●オープニング本文
前回のリプレイを見る 北極海と北大西洋の狭間に浮かぶ地球最大の島グリーンランド。
雪原の地下には膨大な量のレアメタルが眠っていると言われており、実際、今までに、また現在進行形で掘りだされている量には莫大なものがある。
このレアメタルにはバグア側も確保せんとしていて、実際地下に手を伸ばし確保していると思われた。
地球人類側は氷の大地の南側を、バグア側は北を占拠している。地上も地下も、構図はあまり変わらないらしい。
北上する地球人類側と南下するバグア側はこれまでに幾度も激突している。
二〇〇九年十二月の『地下の戦い』の第一戦はバグア側に軍配があがり調査団は全滅した。この時、バグア側を指揮していた古臭い学生服に身を包んだ銀髪の少女はディアナという名前の強化人間だという事が今日では知られている。朱色(あけいろ)のディアナ、ハーモニウムと呼ばれる集団の一人であるらしい。
その直後、UPCは傭兵を組織して送り込みディアナ率いる一団と戦闘。これを追い詰めて敗走させた。
UPCは地下領域を拡大してレアメタルの採集に勤しみ、莫大な収益をあげていった。
二〇一〇年の二月にはファルコンを名乗るやはりハーモニウムの一人が襲撃をかけて来たが、やはりULT傭兵の活躍によって撃退され、ファルコンは逃走に移るも追撃を受けて討たれた。
そして二〇一〇年八月、既に地下の前線で戦いが起こるのは日常茶飯事の事だったが、また一つ節目の戦いが始まろうとしていた。
●
「まるで夏の夜に飛ぶ羽虫だな」
薄暗い地下の、全身から赤い燐光を立ち上らせる学生服姿の少女が呟いた。その手に持つ長大な斧槍が爆熱の色に輝く。
傭兵の男女が気合いの叫びをあげながらディアナの左右へと槍を突き出し振り降ろす。銀髪のディアナはその姿をふっと霞ませると、瞬間移動したが如き速さで女傭兵の側面を抜けながら斧刃でその首をふっ飛ばし、男の傭兵が再び振り上げた槍が振り降ろされるよりも前に穂先を喉に突きこんで捻り殺した。
「‥‥何故、焼かれると解っていて火に飛び込むのだろうな?」
十四の死体が転がる地下ホール、ただ一人の生き残りとなった傭兵の男に少女は顔を向け呟いた。呟きながら、近づいてゆく。
「死ぬのは解っていただろう? なら何の為に? 何を見ている? 何をその瞳に映している? 何を思っているのだろう? ねぇ君‥‥何故、君は戦うんだい? 命を燃やして。それは命を賭けるに足る理由かい?」
男は近づいて来る血染めの女に対し後ずさるとSMGをフルオートに入れて薙ぎ払った。
「そう」
ディアナの姿が消えて紅蓮の斧が一閃され男の身が真っ二つにされて崩れ落ちる。
「御休み、夏のムシケラ」
ふっとその身から赤光が消えた。
「御見事、また一段と強くなってるね」
ぱちぱちと手を叩いて少年が言った。
「‥‥まだ足りない‥‥これでは、この前の連中全員を相手には、勝てない‥‥」
「そんな君にお仕事だ」
少年が言った。
「UPCの前線陣を一つ潰して来いってさ」
少女は少年を見ると「そうか」と呟いた。
「サルヴァドル・バルカ、君は何故、戦うんだ?」
「うーん、ディアナ、君はどうなんだい?」
「‥‥解らない」
銀髪の少女は首を振った。
「何故、私はここに居て、何故、私は戦っているんだろう?」
ディアナは無表情で淡々と言う。
「私は何処から来て、何処へ向かっているんだ?」
「虫ってのは死ぬ為に火に飛び込むのではないよ」
サルヴァドルは言った。
「行けば死ぬという事が解ってないのさ。見えちゃいないんだ。彼等は基本、生きる為に光に向かう」
「君の目には何か見えているか?」
「君の任務に僕も付き合えば、まぁ、ちったぁ勝てる目が増えるんじゃないかな? って事くらいかな」
ディアナはサルヴァドルを見る。
「君もムシケラか」
「君がそうであるならね」
少年は口端を上げて笑い、次にそれを消した。
「――立ち位置の問題だ」
サルヴァドルは言う。
「どういう因果か、どうしてこうなったか、記憶に残されていないけれども、僕等が今居る位置は『ハーモニウム』だ。僕等が強化人間である以上、この位置は、まぁ動けないだろうね。エミタを埋め込まれてるあちら側の――最後の希望とやらの強化人間達がULTから動けないのと同じ事さ。僕等の場合、厄介な事は『ハーモニウム』の先生がたには逆らえない、という事かな。それをやると、きっと遠からず死ぬと見るね。では僕等が幸せになる為にはどうすれば良いのか?」
サルヴァドルはパンと両手を合わせる、
「潰せばよろしい。ご命令に従い地球人類を。か細い糸だけれども、他に比べればそれがもっとも太い」
少年はにこりと笑う。
「僕の幸せはちょっと変わってるけど可愛い女の子と一緒に楽しく暮らす事だよ。僕にとっては、命を賭けるに値するね」
「そうか‥‥‥‥君には愛する者がいたのか。それでは益々死ねないな‥‥無理に私に付き合う事はないぞ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ご心配どうも」
さっぱり伝わっていないのか、それとも遠まわしに御断り入れてるのか、悩むサルヴァドルである。前者である可能性が高い気がするが、後者である可能性も捨てきれない。いずれにせよ言える事は、どちらであっても彼にとって救いようがない。
「でも、君の心配は、いらぬ心配だね。勝てば良いんだよ勝てば。僕等二人ならよほど強いのが来なければなんとかなるさ。君が死ぬと僕は悲しい」
「そうか‥‥有難う」
「ねぇ、ディアナ。ディアナは僕が死んだら悲しいかい?」
少女はサルヴァドルを見ると言った。
「解らない」
青い宝石のような、美しくも冷たい、無機質な瞳が少年を見ている。
「悲しい、というのは、どういう感じなんだ? よく、解らないんだ」
●
爆雷が、爆ぜた。
「敵襲ー! 敵襲ー!」
連続して放たれる電磁波の嵐が、UPCの地下陣地を次々に薙ぎ払ってゆく。
「あっはっはー! 僕の名前はサルヴァドル・バルカ! ハーモニウムの強化人間さっ! あーあー、ニンゲンの諸君らに告ぐ! 僕の幸せの為にここから退けぇッ!! 退かなきゃぶっ殺すッ!!!!」
黒のボディアーマーに身を包んだ少年が大剣を振るって雷の波動を無数に巻き起こし次々に施設を爆砕する。
「なんだぁあのバカ餓鬼はッ?! 舐めてんのか?! しかし、なんつー威力だ! 発電所でも詰まってんのかクソッタレッ!!」
「名乗ってたろ! 強化人間だよッ! 俺達じゃ無理だ!」
「後退だッ! 後退ーッ!! 退け退けっ! 無駄死にするなッ!!」
やがて非能力者の守備隊員達が後退し、入れ替わりに傭兵達が陣の南方より入る事になる。
●リプレイ本文
「何事も無く雇用期間が終われば良かったんだけど‥‥そうもいかなかったみたいだね」
敵襲の報を聞いた蒼河 拓人(
gb2873)が言った。
「最近のガキは無闇にテンション高いッスねー。まあ、俺も人の事をとやかく言える少年時代を送った訳じゃ無いッスけど」
と六堂源治(
ga8154)。報告によれば虎頭キメラを率いる少年少女が大暴れしているらしい。
「今度は少年少女が相手か‥‥ちっとやり辛いな」
館山 西土朗(
gb8573)は苦笑を洩らして言った。甘いのかもしれないが、やりにくい相手というのはいるものだ。
「ハーモニウムの強化人間って名乗ったのか?」
アレックス(
gb3735)が取りかける。ベルガが一段落した為、こちらの守備任務についていたらしい。
「らしいね‥‥サルヴァドル‥‥って人と‥‥後は‥‥虎頭人が十体に‥‥学生服姿の‥‥女の子、一人‥‥」
頷き答えるのは相棒の霧島 和哉(
gb1893)だ。彼もまたこちらに参加していたらしい。
「今回はまた団体さんで来たねー」
M2(
ga8024)が言った。彼はカンパネラの強化人間と虎頭人達とは以前に交戦した事がある。
「数が多い。長引くと不利かな‥‥」
鳳覚羅(
gb3095)はそう言った。
「また強化人間に虎頭か‥‥前回は苦労したケド、今回も一筋縄じゃいかせてくれねェんだろーな」
ヤナギ・エリューナク(
gb5107)が呟いた。彼も交戦経験があった。前の状態でもかなりの強敵だった。弱くなる、という事は恐らくないだろうから、さらに強敵になっているに違いない。
「何にしても、負ける訳にはいかないね」
M2はそう言った。
「よし、気合い入れてくとすっか!」
とヤナギ。
「行こうか。無粋な乱入者を叩き出そう」
アンチシペイターライフルを担ぎ蒼河 拓人(
gb2873)が言った。
傭兵達はその言葉に頷くと地下空洞の戦陣へと駆ける。
(「ハーモニウムは私たちと同じ‥‥だから、放っておくわけにはいかない‥‥」)
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)は坑道を駆けつつ胸中で呟いた。
雪原の地下深くの空気は寒く、薄暗く、遠くから爆音が響いていた。
●
「さて始めましょうか‥‥」
地下空洞の戦陣、その塹壕まで一行が入った時、天宮(
gb4665)が言った。アナライザー『真理の目』を起動して周囲の分析に務めんとしている。六堂は大太刀を抜き放った。獅子牡丹の刃が薄闇に鈍く輝く。ヤナギとシャーリィはそれぞれ閃光手榴弾に細工をした。なおシャーリィのピンを抜いてから何秒、とする事は可能だが、投擲してから何秒、とするのは無理だった。ピンを抜く以外で作動するようにする調整は分を超える。ピンを抜いて2.5秒と1秒に設定しておく。
「ディアナの懐に飛び込んだ瞬間に閃光手榴弾を炸裂させます‥‥私が踏み込むのが合図です」
ドラグーンの少女は仲間達にそう周知した。
戦闘開始。
(「行くぜ」)
ヤナギは身ぶりで味方に合図すると塹壕の陰から彼方へと向けて閃光手榴弾を投擲した。強化人間の少年が即応し剣を振るって雷撃波を放つ。雷と榴弾が激突して南と北の狭間で猛烈な爆音と閃光が吹き荒れた。
ヤナギは暗視スコープを装着し、十人の傭兵達が一斉に塹壕から飛びだす。
鈍名 レイジ(
ga8428)、ソニックを届かせるには少し距離がある。射程が足りないので塹壕は使えない。距離を詰めにかかる。
(「‥‥あの斧槍使い‥‥朱色のディアナだっけか? ここにいればまた逢う、そんな気はしていた」)
鳳、突撃銃を構えている少女へと一瞥を送ってから、防護塔の陰で敵からの射線を切るように斜めに前進する。
蒼河は飛びだすタイミングを計っている。
鹿島 綾(
gb4549)は前進、六堂もまた太刀を構えてサルヴァドルへと駆ける。八葉 白雪(
gb2228)が真白、虎頭の一匹へとリボルバーで狙いをつけると射撃しながら前進してゆく。
夢姫(
gb5094)は最も東の四番目の塔へと向かい、アレックス、館山もそれを追う。
(「洗脳されてる連中とやりあうってなぁ‥‥気持ちのイイもんじゃねぇな‥‥やっぱりよ!!」)
天原大地(
gb5927)は胸中で叫びつつ抜刀した太刀を手に前進。
M2は三番目の塔へと向かって駆け、シャーリィは聖剣を構えて前進し、霧島は中央を突撃する。
「あまり余力がありませんので一気に行きます」
天宮は言いつつライフルを構え、タイガーヘッドへと発砲しながら前進してゆく。
対するバグア側、十匹の虎頭人達が一斉に突撃しながら光線を猛射し、サルヴァドルが雷撃波を放ち、ディアナが突撃銃を構えて弾丸を猛射した。
猛烈な光線と雷撃波と銃弾が交差する。
鈍名へ虎頭人ABが顎を開き、その咥内から光線を連射する。鈍名は虎頭人の頭部に意識を集中させて攻撃方向を予測する。男は駆けつつ迫り来る光線の一発かわし、二発かわし、三発、四発とすり抜けるようにかわしざま大剣を振り上げる。裂帛の気合と共に振り降ろし音速の衝撃波を撃ち放った。二連の衝撃波が唸りをあげて飛びそれぞれAの頭部と脚部に激突する。
鹿島へとCDから四連の光線が迫り来る。一発をかわすも三発が身に突き刺さり、その身に猛烈な破壊力が炸裂する。負傷率一割二分。非常に頑強。光を突き破ってサルヴァドル目指し駆ける。
虎頭EFが真白へと四連の猛撃を飛ばす。真白から放たれた二連の銃弾が虎頭人の身をぶちぬいて鮮血を噴出させ、虎頭人からの二発が虚空を貫き二発が女の身に炸裂した。真白、負傷率二分。非常に頑健だ。
虎頭Gが顎を開いて二連の紅光を六堂へと放つ。六堂は突進しながら一発をかわすも一発の光がその身を貫く。強い衝撃。負傷率五分。タフな男だ。鹿島と共にサルヴァドルへと迫る。
天原へと虎頭人Hから二連の光線が飛ぶ。男は素早く斜め前方へと踏み込んで一発を回避。熱波が虚空を貫いてゆく。しかし一発が直撃してその身へと破壊を叩きつけた。負傷一割。
天宮はライフルで虎頭人Iへと狙いを定めて二連射する。虎頭人は突進しながら光線を二連射し弾丸の一発をかわし一発に身を穿たれる。天宮は一発を避けるも一発に撃ち抜かれて負傷率一割五分。天宮はライフルを背に納め大鎌を抜き放つ。
霧島は虎頭Jから襲い来る二連の光線に対しサザンクロスを振るって切り払い、受ける。吹き散らした。天下に無双の硬さ。生身で止められる者はそうそういない。
サルヴァドルは突撃しながら鈍名へと二連の雷光波を飛ばす。まさしく雷光の速度。鈍名、避けられない。凶悪な破壊力を秘めた電撃が爆裂した。負傷率二割四分。
ディアナは前進しながらシャーリィへと突撃銃を猛射している。フルオートに入れて三点バースト三連射。唸りをあげて飛んだ弾丸の嵐がシャーリィの装甲をぶちぬき、その奥の身に突き刺さってゆく。負傷率五割三分。ちょっときついか。距離が詰まるとディアナは突撃銃を背に納め、斧槍を背から取り出し構え、突っ込んで来る。
その攻防の間にヤナギ・エリューナク、塹壕を駆けあがり光を纏って最西の塔へと向かった。入口を潜り内部まで瞬間移動したが如き速度で到達する。内部に螺旋の階段があった。見上げ、屋上を目指して階段を駆け上ってゆく。
鳳はディアナへと距離を詰めている。
蒼河は敵味方の射撃が開始されたのと同時に塹壕から飛びだし、西から二番目の防衛塔へと向かう。
M2は防衛塔内に入って螺旋の階段を駆け上っている。夢姫もまた迅雷で素早く防衛塔の内部に入り階段を駆け上がって屋上へと辿りついた。息をつきつつ少女は周囲を見回す。出入り口の付近に砲が立てかけられているのに気づいた。これが守備隊が言っていた無反動砲だろうか。素早く五本程度をまとめて抱え持つと屋上の端へと急ぐ。
四番目の塔の南側ではアレックスが駆けつけて待機している。頭上を見上げていると夢姫が顔を出して来た。声をあげ手を振る。急いでいるので少女はまとめて五本投下しようとしたが、ふと言葉が脳裏をかすめた。
(「‥‥これ、物凄く危険物だよね?」)
超絶破壊力の爆発物を十mの高さから落下させて渡すその作戦、良い度胸だ傭兵。
「き、気をつけてね!」
夢姫は注意の声を発しつつ一本づつ無反動砲を投下してゆく。心臓がバクバクものだが、まぁアレックスなら万一爆発して最悪五連発誘爆してもエミタエネルギーが乗ってなければ死にはすまい。
アレックスは投下された無反動砲を次々としっかりと受け取り、地面に降ろしてゆく。無事に五本降ろし終えた。
最西の塔には館山が向かい、同様に屋上へと登りきったヤナギから無反動砲を投下してもらい受け取っている。取り損ねて地面に激突し大爆発といった事もなく無事に塔下への移動を成功させていた。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず‥‥と」
館山は無反動砲を担ぎ塔のサイドへと走る。こちらの虎狩りの準備は整ったようだ。
一方では、塔を登り切り無反動砲を確保したM2は縁から塔下へと身を乗り出し射撃を開始せんとしていた。
塔の東、地上では傭兵とキメラと強化人間が既に激突している。
「随分勝手を言ったみてぇじゃねぇか!」
鈍名は剣を構え先頭に立って突っ込んで来るサルヴァドルに対し真っ向から大剣で打ち込みを仕掛けた。振り降ろされた剣と受けに掲げられた剣が激突して火花を散らし、轟音と共に猛烈な衝撃を巻き起こす。
「何が――アンタの幸せだってんだ?」
鈍名は押し合いながら火花の散る眼光でサルヴァドルの眼を射抜く。眼光がぶつかり、力が膨れ上がって側面より光と共に轟音が爆裂した。シャーリィの閃光手榴弾が爆ぜたのだ。右耳と右目をやられた鈍名は後方へと飛び退き、虎頭人達が動きを一瞬止める。
「アンタ達がバグアに制圧される事だねッ!」
サルヴァドルが吼え、稲妻の如くに鈍名へと踏み込み、次いで切り返して飛び退き頭上に腕を翳した。真紅の光が円状に発生し飛来した砲弾と激突して猛烈な爆発を巻き起こす。
(「‥‥上に目でもついてるのかい!」)
塔上より無反動砲を撃ち放ったM2は舌打ちして撃ち放った砲を捨て、後退。次の砲を取りにかかる。鹿島はバリアを張ったサルヴァドルの表情に注意を払いながら天槍で突きかかる。サルヴァドルは素早く身を捌いてかわし、鹿島へと反撃の斬撃を振り降ろす。速い。稲妻の如くに走った剣が鹿島を縦に叩き斬って抜ける。
「はい、そうですかって退きさがれると思ってんのか?」
鈍名が言って大剣を振りかざし再度、踏み込む。
「それが勝手は百も承知!」
サルヴァドルは今度はそれに対し雷光波を撃ち放った。爆雷の衝撃波が鈍名を直撃して猛烈な爆裂を巻き起こす。
「だから、やられても恨みゃしないさ。でも、僕は負けないよ。死にたくなけりゃ退きな!!」
「んじゃ、俺達の幸せの為にも、退いて貰おうか!」
新たな声が放り投げられた。六堂は言葉と共に大太刀に爆熱の輝きを宿して突き出す。鹿島はサルヴァドルの腰部を狙ってウリエルを噴出し、鈍名が爆雷を裂いて飛びだし斬りつける。天原は太刀を収め拳を固め流し斬りを発動させ踏み込んだ。同時の攻撃に対しサルヴァドルはその姿を霞ませ消えた。迅雷。高速で後方へと飛び退いて回避。入れ替わるように閃光の空白から立ち直った虎頭ABCDGHの六匹が鈍らせつつも爪を振りかざして突撃して来る。
塔を登り切った蒼河は無反動を屋上の端に集める。縁から身を乗り出し下の状況を確認。中央の塔と塔の通路で敵味方が激突している事を無線に連絡する。強化人間は既に動いている。蒼河は状況を伝えつつ閃光手榴弾のピンを二つ抜いた。炸裂まで後三十秒。
「俺達も退く訳にはいかねぇ――お互いが譲れない想いがあんなら、ぶつかるしかない。本気でぶつかって、スジ通しきった奴が、想いを貫き通せる。お前にゃ、それができるッスか?」
虎頭へと大太刀を嵐の如くに繰り出して血華を咲き乱れさせながら六堂がサルヴァドルへと言い、鹿島が流し斬りで虎頭を切り裂きながら脇を抜けてサルヴァドルへと向かい、鈍名が虎頭の爪をかわしざまにコンユンクシオを叩き込む。天原は再度抜刀すると虎頭へと連斬を叩き込んだ。
「可不可を聞いてるなら叩き潰してやると答えるね。覚悟を聞いてるなら僕等と君等が普段やってる事はなんだと答える。斬り殺して来た命に懸けて、お互い命張ってんだ、折り込み済みだろッ!」
サルヴァドルが吼え、再度向かって来るへと大剣を構える。鹿島、サルヴァドルはバリアを消している。
(「持続型ではない?」)
確証は無いが、余裕も無い。練力を全開に解き放ち、二段撃を発動、右手の槍と左の光剣で嵐の如くに斬りかかる。サルヴァドルは槍を身を捻ってかわし、左の光剣に腰部を切り裂かれつつも一撃を鹿島へと叩き込む。二匹の虎人が抜けた鹿島のがら空きの後背へと迫り、天原が拳銃を抜いて弾丸を叩き込んだ。血飛沫が舞うと共に、もう一匹へと天空から飛来した砲弾が激突して大爆発を巻き起こした。M2の砲撃だ。銃弾を受けた虎頭人が天原へと突撃し、爆撃を受けた虎頭人は身を焦がしつつ飛び退き頭上を仰ぎ見ると咆哮と共にM2へと光線を連射した。M2は素早く後ろに倒れ込むように転がって閃光を回避する。光が先まで顔のあった部分を貫いて抜け天上に激突して石片を降り注がせた。M2は次の無反動砲を取りに向かう。
少し時を巻き戻して他方、霧島はサルヴァドルや虎頭人達と共に突っ込んで来るディアナへと向かっていた。少女はサルヴァドルと並走して先頭に立っている。
霧島が咆哮を発動させてスパークと共に氷霧の剣で斬りかかり、ディアナはハルベルトの穂先に爆熱の輝きを巻き起こし豪速で突きを放つ。リーチに差がある。カウンター。穂先とAU‐KVの胸部が激突し虎頭とは桁違いの壮絶な衝撃が巻き起こった。一突きで負傷一割。剣聖破りの黒光剣や風神の断空刃に勝る破壊力。どうやら敵は霧島の相棒と五分に張れるレベルらしい。流石に踏み込めずに霧島が押し戻され、その隙に竜の翼でシャーリィ・アッシュが飛び込んだ。
「以前遭遇した時は剣を交えなかったが‥‥今回は違う。止めさせてもらうぞ」
既に閃光手榴弾のピンを抜いている。肉薄すると同時に閃光手榴弾を放り置き再度竜の翼で横に飛ぶ。ディアナが後退しながら薙ぎ払った斧槍がシャーリィの脇を掠めて虚空を切り裂いてゆく。かわした。
瞬間、閃光手榴弾が爆音を巻きあげながら炸裂し光を周囲へと解き放った。突撃して来ていた虎頭達の目が眩み、その動きが一瞬止まる。霧島は籠手を眼前に翳して光をガード、まだ白兵戦に入っていない鳳、真白、天宮も目を閉じて防いだ。
シャーリィは全身からスパークを巻き起こすと大地へと脚部から咆哮を叩きつけて反転する。
「ディアナ、お前は何故戦う。復讐か? それとも他の何かか?」
シャーリィはディアナへと飛び込むと言葉と共に聖剣を袈裟に一閃した。銀の刃が目を眩ませている少女へと炸裂し、その身を切り裂いて血飛沫を舞わせる。鳳が巨大な竜斬斧をディアナの身へと叩き込んで猛烈な破壊力を炸裂させ、真白が足の先へと太刀を振り降ろして叩きつけた。霧島がスパークと共に踏み込んで氷霧の剣を突き出す。命中。ディアナの身が彼方へと吹っ飛んでゆく。
天宮、虎頭の背後に回りたいが、敵は真っ直ぐ天宮に向かってくる。迎え撃つように大鎌を一閃させる。刃が炸裂して血飛沫が舞った。虎人が踏み込み左右の爪でラッシュをかける。右、左、右、三連打。速い。鎌の柄で流してかわし、状態を逸らしてかわし、後退してかわす。鎌を持つ手を滑らせ短く持つと回転させて薙ぎ払う。刃が虎の毛皮を切り裂き赤い色を噴出させる、刃を返し振り下ろす。命中。虎の動き自体は天宮よりも速かったが、閃光が効いている。押せる。
真白、霧島へと三匹の虎人が同様にラッシュをかけて来る。真白は二匹の虎頭人の爪撃を後退しながら二刀を用いて打ち払う。鳳が回り込んで虎頭へと袈裟斬りから流し斬りに繋ぐ連撃を叩き込んだ。すかさず真白が反撃の連撃を叩き込む。竜斬斧と血桜の斬撃によって虎頭Fはあっという間に切り刻まれて血河に沈んだ。鳳は一匹を真白に任せてディアナへと向かう。
霧島、虎頭からの三連撃を氷霧の剣で止めて止めて止める。ディアナに向かいたい所だが、目の前の虎は霧島を標的にしている模様。スパークを再度発生させると剣を叩き込んで北へと吹き飛ばし、ディアナへと駆ける。
「私、は‥‥」
ディアナはゆらりと立ち上がり斧槍を構える。シャーリィが聖剣を振り上げて迫り打ち込む。ディアナの姿がふっと掻き消えた。外れた。横手に瞬間移動したが如き速度でスライドした少女は再度大地を蹴るとシャーリィへと迫り斧槍を振り下ろす。目が眩んでいても速い。シャーリィは咄嗟に聖剣を掲げて斧刃を受け止めた。剣持つ手首が嫌な音を立て、凄まじい衝撃が全身を貫いてゆく。
「解らない」
「‥‥解らない、だと?」
鍔迫り合いの中に霧島が突っ込みディアナへと落雷の如く閃光剣を振り下ろす。少女の姿が再びふっと掻き消えた。
「虎サン、こんにちは‥‥っと」
無反動砲を降ろし終えたヤナギは登場から残りのそれを抱えて屋上を駆け、一つ隣の塔の東縁まで赴くと下へと狙いをつける。下はかなり大乱戦になっている。味方が敵と白兵戦に入る前に撃ちたかったが、なかなか敵の展開も素早いようだ。よく狙いをつけて撃ち放つ。轟音と共に砲弾が飛び出し、六堂と斬り合っている虎頭の背に激突して大爆発を巻き起こした。空のチューブを放り捨て、次の無反動砲を取り、六堂の太刀を受けてよろめいている所へ再度撃ち降ろす。大爆発が虎人の身を撃ち砕き吹き飛ばした。撃破。
夢姫もまた塔の屋上の縁へと無反動砲を抱えて向かうと、霧島が吹っ飛ばした虎頭Jへと狙いをつけ轟音と共に撃ち降ろした。猛烈な破壊力を秘めた砲弾が唸りをあげて飛び、虎頭に直撃して大爆発を巻き起こす。空になったチューブを捨て再び構える。
「当たれよ、SES無反動砲・超改‥‥発射ッ!」
塔の北側へと回ったアレックスは竜の爪と瞳を発動させ、夢姫からの爆撃を受けた虎人へと狙いを定めて撃ち放つ。砲弾が虎人を直撃し壮絶な爆裂を巻き起こした。アレックスは二本目を担ぎ、夢姫からの二発目を受けている虎人へと続けて発射。大爆発の嵐を受けて虎頭がJ砕けながら吹っ飛んでゆく。
「良い威力だ‥‥実用化されねぇかな、これ」
そんな事を呟きつつまた新たな砲を取り出し、虎頭へと砲撃を加えてゆく。
蒼河は無線に連絡を入れつつ、塔の上から身を乗り出すと制圧射撃を発動、アンチシペイターライフルで猛射を加えてゆく。五発の弾丸を次々に虎頭達に叩き込み、素早くリロードして再度五連発、ディアナには当たったがサルヴァドルにはかわされた。
M2は引き続き強弾撃を発動、塔上から制圧射撃で動きの止まった虎頭へと狙いをつけて次々に無反動砲で爆撃して爆炎の嵐を巻き起こし、塔の北側に回った館山も無反動砲で虎頭のその足元へと強弾撃を発動させ猛射を加える。次いでM2の爆炎を受けた虎頭へと天宮が大鎌で猛連撃を叩き込み、すかさず館山が砲弾を叩き込んで大爆発を巻き起こして一匹を粉砕した。
「悪いねお姉さん、くたばれ!」
サルヴァドルは咆哮をあげると大剣を竜巻の如くに振るった。速い。鹿島を切り裂いた。血飛沫をあげながら女が倒れる。
「解らないから――問う。君達は何を見る?」
ディアナは高速で機動してシャーリィの横手に回り込むと紅蓮の光を斧槍に宿し、烈火の如くに刃乱を巻き起こした。シャーリィの装甲が泥のように切り裂かれて漏電と共に爆発が巻き起こる。凄まじい破壊力。ドラグーンの少女が倒れた。剣が大地に落ちて転がる。
(「以前より強くなっているか‥‥」)
鳳は胸中で呟く。あの連撃をまともに受ければ十秒もたない。シャーリィへと斬りかかったディアナへと竜の翼で突撃した霧島が猛然と左右の剣で斬りかかる。氷霧の剣がディアナを切り裂き血飛沫を噴出させ、サザンクロスがその身を灼き斬った。
「あえて答えるなら未来」
鳳が踏み込み、猛然と長柄戦斧を袈裟に振り下ろした。ディアナは掻き消えてかわし、霧島が翼で追走する。斧が大地を叩き割り鳳は目でその動きを追いつつベオウルフを遠心力で加速させ身を回転させながら薙ぎ払う。完全に間合いの外、しかし空間が断裂し、猛烈な衝撃が巻き起こった。ソニックブームだ。唸りをあげて飛んだ音速波が少女の身に炸裂し、霧島の剣が再びディアナを斬り裂く。
「逆に問おう‥‥君には何が見えている?」
鳳がディアナへと迫る。
「どちらにせよ君達の行き先は奈落だ‥‥同情するよ!」
鳳が踏み込みざまにベオウルフを振り降ろし、ディアナがハルベルトを逆袈裟に振るい、斧刃と斧刃が激突して猛烈な衝撃を巻き起こした。
天原は虎頭と激しく斬り合っている。真白は二刀で烈閃を巻き起こし虎頭人を血河に沈めた。ディアナへと向かう。
ヤナギとM2が無反動砲を次々に連射し、鈍名と六堂がその援護を受けつつ剣を振るって一匹づつ虎頭を沈める。
「君等を殺して僕等は道の先に行くぜぇ‥‥!」
サルヴァドルが剣閃を巻き起こし六堂へと爆雷波を放ちながら迅雷で突っ込む。六堂を雷の嵐が呑み込み、次いで迫り来た大剣が袈裟に一閃され男が沈んだ。
「この距離ならバリアは貼れねぇだろう?」
虎頭を斬り捨てた天原はその隙に太刀を収め拳を固めて練力を解放し再び踏み込んだ。今度は肉薄し至近まで入る。
「歯ァ食いしばれッッ!!!!」
両断剣を発動し拳を少年の頭部へと叩き込む。サルヴァドルは一瞬、驚いたように目を見開いたが、避けずに天原の鎧の隙間、首元へと剣を伸ばす。拳が叩き込まれてフォースフィールドが展開してそれを受け止め、押しあてられた刃が引かれて血飛沫が噴き上がった。クリティカルヒット。鮮血を噴出しながら天原が倒れる。『目ぇ覚ましやがれ』というメッセージは届かなかったのか、若しくは承知の上で斬り捨てたのか。恐らく後者。
鳳、霧島と打ち合うディアナは動きを加速すると斧刃をかわす。
「何も、見えないッ!!」
ディアナは叫び紅蓮の烈閃を巻き起こして鳳を叩き斬った。血飛沫を吹き上げながら鳳が倒れるも相討つ形で繰りだされたベオウルフがディアナへと叩き込まれ、霧島の剣が少女を斬り裂いてゆく。
「八葉流七の型‥‥六花血招」
真白は迫りながら二刀を収めると投擲用の小太刀を二本取り出した。雪兎を先んじて投擲し、その後方に重ねるように八咫を隠し投げる。黒い閃光の如く飛んだ刃をディアナは身を逸らして回避。真白は素早く踏み込むと二刀を抜刀様に斬りつけた。少女の姿が掻き消える。真白は練力を解き放つと駆け二刀を振るって音速の衝撃波を巻き起こした。音速の刃がディアナの移動先へと飛び。次々に直撃してゆく。その全身から鮮血が吹き出した。霧島が竜の翼で迫る。
蒼河、戦場は相変わらず固まっている。二発の閃光手榴弾を北側へと投擲。無反動砲を構える。
館山、取り合えず接近戦は無反動砲を撃ち切ってからだろうか。虎頭の動きの止まった所へと夢姫とアレックスと共同して無反動砲を撃ち放ち、空のチューブを捨て再度担いでまた撃ち放ち、三人で砲弾の雨を叩き込んで一匹を爆砕し消し飛ばす。
「ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション!」
アレックスが全身からスパークを巻き起こして吼えた。
「派手に吹き飛びやがれ、終焉の一撃(ファイナル・ストライク)ッ!」
竜の翼で加速して爆槍の四連打を叩き込み虎人を爆砕した。天宮は最後の一匹の虎頭の背後へと回り込むと大鎌を振るって猛撃を加えた。バックアタック。唸りをあげて刃が炸裂しズタズタに背を切り裂かれた虎頭が鮮血を噴出し瞳から光を消して倒れる。
「このっ‥‥!」
サルヴァドルは迅雷で突っ込みつつディアナへと迫る霧島へと爆雷の衝撃波を解き放った。霧島はサザンクロスを掲げて防御を固める。爆雷が吹き荒れ、少年が霧島へと踏み込み大剣を嵐の如くに振るった。ドラグーンの強固な装甲が削られてゆく。ディアナもまた爆熱の輝きと共に霧島へと猛撃を加えた。紅蓮の斧槍がドラグーンを切り裂いて爆裂と共に叩き伏せた。霧島が倒れる。
「‥‥なんだとっ?」
最後のドラグーンが相棒が倒れる姿に目を疑いつつも駆ける。
「待て! 俺はノアとAgのトモダチだ。アイツらとの『約束』なんでな、一応言っておくぞ」
アレックスが言った。
「あいつらは俺達と戦いたくないと言った。その道を選んだ。お前達はどうだ?」
「一応名前は知ってるね。君は彼等の友人なのか?」
サルヴァドルがアレックスを見、片手で剣を構え直す。
「君がそのとき生きていたら彼等の墓前に花を添えてやってくれ。ただ、僕はそういう死に方は御免だ」
拒絶の言葉を述べると懐から何かを取り出して投擲し、間髪入れずに撃ち抜かれて爆音と共に閃光を撒き散らした。真白の狙撃だ。
光の中でも強化人間達は北の出口を目指して瞬間移動したが如き速度で駆け、蒼河が投擲していた二発の閃光手榴弾が爆音と共に猛烈な光を撒き散らして再び少年少女を呑み込んだ。蒼河はサルヴァドルの脚を狙って無反動砲を撃ち放ち、真白は弓矢を取り出すと同様に足を狙って矢を放った。
猛烈な破壊力を秘めた砲弾がサルヴァドルの脚に激突して大爆発を巻き起こし、兵破の矢がさらに突き刺さって少年の片足を吹き飛ばす。サルヴァドルが勢いのまま倒れ、大地に転がった。蒼河はさらにライフルに貫通弾を装填し取り出すと手足を狙って弾丸を撃ちこみ、制圧射撃を叩き込んでゆく。
「――サルヴァドル」
「止まるなッ! 僕が殺すぞッ!!」
サルヴァドルは弾丸に撃たれつつも言い、振り向いたディアナへと雷撃波を飛ばした。少女はそれを再び加速してかわすと塹壕を越えて北へと駆けてゆく。M2が最後の無反動砲をサルヴァドルへと撃ち放つ。少年は振り向きざまに手を翳し赤壁を展開した。猛烈な爆発が巻き起こる。M2は拳銃を素早く取りだすと両手で構えて猛連射する。
(「キメラ相手に戦うのとは、やはり違う‥‥」)
夢姫は塔上からそれを見下ろし、剣と盾を構えて飛び降りた。抵抗が無いと言えば嘘になる。しかし生きるために、守るために戦うと決めた。諸々、覚悟の上で、傭兵になった。故に、全力で、止める。
「大切な人を亡くして悲しむ人が、一人でも減るように‥‥!」
着地すると身を起こし剣を構えるサルヴァドルへと向かう。
同様に、塔から飛び降りたヤナギが太刀を、鈍名が大剣を、アレックスが槍を構えて駆け、天宮がライフルで射撃し館山が探査の目を発動させて超機械から電磁嵐を撃ち放つ。
「あの子、随分と愛されているのね‥‥それで幸せかどうかは、解らないけれど」
真白が言って弓を収めつつ踏み込み二刀を抜刀様に音速波の嵐を解き放った。サルヴァドルは真紅の結界を張り続けながら起き上がり、天宮の四連の銃弾と館山の四連の電磁波を受け止める。真紅のバリアが明滅して五発を受けた所で掻き消え、銃弾と電磁嵐が少年を貫き呑み込み、音速波が唸りをあげて飛んでその身を打った。
炎のドラグーンが爆槍を突き込み、ヤナギ、夢姫、鈍名がそれに合わせて仕掛ける。穂先が炸裂して壮絶な大爆烈が巻き起こり、少年の身が揺らいだ所へヤナギが逆袈裟に太刀を振り上げてかっさばき、夢姫が回り込んで刹那を発動させて銀色の直刀を彗星と化して突き込み、鈍名が落雷の如くに剛剣を少年の肩に叩き込んだ。
サルヴァドルは太刀で斬られ、剣に突かれ、槍で爆砕され、剛剣を受けながらも牙を剥いて吼え、剣を腰だめに前に踏み込むと体当たりするように鈍名の腹へと大剣の切っ先をぶちこんだ。大剣の切っ先と頑強な鎧が激突して火花を散らし猛烈な衝撃を巻き起こして男の身を後方に吹っ飛ばし沈め、猛攻を受け続けて血塗れになりながらもアレックスへと三段の太刀を叩き込み猛烈な衝撃を巻き起こしてゆく。負傷率三割七分。
しかしサルヴァドルの足掻きもそこまでだった。五連の太刀と剣を受け爆槍が五度、炸裂した。いかな強化人間でも耐えられる攻撃ではない。少年は炎に吹き飛ばされて大地に沈んだ。
「俺達の、勝ちだな‥‥お前もこっちに――」
アレックスは仰向けに地に倒れているサルヴァドルへと近づくと言葉を投げかけ、途中で止めた。
「どうしたの?」
夢姫の言葉に青年は首を振った。
「もう、死んでる」
最後の一片まで燃やして戦っていたらしい。
戦後、館山は蘇生術を用いて倒れた者達の手当てに回った。
再び目を開いた鳳は鮮血に染まった地下陣を見まわし、
「彼らも本来ならば‥‥いや‥‥是非も無しか」
呟き、首を振った。
陣は守られた。
人類側の勝利だ。
「他人を想う事が出来る奴には、話が通じると思ったんだけどね‥‥」
鹿島が呟いた。
「洗脳されてた‥‥んだよな?」
天原が呟いた。
「大元はきっと。だが――」
六堂は死んだ少年の眼光を思いだして呟いた。
「あれは、操られて戦ってる奴の眼じゃなかったッス」
地下空洞の空気は寒く淀んでいる。
「ああいうの、後どれくらいるんだ‥‥? 俺等と、大差ないと感じさせやがる。やり辛いぜ」
鈍名が呟いた。
「それでも毎度戦うしかないってのはよ‥‥馬鹿らしいったらないぜ」
こんな戦が何処まで続くのか。
前からそうだ。それでも男は剣を取り続けてきた。仲間と共有する時を壊されたくないからだ。
守るべきものがあるなら、戦わなくてはならない。敗北は全てを殺戮する。
しかし、
「馬鹿らしいったらないぜ‥‥」
鈍名の呟きが地下の空洞に響いていった。
きっと空では今日も赤い星が輝いている。
了