●リプレイ本文
広大な砂漠へ向かうには、それなりの準備などが必要である。それは、能力者にとっても同じである。ましてや、それに同行する者の中には一般人が加わっているのだから、慎重な準備が必要だった。
ここは、目的地のオアシスから遠く離れた砂漠の民が住む村。ロバート・夏(gz0451)は、村の外で「ようこそ! 傭兵諸君」と書かれた看板を持って立っていた。依頼を受けてくれた傭兵達とは、ここで待ち合わせをしているのだ。
「さて、今回はどんな奴等がくるんだかな」
それほど間を空けずに、遠く地平線から砂煙をあげて向かってくる車両が見えた。
―――
村の中に一軒しかない宿屋に、傭兵達は招かれた。
「すまんが、ちょっと待っててくれ。依頼主の二人がそろそろ戻ってくるはずなんだが」
ロバートは宿屋のロビーで傭兵達を待たせると、自分は宿屋から出て行った。そして、戻ってきた彼は女性二人と一緒だった。
「悪い、悪い、待たせた様だな。彼女らが今回の依頼主だ」
「お待たせして申し訳ありません。私の名前はマリア・ケミカーです」
もう一人の女性が自己紹介をしようと前に出ると、傭兵の中に居たトゥリム(
gc6022)に気が付いた。
「あら? トゥリムさん。お久しぶりね。また会えて嬉しいわ」
マリアは、ついつい自己紹介を忘れて愛想を振りまいてしまう。それをマリアCが肘を小突いて、注意する。
「あ‥‥ごめんなさい。私はマリア。貴方方と同じ能力者よ。ところで、私は依頼主ではないわよ? ボブさんの方じゃないかしら」
バタン!
宿屋の扉が大きな音を立てて開かれ、一人の男性が息を切らせて入ってきた。
「遅参失礼致します‥‥」
諸事情で遅れてやってきた終夜・無月(
ga3084)だった。彼は、息を整えると、二人のマリアに歩み寄り、
「やぁ‥‥また会えて嬉しいですよ‥‥」
微笑みながら、二人のマリアに挨拶を済ませると、他の傭兵達と同じテーブルの席に着く。このどさくさで、ロバートが依頼主である事が軽く流されていた。結局、女性二人が依頼主である様な雰囲気のまま、一行は砂漠へと出発した。
●暑くとも熱く 赤兎馬流ドッキリ
砂漠を200km進むと、そこにはポツンと大きなコンテナ車が待っていた。
「ここから先は、普通の車じゃ無理だ。別の方法で進むぞ、みんな降りてくれ」
ロバートが傭兵達に指示して、準備を始める。コンテナ車から四人の男が降りてきて、彼らも準備を始める。砂漠に並び始めた物を見て、不審に思った紅苑(
gc7057)が思い切って一人の男に尋ねた。
「あの、どうやって砂漠を進むのですか?」
「あ、説明受けてないの? ボブの旦那もまったく‥‥。そこにあるのは、スノーモービルを改造した『デザートモービル』って乗り物だ。これが四台あるんで、ボク達が君達を引っ張っていってあげるよ。君達のはコンテナに立掛けてあるから、好きなの使って」
そのやり取りを見ていた蕾霧(
gc7044)が、コンテナの側面に立掛けてある道具を手に取り、悩みはじめる。
「スキー板に、スノーボード‥‥?」
それを見て、慌ててロバートが駆け寄ってくる。
「すまん! 言ってなかった! この四人は、『エトセトラ』の『赤兎馬』ってチームのメンバーだ。あっちから‥‥劉、姫、司馬、黄だ。こいつらの得意分野は『操縦』だ」
今更ではあったが、ロバートからの説明がなされた。
デザートモービルで、スキー板やスノボーを付けた傭兵を牽引して、砂漠を進む予定。防塵装備として、ゴーグルとマスクを支給し、各自しっかり装着。そして、振り分けメンバーは、
劉班 大型デザートモービル使用 後部座席 マリアC 牽引 ロバート、マリア・16
姫班 牽引 紅苑、蕾霧
司馬班 牽引 トゥリム、終夜
黄班 牽引 シクル・ハーツ(
gc1986)、獅堂 梓(
gc2346)
それを聞いた面々は、色々聞きたい事もあったものの‥‥何しろ暑い砂漠‥‥とにかく先に早く進みたいという思いで、流されるように準備を整えた。
「準備できましたよ」
獅堂が全員の準備を完了したことを報告する。と‥‥黄が問題発言を発する。
「ここからオアシスまで、約200kmで、一時間くらいで到着予定です。しっかり掴まってくださいね」
「‥‥? 一時間で200km!!」
シクルの言葉が聞こえたはずだが、聞こえないフリの如きタイミングで強制発進!
その後、時速200kmを超える絶叫マシン宛らのスピードレースが続いていた。たぶん、文句を言っている者も居たようだが、マスクと猛スピードの中、その声は砂漠の砂にしか届いていなかった‥‥
●心の安らぎ無きオアシス
オアシスから少し離れた場所。そこからオアシスを監視する影が見え隠れする。元々危険と考えられている場所であった為、即座には踏み込まず十分な周辺調査をしているのだ。
「蕾霧、何か収穫はあります?」
タクティカルゴーグルの望遠機能を使って、紅苑がオアシスの周囲を偵察している。そこから距離を空けた場所で、蕾霧も監視をしていた。
「特にはないな」
蕾霧はオアシス周辺及び気象条件の調査もしており、砂嵐の危険性が無い事も含めての報告だ。
「砂漠の表面ちょっとおかしくないですか?」
シクルが指摘したのは、オアシスの周辺に点在していた『砂の窪み』であった。大きさは大した大きさでもないが、自然に出来た物でもなさそうである。
しかし、このまま距離を保ったまま監視をしても、何も進展できないと判断し、オアシスへと向かう事になった。
終夜は単独で探査の眼を使用しての周辺の捜索、獅堂とトゥリムは、共に隠密潜行でよりオアシスに近付いての捜索、シクル、蕾霧・紅苑ペアは、それぞれオアシスの中へと慎重に進んでいく。先に発見した『砂の窪み』は、何も反応はなく怪しい物としつつも、そのままにしおいた。マリアCの護衛はロバートとマリアが担当し、オアシスにはまだ近寄っていない。
「人影です」
トゥリムが、通信で報告をあげる。彼女の覗く軍用双眼鏡には、一人オアシスに座り込む人影を捉えている。外套を纏い、顔まですっぽり覆っているため、顔までは確認できない。その通信を聞いて、マリアCが駆け出してしまう。
「マリア! 一人では危ないわ」
(やれやれ‥‥やっぱりこうなるのか)
駆け出したマリアCを追って、マリアとロバートもオアシスへと向かう。
―――膠着状態が続いている
トゥリムが発見した人影は、確かにマリアCの夫であった。そして、彼の足元には、様々な物が乱雑に埋められていた。宝石、自動車、航空機などの破片‥‥そして、真っ白なコンテナ。それは間違いなく、ロバートが探しているコンテナであった。
(うちのコンテナ使って誘き出された‥‥って事かね〜やっぱり)
誰も一言も発しないまま、膠着状態は続いていた。マリアCやマリアもその場に居るが、マリアCが最初に一言を発しただけで、皆が黙ったままだ。
――「あなたに私がわかる?」――
それがマリアCの言葉だ。相手から先に情報を引き出すという作戦の下、マリアと共に考えた質問だった。
「オマエは、このカラダのツマという存在」
男は長い思考の末、やっと答えを出したという感じであった。マリアCの表情もかなり険しくなっている。それを見守るマリアもかなり神経を張り詰めている。マリアCが下手に動けば、それを制止するのは自分の役目と考えているからだ。同じマリアとして‥‥
「マリアさん‥‥大丈夫かなぁ」
トゥリムが心配そうにマリアを見つめている。面識があるが故、トゥリムにとってはマリア・16の方が気に掛かるのだ。
「わざわざここにコンテナを移動させたのは何故?」
シクルが、その雰囲気感じてなのか、話題をコンテナへと変える。コンテナの回収もまた目的のひとつである。
「これか? ここにあるモノはスベテ、エサをアツメルためのエサだ。オマエたちもエサだ」
片言の様な喋りで淡々と応える。そして、男が足で地面を踏み鳴らす。それに応える様に‥‥
ゴゴゴゴゴ‥‥
地響きが辺りの空気さえも振るわせる。
『こちら、黄です。オアシスの周辺に大きな擂鉢状の穴が複数出現』
ロバートの通信器から、異常を知らせる声。それは、男にも聞こえる。
「ワタシのキメラだ。オマエたちをニガサナイための」
「砂の擂鉢状の穴‥‥アントライオンか?」
ロバートが即座に推測する。アントラインとは、アリジゴクの事だ。
「地中に居る敵か、やっかいだな」
終夜が覚醒状態で男を睨みつける。紅苑と蕾霧がマリアCの護衛へと回り、トゥリムはマリアの傍に陣取る。それに従い、獅堂も覚醒する。そして、一番前へと歩みでる。その背後には、九本の尻尾を持つ九尾の狐の幻影が現れ、男へとプレッシャーをかける。
「時間を稼いだら逃げるよ」
獅堂が、小声で通信器を通してみんなにそうささやく。それに少し遅れ、シクルも前へと歩みでる。
「このカラダ、ロビン・ケミカーごとワタシをコロスというわけか」
不敵な笑みを浮かべ、敵視してくる人間を舐めるように見回す。しかし、この時点で重要な情報は引き出せた。ロビン・ケミカーはヨリシロであり、マリアCの夫ではない。そして、コンテナがここに運ばれたのは、罠としてであり、この状況は罠にかかった状態である。
「流石にこの状況では分が悪いな」
シクルが同じ前衛を務める獅堂へと耳打ちをすると、獅堂もそれに頷き返す。雰囲気は完全に撤退する雰囲気ではあるが、囲まれている状況をどうにかしないといけない。
ダン!
ロビンが再び地面を踏み鳴らすと、突如ロビンの足元の地面が割れ何かが飛び出してくる。
「カコムだけではない。さぁカクゴしてもらおう」
飛び出してきたのはアリジゴクだった。擂鉢状の巣を作らないタイプなのだろう。この状況に、傭兵達は焦りを感じ始める‥‥一名を除いて、
「ロビンは‥‥虫の事詳しくないわ。だからきっとアンタも詳しくないんでしょ?」
突如、マリアCが挑戦的な口調で挑発を始める。さすがにロビンもそれには驚き、バカにされたと怒りを顕にする。
「アリジゴクはヨウチュウだ、オオきくなればクワガタになるんだろう。このオオきさのヨウチュウなら、さぞかしツヨイクワガタキメラになることだろう!」
「「「え?」」」
辺りの空気は一変する‥‥
「ほぉ、シリアスな展開かと思ったら‥‥」
ロバートの顔がひきつっている。マリアCの顔は呆れ顔である。
「アリジゴクは‥‥ウスバカゲロウの幼虫」
トゥリムが冷静に突っ込みを入れる。
「薄馬鹿下郎なんて当て字もあったわね」
マリアが追い討ちを掛ける。これが止めとなり、ロビンの顔は鬼の形相となる。
「キサマら! バカにするな! いけ! ワがシモベ!」
二本の牙を向け、襲いかかろうと‥‥
ドドドドドド‥‥
遠ざかっていく‥‥アリジゴクは前へは進めない。
「ナニ! どういうことだ?」
混乱するロビンに対して、最早全員が戦意を喪失している。ここまで見事に罠を張ってみせた敵が、これほどバカであることに呆れてしまったからだ。
「油断するな。まだ助かったわけじゃないぞ」
終夜が場の雰囲気を締め直すが、ロビンはそれを緩め直す。
後退していくアリジゴクに飛び乗り、力尽くで止めようとして、背中を刺激してしまったのだ。アリジゴクの背中を押すと‥‥
ブン!
大きな牙を豪快に後ろに反らせて、上に乗っている物を跳ね上げた。そう、ロビンを‥‥
「ギャァァァ‥‥」
一同が呆然としている中、ロビンは砂漠の風となって消えた。
「時間は稼げた? なら‥‥逃げる><;」
獅堂が我に返り、撤退の合図を出し、撤退を始める。
「コンテナはどうします?」
紅苑が砂に埋もれたコンテナを指差す。
「回収する時間はなさそうだ‥‥仕方がない、このまま置いておけば、またエサにされちまうからな」
ロバートはそう言うと、背負ってきた荷物から、真っ黒なシートを取り出しコンテナに付けていく。そして、スイッチを押すと大きな音と共に大きなバルーンへと変わる。
「本来なら、この状態で牽引してく予定だったが‥‥くそ」
砂に埋もれたコンテナが少しずつ競りあがり、そのまま空へと飛んでいく。重量がある物体を出来るだけ軽くして運ぶためのバルーンだったが、それを複数つけて浮かべたのだ。
「これで、もう利用されることもないだろ、後は風向きの計算などで落下地点へまた回収しに行かないとな」
『ボブさん、アリジゴクの巣を一つ潰しました、今のうちに逃げましょう』
劉からの通信も入り、全員が撤退することになった。しかし、これでは何も解決にはなっていないことは全員理解していた。しかし、マリアCの夫の捜索は果たした。最悪の結果ではあったが‥‥それでも、前には進めたはずである。
●次のへの一歩
依頼を終え、暑い砂漠より帰還した面々。しかし、そこで思いもよらない決意を聞くことになる。
「‥‥私は、夫をヨリシロとしているバグアを‥‥この手で倒します。その為にも、能力者適性試験を受けようと思います‥‥」