! 百万って誰だよ。そいつらが僕等に何をした! 良いよ、もう、もう良いよ、君はそういう奴だったな。死ぬまで自分を騙してお綺麗な思想を吼えてろッ!! そんなんじゃ人は生きていけないんだよ!!!!」
「お綺麗な思想だと? 貴様はとうとう俺達が集った旗まで侮辱するのか? 百万は百万だ。俺達は皆、生きている。俺達は皆、それぞれの人生があって、生きてるんだ。お前だって、それを守りたかったんじゃなかったのか?」
「クォリン、君は何を守る為に戦ってるんだ? 本当にその誰かの為か? 君が守っているものは、人間じゃなくて、君自身の思想に過ぎないんじゃないの? だって見知らぬ誰かの為になんでここまで犠牲に出来るんだよ! オーダーの皆でさえ、そんな感じだったよな。ウスギタナイ。エゴの塊だ」
「エゴ? 例えそれでも結果として誰かを助けられればそれで良いだろう。俺達は神か? 悪魔か? そんな上等な生き者か? 何故、そこまでを求める。何故、そんな程度も許せない。滅私なんてものが可能だと、信じているのか」
「ムシケラめ。僕は、貴様等が、気持ち悪くて仕方ないんだよッ!!」
「自分が到底出来もしない事を何故他人に求められる。お前だって人間だろ」
「僕は違う! もう違うッ!!!! 真っ白になれないなら全部真っ黒に塗り潰す!」
「痛みを盾に無関係の者にまで剣を突き刺して回り気に入らないから世界の全てをデストロイ、少しでも汚れちまったら許せないッ?!」
「そうだよ、世界の全てに僕等の痛みを思い知らせてやるんだッ!! そんなくだらない紛い物のムシケラども、全部叩き潰して消し飛ばしてやるッ!!!!」
「ふ、ざ、け、る、な、よ。半端な物を抱えて生きられない根性無しが例え完璧でなくとも少しでも良くしようと必死に生きてる人間達を掴まえてくだらないなんてほざいてんじゃねぇッ!!!! 知らしめたいなら詩でも詩え! 言葉は何の為にある! 何故斬った!」
「言葉を尽くした所で誰も本気で耳なんか傾けない! だから無視できないようにしてやったんだ!!」
「振り向かせられないからぶっ殺した? どれだけ勝手になれるんだ。お前は自分の痛みは嘆くのに自分の振りかざす刃が何を斬って、何を踏みにじっているかまるで見やしないんだな」
「うるさい屁理屈抜かすなクソガキ! 君の言う事なんて、僕には、何の役にも立たないッ! 君もずるいんだ、適当な事ばっか言いやがって、ぶっ殺してやるッ!!」
「お前が一番人の話聞いてないじゃないか‥‥来るかよ、ああ、そうかよ、来るかよ! 良いぜ、来なッ!! 俺もお前の刃が俺の首に届く前にお前を振り向かせられそうにない。何故、お前は俺の言葉を理解しない。何故、お前は俺の言葉を聞いてくれない。何故、止まってくれない。解るぜ、この無力感。解るぜ、この絶望感。解ったよ、解ったよ‥‥このノウタリンの馬鹿女ッ!! せめて俺の手でぶっ殺してやるッ!!!!」
 剣士の二人が激突し、数十の閃光を互いに応酬し、そして少女の大剣が宙へと弾き飛ばされた。少年が一瞬止まり、少女は短刀を抜刀様突き刺した。鮮血と共に倒れた少年を少女は憎悪を込めて滅多斬りにしKVが飛来して少女は飛び退いた。
「ルミス」
「あぁ、エドッ?! は、はははは、ははっ?! ねぇ貴方も僕と一緒にバグアの側へこないか?!」
「異星人は趣味じゃないんだ」
「ふぅん、下衆が趣味なのッ?!」
「俺にも欲しいものがあったんだよ。君が壊した。退きな。歩兵相手に簡単に負けるつもりはないよ?」
「‥‥二度と僕の前に現れるな!!」

 時は、流れる。


 ベルガ。
 極北の大地に真っ白な雪が降る。
 付き出た断崖の上の十字架、黒髭の墓の前に座るクォリンの背後に壮年の男が立った。
「‥‥エドか」
「うん、そいつの息子に頼まれてね」
「あんたの義娘は来ると思うか」
「ベルガを陥とすつもりなら、年内が最後の機会だろうね」
「一つ、聞いていいか?」
「聞くな」
「なら聞かん。準備は?」
「万端」
「じゃあ、殺るか」
「ああ」

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文


――これが最後かもしれない。悔いの残らない選択を。

――黒髭の墓の前にはまだ行けない。ベルガの戦陣で、自分はまだ何も成せていないから。

――‥‥それなりに長生きしてくれよ?

――裏切り不運は当たり前。
 だからって好きな物を諦められるような分別は持ち合わせてないの。

――なんや豪い厄介な敵っぽいけどまぁやるしかあらへん。

――「‥‥綱引き、デス‥‥ネ」

――私は私の仕事をこなすだけ‥‥

――「大きい分、狙い易い」

――「これが今の僕にできる最善です」

――ここで、終わりにしましょう。

――私は耐え難い喪失感と汚辱、絶望を知っている。だから守りたい。
 誰かが地獄を見ずに済むのなら、偽善だろうと構わない。

――例え、極々小さなものでも、酷く身勝手なものでも、日の目を見るようなものでなくとも。
 人は皆、自分の物語に生き、自分の剣を持ち、自分の意思で進む。

〜ベルガ史某章七節、傭兵達の言葉より〜




●ベルガの歌
 ベルガンズ・ノヴァ。
 極北のグリーンランドの大地に建てられた移民達の町。初めはレアメタル発掘にかすかな希望を賭けただけの貧乏な小さな町だった。
 やがて戦線の移動と共に町の北にUPCの陣が築かれ、それへの需要の為に町の景気は良くなった――無論、様々な問題を抱えつつも、だが‥‥歯車は軋みをあげつつも大きく回り、一年半の間に町の人口は随分と増えた。
 町外れの丘の上には十字架がある。百のキメラの襲撃があった際、俺の以外のUPCの全てが逃げ去ってもただ一人残って町の為に戦った男の墓だ。
 凍火の剣聖と十二人の傭兵達は男と共に踏みとどまり、百人の町の自警団達と共に戦いキメラの大群を町で迎え撃った。
 激戦だった。
 死亡者は九十名を超え、黒髭もその戦いで死んだ。
 霧島 和哉(gb1893)は鍛え抜いた装甲とAU‐KVに身を包み、盾を手に丘上を雪原から仰ぎ見た。思う。
 黒髭の墓の前にはまだ行けない。
 ベルガの戦陣で、自分はまだ何も成せていないから。
 クォリンに言う事もない。
 どのような事情を抱えていようと、自分にとっては一人の戦友以外の何者でもないから。
 ルミスに言う事もない。
 結局、自分には相容れない存在を叩き潰す以外の選択肢は存在しないのだから。
 霧島和哉、黒髭と共に百のキメラと戦った十二人の傭兵の一人、あの戦いの生き残りの一人。あれからずっと、何度もこの凍てついたベルガを守る戦に参加し続けて来た。
「まだ何も‥‥成せていない‥‥」
 金属の筒を翳す、眩い光が十時に伸びた。サンザクロス、秘められた言葉は「願いをかなえて」。
 動作に不備無し。少年は光を消して金属の筒を腰に納める。雪原の彼方を見やる。
 真っ白な雪の地平の彼方に、ベルガの戦陣はある。
 SESが水蒸気を発し雪原仕様のタイヤが唸りをあげて回転し始める。
「‥‥行こう、か」
 竜騎兵が一騎、北へと向かって雪原の道を装輪走行で駆けて行った。


「私は耐え難い喪失感と汚辱、絶望を知っている。だから守りたい。誰かが地獄を見ずに済むのなら、偽善だろうと構わない」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)はそう言った。
「裏切り不運は当たり前。だからって好きな物を諦められるような分別は持ち合わせてないの」
 赤毛のアグレアーブル(ga0095)はそう語る。
 戦場。命と命が、意志と意志が、願いと願いが激突する処。
 ルミスがベルガ戦陣に近いうちに来るという。
 それは予測だったが、クォリン・ロングフットやエドウィン・ブルースには確信に近いものがある様子だった。チューレに迫る段になった時、ベルガ戦陣が陥落しているのとしていないのとではかなりの差がある。陥とせるうちに陥としに来るだろうとの事だった。
(私は別に、彼女の言うことが狂気とも思わない‥‥)
 朧 幸乃(ga3078)はルミスの過去の話を少し聞いた時にそう思った。
(彼女は彼女なりの考えで、仲間に、世界に対しての思いから、彼女ができることをやっているだけ‥‥それが正しいか間違ってるかなんて、私が決めることじゃない‥‥私は私の仕事をこなすだけ‥‥)
 グローブ型の超機械を手に嵌めペンサイズの超機械八本を身体のあちこちに忍ばせておく。流石にこれだけあれば全部を破壊するのは無理か相当な時間がかかるだろう。
(周りの方がどう思うかも勝手‥‥ただ、熱くなる人がいるなら、私はその分、冷めるだけ‥‥)
 女は淡々と準備を進めつつ胸中でそう呟く。
(ルミスは敵。強者。厄介な障害)
 アグレアーブルはそう思う。
「執着や感慨はないけど、ダラダラ続けるのは趣味じゃない。向こうも結構キてるみたいだし、終わりにしましょう」
 女はそう言った。
 だが、終わらせようと思うだけで終わらせられれば苦労は無い。仕留めるに必要なカードと仕掛け、これで十分だろうか? そんな物は全能の神でもなければ確実には解らなかったが。
「クォリンはん」
 エレノア・ハーベスト(ga8856)は白外套の少年を見やると言った。
「あんさんの意思に任せますけど、ルミスはんは此処で討ちたいよって、出来たら全力で当たってほしいのが本音やわ」
 何やら少年には今回奥の手があるという。
「クォリンくん。薬が、どんなものか分からないけど‥‥薬を使うかどうかは、あなたの判断に、任せる」
 夢姫(gb5094)もまた言った。少女は思う。
(これが最後かもしれない)
 だから、悔いの残らない選択を、と。
(ルミスを止めてあげるのは‥‥彼女の絶望を終わらせて、休ませてあげるのは、クォリンくんの役目だと思うから。そして彼自身の気持ちのためにも‥‥)
 少年は相変わらずの無表情で二人を見ると、
「‥‥あんた達に言われるまでもないな。俺は俺の最善を尽くそう」
 淡々とそう言った。


 四機のF‐201Eが天空より飛来し、次々に積雪を巻き上げながら着陸する。搭乗者は宗太郎=シルエイト(ga4261)やムーグ・リード(gc0402)、アレックス(gb3735)や辻村 仁(ga9676)等だ。基地から移送して来たらしい。
「‥‥怪我、ヲ、シテ、シマイ‥‥スイマ、セン‥‥」
「無理はしないようにな」
 ムーグ、先の戦で重症を負ってしまっているようだった。戦陣に到着した四人は出迎えた面々と挨拶をかわし詰所へと向かう。しかし、うち一人、黄金の髪のシルエイトは別所へと向かうクォリンの側へと寄ると言った。
「あんたが剣聖か‥‥それなりに長生きしてくれよ?」
 と男はアレックス(gb3735)の背をこっそりと指差し、
「あんたのこと結構気に入ってるだろうから、死んだらきっと泣いちまうぜ?」
 そんな事を言った。クォリンはちらりとアレックスを見て、それからまたシルエイトを見上げた。無表情で、無言だった。少年はしばしの間、シルエイトを見ていたが、結局何も言わず、踵を返し白外套を翻して、彼方へと歩いて行った。
(‥‥返答無し、か)
 シルエイトはその小さな背を見送り嘆息したのだった。


 それからまた少し時が流れ、一日が終わり、二日が過ぎ、三日目。ついに陣内に警報が鳴り響いた。無線からバグア軍接近の報がもたらされる。その中にはルミスの姿も確認され、レイヴル率いる傭兵隊の面々は迎撃の為、出撃する。
「今回も、アグさんのこと、頼りに‥‥いいえ、アグさんと肩を並べて戦います‥‥っ」
「当てにしてるわよ」
 ぐっと拳を握って夢姫は言ってアグレアーブルがそれに応えている。
「うし‥‥その他大勢は気にするな、俺が蹴散らしとくからよ。さぁ、気張ってけ!」
「解った。頼むぜセンパイ」
 シルエイトはアレックスの背中を一つ叩いて言い、共に駆けだしてゆく。
 勝負の時が来た。
「出来れば救いたかったけれど‥‥」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は思う――相手に対してエゴを通すには二通りのやり方がある。言葉や態度で共感を得るか、力でねじ伏せるか。そのどちらもが今や難しい。
 少女も、少年も、救う術を持たない無力なシンはただただ機械的に任務達成のための作業をこなすだけ。
 シンは二丁のエネルギーガンを手に雪原へと仲間達と共に飛び出してゆく。
(これが今の僕にできる最善です)
 ルミスを殺す。
「タンクデサントを行うには少々人手が足りませんかね‥‥」
 辻村は重戦車に乗り込み機器を操作し前進させる。
「‥‥COP、KV、ハ、初めテ、デス、ネ‥‥落ち着き、マセン、ガ‥‥今、ハ、心、強イ、デス」
 重症を負っているムーグはF‐201Eに搭乗している。傷のせいで操縦はぎこちないが生身で戦うよりは随分とマシだ。
「乗り成れへん機体でどこまでやれるかやねぇ」
 エレノアと朧もまたF‐201Eに搭乗している。
 一機の戦車と四機のKVが駆動し九人の能力者達が戦陣を駆けてゆく。
「また‥‥ずいぶんと巨大なキメラを‥‥連れてきましたね」
 御鑑 藍(gc1485)は敵勢を見やってそう呟いた。
 雪原の彼方、白外套より焔の如き黒翼を出現させている少女が空を舞い、超巨大な鋼鉄の獅子頭竜翼人が大地を揺るがして迫り来る。その足元にはボディアーマーに身を固めた女が大剣を手に進み、二匹の小鬼が大盾を構えて接近して来ていた。
「今の状況は貴方が望んで作り出したのよ」
 ラウラは彼方のルミスを見やって言った。
「誰も貴方を無視できなくなった、脅威としてね」
(生きていれば、理不尽なことは、たくさんある一人で抱え込むのが辛いことも、やりきれないことも)
 夢姫はルミスを見て思った。
(でも、あなたには、苦しさを共有できる戦友がいたのに‥‥)
「話し合いで解り合えれば良かったのですが‥‥一度すれ違い、外れてしまうともう戻れない‥‥のでしょう‥‥か?」
 御鑑は思い、閃光と共に片刃の長剣を抜き放って言った。
「ここで、終わりにしましょう」
 アレックスは思う。例え、極々小さなものでも、酷く身勝手なものでも、日の目を見るようなものでなくとも。人は皆、自分の物語に生き、自分の剣を持ち、自分の意思で進む。ならば。
「決着を付けるぞ、ルミス・マクブルースッ!」
 青年は槍を手に雪原仕様のタイヤで雪上を駆けた。


「うちの相手は獅子頭やね、なんや豪い厄介な敵っぽいけどまぁやるしかあらへん」
 コクピットの中、エレノアが呟いている。各担当、ドラゴンレオへはエレノア機、朧機、エド機のKV三機とそして戦車の辻村が向かう。
 二匹の小鬼へはムーグの一機とラウラ、アグレアーブル、夢姫の三人が駆ける。
 ベルサリアへはシルエイト、御鑑、レイヴルが向かい、ルミスへはアレックス、霧島、シン、そして薬を飲んだクォリンが向かった。
 相対距離六〇〇、エレノア機は前進しながら体長10mを超える鋼鉄のドラゴンレオへとラプター誘導弾を連射。距離があるが当たる当たらないは気にしない。三連の誘導弾が解き放たれ宙へと煙を噴出し音速を超えて鋼の超巨大竜人へと襲いかかる。ドラゴンレオは前進しながらステップして全弾を回避し、誘導弾が地上に激突して爆裂し焔と共に水蒸気と土砂を吹き上げる。エレノア機はさらに前進しながらラプターを発射したがこれも外れ。
 距離が詰まってゆく。相対三〇〇に突入、エレノア機はハンタードッグミサイルに切り替え猛射しながら接近してゆく。朧も合わせてラプター誘導弾を一射。獅子頭人は前進しながら回避。
(デカイ割に速いキメラやね)
 女は胸中で呟く。やはり雑魚ではないらしい。
 歩兵達が加速する。先頭は長足クォリン。ドラゴンレオはクォリンへと巨大剣の切っ先を向けて光を集め、超巨大な円錐状の光波を撃ち放つ。
 少年は放たれた瞬間に瞬天速で斜め方向へと回避しながら雷光波を撃たんと接近するルミスへと携帯砲を向けネット弾を射出。砲弾が低空を舞うルミスへと炸裂し、網が展開してルミスはそれを剣で斬り払った。クォリンは構わずに砲を入れ変えながら追加で一発、二発と重ねてゆく。クォリンは三発目が命中した瞬間に瞬天速で後方に超加速。光波をかわしつつ空中のルミスを引っ張りひきずり降ろさんとする。三重の網にかけられて下方へ引かれつつもルミスは太刀を振り回して網を切断する。クォリンは引かれた慣性で距離が詰まったルミスへとリボルバーを向けて猛連射。ルミスは黒焔を噴出させて弾丸を弾きとばし、雷光波を撃ち返す。少年の姿が掻き消え、雪原に豪雷が突き刺さって大爆発が巻き起こった。
 その間にアグレアーブルが小鬼を射程へと捉えている。携帯砲で小鬼の一匹へと狙いを定めネット弾を射出。追いかけるように瞬天速で加速する。小鬼は飛来した砲弾へと盾を翳し、炸裂して網が展開して包み込まれた。
 逆サイド、迅雷で夢姫もまた射程距離へと詰めている。回復役なのでそれぞれルミスとベルサリアの近くに居ると予想していた。激突間際まで敵は全員固まっていたので間違いではない。携帯砲を向け網にかけられている小鬼へと更にネット弾を撃ち放つ。網の中でも小鬼は反応し多少鈍りながらも大盾を翳す。砲弾が炸裂してさらに網が小鬼を包みこんだ。
 夢姫、素早く網を引っ張る。小鬼が踏ん張る。パワーの勝負。夢姫、可憐な少女だが覚醒すれば体力がある。小鬼が夢姫の側に引きずられてたたらを踏み、二重の網にもつれて転倒する。
 アグレアーブルは隙を見て取ると黒猫拳銃を向け怒涛の勢いで猛射を開始。轟く銃声と共に弾丸が次々に飛び出し、転倒したイアトロンへと突き刺さって血飛沫をあげてゆく。
 もう一匹の小鬼が光を発生させ倒れている小鬼の治療を開始する。ラウラ、ムーグ機と共にその光を発生させているイアトロンへと相対一〇〇まで詰める。携帯砲を構え発射。見事命中させて網で小鬼を包みこむ。
 ムーグ機は巨大な腕を伸ばすとラウラから小鬼へと伸びている合金の綱を腕に巻きつける。
「‥‥綱引き、デス‥‥ネ」
 言いつつF‐201Eを駆動させ全力で引っ張る。十mを超える鋼鉄の巨人と1mと半ば程度の小鬼である。その質量差、比べ物にならない。網に包まれた小鬼が凄まじい勢いで引かれて宙を舞った。
「抜け出す余裕も回復する暇も与えない!」
 ラウラ、両断剣を発動、五発の貫通弾を装填したラグエルを向け五連射。赤光を纏った対FFコーティングの弾丸が小鬼に炸裂し次々に凶悪な破壊力を解き放った。小鬼の身が爆砕されて雪が赤く染まってゆく。ムーグ機がさらにレーザー機銃を向け光線を嵐の如くに猛射し、完全に粉砕した。撃破。
 ベルサリアは光を宙に曳きながら雪上を猛加速、夢姫に引かれているイアトロンの綱を断ち切っている。アグレアーブルとの間に入って腕を翳し円形フィールドを発生させ銃弾を弾き飛ばす。そのままアグレアーブルへと向かってゆき、アグレアーブルは前進しているシルエイトの進路にベルサリアの進路をぶつけるように横へ移動し誘導せんとする。
 シルエイトが槍を構えて迫り、ベルサリアは再度光を纏って加速する。
「こいよッ!!」
 シルエイト、読んでる。姿が掻き消えた瞬間に槍のリーチを活かして薙ぎ払う。ランスの穂先が唸りをあげて大剣を両手に構え上段に振り上げているベルサリアの脇腹を横打し、壮絶な衝撃力と共に爆炎を撒き散らす。ベルサリアは脇を打たれながらも踏み込み、そのままシルエイトの面を狙って打ち込みをかける。相討ち狙いだ。
 しかし、高速で踏み込み足場は雪で、シルエイトのパワーは並ではなかった。一歩踏み込んだ所で身が傾ぎ、大剣を振り降ろすよりも前に横へと女が吹き飛ばされてゆく。
 ベルサリアはそのまま雪の上を二度、三度回転してから起き上がり、シルエイトは槍を振り上げて女の右面より回り込むように詰めている。男が槍を突きだし、ベルサリアは左手を大剣から外して腕を交差させるように突き出した。フィールドの盾が発生し槍が激突して炎と共に弾かれ、逆サイドから雷光の如くに御鑑が入って翠閃を振り抜いた。弧を描くように放たれた刃がベルサリアの左足に直撃しズボンを切り裂いて血飛沫を舞わせる。シルエイトが右に回り込みながら槍で再度薙ぎ払い、御鑑もまた左に回り込みながら肩を狙って斬撃を放つ。ベルサリアは後退しながら左手をシルエイトの側へとかざし、シールドを発生させる。無理な態勢だが爆槍の一撃は絶対受けたくないらしい。御鑑はベルサリアの後背に入ると左肩を目がけて落雷の如く太刀を直撃させて強烈な衝撃力を叩きつける。ベルサリア、態勢が崩れている、防戦一方だ。迅雷で加速したレイヴルは超機械を翳し猛烈な勢いで電磁嵐を女へと発生させた。一気に沈めるつもりらしい。なおネットをベリサリアに切られた夢姫はその砲を捨てて小銃を取り出し、自身を回復させているイアトロンへと迅雷で踏み込み弾丸を猛射して叩き込んでいる。
 一方、辻村、クォリンへと光波を放ったドラゴンレオへと距離を詰め、その顔面へと砲門を回している。
 戦車の中、照準を合わせ発射。轟音と共に長大な主砲が焔を吹き砲弾が飛び出してゆく。素早くリロードして連射。二発の砲弾が獅子頭竜翼人の顔面に炸裂し大爆発を巻き起こした。
「大きい分、狙い易い」
 男は呟きつつ、戦車を後退させながらリロードする。焔を裂いて巨大キメラは辻村へと向かって動き出す。
 エド機のS‐01が低空より誘導弾を撃ち降ろしてレオへと叩き込んで爆裂させ、朧も戦車の辻村へと跳ばせないように上からハンタードッグ誘導弾を連射、二発を命中させて爆裂を巻き起こしてゆく。エレノア機も誘導弾を連射しながら速度を落とし、一発を命中させ、空中変形スタビライザーを発動させて大地に降り立つ。
(自分か、シンか、クォリンか。誰を狙う?)
 他方、アレックス、練力を全開に竜の紋章を蒼く輝かせながらルミスを観察し、その動きの先を読まんとする。
 網を切り裂いて払い焔を纏って銃弾を弾き返したルミスはベルサリアへと猛攻をかけているシルエイトへと四連の雷光波を撃ち放った。
 シルエイト、側面天空、斜め上からの爆雷波、視界外だ。壮絶な破壊力を秘めた雷撃が男の身を貫き、次々に直撃して壮絶な爆裂を巻き起こしてゆく。クリーンヒット。負傷率七割七分。耐えきった。タフだな。
 シルエイトが爆雷によろめき、御鑑がベルサリアへと牽制気味に渾身の力を込めて大振りに太刀を振り降ろし、ベルサリアは一撃を貰うのを覚悟で全力攻撃、狙い澄ましてシルエイトの首へと大剣を閃光の如くに一閃させる。シンとレイヴルは練成治療を連打し、シルエイトは態勢を崩しつつも身を捻る。御鑑の太刀がベルサリアを直撃して強打し、ベルサリアの大剣がシルエイトの首を横からその半ばをかっ捌いて抜け、鮮血が霧の如くに噴出しシルエイトの瞳から光が消えてゆき、練成治療が効果を発揮して傷口がふさがり光が戻り、態勢を立て直したシルエイトは爆槍を繰り出した。ベルサリアは後退しながらシルエイトの槍をシールドで防がんとしたが発生が遅れて槍に突き刺されて爆炎に吹っ飛ばされてゆく。動揺したらしい。知性が仇になる。
 霧島、アレックス、上空のルミスは射程外。霧島は竜の紋章を緑に輝かせつつ意識をややシンへと傾ける。今までの経験上、雷光波よりも雷撃を宿した斬撃の方が威力が高い。
(‥‥あくまで勝ちに来るなら‥‥治療役を接近戦で一気に沈めようとする筈‥‥)
 そう予測する。
 アグレアーブルは拳銃をリロードし小鬼へと六連射、夢姫もまた小銃ルナで射撃する。十字砲火。イアトロンは大盾を翳し自身へと回復を連打して耐えていたが、さらにラウラとムーグからの射撃を受けてガードと回復の上から削り殺されて倒れた。撃破。
 エレノアはレーザー機銃で射撃しながらハイランダーを抜刀して踏み込み、ドラゴンレオはステップしてレーザーを回避し、エレノア機へと顔を向け口から光線を吐き出す。恐ろしく速い。エレノア機が光に飲み込まれ、爆裂と共に装甲を融解させてゆく。
 雪原上を機動する辻村機は再び射程にレオを捉え照準を合わせると主砲を爆音と共に撃ち放つ。巨大な砲弾が空を切り裂いて飛び、獅子頭の額に激突して爆裂を巻き起こした。
 エド機が機銃を猛射し、朧機が三連の誘導弾を撃ち降ろす。獅子頭は徹甲弾の嵐を飛び退いて回避し、誘導弾の一発もスライドして避け、一発を斬り払い、一発に直撃を受けて爆裂を巻き起こす。
 エレノア機が光を裂いて踏み込みハイランダーを振り降ろして獅子頭人の身に巨大な刀身を叩き込んだ。キメラが反撃に太刀を繰り出しエレノア機は後退しながらハイランダーで受ける。損傷率五割三分。
 シルエイトと御鑑は挟んで猛攻を継続中。
 シルエイト、短剣を抜き放つとベルサリアの懐へと潜り込まんと踏み込む。ベルサリアは即応して大剣で薙ぎ払った。破壊力があるので動きが非常に警戒されている。シルエイトは短剣で受けながら後退する。シルエイトが開幕にベルサリアを大剣の間合いに踏みこませなかったように、リーチの長い武器の使い手は達人になればなるほど簡単には敵を懐に入れさせない。踏み込むには一撃をかわすすか封じるかして入らないといけない。もしくは攻撃を受けながらも強引に捻じ伏せて押し入るか。ベルサリア・バルカ、大雑把な攻撃は無い。振りの多い斬撃はあるが鋭い。強引に入るのは少し危険だ。
 御鑑は回り込みながら五連の剣閃を巻き起こし順調にベルサリアの装甲を削り取ってゆく。
 ルミス、天空より大剣を振るい轟音と共に激しく明滅する雷光波を撃ち放ち、それを追うように黒い焔を全身に纏い焔の翼を噴出させ矢の如くに急降下する。向かう先はシン・ブラウ・シュッツ。
「貴女と直接対峙するのは初めてですね」
 シン、言いつつ霧島へと向かって駆けている。霧島もまたシンへと向かって駆け間に飛び込んで大盾を翳す。壮絶な破壊力を秘めた雷光波と大盾が激突して光を撒き散らす。
 相対距離四〇、電波増強を発動、エネルギーガンを掲げ青白い電波をルミスへと向かって飛ばす。光が超防御の焔の障壁に炸裂し、次の瞬間、あっさりとふっと掻き消えた。
 ルミスの背から翼が消え、滑空の勢いのまま雪の大地へと降下してゆく。ルミスは目を見開きすぐにまた全身から焔の障壁と翼を噴出させ上空へと上がらんとし、シンもまた即座に再度虚実空間を撃ち放った。女の身から焔が消え、滑空した勢いのまま雪の大地に激突して転がる。
 ルミスが背から焔を噴出して跳躍し、蒼白い電波が炸裂して掻き消え地面に落ちる。ルミスが目を見開いてシンを見た。
「油断があろうが無かろうが関係ないんですよ。何度でも消しますから」
 男は言いつつ電波を連射しながら接近してゆく。シン・ブラウ・シュッツ、敵の殺し方を知っている。
 戦闘とは狩りなのだとかつて男は言った。確かに、狩人、狩る側だ。強い力を持ち、そして使い方を知っている。一度捉えれば逃げ道を残さない。必殺の意志。殺しにかかると強い。
「貴様――っ!」
 ルミスが血走った目を向けてシンへと狂ったように雷光波を連射する。間に霧島が入って全撃をブロックし、槍を構えてアレックスが、光の剣と長剣を構えてクォリンが加速し突っ込んでゆく。
 剣の間合い。
 白い外套に身を包んだ二人の剣士が一刹那のうちに無数に剣閃を応酬する。圧倒的にクォリンの方が多い。嵐の如き十六連斬。天地を貫く破壊力。
(闇を切り裂く稲光。アイツは、最後まで諦めなかった)
 アレックスはAU‐KVからスパークを巻き起こし装輪走行で突っ込むと練力を全開に爆槍を繰り出した。
「勝手に絶望してる手前ェには、その大剣は相応しくない!」
 穂先が鮮血を噴出しているルミスの大剣を捉え大気を揺るがす超爆発を巻き起こした。よろめいているルミスの手より大剣が弾き飛ばされ宙へと回転しながら吹っ飛んでゆく。
「‥‥嘘だ」
 ルミスは半ば茫然としたように己の手を見詰めた。
「終わりだ、ルミス」
 アレックスが言った。黄金の焔がAU‐KVを纏った身を包みこむ。
――ランス『エクスプロード』、イグニッション。
 例えこの槍が折れてもいい。
 こいつを止める。終わらせるんだ。
「‥‥嘘だッ!!」
 ルミスが血走った目を向け短剣を抜き放ち刀身に黒光を纏わせる。
「終わりだ、ルミスッ! 俺の、『槍(たましい)』をくれてやる!」
 青年が叫んで踏み込み、全霊を込めて槍を繰り出した。


 アレックスの槍が炸裂して胸に大穴をあけてルミスは吹き飛び、雪上へと仰向けに転がってゆく。追撃にクォリンが走りルミスは血を吐きながら上体を起き上がらせ呟いた。
 少年は一言いって無造作に長剣を振るい少女の首を刎ね飛ばして雪に沈めた。
 ベルサリアはルミスが倒れたのを見て迅雷で加速して退却し、最後に残ったドラゴンレオもまた傭兵達の総攻撃を受けて沈んだ。
 他の箇所へと攻撃を仕掛けていたバグア軍も総撤退に移り、今回もまたベルガ戦陣は無事に守り通されたのだった。


 戦後、霧島はクォリンへとルミスの短剣を拾って渡した。少年はそれを受け取り、そして二、三歩歩いてから吐血して倒れ還らぬ人となった。
 ルミスとクォリンの遺体はヨリシロ化防止の為に火で葬られる事になった。
「彼女の答えは間違いだったけど、よく知る人に正して貰えたのが救いだった」
 ラウラはエドウィンへと遺品を渡しながらそう言った。ラウラはそう、思いたかった。
「‥‥バカよね、私達人間って」
 女は最後にそう、ぽつりと呟いたのだった。


 ベルガの町に雪が降り、全てを真っ白に埋め尽くしてゆく。二〇一〇年が過ぎ去り、そして夜が明け新しい年が来た。
 人々はまた動き出し、戦乱の時代ながらも、それぞれの人生を生きてゆく。
 その命が尽きるまで。



 了